ウチの姉ちゃんと幼馴染、何とは言わんがデカい   作:himahy

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足挫きました、助けてください。


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「カナタさん、お疲れ様でした」

 

 

「……ハスミ先輩ですか。お疲れ様です」

 

 

今日は正義実現委員会の活動に『ボランティア』として参加する日だ。合宿の時に話は通っていたものの、いざ始まってみれば「活動している」という実感は薄い。

 

「やはり、戦闘員に配置しても申し分のない実力をお持ちのようですね」

 

ハスミ先輩が興味深げに感心しながら、ぐったりとした不良たちを部員に回収させていく。これをやった本人が言うのも何だが、もう少し遠慮してもらえると助かるのだが。

 

道中の高い自販機で水を買った。耳元の通信機から聞こえる次なる指示を待ちながら、思考は別の場所へ飛ぶ。

 

 

 

「ミカ姉ちゃん……」

 

活動の最中も、先日会いに行ったミカのことが頭から離れない。そして、あの日自分が放った言葉さえも、脳裏に焼き付いて離れなかった。

 

ミカ姉ちゃんが裏切り者だという噂は、瞬く間にトリニティ中を駆け巡った。そのせいか、一部の生徒から反発をもらってティーパーティーとしての立場さえ危ういと聞く。

 

 

確かに彼女は過ちを犯した。学園を貶めるような真似をした……けれど、もし、彼女が今この瞬間も酷い目に遭わされ、虐げられているとしたら?

 

今更姉と弟として干渉できないことは理解している。『家族だから』などという理屈は、政治の世界では通用しない。彼女がどんな報いを受けようと、自分は黙って素通りしなければならないのだ。

 

『応援願います!現在、〇〇自治区周辺の工場から1tのチョコが流出!』

 

「……やめだ。今はそんなこと考えるな」

 

両頬を強く叩いて気合を入れ直し、愛銃を手に指定の場所まで突っ走った。現場に到着した頃には対応がほぼ終わっていたようで、辺りには濃厚なチョコの匂いが立ち込めていた。

 

 

 

 

「きえええぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

次なる任務地へ向かっていた時、爆発音と共に奇声を発する人物が目に飛び込んできた。トリニティらしからぬ乱暴な戦い方、そして腕の紋章。

間違いなく、彼女がトリニティ最強と謳われる正義実現委員会委員長、『剣先ツルギ』だ。

 

コハルから話は聞いていたが、これほどまでに戦場を一人で蹂躙する存在だとは思わなかった。

 

「強いんですね、ツルギさんって」

 

「?……ええ、もちろんです。彼女の右に出る者はいませんから」

 

「立場上、あの奇声や行動はどうかと思いますけどね」

 

「それは……ツルギのアイデンティティのようなものです。気にしないでください」

 

「…………」

 

もうここに自分の居場所は必要ないのだろう。

鳴り響く銃声に背を向け、歩き始める。街頭のモニターでは、依然として『エデン条約』の報道が繰り返されていた。

 

ナギサさんは今、どうしているだろうか。調印式を控え、毎日が多忙を極めているはずだ。自分のような存在を気にかける暇などないだろう。

 

あの日以来、彼女とは一度も会っていない。以前の自分なら考えられないことだ。

けれど、あんな言葉をぶつけてしまったのだ。もう会う権利なんてない。彼女だってきっと俺を嫌ったに違いない。

 

今更、昔からの好意を伝えたところで、返ってくるのは拒絶の言葉だけ。それに、俺とナギサさんはあくまでも『他人』だ。他人に嫌われただけなら何も気にする必要なんてないはずなのに。

 

「……もう何も考えるな。考えるんじゃない。僕は嫌われたんだ。元々俺なんかじゃ不釣り合いだったんだ。好きになるだけ、全部無駄なんだ」

 

誰もいない道端で、何度も、何度もそう嘆いた。

だが、どれほど彼女を否定しようとしても、溢れて零れ落ちるのは『好き』という感情ばかりだった。

 

考えないようにした。ボランティアの間も、目の前の敵を倒すことだけに没頭した。けれど、何度消そうとしても、脳裏には彼女の笑顔が浮かび上がる。

 

 

ああ、ダメだ。

 

 

