ウチの姉ちゃんと幼馴染、何とは言わんがデカい 作:himahy
いつも通り駄文です。
第2次特別学力試験に不合格のレッテルを貼られてから、補習授業部は元通りになってしまった。コハルは勉強が嫌と叫び、ハナコがそれに便乗してコハルを揶揄う。そしてヒフミが勉強する様に促し、アズサは訳のわからない事を口に出す。
全てが原点に戻ってしまったんだ、先生や補習授業部のみんなで積み重ねた努力が一瞬で水の泡になってしまった。そのせいで毎日毎日勉強を詰め込む様になったんだ。休みもクソもないほどに。
そしてあの日から、ヒフミやみんなは僕の心配ばかりをするんだ、ずっと表情が変わらないだとか。笑顔がぎこちない様に感じるだとか。
もうすぐ正真正銘人生を決める最後の試験があると言うのに、みんなどうして僕ばかりを気にするんだろうか?どうして僕を助けようとするんだろうか。
「……なぁ、先生…みんな僕が疲れているって言うんだ、どう思う?」
"……………"
薄暗く人気のない教室、僕は先生と2人で向き合いながら話をしていた。先程まで授業で使用していたからなのか、地面には消しカスが落ちていた。
"……ごめんね、カナタ。"
「…なんで先生が謝るんですか」
"私が、悪かったんだ……みんながこんなに苦労してるのも、カナタがこんなにも苦しんでるのも……。"
悔やみを噛み締める様に言葉を話し、先生は僕からゆっくりと視線を落とした。
その光景を見て、思わずふっと頬を緩ませた。
「先生が謝る事じゃありませんし、僕はあまり苦しんでいません……強いて言うなら、ヒフミ達の方を気にしないと。」
"………カナタ。"
「それに、僕はまだ空っぽじゃない……ミカ姉ちゃん、ミカ姉ちゃんが居るんですから。」
僕はまだ空っぽじゃない、僕にはまだ聖園家でもずっと僕の味方してくれたミカ姉ちゃんが居る。だからナギサさんに裏切られても悲しくなんかない。
補習授業部の試験に合格してさっさとここを出て、ミカ姉ちゃんに会いに行けばいいんだ……今の僕を見たら、ミカ姉ちゃんはどんな反応をするのかな、悲しんでくれるのかな?
"……ごめん……ごめんね。"
「……何回謝るんですか。」
先生は唇を噛み締め、何度も僕に対して謝罪の言葉を述べてきた。先生は何も悪いことなどしていないはずなのに、どうしてなのだろうか?
「先生こそ、最近寝てますか?……まぁ、それは他の4人にも当てはまりますけど。」
"…………"
「……第三次学力試験まで後もう少しなんです、今は部屋に戻って、ゆっくり体を休めましょう?」
ずっと顔を伏せている先生の肩をポンポンと叩き、僕は今できる精一杯の笑顔を見せた。
"……そう、だね……ごめんね、カナタ……こんな……こんな、情けない大人で…"
「……もう、いいですって。」
教室の扉をガラリと開き、戸締りは先生がやってくれるからと、遠慮なく部屋に戻らせてもらうことにした。
その別の日も、補習授業部は第三次学力試験の為に日々勉強に追われていた。以前の様に和気あいあいとした雰囲気は無くなり、切羽詰まった空気が漂っていた。
「………」
どうして僕は、こんなにも彼女達のために尽くしているのだろうか。友達だから?それとも補佐として生徒を成長させるためだから?……そんなものじゃ無い気がする。
ナギサさんは僕の事を裏切った、でもそれで補習授業部を捨てて良いわけじゃ無いし、僕にはまだミカ姉ちゃんだっているから、空っぽなんかじゃない。
「結局のところ、また戻ってきちゃいましたね…。」
「もうお別れだと思って出たのに、すぐにこうなってしまうだなんて、やっぱり人生は何があるかわからないものだ。」
一先ず今後の方針について全員で話し合おうと。丁度開いていた空き部屋に集まっていた。
「感傷に浸ってる場合じゃ無いでしょ!これからどうするの!?」
「……コハルちゃん……」
「……と、とにかく私達は、邪魔してくる人達を乗り越えながら試験に……」
「……ティーパーティが相手なら、僕達が邪魔者を退けれる確率は少ないですがね。」
僕がそう呟いた時、その場にいる全員が僕の方を向いた。それはそうだろうと、僕の口からも勝率が少ないと言われるのだから。
「ティーパーティという組織自体、トリニティで最上位の方達が集まっていますからね…。」
「………その中でもやっぱり、ナギサさんの存在が大きい。」
「………。」
ナギサさんは僕が過去一度も勝てたことがないし、口論の末に押し切れると思ったことさえ一度もない。だからこんなにも勝率が少ないと言えるんだ。
「……カナタ君でも、ですか。」
「あぁ、残念ながら……」
部屋中が一気に重い空気に包まれ、それぞれがこの話題に口を挟むことさえ躊躇しているようだ。
