ウチの姉ちゃんと幼馴染、何とは言わんがデカい   作:himahy

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ミカが弟に対して普通に重い感情持ってると思う。


姉弟喧嘩

"カナタにとって、一番信頼できる人って誰なの?"

 

不意に投げかけられたその問いが、静寂の満ちた放課後の空気を震わせた。

熱いコーヒーを口に運ぼうとしていた手が、中空で止まる。カップから立ち上る湯気が、視界をわずかに白くぼかした。

 

「……急な質問ですね、先生」

 

補習部の授業を終えた後の、静かな時間。

今後の方針について語り合おうと用意されたコーヒーの香りは、どこか思考を鈍らせるような優しさを持っていた。目の前の先生の瞳は悪戯っぽくもあり、同時に核心を突くような鋭さを秘めている。

 

『一番に信頼できる人』

 

その概念を脳裏に浮かべた瞬間、迷うことなく二人の少女の残像が脳裏に焼き付いた。

 

「やっぱり、自分の姉二人……ですかね。あ、話が飛躍しますけど、僕には姉と呼べる人が二人いるんです」

 

"姉が二人……。もしかして、ミカとナギサのこと?"

 

「あ、そうですね。……え?」

 

肯定の言葉が漏れた後で、自分の思考を先回りされたことに気づいた。

 

先生はすべてを見透かしたような、そんな表情でこちらを見ていた。なぜ彼女たちが俺の「姉」であることを知っているのか。

 

「……1人目は、ミカ姉ちゃんですかね。」

 

"ミカ……やっぱり、実のお姉ちゃんだから?"

 

「実のお姉ちゃんだからっていう言い方やめてください……。」

 

一人は、本当の姉のミカ姉ちゃん。

少々───いや、かなりの「ブラコン」を自称する彼女は、いつだって俺という存在を真っ直ぐに、濁りなき瞳で捉えてくれる。時に重すぎるほどのその愛情は、何があっても俺を信じ抜くという意思表示だと思う。

 

「後は…ナギサさんかな。」

 

"ナギサは基本的に長女って感じがするよね、私も話しててお淑やかな感想を持ったよ。"

 

「それは良かったです……。」

 

もう一人は、2人目の姉のナギサさん。

 

無知だった俺に根気強く世界の理を説き、時には同じ布団で体温を分け合ったりもした。彼女が隣にいるだけで俺の世界から不安が消えるような絶対的な安らぎをくれる人だ。

 

だけど、1番を決めろと言われたら……もちろん2人と言いたい所なのだが1人だけに限るといえば悩み所だ。

 

"……やっぱり、意地悪な質問だったかな?"

 

押し黙った俺を案じたのだろう。先生が少し眉を下げ、覗き込むように顔を寄せた。窓から差し込む斜光が愁いのある俺の表情を晒し上げた。

 

「意地悪というよりも、改めて『信頼できる人物』というのを考えさせられますね。」

 

"でも、カナタにとって信頼できる人物はいるってことの証明になったね。"

 

「………まぁ、そうですね。」

 

俺の信頼できる人物は2人だけ、それ以外は信用に値せず俺に騙す可能性さえもある人物ばかり。周りには友人だけに留めておいて、信頼までは取らない様にする。

 

 

 

 

 

 

 

「残念だけど、正義実現委員会は動かないよ、私が命令して動かない様にしてたから。」

 

 

「ティーパーティの1人、聖園、ミカさん……」

 

 

「まぁ簡単に言うと、黒幕登場⭐︎ってところかな?」

 

静かな体育館に、ミカの声だけが不自然に明るく響いた。

天井の高い空間は、放たれた言葉を反響させ、その場にいる者たちの耳に何度も鋭く突き刺す。

 

目の前に立つ実の姉、『聖園ミカ』。彼女の背後には、かつての華やかさとは程遠い、冷たい殺意を秘めた『アリウス分校』の影が見え隠れしていた。

 

「と言うわけで、ナギちゃんをどこに隠したのか教えてくれる?わたしも時間がなくってさ。まぁ、ここにいる全員消し飛ばしてからでも良いけど、それは面倒でしょ?。」

 

「……ミカ……姉ちゃん…」

 

「あははっ、どうしたの?そんな怖い顔しちゃってさぁ、そんなんだとお姉ちゃん傷付いちゃうよ?」

 

ミカ姉ちゃんはいつも通り、困ったような、それでいて楽しそうな笑みを浮かべた

 

その表情には破壊された正義の残骸が見受けられる。ティーパーティーの一翼として、彼女が守るはずだった日常を彼女自身の手で引き裂いた証拠だ。

 

 

 

 

「…ざっけんな………ふざけてんじゃねえぞ!!