これ以上、彼女を想い続け、後悔で心を満たし続けてしまったら。俺が『聖園カナタ』という個体ではなくなって、別のナニカに変質してしまう気がする。

 

側から見れば現実的ではなく頭のおかしい事を言っている、俺だって自分が何を言っているのか分からない……何も分からない、何も自分のことがわからなくなってくる。

 

 

 

 

 

 

「おはよう、ミカ姉ちゃん」

 

「……また来たんだ、毎日私の所に来てさ、もしかしてカナタって暇なの?」

 

「……別に、気にするなよ。」

 

『聖園ミカ』と言われれば、誰もがティーパーティのお姫様でパデル分派のリーダー。天真爛漫で全て自分の思い通りになるという考えを持っているわがままな少女……外から見ればこうなのかしもれないけど、いつも側にいる俺は彼女がわがままと言うのは否定しないけど、それとは別に彼女の心は『善良』、言わば良い子という事だ。

 

人一倍心が清らかで、人一倍誰かを助けたいという気持ちが強くて、人一倍何かあれば心に思い詰める。この特徴をまとめてみれば我ながら俺とミカ姉ちゃんは似ていると感じてしまう。

 

「……カナタも暇だよね、毎日私のところに来てお話しするなんて。」

 

「うるさい、暇な時を切り抜いてミカ姉ちゃんのところに来てるんだ。感謝してくれよ。」

 

「何その物言い、別に私はカナタが来る事を望んでもないよ?」

 

「まぁ、確かにそうかもな。」

 

ミカ姉ちゃんがトリニティの裏切り者だと判明した時、俺は何もかもが信じられなくなった、周りの人や物を全て見失って、これ以上は誰とも関わりたくないし信じたくないと思ってた……だけど、そんなミカ姉ちゃんだからこそ、俺の頭の中には一つの考えが思い浮かんだ。

 

 

 

 

「でも、そんなミカ姉ちゃんだから……救いが、慈悲が、赦しが欲しいんじゃないか?」

 

「………っ……はぁ?」

 

「この世の人間は誰しもが『幸せになりたい』と言う想いを持って生きているんだ……でも中には、『幸せになる権利なんてない』と言っている()()()()()()()()と、『幸せになりたくない』と言っている()鹿()()()な、()()()の様な屑がいる。」

 

「……何それ、全然意味がわかんないんだけど。もしかしてカナタもセイアちゃんみたいに。訳のわからない子になっちゃったのかな?」

 

「そうか?……まぁ、そうだと思っていれば良い。」

 

意味がわからないと首を傾げるミカ姉ちゃん、その声色は本当に『否定』している時ではなくて。どこか心の底で『納得』もしくは『理解』している時の場合しか出さない、昔からの癖がまだ治っていない様だ。

 

自分でも本当に都合が良いと思う、ミカ姉ちゃんのせいで心も体も追い詰められたのにその本人を救う為に毎日ここに来ているんだから……他の人ならば許されないけど、俺ならば絶対に許される。だって俺は()()()()()()()()()()なんだから、普通の品とは違う扱いだって許される。

 

「と言うかさ、何でカナタは私のためにここまでしてくれるの?確かあの時に言ったでしょ?『お姉ちゃんのことが大嫌いって』」

 

「そう言う事は覚えてるんだな、言ったよ、俺はミカ姉ちゃんが大嫌いだって。」

 

「じゃあ、どうして?何でお姉ちゃんの為にここまでしてくれるの?私は罪人だよ、幼馴染や愛している弟さえも殺そうとした卑劣で腹黒い最低な女。」

 

「それも分かってる、今更姉と弟の関係なんて通用しないって。」

 

「……分かってるじゃん、まぁカナタなら分かってて当然だよね。じゃあ、分かってるのに何で私を助けようとしてくれるの?」

 

「それは……」

 

途端に口を動かすのが止まった俺に「ほら、やっぱり何も考えてないじゃん」とミカ姉ちゃんは嘲笑うかの如くそう言った。

 

’’ミカ姉ちゃんのことが好きだから,,なんて、薄っぺらい理由すぎる。ならばどうして俺はミカ姉ちゃんを助けたいんだ?見過ごせなかったから?それともいつまでも味方でいたいから?後は……ミカ姉ちゃんの胸を揉みたいから?

