ウチの姉ちゃんと幼馴染、何とは言わんがデカい   作:himahy

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ナギちゃんとミカ姉ちゃんが暴れます……あれ、バレンタインっていつだっけ?


弟が本命チョコ貰ったからってバレンタインで暴走する姉2人なんて居るぅ?いまぁぁぁす!!

 

 

トリニティ総合学園に入学してから数ヶ月。季節は流れ、街中が甘い空気に包まれる『2月14日』がやってきた。

 

 

 

学園都市キヴォトスの全男子が熱を上げて発狂する日、その名も『バレンタイン』恋する華麗な女の子が相手の男の子に想いを伝えるチョコをあげる日だ。

 

 

 

そんな日も、俺は相変わらず補習授業部の補佐を務めて居た。ワンチャン誰か本命くれないかなって思ったけど、みんなくれたのは義理チョコだけだった。コハルのやつだけなんか丁寧にされてたけど。

 

 

でもティーパーティのミカ姉ちゃん達からはまだ貰えてない、姉2人はともかくセイアさんは最近仲良くなったから義理チョコぐらいはほしいな。

 

 

 

 

しかし、今日だけは、このバレンタインの日だけは違う。

授業終わりの放課後、静かな校舎裏にて。俺は人生最大の転機に直面していた。

 

 

「あ、あの……聖園くん。これ、もし良かったら受け取ってください!」

 

 

 

顔を真っ赤にしながら、丁寧にラッピングされた袋を差し出してくるのは。同じクラスの何にも知らないおん……いや失礼。控えめだけどいつも親切なクラスメイトだ。

 

 

 

「え、俺に……? 義理とかじゃなくて?」

 

 

「ち、違います! 本命……です。ずっと、頑張ってる聖園くんのこと、見てたから……」

 

 

ドクン、と心臓が宇宙まで跳ねた感覚がした。中学校の修学旅行で忘れ去られ、ベランダで姉に慰められていたあの惨めな俺に、春が、青春が、『ブルーアーカイブ』が来たのだ。

 

俺は内面で溢れ出る気持ちを抑えながら、感情を隠しきれずに震える手でその袋を受け取った。

 

 

「……ありがとう。大切にするよ」

 

 

「!!…は、はい!ありがとうございます、聖園くん……じゃ、じゃあ私はこれで!!」

 

 

「うん、それじゃあね。」

 

 

少女が嬉しそうに走り去っていくのを見送り、俺はすぐさま天を仰いだ。

 

 

勝った。これは全ボッチ経験者への希望の光だ。俺はもう姉ちゃんたちの『弟』としてお菓子を恵んでもらうだけの存在じゃないと証明された。

 

 

 

こうなってしまったら、ミカ姉ちゃんとナギサさんに報告しなければ!!モモトークをポチッとな!……『いつでも来てね⭐︎』、いっつも思うけどミカ姉ちゃん返信クソ早いんだよな。

 

 

 

 

「失礼します。」

 

勢いよく、だけど落ち着きを見せて扉を開けると、そこにはいつものように優雅にお茶を楽しむ三人の姿があった。

 

「あ、カナタお疲れ様……どうしたのそんなに息切らして。」

 

 

 

「こんにちは、カナタさん……?……」

 

 

「……む?……それは……」

 

ミカ姉ちゃんがいつも通りヘラヘラと笑い、ナギサさんが華麗な手付きで紅茶を注ぎ、セイアさんが意味深な笑みを浮かべる。

 

 

 

「見てくれ……もらったんだ、クラスの子に」

 

 

「……へ?」

 

ミカ姉ちゃんが、間の抜けた声を出す。

 

 

「……はい?」

 

ナギサさんが、笑顔のまま眉をピクリと動かす。怖いよ。

 

 

「……ほう」

 

セイアさんだけが、面白そうに目を細めた。

 

空気が、まるで裏切り者を見つける瞬間の如く張り詰めた。俺はその空気を察知したが、みんなに伝えたい気持ちでいっぱいだった。

 

 

