盲目少女が縄文から呪術の開祖になる話   作:ぷに凝

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盲目呪術師の朝は早い。

 

まだ日も登らない夜中の内から私は家を出て、月読村の近くを流れる川へと向かい、服を脱いで裸の状態で体を水で流す。

お風呂ではない。いやまぁ、私にとっては風呂みたいなもんだけど、こうして身を清めることで神や霊との対話をするための準備をするのだそうだ。ソースは玉美さん。

 

私としても、毎日体の汚れを落とせるのは嬉しいのでこれは毎朝欠かさない。

 

……少し離れた林の向こうに数人の男の魔力が見えるのが気になるけど。エロガキどもめ。

 

あっ、と思ったら村の方から新しい魔力の反応……これ玉美さんだな。玉美さんが男たちに近づいて……? あっ、引きずって連れて行く……。

 

お勤めご苦労様です。

 

そのまましばらく川に入ったまま、日の出を待った。

 

太陽が見えてきたのでその方角に向けて簡単な祈りの儀礼を済ませた。これで朝、村の呪術師としてやるべきことは終わりだ。

川から上がって、細い麻布を下着代わりに巻いて目隠しもする。そして私は全身に魔力を流して座禅を組み、瞑想を始めた。

 

瞑想は、体内魔力の操作精度を上げるために毎朝やっている基礎練だ。体外に漏出することも、無駄な流れを作ることもなく整然と流れる魔力は日々の鍛錬の賜物……ってわけでもない。

私は魔力を知覚してから起きてる時も寝てる時もずっとこれをやってきたからね。わざわざ瞑想なんてしなくても自然とできていることだ。

 

それでも、漏出魔力を限りなく減らしてロスを無くす技術は魔力操作の基礎にして奥義だ。これを極めれば何の休息も取らず半永久的に戦い続ける事ができる。

 

私の強さの根本はこれに支えられているんだから、怠るという選択肢はない。

 

魔力の鍛錬が終わったら、今度は武術と織り交ぜての型の反復だ。

 

武術、と言っても私は別にその手の知識があるわけではない。だからほとんどは漫画、アニメ、動画で見た知識の受け売りだ。その筋の人から見れば全くもって不出来なものだろう。

 

だけど、私の技は体内魔力が自然と流れる最も最適な動きになっている。武術の知識はないけど、私の体と魔力に最適化された一番実用的な型ではあるわけだ。

 

知識があって困ることはないけど、それに無理に合わせる必要はない。技は実戦と経験から磨いていくべきだと思っている。

 

……それに。

 

波ッ!!

 

私が掌を突き出すと、平手の中心から魔力の塊が飛び出し、遠い所にあった岩を粉砕した。

 

──こういうのは魔力を知らない武術じゃ出来ないからね。

 

“魔弾”。

 

これは体内魔力の一部を部分的に切り離して、掌から打ち出す技だ。外に打ち出すわけだからその分の魔力は減るけど、殴る蹴る以外に飛び道具があるのは素晴らしい。いい武器になるだろう。

 

ただ、実戦で通用するような充分な威力にするには魔力消費がちょっと大きすぎるんだよね。1回だけなら問題ないけど、10回も連続で撃てば魔力切れになってしまう可能性がある。魔力をそのまま飛ばしているわけだからロスを減らすなんてこともできない。というか魔弾自体がロス魔力の塊みたいなもんだし。

 

え?10回撃てれば充分じゃないかって? いやいや、相手が一体とは限らないわけだし。何度も何度も使うことを想定したら10発しか弾数がないなんて欠陥もいい所だ。

 

何発撃っても魔力の自己補完の範疇に収めるのが、一番理想的。

 

魔力鍛錬で増やせる体内魔力量は、初期の頃と比べて増加量が鈍化してあまり増えなくなった。それも黒い閃光を出した時に一時的にかなり上昇したけど、今は落ち着いてしまっているし。

 

だから魔力量自体を高めて弾数を増やす方向は難しい。

 

より少ない魔力で高威力の魔弾を撃つ。というのが現実的な改善案で、これが今の私が取り組んでいる課題だ。

難しいけどね。魔力を少なくしたらどうしたって魔弾の威力も速度も落ちるから。

 

魔力量自体は変えず、魔弾の形を変えるくらいしか……。

 

……それなら細い針状にして、一点に威力を集中させる形状なら?

 

「月巫女様! そろそろ」

 

私が魔弾の改善について考えていると、玉美さんからお呼びがかかった。あっ、そうだ。

 

玉美さん、針って持ってない?

