日記
この世界の人間の大半は、『光』『火』『風』『水』『土』と、五つある属性のいずれかに親和性のある魔力を持って産まれてくる。
そして、親和性の高い属性の魔力を持つものしか扱えない『属性魔法』と、対象に特定の効果を付与する「エンチャント」や、防御や足場としてに使われる「魔力障壁」のように、個々の魔法属性に関わらず魔力さえあれば使用出来る『無属性魔法』の二種類が存在している。
婆さんからその話を聞いた当時の俺は居ても立っても居られず、昔は魔法教師をしていたという婆さんに次の日からそれぞれの魔法の原理を全て教てもらった。
しかし、実践では無属性魔法から属性魔法に至るまで全てのをこれでもか、という程試してはみたものの、
俺はどの魔法にも適性が無いという稀な存在であるということを身を以て知ってしまい、当時はだいぶ凹んだ。
しかし、婆さんは魔法に適性が無くとも、その元となる魔力は全ての生物にある原動力だと言っていた。
ならば、剣を極めて身体能力を向上させれば、いずれ無属性魔法くらいは出来るのようになるのではないか。そう思い、俺は村の剣術道場に入門し、剣の腕を磨いた。
それから一年経つ頃には、身体強化魔法抜きであれば師範を打ち負かす程度になったが、相変わらず俺には魔力の魔の字も感じられなかった。
まぁ、その頃には俺の魔法に対する関心も薄れ、剣の腕を日々磨くことの方が本命になっていたから、以前ほど気にはならなかったが。
なんせ俺とて男の子だ。娯楽もなにもない世界で、剣を降るのは純粋に楽しかった。
だがそんな生活を続けていたあるとき、魔物に襲われていた少女を助けようとして、――死にかけた。
どうやら当時の俺は、剣の腕がどんどん上がっていると思うに連れて、気も大きくなっていたようだ。
普通よりちょっと大きいかなってくらいの狼の魔物を追い払っただけで死にかけるなんて、俺ってばほんとにダサいなぁ....。
その後、知らせを受けて駆けつけた婆さんと村人数人が、意識の無い俺とその場にうずくまる少女を見つけ、保護したらしい。
俺が目を覚ますと、全身の傷が嘘のように無くなっていて動揺したが、婆さんから、現場についたときから俺は外傷が無かったと聞かされた。
おそらく、その場にいた少女が使い手の少ない『光の属性魔法』を扱える聖都の「聖女候補さま」だったから、その少女が死にかけの俺に治癒魔法をかけてくれたのではないだろうか。と、婆さんは言っていた。
守ろうとして、命を救って貰うなんて、ますますダサいなぁ、俺。
当時十歳の俺より年下だったらしいし、スプラッター耐性なんて無いだろうに。よくやってくれたもんだ。
気がかりなのは、俺が目覚めた時、既にその少女の使用人が気絶した彼女を連れて村を
そういえば、その頃から婆さんは、長い事サボっていた魔法の研究に精を出すようになったな。
使用人の人からは感謝の証として大金を貰った。とか婆さんは言ってたような......
だが、それから2年後、婆さんが研究を再開したお陰で、保有する魔力量や、その性質を探る事のできる『魔法測定機』なるものが完成し、それの検査の結果から、俺のこの体質の元になったものの正体を知った。
俺には、案の定魔力はなかった。
それ自体は何となくわかっていたのだが、問題がひとつある。
俺の中に
それは、魔力に近い特性を持った未知の『呪い』なのだと。
―――「いや〜書いた書いた〜。」
手元に置いていたランタンの火を消し、伸びをする。
ひとしきり伸びをした後、部屋の窓を開け顔を出し外の様子を確認する。
世界がまだ眠りの中にいるような静寂の中、東の空が白々と明けてきているのが見て取れる。ひんやりとした風が頬をかすめて心地よい。
「もう朝かぁ……」
「今世は今年で18歳。つい感慨深くなって、昔のことを日記に書いてみたが……慣れないことをするもんじゃないなぁ...。」
書き上げた途端に黒い歴史となった日記帳を鞄の奥にしまいこみ、あっという間に朝の新鮮な空気に満たされた宿の一室から外を眺める。
――俺はこの世界の人間ではない。
そう気づいたのでは、まだ産まれて間もないような赤子のときだ。
あるとき目を覚ますと、俺は山に捨てられており、辺りは真っ暗。遠くの方からは獣のような鳴き声が聞こえてくる。今思えばだいぶ詰んでいたと思う。
きっと偶然近くを通りかかった婆さんに拾われていなかったら異世界転生死亡RTAの記録を更新していたであろうハズだ。
「村のみんな、元気にしてっかなぁー。」
現在、俺は育ての親になってくれた婆さんの居た村を離れ、今は
今のパーティに出会ったのはちょうど五年くらい前。
「魔力が無くたって冒険者になれる事をッ、俺は証明するぞッ!亅と、意気込み村から出て来たは良いが、ちょうどその年からの冒険者には魔法士の資格が必須となり、初級魔法の一つも使えやしない俺は冒険者ギルドを門前払いを食らった。
一旦村に戻ろうとも思ったが、村から盛大に送って貰った手前、すぐには帰れず.....。
その後、仕方なく町外れで野宿していたところに今のパーティーリーダーの少女に拾われ、俺とパーティを組んでくれた。
パーティーを組んでいればクエストに向かえる。まぁ、だからと言って戦闘時は魔法が使えない俺はまるで役に立たなかった。お荷物の荷物持ちってやつだ。
そしてしばらくしてパーティーメンバーを新たに二人迎え、パーティの知名度が上がり始めてからも、俺はの荷物持ちの一本だけでついに五年目に突入してしまった。
しかし、荷物持ち五年間に突入しても、
…………良い人たち過ぎて泣きそう。
最初の頃
それはそれとして、俺もこの三年の間何もしていなかった訳では無い。
俺は着々と自分の呪いに関する研究を進め、―――ついに俺の
これで魔法打ち放題だ!
