ウチの姉ちゃんと幼馴染、何とは言わんがデカい   作:himahy

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今回、場面が反復横跳びします、ごめんね


忌憚な悪意

 

 

 

「アズサ……どうして、こんなことになってしまったんだ?」

 

「………………」

 

 

「俺は何をすればいいんだ?何をしなきゃいけないんだ?誰を助けるために今まで歩んできたんだ?……誰の為に、何の為にやってきたんだよ。」

 

 

コツ、コツ……正気の無い目で、カナタはゆっくりと音を立てて話しかけてくる。その言葉には、少し不気味な声色が混じっていた。

 

カナタの声は路地裏の陰から聞こえたものの、アズサは見なくとも理解できた、今の彼は何かが『おかしい』のだと。

 

 

 

「アズサ……なぁ、今の俺には何ができるんだ?教えてくれよ……。」

 

「……カナタ…」

 

トリニティを象徴とする白い制服に、何処の馬の骨かもわからない血飛沫がそこら中に付いていた。

 

以前のカナタなら、こんな血飛沫など付けずに穏便に済ませていたはずだ、身近で見てきたのは、出来る限り相手を傷つけようとしないやり方だったはず。

 

「…ダメだ、そんな表情をしてはいけない。誰よりも努力をしてきて勉強を教えるのが上手だったカナタが…そんな、そんな……。」

 

「……分かんない、もう何も分かんなくなってきちまったんだ、なんか助けようとした奴らには『裏切り者の弟(聖園ミカの弟)』だからって、差し伸べた手を振り払われて」

 

「……っ…!」

 

「ミカ姉ちゃんの弟だからって、あんな拒絶の仕方はないだろ?……そうだよな。」

 

だらんとした姿勢を続けるカナタは、おぼつかない手取り足取りでどこかへ目を向けた。その視線は、もう何を見てるのかもわからなかった。

 

「ぁぁ、アズサ……何か、何か、このままじゃ俺の中の全部が()()()()()()気がして……。」

 

「ひっくり返る……?何を言っているんだ、カナタ……。」

 

「何を言っているか分からないよな……いや本当に。俺も全然分かんなくって…。」

 

「……………」

 

明らかに、様子がおかしい。

 

もしかすると、目の前に居るのはカナタじゃないかもしれない、ならばコイツは何者だ、カナタを模範した別の人物。いや、そうとも考えられない……。

 

「……そこを退いてくれ。」

 

「退いて何の意味があるんだ、ミカ姉ちゃんの罪が無かったことにされるのか?またミカ姉ちゃんが幸せな運命を歩めるのか?」

 

「……ごめん、これ以上は答える事はできない。私は早く行かなくちゃいけないんだ、カナタが来ちゃいけない様な場所に。」

 

「…………………」

 

 

もう、これ以上時間なんてかけていられない、たとえカナタであっても。

 

おかしなことを呟き始めたカナタの姿が、アズサの脳裏にぎっしりと敷き詰められた、これ以上何の声を掛けずに放置していれば、()()()()()なんて理解していたのに。

 

過去の仲間を止める為に、今の大切な仲間を切り捨てる、アズサにとっては苦渋の判断でもあって、どこか清々しいものでもあった。

 

 

『人殺しになった私は、もう彼の姉にはなれない』

 

 

 


 

 

 

「……ハナコは賢い。盤面に落ちている情報だけでも、確かに彼女ならば真実のすぐ側まで辿り着けるだろう」

 

「そう、だからこそ彼女は理解してしまったのだよ、どれほど力があろうと、どれほどの権力を有していようが、この状況の前では無力という事をね。」

 

セイアがそっと狐耳を揺らし、夢の中だとされる空間に広がる、晴れることの無い夜空を見上げた。

 

まるで今のトリニティで起きている悲惨な事態の様だ───カナタはミカのせいで心が限界に達してしまい、ついにはおかしくなった。

 

「いいや、彼がおかしいのは以前からだろうね……ミカとナギサに向ける愛情が重すぎるあまり、君は壊れてしまった。」

 

これは私の勝手な憶測に過ぎないが、聖園カナタは()()()()()()な存在なのでは無いのか……そう、思ってしまうことがある。

 

 

 

 

 

『む?……ミカ、この写真に映っている男の子は誰だい?』

 

『え?男の子……?あ、この子の事?』

 

私がカナタの事を初めて知ったのは、ティーパーティになって間もない時だった、ミカのカバンから出て来た写真を渡そうとすれば、そこに彼は居た。

 

「えへへ、実はね?私にはすっごく可愛い弟がいてさ。名前は聖園カナタ、昔は病気を患ってあんまり遊んだ事なかったんだけど、最近病気がマシになったらしくてさ!」

 

