ウチの姉ちゃんと幼馴染、何とは言わんがデカい   作:himahy

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旅行話ちょっと難し過ぎない?……他のブルアカにある旅行小説やらをみて参考にしたけど。
今回の話は9000文字あるので、ちょっと疲れちゃうかもしれません。


まぁ、頑張れ!


3人で百鬼夜行の宿に旅行に行く話。

トリニティ総合学園での季節は巡り、桜が咲き誇る時期がやってきた。

 

かつて姉の影に隠れていた俺も、今では立派にこの学園の空気に馴染んでいた。何なら馴染みすぎてティーパーティの面々と茶をしばくのが日常茶飯事になっている。

 

一般生徒から見れば『あいつ何者だよ』という恐怖の対象でしかないのだけれど。

 

ちなみに今回の旅行は、俺が二人を誘ったものだ、『百鬼夜行連合学院』その玄関口である観光特区へ向かう特急列車の車内から、俺たちの『非日常』は始まっていた。

 

「ねぇ、見て見てカナタ!もう桜木があるよ、トリニティの桜も綺麗だけど、こっちの桜はなんだか少し赤みが強くて不思議な感じがするね⭐︎」

 

列車の座席で身を乗り出し、子供のように瞳を輝かせるのは実の姉の『聖園ミカ』だ。少しだけ言えばもう少し社交マナーというものを学んでほしい

 

「ミカさん、あまり窓に張り付いては行儀が悪いですよ?」

 

 

対照的に、向かいの席で静かに窓の外を見つめているのは2人目の姉的存在の『桐藤ナギサ』だ。外でもきちんとしているのは流石というべきか。

 

 

「……ですが、確かに。湿気を含んだ風の匂いが、トリニティとは明らかに異なりますね。カナタさん、素敵な場所を選んでくれました」

 

 

「!……は、はい…!」

 

 

ナギサさんはそう言って、扇子の隙間からじっと俺を見つめた。着物姿のせいかその視線はいつもより色気が付いて、俺は咄嗟に視線を逸らした。

 

そして瞬く間に駅に降り立つと、そこはまるで別世界の様だった……トリニティとは違う新鮮な匂い、尚且つトリニティのでは感じられない妙な風潮。

 

 

隣にいたナギサさんとミカ姉ちゃんも、あまり見られない新しい景色を目の当たりにして。その表情からは好奇心が湧き出てくる様子だ。

 

そして駅前で、肩に食い込んでくるすっげぇ重たいボストンバッグを担ぎ直し。盛大な溜息をついた。

 

「……で?なんで俺が、ミカ姉ちゃんの荷物持ちみたいになってるわけ?」

 

目の前には見渡す限りの桜。どこか幻想的で懐かしさを感じる。キヴォトスにおいても独特の文化を持つ『百鬼夜行連合学院』の観光特区だ。

 

「もう、またそんなこと言っちゃって。言い出しっぺはカナタじゃん?」

 

『たまには羽を伸ばして旅行に行こう』って。誘ってくれた時はあんなに嬉しそうだったのに。」

 

「…はぁ……」

 

隣で羽と共にぴょんぴょんと跳ねるように歩くのは、実の姉のミカ姉ちゃんだった、ナギサさんはともかくミカ姉ちゃんは荷物持てよ。

 

「わぁ、すごい!…見てみて2人とも!あんなにも川が綺麗で!」

 

ミカ姉ちゃんはいつもの制服ではなく、薄ピンクを基調としたデザインの和装ドレス。背中の翼が舞い散る桜と相まって本当のお姫様の様に美しかった。

 

「ミカさん、少し落ち着いてください……カナタさんが困っています。」

 

そんなミカ姉ちゃんを落ち着いた声で窘めるのは、もう一人の「姉」的存在のナギサさんだ。やっぱり私服だとナギサさんのスタイルの良さが強調されすぎてて目のやり場に困る。

 

 

入学式の時も思ったが、ナギサさんの成長は凄く著しい。着物の合わせ目から覗くラインや、帯で強調された腰の細さ。特に胸もデカいし。

 

弟という立場を捨てて、一人の男としてありがとう『ございます』と天を仰ぎたくなる破壊力だ。自分で言っててキッショって思っちゃうわ。」

 

「……カナタさん?私の顔に何かついていますか?」

 

「ひぇっ!?い、いえ! 何でもありません! ほら、あっちに美味しそうな団子屋がありますよ!」

 

ナギサさんが首を傾げてきて、咄嗟に動揺を隠すために指差したのは、店先に大きな赤い傘を広げた茶屋だった。

 

