盲目少女が縄文から呪術の開祖になる話   作:ぷに凝

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長老と玉美さんに連絡して、二人に村人たちのことを任せた後、私は村に近づいてきた人間の集団を出迎えた。

 

数は6人。全員男で、木の道具を持って武装している。

 

石器ではないのかと侮ってはいけない。どうやら木でできた斧、槍、剣などには強い魔力が込められているらしく石武器と同等かそれ以上の威力を持っていることが予測できた。

 

まっ、振るうのが普通の人間なら私には当たらないだろうし、当たっても大して痛くないだろうけど。

別の場所へ向かう可能性も考えたけど、集団は真っ直ぐ月読村へと向かってきている。目的地はまず間違いなくここだろう。

 

そうして、男たちにも私の姿が見えるくらいの距離まで近づくと彼らはじろじろと私の顔や体に視線を這わせた。

注目してる箇所が露骨で、非常に不快だ。視線には感情も乗るから、何考えてるのかもわかるし。

 

「そこの娘。貴様は村の者か?」

 

男たちの先頭に立つ、長い槍を持った男が尊大に話しかけてきた。

 

「村人を全員ここに集めよ。我らの主、スザン様から言伝を預かっている。貴様らの代表を連れてくるのだ」

 

いきなり命令口調だし。スザンって誰だよ。

 

かなり横柄な態度の通り、内心でもこちらのことを舐めきっているのが魔力に乗って伝わってくる。

この人数と武装で完全に月読村を制圧できると本気で思い込んでいるらしい。ハナから話し合いなんかするつもりありませんって感じだ。

 

じゃ、こっちも話すことはなんもないんでお引き取りくださーい。

 

「!? 頭の中に声が……?」

 

“お帰りはあちらです”と手で示すと、男たちは最初ポカンとした顔をした後に沸騰したように顔が真っ赤になって武器を構えた。

 

「お、おい待て。最初は穏便に行くという話で……」

「なにを言ってる! あんな女一人で俺たちのことを迎えるなんて、無礼もいいところだ! 身の程を知らせてやるべきだろう!」

「元気な子供を産めそうなおなごだなぁ」

「少し痛めつければ自分の立場も理解するのではないか?」

「いやぁ、馬鹿な女には何を言っても無駄だろう。はは」

 

おーおー、好き勝手言ってくれちゃって。

 

自分勝手さはあの餓骸にも負けないんじゃないか? あれは自分が強いことを確信してるからこその傲慢だったけど、こっちは相手が自分より立場が下って思い込んでるタイプだ。

 

どっちがマシかは……うーん、どっちもゴミってことで。

 

ただ、強さって点に関しては雲泥の差だ。こいつらが仮に武術の心得を持っている達人だったとしても、魔力の扱いがこんなにもおざなりな時点で勝負にもならないだろう。

 

どこから来たのか知らんが、殴り合いになるんなら話が早くて助かる。さっさとやろう。

 

「──なめるな、女!!」

 

魔力のこもった木剣を持つ長身の男が最初に切り掛かってきた。フェイントも何もないがむしゃらな突撃だ。武器はそこそこいいの使ってんのに、使い手がこれじゃあね。

 

見え見えの攻撃の軌道を躱して、すれ違いざまに首筋に手刀を叩き込む。

 

カクンと白目を剥いて男が倒れた。

 

「なっ……!!」

「な、何をした……!?」

「この女、まさかまじない使いか!」

 

まじない、ってのが何のことかはわからないけどそれが魔力のことなら半分正解だ。

今の一連の動作にはほとんど魔力を込めてないから半分不正解。

 

「陣形を組め! 見た目通りと惑わされるな!」

 

おっ、槍持ったリーダーっぽい男の指示で統率の取れた動きをし始めた。いいね。一人ずつバラバラにかかってくるよりは、そうした方が余程勝算がある。

 

槍男は中衛に。剣や斧といった短いリーチは前衛に。弓持ちは後衛。この陣形は理に適ってるし、動きも澱みない。

 

この男たち、大言壮語を吐くだけあって鍛えられてはいるらしい。指示があれば素早く動くし一気に警戒態勢に変わって隙も少なくなった。最初からそうしてれば良かったのにとは思うけど。

 

さて、せっかくだし少し実験しよう。

 

私は右拳に呪力を。左拳に命力を纏って、腰を落として半身になり男たちと対峙する。

前衛の木斧を持った男の呼吸の隙間。そこに踏み込んで距離を詰めると右拳と左拳を同時に打ち込んだ。

 

「ごほぁっ!?」

 

凄まじい勢いで男が吹き飛び、はるか後方の樹木に背中から激突して意識を刈り取った。

だが、打撃を受けた箇所にも打った背中にも打撲痕はない。呪力で強化した拳と同時に、命力の拳を打ち込んだ結果だ。

 