「ほう……病気、か。」

 

「あー……そういえば何の病気だったんだろうね?ねぇナギちゃん、カナタの病気の内容知ってる?」

 

「……っ…」

 

ミカの横でカナタの話を聞いていたナギサの手が、少しだけ震えた様に見えた……完璧なタイミングだ、どこかに当たって揺れたのではなく、ミカの言葉を聞いて動揺した。

 

そこで私は何となく察した、彼は病気などではないのだろうと。ミカの弟ということは、もちろんナギサとも接点はあるだろう……。

 

「…はぁ……ミカさん、たとえ弟とはいえど、周りの人に病気の事を言いふらすなど、トリニティの生徒として相応しくありませんよ。」

 

「えー?別に良いじゃん!もう直っちゃったんだからさ!…というか、そんなこと言ってナギちゃんも知らないだけじ───」

 

 

「……っ…ミカ!!」

 

「ひゃぁっ!?」

 

ナギサが密かに怒っている事もお構いなしにペラペラと口を開いていたミカが、とうとうナギサに押し倒されてしまった。

 

恐らくだが、ナギサはその聖園カナタが何なのかを知っているのだろう、その上で、実の姉とされるミカにも伝えずに、1人だけで抱え込んでいる。

 

彼女らしいやり方だ、同時にミカにとって悪い事かもしれない部分を取り除き、平然に装っている。

 

「全く、良いですかミカさん?カナタさんはその様な事を望んでおりません、あの子は頭も良くて中身に関しても申し分なく、尚且つ私のことを実の姉の様に慕ってくれる人物です、ですが、そんなカナタさんでも……。」

 

「うわぁ、始まった……。」

 

ナギサが、先程までの清楚なイメージを壊しに来たのか、口からペラペラとカナタについての話を始めた……滑舌が良く、嫌でも全て聞こえてしまう。

 

話を聞けば、ナギサはカナタの姉でもあるそうだ。周囲から見れば複雑な関係になってしまう。しかし、彼女ら2人と本人が認めているから、誰も口を挟むことができない。

 

 

「───と、言うことなのです、聞いていましたか?ミカさん、カナタさんは自らの病気のことをあまり言いふらしてほしくないんですよ。」

 

「……もうナギちゃんがお姉ちゃんやれば良いんじゃないかな?」

 

「あら、そうでしょうか?、ならば話は早いですね、今すぐカナタさんの名前を桐藤に」

 

 

「わぁぁ!やっぱりダメ!私だけのカナタがナギちゃんの弟になるだなんて、絶対ダメ!!」

 

「…………」

 

私のことを省いて、勝手弟の話題で熱くなる2人……見たことがなかった、それと同時に。心の底から興味が湧いていた、その()()()()()と言う人間の事が。

 

 

 

 

その日の夜、私は夢を見た

 

 

ひどく、醜く、目も当てられない夢だった、身に覚えのある知り合いや友人達が会ってほしくもない最悪に遭遇してしまい、壊れていく瞬間。

 

こんなものを見てしまうから、私は()()()と言うものが嫌いだ。一見すると便利そうに見えるが、友人が不幸になる姿を目の当たりにするのは、心にどっと重いものがくる。

 

今日も、私はこんなものを見てしまうんだと思っていた───しかし、その中であることに気づいた。

 

 

 

『聖園カナタ』

 

夢の中に、君はどこにも存在していなかった。それだけではない、あんなにも君の事で熱くなっていた2人も、君の事を知らない様な素振りを見せていた。

 

 

 

 

「ミカ……本当に、君の弟は存在するのか?」

 

「え?急にどうしたの、セイアちゃん?……私の弟のことなら、存在してるに決まってるじゃん。何ならスマホに写真もあるよ?見る?」

 

「……いや。もういい……私が悪かったよ。」

 

 

「セイアさん……()()()のですか?」

 

「……………」

 

ナギサは相変わらず鋭い事、すぐさま私が何かを視えたのだろうと察した……しかし、この事実を2人に公にしてしまえば、『この先の未来に弟など存在していなかった』と、そう結論付いてしまう。

 

「あぁ、視えたさ……すまない、2人に教える事はできないがね。」

 

「ふーん、ちょっぴり久しぶりじゃない?それが視えるのってさ……教える事はできないって言うけど、もしかして私とナギちゃんが嫌だなって思う事?」

 

「………………」

 

「……そっか。」

 

いつもは能天気な事を言うくせをして、どうして彼女はこんな時に痛いところを突いてくるのか。

 

