盲目少女が縄文から呪術の開祖になる話   作:ぷに凝

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魔物を瞬殺して戻った私に、骨美さんは笑顔で「ありがとうございます」とぺこりと頭を下げた。

私は軽く頷いて、骨美さんの足元に置いていた荷物を再度背負って歩き出した。

 

道なんて整備されていないこの時代では、「少しの遠出」のつもりでも命懸けだ。自然は険しく、地面は思っていたよりぬかるんでいて足を取られる。

 

私にとってはそれは大した障害ではないかもしれないけど、骨美さんみたいな普通の人間にとっては大変なことだ。だけど彼女も慣れているのか、道中頻繁に足を止めるようなことはなかった。

 

あるいは私が進みやすい道を行けるように、常に周囲の魔力を探知していたのも理由の一つとしてあるかもしれない。そのおかげで獣や魔物の類は避けて通れた。

 

そんなこんなで、道中川を見つけて水袋に給水したり、小休憩を挟みながら干し肉やクルミを齧ったり。

 

丸一日くらいは歩いたあとに、“それ”が見えた。

 

切り開かれた森の一角。すぐ近くには川が流れ、地形はなだらか。地盤は渇いていて、少し歩けば山もあるから食料にも水にも困らない。

 

そんな好立地に、小さな村があった。

 

「──」

 

骨美さんが振り向き、その村を一望できる小高い丘の上から私は数軒の家が並ぶ光景を覗き見た。

 

どうやらここが、彼女の住んでいる村らしい。

 

 

村には十軒前後の背の低い山小屋のような建物があり、恐らくそこが竪穴住居だ。村人はみんな家の中にいて動いていない。

 

村の端には、高床式の倉が一つだけ立っていた。床下には干し肉か何かが吊るされているらしく、乾いた獣臭が風に混じって漂ってくる。

 

そして村に近づけば近づくほど煙の強い匂いが立ち上ってきて、今度は煤臭さが鼻につく。竪穴住居の屋根の隙間から、燻されたような白煙が絶え間なく漏れ出している。どうやら家の中の炉が焚かれたままらしい。

 

村の外縁にはさらに強い臭い……悪臭と言ってもいいほどのものを放つ箇所があり、多分そこが“貝塚”と呼ばれる石器時代のゴミ捨て場。

 

ごめんなさい、言っていいですか?

 

鼻ひん曲がりそうなくらい臭いです。

 

いやー、キツイ。ここまで案内してくれた骨美さんには悪いんだけどさ、村に近づけば近づくほど臭いがキツくなってきてどんどん足が重くなるのなんとかしてくれませんかね。

 

獣臭、煙臭、腐敗臭、その他さまざまな人間が生活をする上で放つ悪臭がなんの処置もされずそのまんまだもん。くっせぇんだ、これが。

 

時代ゆえ致し方なしと言われても、臭いもんは臭い。

 

だけどぶっちゃけ、それ自体は大した問題じゃないんだろう。そんなもんはそのうち慣れてきて気にならなくなるもんだろうから。

 

もっと深刻なのは、この村の様子だ。

 

誰一人外に出ておらず、家の中でじっとしている。

 

私はそんなに詳しくないけど、石器時代ってもっと子供が外に出て遊んだり、大人たちは狩猟に行ったりって感じで活発に外に出てるイメージがある。なのにそれが全くない。

 

そして、その原因も明らかだ。

 

村中を取り巻く強い魔力……村そのものを蝕むように蔓延してる、この嫌な瘴気。

 

きっとこの村は今、悪性の魔力に侵されているんだ。わかりやすく言えば“呪われている”。

 

……なるほどね。骨美さんがなんでこの人骨を持ち出そうとしたのかわかったよ。

 

村を取り巻く魔力は私が胸に抱いてる人骨から発せられている魔力と同質のものだ。

 

つまり、こいつが全ての原因。

 

この人骨は……謂わば“呪物”だ。

 

私は骨美さんに案内されて、村の中でも一番大きな家の中に入った。

 

「──」

「──っ!? ──!」

 

骨美さんが家の中に入って何かを言うと、奥から腰を曲げた姿の老人がのろのろと姿を現した。かなり弱っており、その様子は出会った頃の骨美さんを彷彿とさせた。

 