「あ!良いね、道中まででお腹空いちゃったし……カナタ、今回は奢りね⭐︎」

 

「なんでだよ、弟の財布をアテにするなよ、一応ティーパーティの権力者だろ」

 

「ふふ、今日は役職を忘れて楽しむ約束ですから。カナタさん、私の分も……そうですね、貴方の『お薦め』を頂けますか?」

 

「もちろんです、ナギサさん」

 

「ねぇ?カナタ?私は?お姉ちゃんは?」

 

ナギサさんにそんな風に上目遣いで微笑まれれば、断れるはずがない。ミカ姉ちゃんはぶっちゃけどうでも良いからスルーする事にした。

 

俺たちは茶屋の椅子に腰を下ろした。運ばれてきた団子を頬張るミカ姉ちゃんは、口の端に餡子をつけていた。実の姉ながら少し可愛いと思ってしまった。

 

だけどここで問題が発生した、途端にミカ姉ちゃんが食べかけの三色団子を俺の口元に突きつけてくる、一体何かと思えばミカ姉ちゃんは満面の笑みで言った。

 

「はい、カナタ! あーんして!」

 

「……ふぁ?」

 

 

「いいから!弟に食べさせてあげるのがお姉ちゃんの特権なんだから、ほら?あーん!」

 

「ちょっミカ姉ちゃん、ここ外だぞ!人が見てるって!」

 

 

「誰も見てないよ!見てたとしても、『仲良し姉弟で羨ましいな〜〜』って思われるだけだし!」

 

 

すると、隣で静かに茶を啜っていたナギサさんが、スッと音さえ立てずに立ち上がった。一瞬だけ何事かと思った。

 

「ミカさん。そんな乱暴な食べさせ方は感心しませんね……カナタさんが喉を詰まらせたらどうするのですか?」

 

「えー、ナギちゃん。そんなに怒らなくても……」

 

 

「……ナギサさん…」

 

「代わりと言っては何ですが、カナタさん。こちらの水羊羹、とても冷えていて美味しいですよ?私が食べやすく……『あーん』して差し上げます。」

 

「ナギサさんまで!?」

 

ナギサさんはミカ姉ちゃんよりも遥かに優雅な、だけど絶対に拒絶を許さないと言った圧力を伴った動作で、銀のスプーンを俺の唇に寄せた。

 

 

「ご遠慮なさらず。貴方は昔から、私が食べさせてあげると大人しくしていましたよね?」

 

 

「それ、俺が何も知らなかった昔の話でしょ……!」

 

「ふふ、私にとって貴方は、いつまでも守ってあげたい『可愛い弟』なのですよ」

 

 

トリニティの一般生徒が見れば失神するような贅沢な光景だが、当事者の俺からすれば、これほど心臓に悪い拷問はない……頼むから誰か助けてくれ。

 

 

「ちょっとナギちゃん、抜け駆けはダメ!カナタ、こっちの団子の方が絶対美味しいから!」

 

 

「いいえ、今は冷たいものの方が喉に通りやすいはずです。さあ、カナタさん?」

 

 

「……どっちも食べるから! 自分で食べるから!!」

 

僕がひったくるように皿を受け取ると、二人は「ちぇー」とか「残念です」とか言いながら不満げに顔を見合わせた。この二人絶対俺の事を『おもちゃ』か『癒やし』か何かだと思ってるだろ。

 

 

日が少しずつ沈み始めた頃に街並みに灯籠の火が灯り始めた。そう言えば店員の話を思い出せば今日はお祭りがあるやら何やら。

 

「見て見て、カナタ! 温泉だって!混浴かな!?」

 

「んなわけないだろ!混浴とか俺が社会的に◯される!」

 

ミカ姉ちゃんの冗談をスルーしつつ、淡々とチェックインを済ませた。今日だけは2人の手を煩わせるわけにはいかないのだ。

 

その後は温泉と食事を済ませ、部屋に戻ると3人でテレビを見た。百鬼夜行はトリニティとはまた違う文化で溢れ出ているから、どれも見ていて面白かった。

 

だけど、俺は何かと嫌な予感がしてたまらなかった。その嫌な予感とは『寝床』だ。あわよくばミカ姉ちゃんとナギサさんから離れて寝たい。

 

「それじゃあカナタ。お姉ちゃんと一緒に寝る準備はできた?」

 

ミカ姉ちゃんが当然のような顔をして、敷かれた三つの布団の内真ん中のスペースをポンポンと叩いた。もちろん俺は否定した。

 