 

 

「聖園カナタさん、面会の時間は終了しました。」

 

「………っ」

 

「残念ですが、姉弟とは言え時間は守ってもらわなければなりません。」

 

今一度考えようとしていた最中、背後の扉が開かれて面会時間の終了が告げられた、彼女の視線や言葉から一言でも余計なことを話せば、何か面倒なことになる予感がした。

 

「……ミカ姉ちゃん」

 

「あははっ⭐︎やっぱりまだまだカナタは子供だね?……こんな風に、答えを出せないんだから。」

 

「……っ……」

 

「じゃ、またね?見送りはできないんだけど。」

 

ミカ姉ちゃんの言葉は、今の俺の心にまるでナイフを突きつけられた様な感覚がした、あんなにも大切な姉が苦しそうな顔をしていると言うのに。俺は答えを出せなかった。

 

ゆっくりとミカ姉ちゃんから背を向けて、扉へと歩き出した……が、扉に手をかけた矢先にふとミカ姉ちゃんが声を掛けてきた。

 

「ねぇ、カナタ……ナギちゃんとは、あれから会ってる?まぁ、その様子だと会ってないだろうね」

 

「一つ言っておくなら……私なんかよりも、カナタはナギちゃんの方に行った方が良いよ?」

 

「……っ!それってどう──!!」

 

意味深な言葉を残したミカ姉ちゃんに聞こうとしても、無慈悲にも扉が閉められてしまって、俺はやむを得ず外に出るしかなかった。

 

オレンジ色の空が示す帰路に着いている最中も、ミカ姉ちゃんの言葉が頭から離れなかった、「私なんかよりも、ナギちゃんの方に行った方がいいよ?」なんて、どうしてそんなこと言ったんだろうか。

 

喉に詰まった魚の骨の様に、その言葉がムズムズして仕方がなかった、明日俺はミカ姉ちゃんに会ってこの事を聞かなければいけない。

 

 

"………カナタ?"

 

「!?……」

 

交差点の角を曲がろうとした時、スーツ姿を着た1人の人物が声を掛けてきた、その人物は紛れもなく先生だった。

 

 

 


 

 

"みんな心配してたよ、カナタが誰とも関わりたくないって言って会えなかったから"

 

「……ごめんなさい。」

 

"でも、こうして無事でいてくれて良かった。"

 

先生から奢ってもらった缶ジュースを手に、俺はベンチに座った、それに便乗するかの様に。コーヒーを手に持って先生は隣に腰を据えた。

 

先生が世間話をしている最中も、俺は何も話さなかった、話せなかった、補習授業部のみんなに心配を掛けたのは悪いけど今更どうでも良かったから。

 

"それで、私たちと喋りたくないって件……何かあったの?"

 

「………!」

 

"無理して喋らなくてもいい、だけど、できるならカナタ自身の口から話せるのなら話して欲しい。"

 

先生は顔を俯かせる俺にそう優しく諭してくれた。けどまだ俺の口は開かない、いい加減自分でも言わなければいけないと分かっているのに、何故言えないんだろう。

 

 

 

『大人は子供を駒のように扱う、子供は駒のように扱われるだけでいい。』

 

そうだ、あの家で培ったこの知識がこの『大人』に言うのを躊躇させているんだ……未だに、俺は大人の恐怖から逃れられていないんだ。

 

「……ごめん、なさい……まだ……まだ、俺は言えません」

 

"………そっか。"

 

またもや沈黙が訪れた、先程までオレンジ色だった空は黒に染まって、夜風のなびく音だけが俺と先生の雰囲気作りになった。

 

 

「先生……先生、一つ聞いても良いですか。」

 

"………カナタが質問してくるのなんて、今までで初めてじゃないかな?どうかしたの?"