「そ、そもそもどうしてこんなことになってんのよ……!何で退学にならないといけないわけ!?「トリニティの裏切り者」とか意味わかんない!どうして私たちが疑われなきゃなんないのさ!?」
納得のいかない様子でコハルが部屋中に声を張り巡らせた。でもそう言う僕だってこんな事態は予想していなかった、いいや。できなかったんだから。
感情が昂り言葉を吐き散らすコハルの目にも、みるみるうちに涙が溜まっていった。
「もし本当に退学になったら...正義実現委員会には、もう...」
「………………」
本来ならば、コハルのこんな顔を見るはずはなかったと言うのに……あぁ、本当にどうしてこんなことになったのだろうか?。
"…ごめん、みんな……しつこいと思うけど、本当に何度も謝らせて欲しい…私がナギサにあぁ言ってしまったのが…原因なのかもしれない。"
「……先生…」
いつもより暗い声でそう話す先生に対し。ハナコが首を横に振った。
「いいえ。その話を聞いた限り、先生方は私たちのために言ってくださったのでしょう?むしろ感謝すべきことです。もし私がその場にいたら、あの猫ちゃんにはもっと酷いことをしていたかもしれません」
「…………」
ハナコの本気と思われる声のトーンを聞き、先生は少し苦笑いを浮かべていた。
「この一週間で、90点以上を取れるようになれだなんて……。」
「……はぁ……」
不安げに呟くヒフミを横目に、僕は深いため息を吐いた……これからどうするべきか、考えなければいけない。
「ぐすっ...無理、絶対無理よ。ここまですっごい頑張ったのに、すっごく頑張って……これ以上なんて...!私にはもう無理...私、バカなのに...!無理だって...うぅ...」
「………コハル。」
とうとう声を上げて泣き出してしまったコハルを見て、アズサとハナコは目を伏せた。
そっと、膝をついて顔を俯かせて涙を流しているコハルと視線を合わせた。
「……ごめん、コハル……僕のせいで」
「ひぐっ…ぅ、…カナ、タ……。」
そんな風に泣かないでよ、コハル……お願いだから。そんな哀しそうな眼で見ないでよ。
「……前、約束してたでしょ?……試験に合格すれば、2人で、どっかに出かけよ?」
「…っ…ぅ、ぅぅ……」
一つ一つ寄り添う形で言葉を送っても、コハルの涙は一向に止まる気配を見せなかった。まぁ、この程度の事でやる気が出ていたら、今頃ここまで苦労はしていないか。
その後は4人で話し合った後、先生の一言によって今日は解散と言うことになり、部屋に戻っていた最中。「カナタ君……少々、よろしいでしょうか?」と、ハナコに呼び止められた。
「……カナタ君……私達に労いの言葉を掛けてくれるのは、本当に嬉しいのですが……カナタ君の方こそ、きちんと休んでいますか?」
「……それ、何回聞かれたと思ってるんですか…大丈夫ですし、もう良いですよ。」
「………」
途端に黙り込むハナコに、思わず苦笑を浮かべると。「……こんなことは、あまり言いたくないのですが……」と、何かと口にしづらそうな表情だった。
「カナタ君は…今の生活が楽しいですか?」
「…急にどうしたんですか?」
「第二次学力試験を終えてから……カナタ君から、笑顔が消えて行っている様に思うんです。」
「………っ。」
突然の言葉に驚愕の念に囚われてしまった。みんなの前では元気に振る舞っていたはずなのに。彼女はまるで僕の事を観察していた様な物言いだ。
ハナコの憂いある表情は、今でさえ晴れていなかった。
「気のせいだ……って、流石に誤魔化せないか。」
「と言うことは…やはり。」
「……別に?ただ、ちょっとだけ疲れちゃったんだ。」
視線を逸らして窓の外を見つめると、白い霧が立ち込めてザーッと大雨が降っていた。まるで僕達の心境を表す様で、縁起でもない天気だ。
「まぁ、ハナコにはどうでも良い話だけどな…」
「………っ。」
「今日もお疲れ様……また、明日ね」
ヴァイオリンの弦のように哀しげに震える声を出すと。僕は背を向けて歩き出した。ハナコには悪いけど時間をかけてられない、ナギサさんについてもっと調べるんだ。
「………カナタ君」
「ん……何?」
不意にハナコが引き止めてきた。何事かと顔を合わせて見れば、僕に言いたいことがある様だった。
「最後に一つだけ、聞かせてください……カナタ君も既に検討がついていますか?」
「……検討…あぁ、そういうことね。」
一瞬でハナコの言葉の意図を理解すると、僕は鞄にしまっていたノートを取り出して。その圧倒的な情報量を見せ付けた。
「!……これは……」
「ずっと休んでいなかった理由だよ……ただ、このおかげでようやく気づけた。」
静かな声でそう呟くと、ハナコは驚いた様子を見せた。
「『トリニティの裏切り者』……それは、コイツだ。」