「何言ってんだよミカ姉ちゃん。部屋は一緒だけど、布団は別々だろ。」

 

「えー、何言ってるの?昔はいつも一緒に寝てたじゃん!」

 

「それは10年前の話だ!今は身長も追い越してるし、ミカ姉ちゃんと違って男なんだから無理だって!」

 

必死に抗弁する僕の横で、ナギサさんが静かに、しかし冷徹な手つきで自分の布団を僕の布団に密着させた。

 

「ミカさん。貴女の強引な誘いはカナタさんを困惑させるだけです。」

 

「……!…ナギサさん!」

 

「ここは、より落ち着きのある私と……そうですね、添い寝という形で睡眠を取ってはどうでしょうか?」

 

 

───えナギサさん!?

 

 

「えっ、ナギちゃん!?1人だけちゃっかりカナタの隣をキープしようとしてない!?」

 

「当然の振る舞いでしょう?……カナタさんは学業で疲れが溜まっているとお聞きしました。私の膝枕で耳掃除でもして差し上げれば、きっと深い眠りにつけるはず……」

 

満面の笑みでそう口にしたナギサさん、トリニティ総合学園での『ティーパーティのホスト』としての冷静さはどこに行ったのだろうか?

 

と言うかこれ、完全に『弟を可愛がりたい欲』が暴走してる時の顔だ。昔から見てきた俺にはわかる。

 

「膝枕とか耳掃除って……そんなの滅相もないです! 僕は端っこの布団で丸まって寝ますから!」

 

「ダメだよカナタ!真ん中は頑張ってくれたカナタの特等席なんだから!」

 

「いいえ、カナタさんの安眠を守るのは、よりカナタさんを知っている私が……!」

 

 

「わー!!わーー!!ダメだよナギちゃんっ!!1人だけ抜け駆けは!」

 

 

ミカ姉ちゃんとナギサさんに左右から腕を掴まれ、俺は力ずくで真ん中の布団へと引きずり込まれた。ちなみに発言権は無かった。

 

ミカ姉ちゃんの力は言わずもがなゴリラだが、ナギサさんも『絶対に離さない』という執念で火事場の馬鹿力を発揮している。普通に痛い。

 

「ちょっと二人とも! 痛い、腕抜ける!!!」

 

「……ミカさん、右腕を離してください。カナタさんの左腕は私が確保しました」

 

「ナギちゃんの方こそ離してくれないかな?……カナタは私の弟だよ?なんでお姉ちゃんが一緒に寝ちゃダメなのさ。」

 

「血縁など、この瞬間の愛の前では無力です……!」

 

 

 

一触即発。

 

トリニティの最高権力者二人が、一人の男子生徒を巡って、布団の上で取っ組み合い寸前の睨み合いを繰り広げている。

 

もしこれが外部に漏れたら、トリニティの権威は失望し、俺は過激なファンに暗殺されるだろう。何があって体を癒すための旅行で命を狙われなければいけぬのだ!

 

 

「……分かった。分かったから! 落ち着いて二人とも!」

 

流石にこれ以上はまずいと思って俺は叫んだ。心臓の鼓動が限界突破して、もう2人の顔をきちんと見ることさえできなかった。

 

「もう、こうなったら……真ん中で寝るよ!その代わり、二人とも絶対に静かに寝ること!変なことしないこと!いいね!?」

 

「やったぁ!さすがカナタ、私の弟なだけあって話がわかるね⭐︎」

 

「……賢明な判断ですね、カナタさん」

 

「…………」

 

ナギサさんとミカ姉ちゃんの悪いところは、何故か俺が絡むと暴走して手がつけられなくなる事だ。いつもは落ち着いて対応するナギサさんも、ここでは暴走してしまう。

 

 

結局のところ、俺は布団の中で唯一逃げ場のない『ド真ん中』に収まることになった。

 

右側からはミカ姉ちゃんの温かい体温と、甘いお菓子のようなくすぐったい香りがする。ちょくちょくちょっかいをかけてく?。

 

左側からはナギサさんのしっとりとした肌の感触と、上品な紅茶のような香りが。二人の『姉』に挟まれて文字通り身動き一つ取れない状態だ。

 

 

 

「ねぇ、カナタ……起きてる?」

 

 

耳元で囁くようなミカ姉ちゃんの声。返事をする間もなく、右腕に柔らかく、それでいて逃げられないほど力強い感触が走った。

 

 