老人は最初、骨美さんを見て息を呑んだあと、何事かを言おうと詰め寄ろうとして、そのすぐ横に立っていた私の方を見て再び言葉に詰まった。

 

「──?」

「──。──」

「──? ──」

 

老人は私を見ながら長い顎髭を触り、しげしげと頭の先から足の先までを見回した。

 

多分、このおじいちゃんがこの村の村長に近い取りまとめ役なんだろうな。今でこそ弱っているけど、それでも普通の人と比べて体内魔力が整然と流れている。私と同じように魔力が見える人なのかも。

 

そして、その体を蝕むように体にまとわりつく黒い魔力……うん、やっぱりこれはあの人骨が発していた魔力だ。

 

私はおじいちゃんに近づくと、彼の体に触れた。

 

「?」

 

おじいちゃんも骨美さんもびっくりしたようだったけど、私はそれらの反応を無視しておじいちゃんの体内魔力に意識を集中する。

 

このまとわりつくような魔力は、私の体にもあるものだ。

 

だけど、私のそれはまとわりつくを超えて“縛る魔力”と言っていいほどの魔力的強度を持っている。それこそ私が簡単には解けないくらい、鉄の鎖のように強い力だ。

 

それに比べてこの魔力は糸が絡み付いているようなもので、私でも解こうと思えば簡単に解ける。

 

「!?」

 

私がおじいちゃんにまとわりついていた魔力を解くと、おじいちゃんは驚いたような声をあげた。

 

おじいちゃんの体からは、すっかり縛り付ける魔力は消え失せていた。

 

「──?」

 

「あなたがやったんですか?」という視線を投げかけてくる骨美さんにこくりと頷くと、彼女は目を見開いて驚いた後、村長さんに食ってかかった。

 

「──!」

 

私には言葉はわからないけど、その時だけは彼女が何を言ったのか、なんとなくわかった気がした。

 

「みんなを集めてください」と。

 

 

骨美さんと村長さん(仮)が慌ただしく動き、村長さんの家に多くの村人達が集められた。

 

主に集まったのは若い男たちだが、これで村の全員というわけではないようだ。特に弱っている女子供や老人は家で休まされている。

 

魔力に侵されている中でも動ける者たちだけが集められているようだ。

 

「──」

「──!」

「──」

 

ざわざわとざわめきながら村人達が入ってきて、家の中心で骨の装飾やら宝石やらで着飾られた私を見て静かになる。

 

うん、まぁ正直この格好に意味はあんまりないんだけどね、魔力も微弱程度にしか感じないし。なんならあの骸骨持ってきたほうがよっぽど役には立ちそうだけど、多分元凶だからなぁアレ。

 

……ところで村人達が私を見る視線の中に困惑とか警戒があるのはわかるけど、まだ何もしてないのにやたら好感の強い視線が多いのはなんでだ? 中には私の顔をじっと見て惚けているような男もいる。何? なんかついてる?

 

まぁいいや。事態は切迫してるみたいだし、さっさとやることやっちゃおう。

 

私は列を為して順番に私の前に来る村人達の手を握っては、まとわりつく魔力……“呪い”と呼ぶが、その呪いを順に解いていった。

 

私にとっては何も難しくない作業で、それこそ絡まった糸を解すのと変わらない。

 

「──!!」

 

だけど私が呪いを解く姿を見せるごとに、どんどん村人たちが興奮していってるのが伝わってきた。中には私が触れる前に天に祈り出す奴まで出てきた。そしてそれを後続も真似し始める。

 

やめさせるのも面倒なので放っておいたら、今度は私の手を握ったまま離さず、ずっと祈り続けるような人も。

 

骨美さんがぎろりと睨んで退散させた。つ、つえぇ。

 

そして全員の呪いを解き終える頃には、周囲の村人達がわっと歓声を挙げて跳んだり跳ねたりの大騒ぎとなった。そして、その熱気に負けないぐらいの、宗教じみた熱視線が私に向けられていた。

 

普通に怖いのでやめてください。

 

かと思えば私に拝んだり、もう悪いところはないのに手を握ろうとしてきたり、それをしようとしたら男が周りの男にボコボコにされたりで凄まじいことになった。

 

「──」

 

私とはそんな村人を置いて、ため息をつく骨美さんと共にまだ呪いを解いてない村人達の元へと向かったのだった。

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