「……ねぇ、カナタ?今なんて言ったの?私の聞き間違いかな?『クラスの子に』チョコを『もらった』……」

 

 

「そうそう!それでさ………え?」

 

 

そこで愚かな俺は気付いた、よくよく見ればミカ姉ちゃんの目が笑っていない。背後のデコレーションされている翼が、心なしかピクピクと震えている……いや何この状況、普通に怖いんですが。

 

 

「いや、だから、本命だって言われて……」

 

「カナタさん」

 

真横で様子を見ていたナギサさんが、極めて静かな、しかし有無を言わせぬ圧を込めた声で割り込んできた。一瞬だけホンマにビビってもうた。

 

 

そして、ナギサさんが手を伸ばして力強く掴んだのは。俺が貰ったチョコレートだった。ナギサさんは非力だと言うのに、今だけは俺よりも力が強い様に思えた。

 

 

 

「その方は、一体どこのどなたですか?果たして本当にカナタさんの信用に値する人物なのですか?ティーパーティーのホストとして……いえ、貴方の『姉』として、厳密な調査を行う必要があります」

 

 

「いや、ナギサさん、調査って……ただの本命チョコ!!」

 

 

「っ!?……渡しなさい!カナタ!」

 

「あー!ダメだよナギちゃん!それは私が───!!」

 

 

想像もできない展開となり、姉二人が身を乗り出して。俺のチョコを巡って火花を散らし始めた。その勢いに思わず俺は弾かれて後退ってしまった。怖いっピ

 

 

「……やれやれ。嫉妬に狂う姉たちというのも、見苦しいものだね」

 

「はは……そうですね」

 

セイアさんが呆れたように溜息をつき、俺の隣にスッと立った。だけどその表情には、以前とは違いどこか楽しそうな気持ちさえ混じっている様だ。

 

「だけどカナタ、君も先生と同じ罪な男だ。彼女たちの『独占欲』という名の地雷を踏み抜くとは……。」

 

 

「えぇ?僕のせいになるんですか?」

 

「あぁ、君はいつもこの場に居ないから知らないのだろう。姉2人に毎度として弟の話を聞かされる身にもなって欲しいものだね。」

 

何か本当に俺のせいでこうなってしまったんだなって、優雅なティータイムを邪魔しちゃって申し訳ない気持ちだ。

 

 

いやそんなことよりも、まず俺のチョコ返して欲しいんですけど……。

 

 

 

「カナタ、これ……開けていいよね? ね?」

 

 

「ミカさん! はしたないですよ、人の贈り物を勝手に……私が開けます。」

 

それナギちゃんがやりたいだけでしょ!?

 

 

目の前で繰り広げられる、トリニティ最高権力者たちによる醜い……コホン!、非常に熱いチョコの争奪戦。発端は俺。

 

ナギサさんの背後にはいつの間にかヘリが待機しているような幻聴が聞こえるし、ミカ姉ちゃんの周りには物理的な威圧感でヒビが入り始めている。もう何が何だか俺にも分からん。

 

 

 

「……あの、二人とも。それ、僕がもらったやつ……」

 

 

 

「──カナタは黙ってて!!」

 

 

「──カナタは黙っていなさい!」

 

 

「………すみません」

 

 

完全に縮み上がった俺の横で、セイアさんが「……ふっ」と少しだけ笑っている。この人絶対に状況を楽しんでるだろ。ふざけんなよ俺は楽しく無いぞ。

 

 

 

しかし、そんなセイアさんが横槍として入れた一言によって。チョコ争奪戦をしていた2人の動きが止まった。

 

 

 

「……ふむ。しかし、ただ没収するだけでは『姉』としての示しがつかないのではないかな? ナギサ、ミカ」

 

 

 

「セイアちゃん、どういうこと?」

 

 

 

「……まさか、食べろとでも言うのですか? どこの馬の骨ともしれない生徒のチョコを」

 

 

ちょっとナギサさん?あー違うナギちゃん?流石にその発言は酷いんじゃ……あダメだこれ人権そのものが無い。

 

 

 