すぐさま俺はミカ姉ちゃんの意図に気づいた、ミカ姉ちゃんは自分の布団に俺を引き摺り込もうとしているのだ。咄嗟にミカ姉ちゃんの眼を見た。

 

「み、ミカ姉ちゃん……!?…約束が違う……!」

 

「だって、夜の百鬼夜行は冷えるんだもん……ほら、お姉ちゃんの布団、すっごく温かいよ?こっちおいで?」

 

「ちょ、ちょっと……!」

 

ミカ姉ちゃんは俺の腕を引き寄せ、あろうことか自分の布団の中へと強引に誘い込もうとする。ゴリラ並みの力を持つのに抗えるはずも無く、俺の体はズルズルと右側へ傾いていった。

 

いやそもそもどうして高校生になったのにここまで子供扱いされなきゃいけんのだ、ミカ姉ちゃんだってもうブラコンじゃいられない歳──いたたた!!

 

 

「なんか今失礼なこと考えなかった?」

 

「なんも考えてない、何も考えてないから……。」

 

なんで俺の心の声が伝わっているんだろうか、普通に怖いんだけど……。

 

ほとんどミカ姉ちゃんの敷地にまで入ってきていた時、反対側からガサゴソと音が聞こえてくると。ナギサさんが眠たそうにこちらを見ていた。

 

 

「んっ……ミカさん、カナタさん……何を…?」

 

 

「あ、ナギちゃん……ごめんね、起こしちゃったかな?」

 

「いえ……私は大丈夫ですが………カナタさんが…」

 

「あぁ、全然大丈夫だから、気にしないで?カナタが怖いから私と寝たいって言ってきただけだから。」

 

「言ってねえよ。」

 

流れる様に存在しない記憶を生み出すミカ姉ちゃんが何だか怖くてたまらなくなった……ここまで来てしまったならば諦めよう、もうミカ姉ちゃんと2人で寝るしかない。

 

俺がミカ姉ちゃんの方を向けば、ミカ姉ちゃんは照れた様に顔を赤らめて来た。あっちから誘って来たと言うのに何故恥ずかしがる必要があるんだろうか。

 

 

「……カナタ…さん……んん」

 

 

「ぽ?」

 

 

「え……な、ナギちゃん?」

 

背中が小さな手つきで掴まれて、ナギサさんが「んん……」と声を出しながら、俺の事をゆっくりと引っ張っていた。もしかしてナギサさん寝惚けているのでは?

 

というか待ってくれ、ナギサさん手細いのに普通に俺の事を引っ張れるくらいには力強いんだけど。あぁヤバい引っ張られる……。

 

 

 

「……あーもう、なんでこんな事になったんだ……」

 

右からはミカ姉ちゃんの甘い匂いと、左からはナギサさんの清潔感のある石鹸と紅茶が混ざったような香りと、しっとりした肌の熱が感じられた。

 

正直に言ってしまおう。

さっきまで『ゴリラ』だの言っていたのは、そうでも思わないと俺の理性が『弟』という一線を越えて爆発しそうだったからだ。

 

だけど、様子が違うのは俺だけじゃ無かった

 

 

「カナタ?黙り込んじゃって……どうしたの?」

 

「……なんでもないよ。」

 

 

「本当に〜〜?……もしかしてカナタ、恥ずかしがってるのかな?」

 

「………」

 

普段の破天荒なミカ姉ちゃんじゃない。少しだけ声に『甘え』が混ざっている……学園であれだけの重荷を背負っているミカ姉ちゃんが、今だけはただの『女の子』として俺に体重を預けているんだ。

 

「……別に。ただ、二人とも近すぎるだろって言いたいだけ」

 

「ふふっ、カナタさんは嫌なのですか?昔はこうして、私やミカさんの間に割り込んで、自分から手を繋いできたというのに。」

 

そう呟いたらナギサさんが、俺の左手をそっと自分の両手で包み込んだ……ナギサさんの手は驚くほど柔らかくて、だけど少しだけ震えているようにも見えた。

 

きっとナギサさんは無理をしているんだ、トリニティのホストとして常に『完璧』を求められる毎日。俺の前でだけ見せるこの『独占欲』は心のSOSなのかもしれない。

 

そうやって2人に思うところがあるからこそ、離そうと思っても俺は離せやがった。

 

「それは……子供の頃の話だろ。今はもう俺だって……」

 

「男の子、だもんね?」

 

分かっているかの如く、ミカ姉ちゃんが耳元で囁いて来た。思わず体がビクッと反応してしまったが、どうにかバレない様に隠した。

 

