盲目少女が縄文から呪術の開祖になる話   作:ぷに凝

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「月巫女様、おはようございます」

 

おー、おはよー。玉美(たまみ)さん。

 

……その“月巫女様”っていうのやめて!?

 

「もう……いい加減慣れていただかないと困りますよ?」

 

恥ずいんだって普通に!

 

せめて「様」を外して欲しいんだわ!!

 

「まぁ。そんなことをしたら私が皆に恨まれてしまいますわ。いつの間に月巫女様を呼び捨てにできる関係になったのか……と」

 

玉美さんとは最初からそうだったと思うんだけど……。

 

親しかった人が急に距離を取るようになっちゃって、あたしゃ悲しいよ。

 

するすると目隠し布を頭に巻きながら、私はよよよと泣き真似をした。

 

「……やはり今日も、“それ”は付けるんですか?」

 

まぁね。かっこいいでしょ?

 

「私は月巫女様の目が好きなので、少し残念です」

 

マジか。自分で見れないからな。どんな目してんだろ。

 

「とても優しい目をしていらっしゃいますよ、月巫女様は」

 

ふふん、そう? それほどでもないけどね。

 

「いつも前を向いていて、何が起きても目線を逸らさない。そんな強い意志を持った目でもあります」

 

うーん、それは……。

 

見えてないだけかなぁ……。

 

「あらあら」

 

あらあらじゃねぇんだわ。

 

頼むよ玉美さん。私は目が見えないだけじゃなく、世間知らずもいいとこなんだから。

 

「はい、私にお任せください。月巫女様」

 

──餓骸の呪い騒動が起きてから、およそ1ヶ月が過ぎた。

 

私は月読村の呪術師、もとい「月巫女」としてこの村に身を寄せていた。

 

本当ならこの村の呪術師になるはずだったのは前任者の妹である玉美さんなんだけど、その玉美さんが私こそ月読村の呪術師に相応しいと強く主張して、村人の多くがそれに賛同する形で私は今の立場に収まった。

 

正直、新参者もいいとこの自分がそんな重要そうな役職で良いのだろうかとも思うけど、実際、呪術師がどんなことを行うのかを聞くと私自身も自分が1番の適任だと認めざるを得ない。

 

中でも物怪……もとい“呪い”の退治なんかは、もはや私の専門分野と言っていい。殴る蹴るの暴行はまかせろ。

 

逆に言えば、それしかできないんだけどね。

 

祈祷とか霊媒とか、正直玉美さんの言うとおりにやっただけだから。お粗末もいい所だ。

私にはなまじ魔力が視えてしまうからこそ、自分がやってる儀式や祈願にほとんど魔力的な力も乗っていないことがわかってしまって、騙してる気分になるんだよね。

 

魔力の世界はイメージの世界だ。

 

念じればそうなるというほど単純なものではないけど、より具体的なイメージや根拠に基づいた魔力操作は、曖昧なイメージで行う呪力操作と比べて精度も効果も段違いになる。

きっと私が祈祷や霊媒が苦手なのは、これをして本当に運気が高まったり死者との交信ができるという確信的イメージを持つことができないからだ。21世紀の科学知識に毒されているとも言う。

 

一方、私の祈祷を受けた相手の方は、何故か私の祝福を受けて自分で勝手に魔力を高めて健康になったりしてて、何の意味もない儀式を本当に意味のある儀式に変えてしまうようなケースが散見されたので、私はビビった。

 

なんなん? じゃあ私もういらないやん。とも思うが玉美さん曰く「私(=月巫女)に祝福を受けた」という事実が彼らにとっては大事なんだそうだ。

 

村人たちの間での「月巫女」の評判というのはすこぶる良くて、理想的な呪術師としての姿なのだと言う。そんな私に祈祷を受けたという実感こそが、強い効果を産むのだと。

 

「あと、単純に若くて美人な女の子から祈祷を受けられれば男は喜びますから」と玉美さんは死んだ目で付け加えた。どうした?