 

 

 

「!……久しぶりに見たかもね、カナタが本気で怒る姿。」

 

 

「何故こんな事を……何故こんな事をしたっ!!」

 

 

カナタの声は震えていたの同時に胸がぐっと詰まった……怒り?いや、違う。もっと嫌な何かだ。

 

幼い頃から見てきた、誰よりも自由で、誰よりも繊細だった姉の背中。今その背中には『裏切り』という名の消えない跡が押されている。

 

「聞きたい?うーん、カナタに言われたらしょうがないなぁ……それはね。ゲヘナが嫌いだからだよ。わたしは本当に、心の底からゲヘナが嫌いなの。」

 

「……だから、エデン条約を取り消そうと……?その為にナギサさんを襲撃して……」

 

「えーと、誰だっけ?ごめんね、私あんまり顔覚えるの得意じゃなくて……あぁ、思い出した。浦和ハナコじゃん!礼拝堂の授業に水着で出て追い出された、あははっ、懐かしいね。」

 

 

ミカの『裏切り者』としての狂気を含んだ笑い声が、冷たく沈んだ体育館に虚しく響き渡った。

 

「まぁ、一応答えてあげるとその通りかな。ナギちゃんが急にエデン条約なんて変なことしようとするからさぁ。」

 

 

「ゲヘナのあんな、角が生えた凶暴そうな奴らと平和条約だなんて、冗談にも程があると思わない?……それに、そんな奴らがカナタの隣を歩くなんてさ。」

 

「……俺の、隣……?」

 

「そうだよ?分かってないなぁ、もう。」

 

ミカは溜め息を吐いて呆れたように肩をすくめると、ふわりと宙を舞う自身の羽を弄びながら、慈しむようにひどく冷徹な瞳を向けた。

 

"…………ミカ、やっぱりエデン条約は……"

 

「あっ、そうそう、あの時は騙してごめんね?先生。あれは本当にれっきとした平和条約、そもそも素直でおバカなナギちゃんに、エデン条約を武力で同盟として活用するなんて。できっこないからね。」

 

「……でも、あの時は話した事が全部嘘ってわけじゃないよ、わたしは本当にアリウスと和解したいって言うのは、本当のこと。」

 

 

ミカが言葉を嘆いた時、その背後からガスマスクをして先程の敵よりも更に強い武装をした部隊が現れて、体育館中に思い空気がのしかかる。

 

 

「アリウスだって元々はトリニティの一員。先生には前言った通り。この子達もゲヘナに対する憎しみはすごいよ?」

 

 

「ティーパーティのホスト『桐藤ナギサ』に正義実現委員会が居るのなら、次期ティーパーティのホスト『聖園ミカ』にもアリウスがいる」

 

 

「これはそう言う取引、和解へのステップアップ的な?」

 

 

無邪気に笑顔を見せるミカ姉ちゃんが、今の俺にとっては恐怖の象徴そのものに感じてしまった。

 

「アリウスは最初から、トリニティのクーデターの道具だった……?」

 

「うん?…うん、確かにこれはクーデターと言えるかもね。最終的にはナギちゃんを失脚させて、私がティーパーティのホストになるんだから。」

 

「あぁ、貴方のことは分かるよ、白州アズサ。私は貴方の事を何にも知らないけれど、私のとって大切な存在であることは変わらない。今までも、これからも。」

 

 

 

「だって今から貴方には、ナギちゃんを襲った犯人になってもらわなきゃいけないんだから。」

 

「……!?」

 

「……は?」

 

「スケープゴートって言ったほうがいいのかな?罪を被る生贄としての存在がいてこそ、みんなが安心してぐっすり眠れるの。世の中ってそう言うものじゃない?」

 

とうとうミカ姉ちゃんは恐ろしい事を言い出した、アズサをナギサさんの事を襲った犯人に仕立て上げて、自分はティーパーティのホストになって逃げるつもりだと言うのだ。

 

ミカ姉ちゃんは元々性格が悪い部分ではあったけど、根は優しくて可愛くて、誰にでも好かれる様な性格をしていた……だから、今のミカ姉ちゃんは壊れちゃってる。

 

 

 

「それにさ、私のコレはゲヘナへの恨みもあるけど……もう一つは、体の弱いカナタを守るためでもあるんだよ?」

 

 

「………は? 俺の、ため?」

 

 

ミカの言葉は、慈愛に満ちた聖母のようでありながら、その実、猛毒を含んだ独善に満ちていた。

 

 

「うん……カナタのためだよ」

 

ドクンと、心臓に矢が刺さった様な感覚がした。

 

守るため?そんな身勝手な理由で、ミカ姉ちゃんは学園を裏切り、ナギサまで手にかけようとしたのか。絶望するカナタを前に、ミカは不思議そうに小首を傾げた。

 