「……わかってるよ、カナタがどんどん大きくなって、声も低くなって、もう私たちが守らなきゃいけない『聖園カナタ』じゃないことくらい。」

 

「でもさ、今夜くらいはいいでしょ……?だってこの旅行は『私達を癒す為』の旅行だって言ってたから、カナタの体で癒してほしいな。」

 

「…………。」

 

「……ミカさんの言う通りです。今夜の私たちは、政治家でもティーパーティのホストでもありません、ただ『弟』との時間を楽しみたい『姉』なのですから。」

 

確かにこの旅行は、ミカ姉ちゃんとナギサさんを癒す為に計画した旅行だ……事前に良い場所やらみんなで楽しめそうな場所を探してここに行き着いたんだ。

 

そう思えば、この2人とも過ごせる時間は少なくなっているし……今ぐらいは、良いのかも知れない。

 

「……勝手にしなよ。しかし寝相で俺を潰さないこと……」

 

2人を引き離すのを諦めてゆっくりと眼を閉じた、平然を装っているけど。成長した2人の姉からここまで密着して寝ると言う事は初めてだったので、心臓がバックバクと鳴っている。

 

右腕にミカ姉ちゃんの柔らかい感触。左手にナギサさんの指の温もり。

 

 

「おやすみカナタ、ずーっと大好きだよ……」

 

「おやすみなさい、カナタさん……良い夢を。」

 

俺は二人の『姉』に挟まれ、どこに逃げ場のない幸福感と、それ以上の気恥ずかしさに心を震わせて、ゆっくりと意識を手放していった。

 

 

 

翌朝、窓越しに差し込む太陽の光で目が覚めた。すぐさま俺の両腕を独占している2人を起こして、俺達は荷物を持ち宿を出た。

 

「お茶、ですか。ふふ、ティーパーティとしてこれほど相応しいものはありませんね」

 

ナギサさんは既にいつもの表情に戻っていた。一方のミカ姉ちゃんは「抹茶ってお菓子多めに貰える?」と相変わらずな様子だ。

 

茶道の先生に教わりながら、まずはナギサさんが手本を見せる。無駄のない所作、見事な泡立ち。次にミカ姉ちゃん。「えいっ、えいっ!」と力任せだが、それなりに形になった。

 

流石はティーパーティを名乗っているだけある、だけど俺も茶の入れ方ならば負けてなどいない。事前に何十回も練習してきたんだ、特訓の成果を見せてしんぜよう。

 

 

「……カナタ?そ、その音、茶を点てる音じゃなくて……ほら、最近トリニティの近くであった『工事現場』の音がするんだけど……」

 

数分後、ミカ姉ちゃんやナギサさんが鮮やか緑色なのに対し。俺の茶碗の中に完成したのは、ドス黒い『深緑』の泥のような物体だった。

 

「う、うるさい……俺だって一生懸命頑張ったんだから!」

 

 

 

 

 

「「…………」」

 

その後に、2人が俺の茶を飲んでくれる事となった。もし俺がミカ姉ちゃんとナギサさんの立場ならば、あんなお茶は2度と見たくも無かった。

 

そして覚悟を決めた様な表情を見せる2人が、ゆっくりと丁寧な仕草でお茶碗を手に取り。口に運んだ。

 

一口飲んだ瞬間、ナギサさんの扇子がバサリと床に落ち、ミカ姉ちゃんは「ぐふっ」と硬直した……あ、これやばいやつだ。

 

 

「……カ、カナタさん……ご、ご馳走様……で…す…」

 

「……あはは……カナタぁ……お姉ちゃん、嬉しすぎて川が見えてきちゃったなぁ……」

 

 

 

 

「えちょっ……ふ、2人ともぉぉ!!

 

 

そう言い終わった時にミカ姉ちゃんとナギサさんは力尽きて床にぐったりとした。そんなに俺の茶が不味かったのかと、少しだけショックを受けた。

 

2人が目覚めるまで見守り。次のプランとなるなんかレビューに美味いってあったパフェ巡りへせっせと向かう道中、二人のブラコンぶりはさらに加速した。

 

「抹茶を点ててる時のカナタの横顔、カッコよかったよ!思わず写真撮っちゃった☆」

 

「……記録は質にこだわるべきです、私はカナタさんの『成長』をデータ化し、専用サーバーで管理していますから。」

 

そう言って見せて来たミカ姉ちゃんの端末には、俺の必死な顔が50枚以上連写されていた……ナギサさん、ちょっとそれ怖いからやめよう?」

 