ミカが小さく呟き、ポケットからスマホを取り出して席を立った。恐らく誰かに電話をするためなのだろうが、相手は言わなくても想像できる。

 

ナギサは、側から見れば落ち着いているイメージを保っているものの、ブルブルと震えている指先を、私は見逃す事がなかった。

 

この当時、私はミカとナギサに出会ってから少ししか経っていなかったものの、彼女ら2人がどれほど弟を愛しているのか、どれほど可愛がっているのは理解していた。

 

『ねぇカナタ、もしかして何か隠し事してる?お姉ちゃんに隠し事なんてダメだからさ、何かあったら教えてね?……あ、じゃあさじゃあさ。来週の土曜日暇?ナギちゃんも連れてくから、久しぶりに会おうよ!』

 

 

『……え、無理?…な、なんで?なんで?お姉ちゃんに会いたくないの?…え……あ…そっか。ご、ごめんね?しつこく言っちゃって……うん、それじゃあね。ごめんね、お姉ちゃんの事、嫌いにならないでね。』

 

端からミカの会話が聞こえるが……何か、背筋に冷える氷でなぞられた様な感覚が走った。気のせいだろうか、気のせいなんだと言い聞かせよう。

 

「……あの子ってさ、なんでも1人で詰め込みやすい性格なんだよね。だから昔から私とナギちゃんで……いや、この話はもうしないほうがいいかな。」

 

「…………」

 

「ま、こんな暗い話じゃなくてさ⭐︎もっと明るい話しようよ!ナギちゃんもそんな暗い顔しなくていいからさ。」

 

「…あぁ、そうだな。」

 

沈黙を貫くナギサ、あまり居た堪れない気持ちにいる私……どこか、寂しい表情を見せながらも。私達の雰囲気を変えようとするミカ。

 

ティーパーティとしての三角関係を分かっていながらも、私たちはいつも通りに話し合って、テーブルの中央に集まる和菓子や紅茶に手を伸ばす。

 

 

 

 


 

トリニティの情報部に、衝撃的な情報が走った───シャーレの先生の負傷だ、クーデターを起こした人物に撃たれてしまったらしい。

 

「先生の容態は!?」

 

「現在は救護騎士団の部室に!団員の情報によると、出血多量ですが。応急処置はきちんとなされているとのことで……。」

 

「ご無事なんですね……!?」

 

シスターフッドを動かしている1人の少女、浦和ハナコは安息を吐いた。自分達を合格にまで導いてくれた恩師が、何と一命を取り留めたと言うことに。

 

しかし、トリニティの中でも混乱は加速していくばかり。先程まで共に行動していた友人とも別れることになり、なおかつその中の2人は行方不明。

 

「カナタ君、アズサちゃん……どうか、ご無事で……!!」

 

なんでもできる、言わば多彩な才能を持つ彼女でも、この状態でできることは……()()だけだった。

 

 

 

 

 

 

「ぐ、ぐぅっ……この!…離せ!離せヒフミ!」

 

「カナタ君、お願いだから落ち着いてください!!」

 

「離せ。離せ!あの野郎、マジでやりやがった!」

 

トリニティ総合学園の正門にて、強引にでもアズサの所へ戻ろうとするカナタを、必死に引き留めるヒフミが居た……結局、彼女はアズサを取り戻す事はできなかった。

 

カナタは正門に着くまで意識を失って、目覚めた途端にアズサの場所へ向かってしまえば、混乱は更にスピードを上げて加速してしまう。

 

「はぁ、はぁ……いい加減離してくれ、ヒフミ……!」

 

「!……だ、ダメです!絶対にダメですから!!…アズサちゃんにカナタ君の事を任されたんですから……ぅぅ!」

 

「くっ……クソ‥」

 

根気強く自分のことを止めてくるので、カナタはとうとう力を緩めて諦めた。ヒフミは力の余韻で少しだけ吹き飛びそうになったが、何とか体制を立て直した。

 

「分かってくれたんですか、カナタ君……。」

 

「……今のこんな状況じゃ、もう止めるもクソもないと思ってしまってな…あぁ、クソが。」

 

「…………」

 

開いたベンチに、どっしりと体を任せた。エデン条約の会場が爆破されてから既に数時間が経過したものの、混乱は休む気配を見せない。

 

ナギサさんもあの会場に居た、つまり、生きてるのかも分からない……もし次に見る彼女が、ヘイローが壊れて横たわっているものだったら。

 

「ダメだ、もう無理だ……」

 

「……カナタ君。」

 

「なぁヒフミ、なんでこんなことなったんだろうな……誰が元凶なんだ?ゲヘナか?そもそもあの得体の知れない奴らか?」

 