イェーイ!バンバン!
……だが、パーティーメンバーにはまだ話していない。
研究途中は何が起きるかわからなかったし。
断じて、以前俺が「呪いの研究をして見ようかなぁ〜」なんて言ってみた時みんなから凄まじい圧を感じてそれ以来怖くて言い出せなかったとかでは無い。断じて。
と、ともかく、これからは長年俺を苦しめたこの未知の呪いが俺の力になってくれるかもしれないなんて。俺、感動。
けど、本格的な実践投入はまだだし、長く使い続けていると何が起きるかわからなという懸念もある。
そしてその懸念によって、パーティーのみんなにもしもの事があったら、なんて考えたくもない。
――だからその前に、みんなには話をしておかないとな。
「みんな、ちょっと話があるんだが···」
「なになにー?イズルの話なら私が何でも聞くよ!何ならこのあと二人でー」
「マリーちゃん。ひとり占めはダメ。」
「えへへ、つい.....」
「何の事だ?」
「イズルは気にしなくていい。モーマンタイ。」
「そ、そうか...」
「ふふっ若いっていいわねぇ.....若い...ゥ゙ッ」
「「メリッタさん、ステイ。」」
「ははっみんな平常運転だなぁ。」
「それで、イズルぅ~話って何?」
「ああ、そうだ、話って言うのは――」
その日の夜、俺は『サンライズグロウ』のメンバーといつも通りクエスト完了後の打ち上げをしていた。所属するパーティって言っても俺は
踏み出せッ、独り立ちの第一歩!
というわけで早速、今回みんなを呼び出した理由を口にする。
「俺、パーティーから抜けようと思うんだ。」
「「「·······は?」」」
瞬間、俺を除く三人のパーティメンバーの表情が一瞬にして凍りつき、しばらくの間沈黙が流れる。
「パーティーから抜けるって、えっと、まずちゃんとそうなった経緯を説明して欲しいかなぁー···なんて。」
最初に口を開いたのは、自分のすぐ左側に座る、パーティの中で最年少の16歳でありながら、パーティリーダーを務めるマリーだ。
「マリーに同じ。」
「おねぇさんも〜」
それにパーティメンバーの二人が続く。
みんな話し方はいつも通りだが...何だろう。いつもより空気が重い気がしてくる。
いや、違う。これはきっと俺の心が弱いからそんなふうに思うのだ。現状に甘んじて、このままの生活を続けたい俺がこんなふうに見せているんだ。うん。
ならば、ここで引き下がる訳にはいかない。俺はここでちゃんと誠意を持って伝えるべきだ。
あ、でも余計な心配はかけたくないし、呪いの魔法の事についてはギリギリまで黙っておこう。うん。
「わかった。これまで俺は、みんなに助けられないと生きてこられなかった。今でもずっと感謝している。
でも、こんな
「―なんで。私達、そんなに頼りなかった?」
「いや、それは違う。出来ることなら俺も皆と一緒に冒険者やっていたいと思う。けど――」
途端に、彼女の赤い宝石のような瞳が大きく見開かれ、怒りを露わにする。
「意味分かんないッ!じゃぁ私達と冒険者続けたら良いじゃんッ!!私達の誰もあなたのことを甘いだなんて思ってないし、呪いだって私の魔法でなんとかするし、だから....だから、―――」
「――マリーちゃん。」
「......ッ、ごめん。」
感情的になってしまったマリーを、すかさずパーティーメンバーのメリッタさんがなだめる。
以前から、パーティーの離脱なんかの話には否定的なマリーだから、多少の反発はあるかとは思ったが、まさかいつも穏やかなマリーがこんなに俺の事で怒ってくれるなんてな。
メリッタさんが冷静に言葉を続ける。
「でも、イズルくん。私たちもマリーちゃんと同じ気持ち。貴方の呪いのリスクも承知の上で、私達は貴方にここにいてほしいの。」
メリッタさんは、綺麗な青い瞳と、腰まである金髪を後ろで2本の三つ編みにした、魔法使いだ。
普段は空回りしがちだが、こういう時は、パーティーの最年長としてとても頼りになる。
「そうか、ありがとう。」
俺はつくずく人に恵まれている。