 

前任者の呪術師も実力はあったが少々素行に問題アリという認識だった。その評判が少なからず彼の呪術の効力を弱めていたのだと言う。

 

……まぁ、確かに話を聞いた限りではかなり俗っぽい所もあったみたいだし。そんな人に神性を感じられないというのはわからんでもないな。でも、それって私も同じだと思うんだけど。

と、そんなことを言ったら玉美さんに「こいつは何を言ってるんだ」的な本気の胡乱な視線を向けられて私は困惑した。

 

だって、私は呪術師として振る舞うのが嫌すぎて隙あらば山に出かけて山菜やら木の実やらの採集して帰ってくるし、みんなと混じって掃除や料理もするし、素手で獣や呪いをボコったりもしてる。

 

別に私は、自分の神聖に思われてるっぽいイメージを守ろうとしたことはない。むしろ鬱陶しいから早くそんなイメージがなくなるように自然体で過ごしてる。

だけど村人たちの私への偏見は何故かどんどん強まって、相乗効果で祈祷の実効性もどんどん高まるもんだから手に負えない。

 

私にはそんなつもりが全くないのに、何故か呪術師しぐさが板についてしまっている現状だ。

 

「だからだと思いますよ」と玉美さんは言う。どういう意味だ、それは。

 

……まぁ、多分その要因の一部は私の見た目にも関係あるんだろうなってのはわかるけどね。

 

私の姿は村の皆いわく「精霊と見紛うほど」のものらしく、かなり現実離れした美しさなのだとか。

自分で見れないから確認しようもないが、玉美さんも言っていたことだ。「最初に会った時は天からの遣いかと思いました」と。

 

最初やけに私のこと拝んだりしてたのはそういうことかよ。

 

てっきり、私の姿は洞窟を出ていきなり村人に武器を向けられるくらいだからかなりおどろおどろしいというか、不気味な姿をしているもんなんだと思っていたけど、むしろ逆だったらしい。

 

曰く美しすぎるもの、人外めいた容姿は「凶兆」として畏怖されることがあるのだと言う。私が当初幽閉されていたのは、そういう理由があったのだろう。

 

そんな感じですれ違うだけで村人に拝まれたり、頭を下げられたり、見惚れられたりで会話が成立しない場合が多かったので私は“目隠し”の布を巻いて自分の顔を隠すことにした。

 

残念がる声も聞かれたけど、私生活に支障が出るので仕方ない。あと、単純に餓骸との戦いのあと、私の視界に映る魔力の情報量が向上しすぎたという理由もある。

 

きっかけは多分、餓骸に対して放ったとどめの一撃。黒い閃光が迸るという謎現象が起きると共に、私の魔力が爆発的に増大して視界が一変した。

 

今までも魔力を鮮明に視ることは出来ていたけど、あの日から魔力の流れがあまりにも鮮明に映りすぎて、普通にしているだけなのに脳が疲れるようになってしまった。

 

どうしたもんかと対策を考えて、実行したのがこの目隠しということになる。

私の目は元々見えていないけど、“目隠しをしている”というイメージが実際に魔力を視認する力をいい感じに弱めてくれている。その分、目隠しを外した時かなりの情報量に圧倒されることになるので反動もあるけど。

 

黒い閃光の一撃を放った瞬間から、私の体を流れる魔力の速さや精度も別格に上がった。そのせいで私にしては珍しいことに魔力の暴走を起こして1週間寝込んでしまったほどだ。

 

そして多分寝ている間も私の体を流れる魔力は増幅と加速を続けて、私の体を強くなりすぎた魔力に適応させるために変化させてしまった。

 

その結果、私の体は寝ていた1週間で18歳くらいの肉体に成長した。意味がわからん。

 

まぁ、相変わらず細い体だけど、それは病的な細さではなく健康的な均整の取れた体だ、と自分で評価できる程度の仕上がりにはなっている。

 

そして起きると何故か私は「月巫女」なんて恥ずかしい名前で呼ばれてるわ、村の名前もそれに影響されてるわで大変だった。

でも、一月でこの村での習慣や私に求められてる役目もそこそこ理解できるようになったし、何より魔力の感度が上がったからなのか以前より格段にコミュニケーションが取りやすくなった。

 

言葉を発さずに会話する私に最初は村人たちも驚いたが、今じゃすっかり慣れて普通に挨拶してくれるし。

 

慌ただしいが、この時代に来た当初私は暗い洞窟の中で一人だったことを思えば……その頃とは比べられないくらい充実した日々だと言えるだろう。

 

それでもやっぱり「様」はやめてください。

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