 

「針、ですか? 縫い針でよければ……。でも、何に使うんです?」

 

決まってるじゃん。

 

覗き野郎の目を潰すためだよ。

 

「……」

 

……冗談だって。

 

 

村人たちが起きて、活動を始める頃になって私は月読村に戻った。

 

家に戻り、灰を被っていた火種を火口に移し火勢を強めると、玉美さんが土鍋に猪肉や山菜、木の実などを入れて煮込み始める。

私と玉美さんは同じ家で暮らしている。元々は兄と二人暮らしだったが、今はもうお兄さんがいないので空いたスペースを使わせてもらっている形だ。

 

「巫女よ、いるか」

 

私たちが朝の準備をしていると、村長さん……もとい村の長老さんが訪ねてきた。

 

こんな朝早くからどうしたんだろう。

 

「実は昨夜の夜更けの頃から、ナギが熱を出していてな。呪いはもう消えたが、影響がまだ残っているかもしれん。診てもらえるか」

 

なるほどね、りょーかい。すぐ行きます。

 

「頼んだぞ」

「月巫女様、準備は私がやっておきますので」

 

ありがと、玉美さん。行ってくるよ。

 

家から外に出て、私は村の北西にある家に向かった。

 

早朝の冷たい風が私の肌を刺すが、相変わらず感度の薄い私の体は特に身震いするようなこともなかった。

 

「あっ、月巫女様! おはようございます」

 

おっカケくんだ。狩猟道具の点検中かね。頑張りたまえよ。

 

「はい! あの、月巫女様。今日の狩りは成功しそうでしょうか……?」

 

出た。一番困る質問。これカケくんに限らずやたら聞かれるんだよね〜。

狩りは成功しそうか〜とか、今日の天気はどうか〜とか。知らんっちゅーねん。こちとらお天気お姉さんとちゃうぞ。

 

特にカケくんは狩猟チームの司令塔だし、真面目だからね。毎朝こうして狩猟が成功するかどうか私に聞いてくる。だから私はいつもお決まりの返事を返すのだ。

 

君が最善を尽くせば、全部上手く行くよ!!

 

「!! わかりました、全力を尽くします!」

 

おー、単純だ。適当回答ここに極まれり。私はこんなんで呪術師名乗っていいんですかね。

まぁでも「今日はガッカリデーだから何しても上手くいかんよ」と言われるよりは気合いが入っていいだろう。こんなもんは所詮気の持ちようだ。

 

適当に背中を押してやって、良いことが起きたらそれで良し。悪いことが起きたら原因を分析して「次から気をつけよう」で終わりでいいんだ。

 

……ただ、この伝え方をすると失敗した時に「俺が最善を尽くせなかったから……」ってものすごい落ち込み方するんだよね。だからその後、全力でやっても神に見放されたりするから気にせんでいいよっつってアフターフォローもしなきゃいかん。難しい。

 

呪術師ってのは言ってしまえば村のなんでも屋さんだ。わからないことがあったら、皆とにかく私に聞いてくる。それに大体は適当に、たまに真面目に答えたりするのが私の役目。

 

私がわからない時は大体玉美さんに聞いてくる。彼女は勉強熱心で、聞けば大体答えが返ってくる。ホンマ玉美さん様様やで。

 

なのに本人は「もっと月巫女様のお役に立てるようにならなければ」と言い続けてるのが謎だ。これ以上有能になってどうするんだろう。神にでもなるつもりか?

 

そんなこんなで件の双子家にとうちゃーく。

 

ごめんくださーい。と外から声をかけると、慌ただしく大人の女性が家から出てきた。

 

「月巫女様! おはようございます。来てくださったのですね。申し訳ありません、子供たちがまたご迷惑を……」

 

やー、いいですってお母さん。仕事なんでね。

 

「……」

 

足元に小さい影。

 

双子の姉、ナミちゃんだ。手を振って挨拶する。

 

「……ん」

「こら、挨拶しなさい。ナミ。あなたの命の恩人なのよ?」

 

私は首を振って大丈夫ですよと伝えた。

 

初めて会った頃は私もナミちゃんと同じくらいの背丈だったこともあって、治療中でも話してくれたんだけどね。それがこんだけ一気に大きくなっちゃったから、多分ちょっと怖いんだろう。

 

促されて家の中に入ると、家の中心の炉の近くで弟のナギくんが寝かされていた。

 

「うう……」

 

ナギくんの顔は青白く、呼吸も浅い。

ふーむ、確かに苦しんでいるけど……これは……。

私はナギくんの体に手を翳し、命力を注ぎ込む。するとナギくんの顔色はどんどんと良くなり、呼吸も安定した。

 

「す、すごい……」

 

お母さんに向き直り、私は聞いた。ナギくんは昨日山に入らなかったかと。

 

「え? あ、はい。山菜を取りに行かせましたが……」

 

その時、おそらくナギくんは毒を持っている植物を口に含んだのだろう。原因はそれだ。

 

要するに食中毒である。

 

「……まったくもう。あれだけ見たことない山菜は口に入れるなって言ったのに……」

 

頭を抱えるお母さんに苦笑して、原因はわかり治療もしたので私は戻りますね。と言った。

 

「あっ、お待ちください。昨日多くナギが山菜を取ってきてくれたので。よかったら……」

 

おぉ、思わぬ収穫。ナギくん、見直したぞ。

 

私はありがとうございますとお礼を言って、双子家を後にした。

 

「ありがとうございました!」

 

お母さんの礼に手を振って答えながら、私は玉美さんが待つ家に戻ろうと……。

 

……ん?

 

村の外から数人の人間たちが近づいてくるな。

ただ、魔力的にこの村の人達ではないっぽいし……うーん……。

 

なーんで完全武装してるんですかねぇ……。

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