「は、速……」

「怯むな! 決して目を離すな!」

 

うーん、条件はかなり似せたんだけどなぁ。やっぱり、あの時みたいな黒い閃光は出ないや。

呪力と命力を同時に打ち込むのが発生条件かとも思ったけど、そうでもないっぽいな。そもそも黒い魔力が空に走るって点で、多分大気魔力と反応してるんだろう。

 

「お、おおおおお!!」

「ま、待て! 行くな!」

「ぐほぉお!?」

 

大気魔力に関しては私もまだよくわかってないことが多い。魔力的な作用だけじゃなくて、気温や気圧といった自然環境も絡んでくる分野だから。つまり自然科学の側面もあるわけだけど、魔力と科学って世界観が違うというか、法則性が違う面があるから、お互いがお互いの世界観に干渉して変な挙動を起こすことがある。

 

「矢、矢が! 当たりません! ど、どうすれば!?」

「落ち着け! 闇雲に撃つな! 私たちが隙を作る間に──」

「あ、ひゃああ!?」

「なっ……いつの間に……!?」

 

そう考えると、ほとんど運みたいなもんだし偶発的にしか発生しないのかも。黒い閃光のあとにあった全能感みたいなものも、大気魔力と同調した結果なんだろうな。多分、拳によるインパクトの瞬間大気魔力に生じる瞬間的な魔力加速現象が、ほぼ同タイミングで衝突する呪力との相乗効果で指数関数的な急上昇をして──。

 

「ぐっ……おおおおお!!」

「いけません! 隊長!」

「せめて一太刀!」

 

──つまり、大気魔力と体内魔力が接続したことで、周囲の魔力環境に体内魔力と同じだけの影響力を行使できる状況を整えることができる。この時、大気魔力が体内に取り込まれ魔力量が回復すると同時に周囲の大気魔力と体内魔力の同調効果によって一時的な魔力量の増強が……。

 

「ぐはああああ!!」

 

……ん?

 

あ、気づいたらもう誰も立ってないや。

 

みんな気絶して倒れてる。ずーっと考え事してたからうろ覚えだけど、殺してはいないみたいでよかったよかった。

 

「……あ」

 

一人だけ弓使いの男が立ってるけど、彼ももう戦意は喪失してるみたいだから何もする必要はない。戦う気がない人まで倒す気はこちらにはないんだから。

 

……あ、そうだ。そこに転がってる人達、どうせなら連れ帰ってくれない? このままここに転がしておくのは邪魔だし、かといって処分するのも気が引ける。元々いた場所に戻してくれるのが一番助かるんだけど。

 

そう言ったら、弓使いは顔を青くして倒れてる男たちを見やった。まぁ、これ全員を背負ったりして歩いて行くのはかなり大変だし、道中で襲われたりしたら見殺しにせざるを得ないだろう。

 

だけど、残念ながらそこまで彼らを助けてやる気は私にはないし、そんな義理もない。彼らがちゃんと私たちに敬意を払ってく

れる存在なら手を貸したかもしれないけどね。

 

「月巫女様」

 

そうこうやってる内に、村の中から玉美さんと長老さんが顔を出した。

 

終わったよ、二人とも。村の人たちはもう安全だ。

 

「……巫女よ」

 

地面に転がってる男たちを見て、長老さんは何かを考えるようにしばらく目を伏せて、そして言った。

 

「彼らは隣村の者たちだ。懐に“印”を持っている。恐らく、この村への使者だったのだろうな」

 

……え、使者?

 

すんごい傲慢な言い方するからボコしちゃったんだけど……まずかった?

 

「まずいかどうかは、言伝の内容を聞いて判断することとしよう」

 

あぁ、確かに。それからでも遅くないか。

 

ほらほら、どんな内容だったの? 戦う前に聞くべきだったかもしれないけどさ。

 

「……内容は、我らの高勾村と貴君らの村との間で交わされる“婚姻”についてのものです」

 

……こ、婚姻?

 

誰と誰が? 全然そんな話聞いてないけど。

玉美さんに振り返っても首を振るだけだ。彼女もそんな話が持ち上がっているとは知らないらしい。

 

誰かが結婚するなら、儀式とか色々あるから呪術師である私の耳に話が入ってもおかしくないんだけど……。

 

「言伝を伝えます。“──川沿いの小さな村の者たちへ告ぐ。貴君らの村で匿っている「月巫女」と呼ばれる呪術師は、我が高勾村の呪術師、スザン様の婚約者である。ついては、結婚の準備を行うため彼女を引き渡してもらう”……以上です」

 

「──は?」

 

私が内容を聞いてガチリと固まって。

 

それを横から聞いた玉美さんが、聞いたことない底冷えする声で静かにキレた。

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