ノートに貼られた補習授業部の顔写真に人差し指を立てると、僕はとある人物に指を突き刺した。
その後も、ヒフミ達は諦めんと言わんばかりに模試の嵐に飛び込んで行った。
第4次補習授業部模試
ハナコ―100点(合格)
アズサ―82点(不合格)
コハル―74点(不合格)
ヒフミ―79点(不合格)
第5次補習授業部模試
ハナコ―100点(合格)
アズサ―94点(合格)
コハル―90点(合格)
ヒフミ―93点(合格)
第6次補習授業部模試
ハナコ―100点(合格)
アズサ―91点(合格)
コハル―83点(不合格)
ヒフミ―89点(不合格)
3回に分けて模試試験を行えば、ヒフミとコハルの点数が少々心許ない気がする。
最後の学力試験まで、残り1日。
「....いよいよ明日、ですね」
「はい...」
「....」
「ま、まさかまた急に、色々と変わったりしないよね?」
ヒフミはスマホを起動させ、「今のところは……」と呟いた。隣に居たハナコも同じく掲示板を目に通し、ふふっと微笑みを残した。
「そうですね。試験範囲は以前の通りですし、合格ラインも相変わらず90点以上…」
「場所はトリニティ第19分館の第32教室。本館からは離れていますが、そこまで遠くありません。時間は午前9時からで、こちらも変わっていませんね」
「……一つ、ありますよ。」
ハナコが淡々と文章を読み上げるのを聞いて、一先ず安心と安息の息を吐いた補習授業部だったが、その安心もすぐにカナタの一言で不安へと変わった。
「昨日から本館が怖いほど静かなんです、まるで俺たち以外世界に残っていない様に……。」
「か、カナタ君!不吉なことを言わないでください!」
「でも確かに、昨日からは本当に静かですね…何かあったのでしょうか?」
少し不安が混じった様に窓の外を見つめるハナコを横目に、僕は溜息を吐いた。
「まさかまた、ナギサさんが何かを企んでいるのかもしれないですがね…」
「分かりません。...念のため今晩も、私の方で掲示板をずっと見ておきますね」
「は、ハナコちゃんも寝た方が...」
「ふふっ、私は大丈夫です。それに、私にはこれくらいしかできませんし...」
「そ、そんなことありませんっ!」
小さく声を出すハナコとは裏腹に、ヒフミは大きな声でハナコが言った事を否定した。
「ハナコちゃんがものすごく丁寧に教えてくれたおかげで、私もアズサちゃんもコハルちゃんも、すっごく成績が上がって...!」
「それは、皆さんが頑張ったからですよ。何日もろくに睡眠をとれなかったのに、よく頑張ったと思います」
"……そうだね、みんなよく頑張った"
頑張ったと軒並みに伝えられても、ヒフミの表情には不安が残っていた。
「はい。それでも90点はギリギリですが...明日の試験問題が簡単だったら、きっと...」
「....」
「...っ!そんな都合の良いこと起きるわけない!私はまだまだ深夜まで勉強するから!」
コハルは最初の時とは態度が大違いで、付箋が大量に貼られた参考書を机に出した。今晩も休む気はない様だ。
「100点!100点取れれば、誰も文句なんて言えないでしょ!?」
「こ、コハルちゃん...気持ちは分かりますが、今日はもうゆっくり休んだ方が...」
「そうですよ。コハルちゃんが頑張ったのはみんなが知ってます、大丈夫です。今日は明日に備えて、もう休んだ方が良いと思いますよ」
「休むのも戦略のうちだ」
3人から諭され、やる気満々のコハルは渋々と言った様子で参考書をカバンに閉まった。
「休むと言えば、アズサちゃんも同じですからね?」
「.....うん。今日くらいはゆっくり休もうと思う」
先生と僕は部屋を出る準備をして、4人が布団の中に入り。ヒフミが照明のスイッチを前に振り向いた。
「いよいよ明日、私達の命運が決まります。」
「もし…いや、縁起の悪いことは言わないでおこう。必ず合格する。」
「わ、私だって負けないんだから!」
「はい…泣いても笑っても、これが最後です。頑張りましょう」
カチンと、スイッチを押す音が聞こえ。部屋中が暗闇に包まれた。
「…………」
だけど、僕はその中でも1人……『白州アズサ』に対しての視線だけは、絶対に離さなかった。
よくよく考えれば、トリニティの裏切り者さえいなければナギサさんから裏切ることだってなかったと思う……だから、裏切り者を炙り出して絶対に裁いてやる。
当初はナギサさんがトリニティの裏切り者かなって思ったけど、それならばわざわざこんな事しないと結論に至って……ミカ姉ちゃんは僕の味方だって言ってくれたから。そんな事はしないと踏んだ。
そして今までの補習授業部や先生の仕草を一つ一つ思い出して、僕はついに決定をした。
『白州アズサ』
彼女こそが、トリニティの裏切り者だ。
ミカ姉ちゃんは味方、ねぇ……