 

「もし、大切な人とか友達に暴言とか嫌なこと言っちゃって、それで相手と一生会えなくなって離れちゃったら……どう思いますか?」

 

"……急な質問だね…うーん"

 

腕を組んで、先生は唸り声を上げて考え始めた、恐らく先生にはこんな経験が一度もないのだろうから。すぐには答えなんて出てこないんだろう。

 

やがて先生は腕組みを解いて、答えが見つかった様に俺と目を合わせた……その瞳が、俺には眩しすぎるくらいに光が灯っていた。

 

 

"ずっと後悔する、かな……"

 

「……後悔する…それはどうして?」

 

"だって、「聖園カナタ」としての人生はこれが一度っきりだよ?もしもこの世界に輪廻転生や生まれ変わりがあるとしても、「聖園カナタ」としての生涯はこれが最後なんだ"

 

「………!」

 

"もし次カナタが生まれ変わるとしたら、その時はもうミカやナギサとの関係は無くなってる……仕方がない事だけど、ならばその関係をこの生涯で楽しまなくちゃ"

 

先生の回答はThe・シンプルと言った感じの内容だった、途中で「ん?」と、思わず声を上げたくなる様な物さえあった……だけど、今の俺にとってそれはすごく貴重だった。

 

先生が語り終えると、少し笑いながら"なんかカッコつけちゃったけど、私そんなにこう言う系の事は知らないからね?"と雰囲気を壊す様なことを言った。

 

 

「……そう、ですか…先生、ありがとうございます。」

 

"気にしないで、生徒のお悩み相談を聞くのが、先生としての役割と言って良いから"

 

「……………」

 

やはり先生は、話してて他の大人とは何かが違った……俺を受け入れてくれなかった『聖園家』の大人なんかよりも、遥かに良い人だと思える。

 

「……先生…もう一つだけ、聞いても良いですか。」

 

"全然良いよ、いくらでもね。"

 

「俺は……俺は。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナギサさんを、助けたいです」

 

"………………。"

 

「すいません、先生も補習授業部で酷い目に遭ったから、こんな事に賛同できないと思うんです……でも…俺は。」

 

"とにかくナギサを助けたい、だね、良いと思うよ。"

 

「……!」

 

『さも当然だ』と言う様に、先生はそう言って退けた、補習授業部の顧問としてあれほどまでの仕打ちを受けたと言うのに、快く俺に賛同してくれた。

 

 

「……それに、俺はその…ナギサさんのことが……えっと…昔っから、好きで……」

 

"!……そうなの?"

 

「だから、まぁ……もしもナギサさんを助けることができたら、想いを伝えれたなぁと……」

 

もはや本音を語ってしまった俺の快進撃は止まらない、先生は少し驚いた表情を見せながらも。俺の考えや言葉に納得をしてくれた。

 

少し頭を冷やして、俺は先生に救護騎士団の部室であった事を話した……ナギサさんを助けたいと言う気持ちと、ナギサさんに謝りたいと言う気持ち。

 

"分かった、とりあえずカナタは……何が何だも2人で話をして、ナギサを助けたいんだね"

 

「はい……そう言うことです。」

 

"じゃあ、今すぐにナギサの所に行って。"

 

「…………」

 

"カナタにそんな事を言われて、ナギサはきっと心に傷を負ってる……補習授業部でやられたことなんて考える必要はない、これはカナタとナギサの『2人の生徒』での問題だから。"

 

「……なんですか、それ…。」

 

先生の言葉は納得はしたものの、あまり意味が理解できると言われたらそうでもなかった……だけど、俺の中でようやくトリガーを引くことができた。

 

ちょっと前までは何も見えなかったけど、今だったら見える気がする……とりあえず、ナギサさんにあんな事を言ってしまった過去の俺をぶん殴りたい。

 

 

 

 

 

 

すぐさま先生と別れて、俺は夜なのにも関わらず全速力でナギサさんの元へ向かった、部屋のインターホンを押しても出ずに、まさかこんな時間まで作業をしているのか?そう思い、ティーパーティの本拠地に向かった。

 

よく思い返せば、俺のトリニティでの生活はここから始まった、ナギサさんとミカ姉ちゃんが出迎えてくれて。最高の日々になると思ってた……結果、こんなことになってしまったんだがな。

 

 

 

ティーパーティの本拠地前に到着すると、警備の人の目を掻い潜って、やがて扉の前まで着いた……ゆっくり、ゆっくりと音を立てて開いた。

 

 

「………!?」

 

「!……ナギサさん……」

 

「カナタさん……どうしてここに…?いえ、こんな時間に何を……。」

 

夜の風景を見つめながら、ただ1人紅茶を握っているナギサさんが居た……。

 

 

 

 

 

 

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