なんでこんなことになったのか、俺自身もよくわからなかった、いいや。分かるはずない、誰もが今日でゲヘナとトリニティの関係もマシになると思っていたんだから。

 

現状は、どこからか飛んできたミサイルのせいで、大切なナギサさんの安否も、他の友人達の安否なんてものも分からない。

 

「……ハナコはどこいったんだ?」

 

「それが、私にも分からなくって……最初はカナタ君とアズサちゃん以外の3人で固まっていたのですが、すぐに離されてしまって。」

 

「なら、俺はハナコを探しにいく、ヒフミはここにいて。」

 

「……っ!?あ、ちょっ……か、カナタ君!!」

 

何とか静止を振り切り、本館の中へ突っ走った。アズサに気絶させられた痛みもあるけれど、走れないわけではなかった。

 

中は渋滞している道路の様に混雑していた、誰もが指示を聞こうとせず、是が非でも逃げようとする。

 

人混みの中を上手く抜けて、ハナコのことを探し続けた。ヒフミは確か別れたと言っていた、彼女ほどの能力を持つ人間なら、恐らくティーパーティかシスターフッドの指揮官に起用されている。

 

今のこの状況、ミカ姉ちゃんは動けない、セイアさんも動くことのできない、ナギサさんは音信も何もかも不明……ならば、彼女しか頼る事ができない。

 

気が付くと、一年生はあまり足を踏み入れることのないティーパーティの会議室まで来ていた。ここならば、ハナコがいるかもしれない。

 

 

 

「───!?……カナタ君!?」

 

「なっ……は、ハナコ!」

 

扉を開ければ、ティーパーティの服装を着た数名の生徒に、ハナコが手を上げて銃口を向けられていた。

 

「なっ……あ、アイツはまさか…裏切り者の弟の!」

 

「聖園カナタ……!!こんなところにまでくるなんて!」

 

「……お前ら、一体何のつもりなんだ…!」

 

理解不能だ、コイツらはなぜ今のトリニティの要であるハナコを拘束して、俺に銃口を向けているのかが。

 

「仕方がありません、聖園カナタさん……貴方の姉の聖園ミカさんを利用します、もちろん協力していただけますよね?」

 

「……は…?ミカ姉ちゃんを、利用する?」

 

 

「カナタ君…っ…カナタ君!急いで…急いでください──彼女達は、ミカさんをクーデターの首謀者に仕立て上げようとしています!

 

「……なっ…!?」

 

「ちっ……アイツ!!余計なことを!!」

 

ミカ姉ちゃん、利用する?……クーデターの首謀者に、ミカ姉ちゃんを利用するって、どういうこと───!?まさか!

 

 

 

「っ……お前ぇぇ!!」

 

「──グゥッ!?」

 

徐々に銃口を向けて迫ってくるティーパーティの生徒を、グッと力を込めた拳で殴り、胸ぐらを掴んだ。

 

コイツら、まさかゲヘナを憎んでいるミカ姉ちゃんを、トリニティとゲヘナも衰退している状況を狙って、クーデターを起こそうとしているだなんて…!

 

「この……クズ野郎が!!威勢を張る事だけが得意事のゴミ共がぁぁ!」

 

「っ!?…ひ、怯むな!う、撃て!撃てぇぇ!!!」

 

飛んでくる銃弾を、胸ぐらを掴んだ奴を盾にしながら、出口の方へ突っ走った。コイツらの言っている事が本当ならば、ミカ姉ちゃんは今頃ッ───!!

 

俺を阻止しようとする奴らを殴り、蹴り飛ばし、ミカ姉ちゃんの牢獄まで急いだ。

 

 

 

 

 

 

「……ミカ‥姉ちゃん?」

 

 

「!?……か、カナタ……ッ!?」

 

 

見た、いいや。見てしまった。

 

あのミカ姉ちゃんが、パテル派と思われる人達に殴られて、小石の様な物を投げられて、服や顔が傷ついているところ……。

 

 

「えっ……ぁ、カナ……カナタ!?」

 

コハルが、ミカ姉ちゃんの前で両手を横に広げていたコハルが。パテル派の人達に手を挙げられそうになる場面………。

 

「……………お前……お前、達」

 

「な、なんだ……なんだ、コイツ!?」

 

 

ゆるさ、ない。許さない、許さない。絶対に許さない。

 

 

 

 

ズキッ!!!……ジジ、ジィィィィィィィィ!!!

 

 

 

 

「‥‥ぶっ殺す……殺すっ!!!」

 

 

腰に掛けていた、壊れかけの愛銃を手に掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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