ウチの姉ちゃんと幼馴染、何とは言わんがデカい 作:himahy
「ミカさん、そろそろ聞かせていただけませんか?アリウスと和解する……そこにある意図を。」
「え、意図?」
「どういった政治的な利益があるのか……と、ナギサは言っているのだよ。」
まだ、ゲヘナを憎みたいとも思わなかった。セイアちゃんを襲撃するとも思わなかった───あの日の、淡い記憶。
セイアちゃんとナギちゃんが、アリウスと和解したいって言い出した私の事を、何だかおかしく思ってた。
いや、元々ティーパーティの中でもおかしな子って思われてたのかな?……まぁ、そんなことはもう。どうでもいいんだけどね。
「政治的な利益?…うーん、そんなの無いかな⭐︎、2人とも考えた事ないの?アリウスだって元々は同じトリニティなんだよ?お茶会でも開いて仲良くしよっていえば、仲良くできると思わない?」
「「…………」」
「……え、何この空気。私なんか変なこと言った?」
セイアちゃんとナギちゃんも、2人してなんで分かってくれないだろうね。今は引き離されちゃったけど、昔は同じトリニティだったんだよ?。
私たちはティーパーティ、いつもお茶会や和菓子を食べながら、世間話をして過ごしている集団……アリウスとお茶会でも開けば、仲良くできると思わないのかな?
「あーあ、私がホストだったらな〜〜…ナギちゃんよりも、もっと早く動けたのに。」
「ミカさん、貴方は本当に……まぁ、それは一先ず置いておきましょう。自治区の場所も判明していないわけですし」
「それにミカ、君がもしそれを達成できたとしても、一体何をするつもりなんだい?アリウスを吸収したトリニティ……何か大きな戦いを起こす気でも?」
「んー、まぁどうする気も無かったけど。それもいいかもね?最近じゃそう言う声も増えてきてるし……そうなったら、ゲヘナをどうにかできると思わない?」
「それに──あの子の病を治す技術だって、あるかもしれないんだから」
「っ……ミカさん、それは…」
ナギサだけが、薄々感づいていた。聖園家という名の完璧な家庭の中で、カナタが病気という名の嘘に塗りつぶされている、存在そのものを消されかけていることを。
ミカが信じているその病の正体が、親による残酷な虐待であるという真実を。
「えへへ、だってそうでしょ?トリニティの最先端の医療でもダメなら、アリウスの失われた技術に賭けてみる価値はあると思わない?あんなに物知りのナギちゃんだって、カナタの病名すら知らなそうだし。」
ミカは自分がアリウスと手を組んで、ゲヘナを世界から排除し、アリウスを飲み込んだトリニティの頂点に立てば、最愛の弟の病を治す手立てがあると、信じて疑わなかった。
「……ミカ。君は本当に、そう信じているのかい?」
「うん、私は本気で信じてるよ?だってあの子のお姉ちゃんだもん、世界で一番にあの子の幸せを願ってるのは、ナギちゃんでもなく、お母様でもなく、
そう、絶対そうに決まってるよ。アリウスの未知の技術を駆使すれば、カナタが元気いっぱいにこの世界を駆け巡る可能性があるかもしれない。
幼い頃に、私が精一杯愛情を注げなかったあの子が、誰よりも元気になって、誰よりも希望を見出してくれる……そんな世界が、これからはあると思ってた。
「ひっ……え、あ……これ、やばいんじゃない?……ちょ、ちょっとやりすぎちゃった……?」
「し、仕方ないでしょ!アイツが化け物みたいに襲ってきたんだから……!それに、何があっても、あの裏切り者がしたってことにすればいいんだから!」
「ぁ……ぃゃ。ご、ごめんなさい!その、本当に!私はやりたくてやったわけじゃ──!」
私の靴が、スカートが、似合わない赤色に染まっていく、その赤色はペンキなんて物じゃないし、絵の具みたいに可愛らしいものなんかでもない。
血、誰がどう見ても鮮明な色をしている血。
「……ナ…タ……?」
トリニティの生徒とは思えない野蛮な言葉を発して、ボロボロになっても銃口を向けて、頭を撃ち抜かれて。
私の、愛しい愛しい弟が。頭から血を流して倒れている。私の前で、無様に少しだけ痙攣してる。
「ねぇ、カナタ……起きてよ────嫌……いや…」
腕の中にあるのは、最初はあんなに温かかったはずの弟の熱い血の匂いと、急速に失われていく体温だけだった
1人だけが頭に当てたのなら、まだ良かったのかもしれない。でもアイツらは、一斉にカナタの頭へ銃口を向けた。
私でもあの量の銃弾が一気に頭に行けば、耐えれはするけど大きなダメージを負う……そんな攻撃を、病気で体の弱かった子が、最近ようやく動けてきたあの子が。まともに受けちゃったら。
わたしの、せい?