でも、だからこそ、この優しさに甘え続けるわけにはいかない。少なくとも俺が『完全に』呪いを全て制御出来る様になるまで、一人でいることが最善だ。
「それでも、気持ちは変わらないよ。」
「....ッ」
「そう...」
みんなただの荷物持ち相手に優しい過ぎるよ···そんなことを考えていると、マリーの前に向かい合う様にして座る白い着物のような服を着た少女、ハロが口を開く。
「.......でも、冒険者は続けるんでしょ。」
「ああ、そのつもりだ。」
「じゃぁ資格は。どうするの。」
「――あっ!そ、そうよ!私たちのパーティーから抜けたら、冒険者続けられなくなるでしょ!」
ハロの質問にマリーも加勢する。
ハロは出で立ちは雪のように白い肌と髪を持つ可憐な少女何だが、妙に庶民的で、皆からの信頼も厚い。
いつもぼーっとしているようで会話から抜けたかと思えば、今のように痛い所を突いて来る。
これまでの俺であれば、まず間違いなく答えられなかっただろう。
――だが、今回は俺の方に分があるらしい。
まぁ、出来ることならこのことは黙っておきたかったが。
「それについても、問題なくなったよ。」
「――鬼火」
彼女達の前で掛け声と共にろうそく程度の呪いを青白い炎に変換させ、あたかも魔法のように見せびらかす。
「―え、。」
途端にみんなの目が大きく見開かれる。
「最近習得した魔法だよ。ただ、ここだけの話、この魔法は俺の呪いを魔力の代わりにしているから、長く使っていたらみんなに影響を及ぼすかもしれない。
それもあって、しばらくはパーティーに所属せずに活動しようと思ってね。この魔法自分一人で使う分には普通の魔法と大差ないし、これでギルドに申請して魔法士の資格も貰って、自分の
「...」
「ぁ、――あ。」
「そ、んな…」
「あ、勿論、今まで良くしてもらっていた分、今までの生活費もこれから色を付けて返して行くから、期待して―――って、あれ。みんな?」
しかし、魔法を見せてから、みんなの様子がおかしい。
「...なさい。」
「――ん?マリー?」
「――ごめん..なさ...い。」
「へ?」
「マリー??」
その後もう一度「ごめんなさい」とだけ呟いて、マリーは俯いて何も喋らなくなってしまったしまった。
だがその顔は赤茶色の前髪越しにでもわかるくらい
とりあえず俺は倒れないようにマリーを支えつつ先程お金の話を振ってきたハロに声を掛ける。
「ハロ、何だかマリーの様子がおかしいんだ.....ハロ?」
「·····」
「······あれ?」
こっちは本当に返事がない。彼女は普段から口数は少ない方だが.....これはオッケーって事じゃない、よね...
マリーと同じ様に
「おーい。.....って、ハロ!?」
気絶してる...!?
一体何が起こっているんだ!?
俺は想定外の事態に動揺しながらも、顔は青いが、まだ意識はありそうなパーティ最年長のメリッタさんに話しかける。
「メリッタさん、大丈夫ですか!?」
彼女ならきっと――
「···だ、だ····ぅ゙ボァッ」
瞬間、生暖かい液体が正面にいる俺の方へ飛び散る。
うへぇ。お酒くちゃぁい。···って、はっ!?
「えっ!?ちょ、メリッタさん!?大丈夫ですか!?」
「だ、駄····目ぇ。うぷ。」
駄目だった。
「ちょッ店員、店員さぁーんっ!」
大声で店員さんを呼び、助けを求める。
「はーい、お待たせしま――どぅぇッ、お客様ッ!?」
―――その後、俺は店員さんと一緒に満身創痍のおねぇさんを落ち着くまで介抱して、女子メンバーが泊まっている宿にいつの間にか気絶していたマリーと、ハロを連れ帰り、『マジごめん。』と、置き手紙をして帰路についた。
どうしてこんな事に......。....はぁ...。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
次話マリーの全身図添付予定です。
(全員描く気力が無かったごめんなさい(*ノω・*)テヘ)