「いや。カナタが『本物の愛』というものを理解していれば、このような他愛もない誘惑に惑わされることもなかったはずだ。」

 

 

 

「……つまり、君たちが彼に教え込めばいいのさ。その『本命』とやらを上書きするほどの、格の違いをね」

 

 

セイアさんの言葉が終わるか終わらないかのうちに、どんな意図を理解したナギサさんがパチンと指を鳴らした。俺は内心嫌な予感しかしなかった。

 

ナギサさんが最近業務に追われて忙しすぎて倒れたと言う話は身近で聞いたものがあるものの、ここまで暴走するまで疲れているなんて。

 

 

「……その通りですね。ティーパーティーの誇りに懸けて、そんな粗悪な糖分にカナタさんの心を奪わせるわけにはいきません」

 

 

「偶には良いこと言うねセイアちゃん! そうだよカナタ! 本物のチョコっていうのはね……こういうのを言うんだよっ!!」

 

「……え?」

 

 

待ってましたとミカ姉ちゃんがポケットから取り出したのは、これでもかと宝石のような装飾が施された、すっげぇ高級そうな手作りボックス。

 

 

そしてナギサさんはどこからともなく執事を呼びつけ、銀のトレイに乗った、もはや芸術品にしか見えないチョコの彫刻を持ってきた。え、普通に何これ。

 

 

「さあ、カナタさん。どちらが貴方の『姉』にふさわしいか……ここでハッキリさせましょう」

 

 

「カナタ〜、お姉ちゃんのチョコ、あーんしてあげるからこっちおいで⭐︎」

 

「え、いや、あ、あの……」

 

 

二人の目が、獲物を狙う猛獣のそれに変わる。周囲を確認しても逃げ場はない。背後の扉はいつの間にかナギサさんの護衛によって木の板で封鎖されている。

 

 

どんだけガチガチにしてんだよチョコ如きで、ってあれセイアさんどこ行った?……なんか端でダンボール動いてるんですけど、セイアさんってス◯ークなの?

 

 

 

 

 

「カナタ、まずは私からだよ! はい、あーん!」

 

 

 

 

「いいえ、まずは紅茶と共に私のが先です!!はい、あーん!」

 

 

 

「……死ぬ。これ、甘すぎて……ぐぼっ!?

 

 

嫌でも俺は悟った、悟ってしまった。中学校で誰とも関わらずにボッチだったあの頃の方が、ある意味では平和だったのかもしれないと。

 

 

現在進行形で俺の口の中には2方向からスプーンが突っ込まれている。一つ目は俺が好きそうな味を積み込んだミカ姉ちゃんのチョコ、2つ目は丁寧な味のナギサさんのチョコ。

 

 

意識が遠のく中、俺の脳内にあるのは幸せなはずの『ブルーアーカイブ』ではなく、緊急事態を知らせるサイレンの音が鳴り響いていた。

 

 

 

「……あ、そういえば、あのクラスの子のチョコ……」

 

 

「は?」

 

 

「ごめんなさい。」

 

 

 

 

二方向から喉の奥までねじ込まれる糖分の暴力。ミカ姉ちゃんのチョコは、もはや『甘い』という概念を通り越して脳を直接揺さぶるような爆発力がある、誰か助けて。

 

それとは真逆にナギサさんのチョコは、洗練されすぎていて逆に一口で全身の細胞が『貴族の味』に染め上げられるような感覚がする、誰か助けて。

 

 

「カナタ、まだあるよ! 次はこっちの層を食べてみて!」

 

 

「か、カナタさん……!!」

 

 

「も、もふ……もがっ!」

 

 

俺の抗議など、暴走したティーパーティーの前では羽虫の羽音も同然。救いを求めて視線を走らせるが、部屋の隅にある『セイアと書かれたダンボール』は、シュールに微動だにしない。あの人完全に観客を決め込んでやがる!

 

数分後。俺の胃袋は限界を超え、テーブルに突っ伏した。視界がチカチカする。これがバレンタインの光。これがバレンタインに調子に乗った人の末路なのか。

 

 

ピコンッ!