「……そんな、くだらない……そんなくだらない事で…ミカ姉ちゃんは、ここまで…」

 

「くだらない、かぁ……。ひどいなぁ、お姉ちゃん傷ついちゃった」

 

彼女にとって、他者の拒絶は「理解」はできても「共感」はできないものだった。

 

 

「いい?カナタ、この世界はカナタが思うよりずっと汚くて、野蛮なの。特にあの角付きたちはカナタみたいな子を真っ先に汚そうとする」

 

ミカは仮面のような笑みを浮かべ、ゆっくりと歩み寄る。一歩ごとに背の白い翼が不吉にざわめき、体育館の床に巨大な怪物の如く影を落とした。

 

「だから私が守ってあげるんだよ?邪魔なものを全部消して、カナタが幸せに暮らせるように」

 

「っ……そんなの、俺が望んでない!……こんなにも巻き込んで、なんで勝手にそんなことするんだよ!?」

 

 

「望んでないって……うん、それを分かった上でやってるんだよ?」

 

 

「……は……?」

 

理解の範疇を超えた答え。そこで痛感をしてしまった、目の前にいるのはかつての優しい姉ではない。『愛』という名の純度で世界を塗りつぶそうとする、美しき狂気だと言う事に。

 

「悪いお姉ちゃんでしょ? ……でも、そんな私にカナタは言ってくれたよね?」

 

「──『いつまでも、俺はミカ姉ちゃんの味方でいる』って」

 

「………っ!?」

 

背筋につららを押し当てられたような悪寒。昔から姉の精神が不安定なのは知っていたが、これほど決定的に『ズレて』しまった彼女を見るのは初めてだった。

 

今のミカの瞳にあるのは、自らこの正義でもゲヘナの憎悪でもない。弟を自分だけの場所に閉じ込めておきたいという、底なしの執着だけだった。

 

「……随分、歪んだ愛情ですね」

 

「歪んだ愛? ……何言ってるの、ハナコちゃん。私はただゲヘナからカナタを守りたいだけだよ」

 

「守るためなら、平穏すら破壊する……。常人の感性ではありませんね」

 

ハナコの冷徹な声が体育館に響いた。その瞳には底冷えするような軽蔑が宿っている。

 

その言葉にミカは屈託なく笑う。だがその表情は暗いまま。指先の微かな震えが執着の深さを物語っていた。ハナコの言葉は刃となってミカを抉るが彼女はわざとらしく肩を揺らして笑った。

 

「あははっ☆ 何それ! 水着姿で礼拝堂を追い出されたハナコちゃんにだけは言われたくないな」

 

無邪気を装った甲高い笑い声が、冷えた空間に反響する。

 

 

 

「もっと丁寧にお話したいところだけど……まずは色々と邪魔なものを片付けてからしよっか?」

 

「……気を付けて先生。こうして見ただけでも分かる……かなり強い」

 

「ふふっ、そうだよ。先生には前言ったけど、私結構強いんだから。」

 

ミカ姉ちゃんの実力は強いなんてもので済ましちゃいけない、正義実現委員会の様に碌な戦闘経験がない癖をして。その力はトリニティ最強の『剣先ツルギ』にまで及ぶとされている。

 

本当に想定外の状況、本当に想定外な展開……どうする、補習授業部だけでも逃がせればしないのか?いいや、こんなにも数が多いならそれも叶わない……なら、俺のやるべきことは一つだけだ。

 

 

 

「みんな、下がってて……俺がやるから。」

 

"………カナタ。"

 

「へぇ、カナタが私の相手してくれるの?……えへへっ、これじゃあまるで姉弟喧嘩だね?」

 

ミカ姉ちゃんは相変わらず余裕の表情を見せている、随分ナメられたものだと思ったけれど。実際に俺がミカ姉ちゃんに勝つことは出来ない、それは自分でも分かってる。

 

静かに足音を刻むと、ミカ姉ちゃんもゆっくりと足を動かした。一歩進むたびに緊張感が増して心臓がドクンドクンと脈を打つ回数が多くなっていった。

 

 

「「……………」」

 

やがて、俺とミカ姉ちゃんは手の届く範囲にまで近づいた。それに合わせて後ろの軍隊も前に進んでいた。

 

 

 

 

「……っ!」

 

「!……ぐっ!?」

 

初手に仕掛けたのはミカ姉ちゃんの方だった、1番に俺の横腹を狙い脚を上げてきた。すぐさまそれに反応して防御したものの、力の強すぎるあまり外に吹き飛ばされた。

 

ボヤっとした視界に映ったのは、目の前で戦闘を開始する補習授業部と部隊。そして俺を目掛けて攻撃を仕掛けてくるミカ姉ちゃんだった。

 