その後も話を弾ませながら、少しだけ時間をもらいお土産屋で狐面を眺めていた俺にミカ姉ちゃんのメロメロボイスが耳元で囁いてきた。

 

「……さっきの抹茶、お世辞にも美味しいとは言えなかったけど……一生懸命淹れてくれたから、私は世界で一番美味しいと思ってるよ。」

 

「だから今度、私の部屋で二人きりで点ててくれる?ちゃんとお茶とかは用意するからさ。」

 

「……ふっ…まぁ、考えとくよ。」

 

そう言って可愛らしく肩を合わせた、側から見ればこの光景は『仲の良い姉弟』に見えるのか。それとも『ラブラブな恋人』の様に見えるのか、少しだけ確かめたくなった。

 

 

 

 

楽しい時間はあっという間に過ぎてしまい、俺たちはトリニティへと向かう帰路に着く。特急列車の車内はガタンゴトンと音を鳴らす以外は至って静かだった。

 

窓の外を流れる夕焼け空を眺めていた俺だったが、二日間の『姉』たちの猛攻、そして慣れない抹茶点てによる疲労が重なり、ついに抗えない睡魔に襲われていた。

 

「……ふわぁ……」

 

次第に体から力が抜けて瞼が重くなって来た、隣で喋っているミカ姉ちゃんとナギサさんに迷惑が掛からない様に、そっと眼を閉じた。

 

 

 

 

「ねぇねぇカナタ、カナタもそう思うよね……ってあれ、カナタ?」

 

「……眠っていますね。」

 

2人が楽しげに話を展開していた時、カナタがすぅすぅと寝息を立てている事に気づいた。いつの間に寝ていたのかと驚いたが、姉2人はすぐさま笑みを浮かべた。

 

「本当だ、可愛い……。頑張ってプラン立ててくれたもんね。お疲れ様、カナタ」

 

ミカが声を潜めながら、カナタの頭をそっと自分の肩へと誘導した。すとん、と心地よい重みがミカの右肩にかかる。

 

「ミカさん。抜け駆けはいけませんよ?……カナタさんの首が痛くなってしまいます。私の膝の方が安定しますよ」

 

「いいのいいの。こうして肩を貸してる方が、寝顔が近くで見られるんだから。」

 

「……それに、見てよナギちゃん、この前髪だって、昔よりずっと長くなって……あー、もう、今すぐにでも食べちゃいたい」

 

 

「……発言が不穏ですよ、ミカさん。ですが確かに……」

 

 

ナギサはそっと手を伸ばし、カナタの額にかかった前髪を優しく払った。無防備にさらされた弟の寝顔。普段は生意気な口を利くことも少々あるが、こうして眠っている姿はあの頃の『可愛い弟』のままだ。

 

「ふふ、カナタさんは気づいていないのでしょうね。貴方が成長して、男の子らしくなればなるほど……私たちがどれほど貴方を手放したくなくなるか。」

 

ナギサのおぼつかない指先が、カナタの頬をなぞる。しっとりとした、しかし確かな体温を感じさせる。

 

「あー! ナギちゃん、どさくさに紛れて触りすぎ! 私だってまだ我慢してるのに!」

 

「静かにしてください。カナタさんが起きてしまいます……あぁ、でも、本当に、このまま時間が止まってしまえばいいのにと思ってしまいますね…。」

 

「…えへへ。」

 

ミカはカナタの腕に自分の腕を絡め、幸せそうに頬ずりをした……弟の意識がある時はこんなことできないので、今だけの特権だ。

 

「ねぇナギちゃん。トリニティに戻ったら、また『ティーパーティのホスト』と『その弟』に戻っちゃうけど……。」

 

「今だけは、ただの『カナタが大好きなミカお姉ちゃん』でいてもいいよね?」

 

「ええ、今回ばかりは同意します……それよりも、ミカさん。カナタさんの寝顔を写真に収めましたか?」

 

「もちろん。もう200枚は超えたかな☆」

 

「……後で共有フォルダーにアップロードしておいてください。厳選して、私の個人アーカイブに永久保存しますから」

 

二人の『姉』は、スヤスヤと眠るカナタを挟んで、恐ろしいほどの独占欲と愛が入り混じった微笑みを交わした。

 

揺れる車内で夕陽に照らされたカナタの優しい寝顔を巡って、姉たちの静かな、しかし熱すぎる『可愛がり』は、トリニティに到着するまで止まることはなかった。

 

 

 

 

 

 

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