わたしがセイアちゃんを傷付けたから、ナギちゃんを裏切ろうとしたから。カナタのことも?
「起きて、起きてよ、カナタ……ねぇ、お願い…お願い、だから…」
何度もカナタの体を揺さぶって、声を掛けて、目から涙を流した……でも、それでも。カナタの血は広がっていく一方だった。
"……カナタ?"
「……っ…!?」
カナタの名前が聞こえて、すぐに前を向いた……先生が、今ここにはいないはずの先生が、隣にいるコハルちゃんの頭を少し撫でて、カナタの方を見てた。
"……カナタ…何が……何が…?!"
「せ……せん、せぇ……」
先生の名前を呼ぼうとしても、言葉が途切れ途切れになって何も言えなくなる……自分でも本当に馬鹿だと思う。何も考えずに行動して、こうなっちゃったんだから。
"……ミカ……ごめん、ちょっと…手を退けてくれないかな?"
「あっ……」
必死に血を止めようとしていた私の手を優しく退けて、先生はカナタの事を持ち上げた。先生の表情は、私から見ても本当に辛そうだった。
やがて、先生はゆっくりと後ろを振り向いて、コハルちゃんを連れて帰っていく……。
待って、待ってよ。
「………カナタ……。」
気付けば、私以外この場に誰も居なくなった……気持ち悪いほど腕の中に残るのは、最愛の弟の遺した血の匂いと。償っても償いきれない、罪の量だけ。
『エデン条約会場爆撃から、今日で約一週間が経過』
「…………」
エデン条約での事件、ユスティナやアリウスによるクーデターから、もう丸々3日が経過してしまった……結果的に、アリウスは先生やトリニティとゲヘナの結託、予想外の場所からの乱入によって制圧された。
主に
そして私───百合園セイアも、夢だけにこもるのをやめて、とうとう目覚める時が来た。
起きて早々、体が弱いと言われていた私も、今日だけはとある場所に足を運びたくなった気分で、トリニティの近くにある病院まで移動していた。
ミカの聴聞会までには時間がある、だからこそ。彼の様子を見ておきたい。
ツー、ツー。
「………カナタ」
私が目を向ける先で、呼吸器を口に付けて、心電図の音が病室に鳴る……カナタが、目を閉じたまま白いベットに眠っていた。
彼はあの日以降、一度も目が覚める事なく病院のベットに横たわっている。様々な人が彼のお見舞いに来たものの、全員が哀しみの表情を浮かべて、扉から出てくるのみだ。
彼の2人目の姉と自称していたナギサも、今でもミカやアリウスの件に追われ続けている。その中で彼の意識が目覚めない事を聞いたとされる表情が、今でも脳裏にこびりついて離れなかった。
加えて、ミカの裏切りにより、ティーパーティの権威は地に堕ちた……そのせいで、ナギサは彼に会うことができなくなっている状況にある。
そして、彼がこんな状態になっている中で……1番に追い詰められているのは、恐らく───
「……早く目覚めなければ、君の守ろうとしている大切な者達が、嫌々でも首を絞める羽目になるよ。」
そう小さく呟いた瞬間、私の護衛に回っている生徒から、終了の時間を告げられた……結局は、今日も彼が目覚めることはないだろう。
「…ゴホッ……ゴホッ…」
やはり、無理してこの場に来るのは失敗だったのか……ただでさえ、あまり体調が優れていないのだから、早くトリニティに帰らなければ……。
ジィィィィィィ!!!