「はっ!?……っ……危ない…!」

 

「わーお、今の避けちゃうんだ?相変わらず逃げ足だけは早いね?」

 

「……っ……ミカ姉ちゃん…」

 

「ん?……なーに?」

 

本気で攻撃を仕掛けてくるミカ姉ちゃんを目の当たりにしてしまい、嘘でも夢でも無く。本当にミカ姉ちゃんが俺達を嵌めようとした裏切り者なのだと痛感してしまう。

 

ならばもうどうでも良いだろう、壊れている姉に向ける優しさもそんな姉を救いたいと言う気持ちも。全部姉ちゃんが踏み躙っちゃった。

 

 

 

「さっきの回答をしてやるよ、俺はアンタに助けてもらおうなんて思わない。俺達を裏切った裏切り者に、助けられる筋合いなんか無い。」

 

「………っ…あーあ、ショックだなぁ…まさかカナタにも拒絶されちゃうだなんて。」

 

「それに、俺の体が弱いなんてミカ姉ちゃんは知ってて言ってるのか?……だったら、相当性格悪いぞ。」

 

「……さっきから何言ってるの?カナタは昔っからずっと体が弱かったんでしょ?人の前にも出られない様にされて。お母様がそう言ってたんだから。」

 

「………」

 

多分ミカ姉ちゃんは知らないんだ……俺は別に体が弱くてミカ姉ちゃんの近くに入れなかったわけじゃない。そのお母様から拒否されてミカ姉ちゃんの隣に居られなかったんだ。

 

やっぱりあの野郎ミカ姉ちゃんに嘘付いてやがったな、ミカ姉ちゃんの反応からして、どうせアイツは俺の体が弱いやら酷い病気やらって、ミカ姉ちゃんに俺が虐待されてるのを隠してたんだろ。

 

 

「じゃ、悪いけどカナタ……さっさと倒れてくれないかな?私あんまり時間なくてさ。」

 

「……俺も悪いけど、まだ倒れるわけにはいかない。」

 

「………ふーん。」

 

興味無さげに呟いたミカ姉ちゃんは、とてつもない速度で近づいて来て拳を振った。それに反応してカウンターを仕掛けようとしても。ミカ姉ちゃんの力が強すぎて防御することさえも精一杯だ。

 

「ガハッ!?…ぁ、ぐっ…!」

 

「あははっ!さっきの威勢はどうしたの?キャンキャン吠えるだけであって、実力自体は大したことないのかな?」

 

「っ……この!」

 

軽そうに挑発するミカ姉ちゃんの隙を見つけて、勢いよく足をぶつけた。だけど、まるで割れない岩に当てた様に果てしない感覚が俺を襲った。

 

硬い、硬すぎる。本気で足を振ったはずなのに、ミカ姉ちゃんは効いてるどころか平然と攻撃を仕掛けてくる。

 

 

「ぁぁっ、クソッ!!多少の実力差はあるかなって思ったけど、ここまでなんて……ぐっ!?」

 

「そりゃそうに決まってるでしょ?だってお姉ちゃんより優れている弟なんて。この世に誰も居ないんだから」

 

「はな、離せっ───うぉっ!?」

 

同じやり方で攻撃を仕掛けていたからか、ミカ姉ちゃんに動きを読まれて足を掴まれた。抵抗をしようとした頃には、気付けば俺の体は宙に飛ばされていた。

 

 

「はい、おしまい。」

 

「………っ!!」

 

月明かりにミカ姉ちゃんの影が重なると同時に、お腹に向けてダイアモンドの足が当てられた様な感覚が走り。痛みに悶える前に地面に勢いよく衝突した

 

 

 

「……ぁ……ぐ…っ……ぅ…そ……」

 

「だから言ったでしょ?お姉ちゃんに勝てる弟なんか居ないってさ……でも安心して?次に起きたらナギちゃんと同じ檻の中だと思うから。」

 

「…ま…っ……て……」

 

体育館の方へ歩みを進めるミカ姉ちゃんに、痛みのあまり思い通りに動かない手を伸ばした。そんな俺を者ともせず、ミカ姉ちゃんは服についた埃を払っていた。

 

力の差はあると思っていた、昔っからミカ姉ちゃんの方が喧嘩は強かったし。だけど俺だって年月を重ねて強くなっていたと思っていた……ミカ姉ちゃんは、強すぎた。

 

このまま行かせてしまえば、補習授業部は愚かトリニティ全てを崩壊させる事になってしまう……何度も手を伸ばした、何度も声を上げた……。

 

やがて、俺の視界で見えるのはぼんやりとした物だけになってきて……全身の力が抜けていく感覚を身に染みるのと同時に、ゆっくりと意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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