 

 

落としてしまったスマホからモモトークの通知が響き、2人の動きがまたもや静止した。まさか誰か助けに……!

 

 

「こんな時に……誰から?」

 

 

「…………」

 

 

楽しそうだったミカ姉ちゃんの笑顔が、火の消える効果音がしそうなほど無くなっていった。ちょっと女子〜怖いんですけど〜〜?……冗談キツいって。

 

「カナタ、開けなさい」

 

「………はい。」

 

姉2人の圧にビビり、震える手でスマホを手に取ると、画面には『モモトーク』の通知。送り主はさっきのクラスメイトの女の子だった。

 

『聖園くん、さっきはありがとう! あの、チョコの中に……メッセージカード、入れといたから。恥ずかしくて言えなかったこと書いたの。後で読んでね!』

 

「「…………。」」

 

 

 

沈黙

 

 

 

嵐の前の静けさなんて生易しいものじゃない。トリニティが二つに割れる地鳴りのような予兆。逃げたくても逃げられない恐怖が襲いかかってくる……あー、オワタ⭐︎

 

 


 

結局、あの後のメッセージカードは、ミカ姉ちゃんが身を乗り出し、ナギサさんが一言一句を検閲する地獄のような空気の中で読む羽目になった。ホンマに誰か助けて

 

 

そして何とかその審査が終わり、波乱のバレンタインの翌日から俺の周囲には異様な光景が広がっていた。

 

「あ、聖園くん、おはよう……!」

 

「……あっ!」

 

 

憂鬱な気分で歩いていた時、昨日チョコをくれたクラスメイトの女の子が、笑顔で駆け寄ってこようとした……その瞬間だった。

 

「あー!カナタじゃん、おっはよー⭐︎」

 

どこからともなくミカ姉ちゃんが現れ、俺と彼女の間に割って入った。もうやだこの人。

 

「て、ティーパーティの聖園ミカ様!?…ど、どうしてここに……」

 

「あはは、そんなにかしこまらなくていいよー?」

 

「ただちょっとね、この子が昨日甘いもの食べすぎてお腹壊しちゃったみたいだから、今日は私が付き添いなの。ね、カナタ?」

 

「…………ハイ」

 

ミカ姉ちゃんの「分かってるよね?」と言う厚がましい視線が突き刺さる、ここで否定してしまうと多分ヤンちゃんしてデレるからやめときました。

 

「そ、そうなんですね……じゃ、じゃあ聖園くん、後でね……」

 

「…………」

 

「ほら、早く行こ?カナタ」

 

名残惜しそうに去っていくんじゃない……やめてぇ!!もう俺のライフはゼロよぉぉ!!!

 

 

 

そんな生活が数日続くと、学園内にはある噂が広まった。

 

 

『一年生の聖園カナタに近づく者は、ティーパーティーの二重結界に触れることになる』

 

 

もはや俺はトリニティにおいて絶対に手を出してはいけない人物、言わば『第二のサクラコ』として扱われるようになってしまったのだ。

 

 

「……セイアさん、助けてください。俺、これからも一生彼女できない気がします」

 

「ふむ……」

 

 

放課後、どうにかして逃げ込んだ先でセイアさんと話をすることにした。この人を一発くらいぶん殴りたいけど、政治的にも人間的にも終わるからダメだ。

 

 

「残念だが、あのバレンタインを経て彼女たちの団結力はより強固になった……潔く諦めたまえ」

 

 

「はぁ………もうホワイトデーは山にでも篭ろうかな。」

 

 

そう顔を隠して絶望する俺のスマホに、一件のモモトークが届く。言わずもがな相手はミカ姉ちゃんだった。

 

 

『ホワイトデーの予定空けておいてね!ナギちゃんと2人で、とーっても甘いパーティーを企画してるから!逃げちゃダメだよ⭐︎』

 

 

「おや、これは………」

 

 

「誰か助けて」

 

 

胃がキリキリと鳴るのを感じながら、さらに深い絶望へと堕ちた。

 





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