「………!?」
背後から、まるでテレビで砂嵐か流れる時のような、不気味な音が聞こえた……これは現実なのか、あるいは幻聴なのかはわからない。
しかし、これだけは断言できる……私は、見た
ノイズのかかったヘイロー、熱で焼け焦がれたとしか言いようのない6本の黒い翼、そして何より……あの、
「……はっ……!」
幸い、ソレが見えたのは一瞬だけ……だが、その一瞬だけだとしても、私の体や心はこれ以上にないと言えるほどの、圧倒的な不安に苛まれた。
エデン条約を巡る騒乱が終わり、トリニティに訪れたのは、ゲヘナとの手を取り合った日常ではなかった。
ティーパーティーの権威は失墜し、ミカは独房へ、セイアは目覚めたものの療養へ。残されたナギサを待っていたのは、苦しき日々だった。
「……ナギサ様、そろそろ休憩を取られては…?」
「いえ……まだ、この報告書が残っていますわ。」
ナギサは、震える手でティーカップを口に運んだ。だが、その中身は既に冷めきっていた。
彼女が今、何よりも恐れているのは、押し寄せるゲヘナとの外交問題でも、他の組織からの突き上げでもない……。
──ただ、一人の少年が、目覚めまま終わってしまうことだけ。
後日、仕事が少しでも落ち着いた頃、護衛の生徒たちに車を走らせ、トリニティの一般病院に足を運んでいた。
ティーパーティーの代表としての権限は制限されているが、それでも彼女は『桐藤ナギサ』として、ここへ来ることを止めることはできなかった。
病室の扉を開けると、花の匂いと共に、機械的な電子音が聞こえた。
「……カナタ、さん。」
ベッドに横たわる少年は、あまりにも小さく見えた。
頭部に巻かれた包帯が痛々しく、酸素マスク越しに繰り返される呼吸は、今にも消えてしまいそうなほどに浅い。
「ごめんなさい……ごめんなさい、カナタさん。」
「貴方を救い出したつもりでいました。聖園の闇から、あの冷たい倉庫から……しかし、私が貴方を呼び寄せたこの場所も、結局は……地獄に過ぎなかった。」
ミカがアリウスと通じ、最悪の選択をした理由。それは、カナタの『病』を治したいという、歪んでいるが故に純粋な愛情だった。
もし、自分がミカに真実を話していれば。
もし、聖園家の虐待を公にし、もっと早く彼を完全に保護していれば。
「私は、ミカさんの心を壊さないために、カナタさんにさらなる地獄を強いてしまった……本当に、ごめんなさい。カナタさん……」
ナギサは、カナタの手を己の額に押し当て、祈るように目を閉じた。
彼女の脳裏には、もう時期訪問する先生との会話の内容、シスターフッドや救護騎士団との会議……そして、囚われている親友の事が浮かんでいた。
「……目覚めて、ください。私を、いくらでも罵っていいですから…。」
ナギサは、彼を抱きしめることさえ躊躇した。自分の体温が、彼の中に残る命を汚してしまうような気がしたから。
「カナタさん……貴方が目覚めるまで、私はこの責任から逃げません、ミカさんのことも、トリニティのことも……ですから…どうか、どうか……」
こんなのでは薄っぺらいかもしれない、そんなので許すわけがないと告げられるかもしれない……それでも、ナギサは謝罪の言葉を並べ続けた。
「……失礼します、カナタさん。」
本当はもっと隣に居たかった、もっと謝りたかった……疑心暗鬼になって彼を突き放した私に、そんな権利があるのかは、まだ分からない。
暫く彼の手を握っていたものの、とうとうトリニティに帰る時間がやってきた…そっと一礼をして、病室を出た。
「……いた……アレ、魔女の弟」
「ちょ、ちょっと…本気でやるつもりなの?」
「やるに決まってるでしょ?元々は魔女が悪かったんだし……あの女には、自分がどれほどのことをしたのかって、自覚させなきゃいけないんだし。」
「……………」
エデン条約3章、これにおしまい………はい、できるだけ早く4章は出します