盲目少女が縄文から呪術の開祖になる話   作:ぷに凝

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目を覚ました男たちは、自分たちが治療を受けて生かされたことに気づくと、何も言わず村から去って行った。

 

殺してやれば、高勾村に情報が届くのが遅くなって準備するための時間が増えたかもしれないけど、一方で仲間を殺されたことで報復が苛烈になる可能性もあった。

 

リスクとリターンを考えて、私は彼らを見逃した。それだけのことだ。村に戻って報告する場合でも、負傷して移動速度が遅くなっている分、ある程度の時間は稼げるだろうから。

 

……人の生き死にでリスクだのリターンだの言ってる自分が嫌になるな。追い詰められてる証拠だ。

 

でも時間だ。今はとにかく時間が必要。

 

使者が帰らなければ、高勾村は使者が殺されたと判断して、即月読村への侵略を開始するかもしれない。けど、無事に戻れば私たちにどう対応するか考える時間が生まれる。

 

もしかしたら、私を諦めてくれるかもしれない。

 

どう転んでもいいように今はとにかく準備をしなければいけない。そのためには時間がどれだけあってもいいんだ。

 

「はぁ……はぁ……っ」

 

しかし、一方で時間があったところで解決しない問題もある。

 

「もう一度……お願いします……!」

 

肩で息をしながら、大量の汗を流してフラフラのまま。それでも再び構えようとするカケくんに私は目を細めた。

 

私の目の前には、フラフラのカケくんともう二人。ザナとソウという青年がいた。

しかし、立っているのはカケくんのみで、他の二人は気絶してしまっている。すでにそうして10分以上が経過していた。

 

私は、この三人に稽古をつけていたのだ。

 

稽古と言っても、やることはただ無手で襲いかかってくる三人をいなしていただけだけど。怪我はさせていないし、後遺症が残らないように配慮もしている。ただ、気絶させちゃうのは如何ともしがたい。

 

なにせ私はこの場から一歩も動けないからね。動いたら向こうの勝ちということにしている。

ちなみに、武器もアリだ。投げ紐だろうと弓矢だろうと持ってきて良かったけど流石に気が引けたらしい。斧や槍を持ち出したのがせいぜいだった。

 

……これは気が引けてるのか?

 

まぁいいや。とにかくそんな超絶有利条件でも、私はここに無傷で立っているし三人のうち二人は戦闘不能で、一人はフラフラだ。

 

「カケ、もういいわよ! 月巫女様に勝てるわけないって!」

「リン、頼む……このままじゃ、あの人を助けるなんて一生できないんだ……!」

 

フラフラのカケくんに、一人の少女が駆け寄る。

 

 

カケだけに(笑)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……月巫女様、カケはもう限界です。どうか終わりにしてください」

 

彼女の名前はリン。カケくんの幼馴染の女の子だ。ちなみに多分カケくんのことが好きだけど、カケは気づいていない。

 

カケリン……ふーむ、なるほど。

 

それはともかく、稽古を終えるかどうかはカケくんの意思次第だ。彼が続けるというなら続けるし、もう無理ならここで終わりだ。

 

「やります……! やらせて、くだざい……!」

「カケ!」

 

カケくんはリンの腕を振り払って、私の前に立った。

 

……まったく、罪な男だ。

 

カケは私に対して、単なる憧れ以上の感情を抱いているらしい。それは真面目で責任感の強い彼が、村のみんなを守れるような強い力を欲していることと無関係ではないだろう。

 

だけどカケくんが私と同じくらい強くなるなんて、現状ではそれこそ夢物語のような話だ。

 

なにせカケには魔力が視えていない。

 

魔力が見えなければ身体強化ができない。身体強化ができなければ私と張り合うなんて出来るはずもない。カケは届かない目標に向けて進み続けているんだ。

 

……それをわかってて、彼を利用するために稽古に付き合っている私は魔女かなんかだろう。

 

悪いね、リンちゃん。少しでも戦力が欲しいんだ。命はなんとか保証するからさ、この男が君と過ごすはずだった時間、ちょっとだけ分けてくれ。

 

みんなで生き残ったら、後で土下座でもなんでもするからさ。

 

 

午前はカケ、ザナ、ソウの村の若者達を鍛え上げて、午後からはまた別の稽古……いや、これは修行と言った方がいいな。

 

「……」

 

坐禅を組み、目を閉じて大きく息を吐き出す玉美さんの肩に私は手を乗せる。

 

そう、そのまま。体内を流れる魔力を意識して……整然と流れる川のイメージ。流れ早すぎても、遅すぎてもいけない。ゆっくりでいい。

 

「はい……」

 

玉美さんは魔力が視える。

 

それは私に比べれば、本当に……本当にぼんやりとした感覚ではあるようだけど、確かに視えている。

だから、そんな玉美さんの魔力操作を向上させる。これが午後の修行の内容。

 

正直言って、午前はただ一歩も動かずに攻撃を避けていればいいだけだから簡単なんだけど、こっちの方はめちゃくちゃ難しい。

 

なにせ、魔力というのはイメージの世界だ。私がいくら魔力の感覚を言葉で伝えて、体内魔力の操作に力を貸しても本人がコツを掴まなければどうにもならない。

 

私は多分、“超”がつく感覚派だ。

 

それもそうだろう。私の魔力操作に師なんて存在しなかったし、それこそ私以上に魔力操作に熟達している人間にも会ったことがない。

 

世界のどこかにはいるのかもしれないけど、それを今から探し出して玉美さんの指南役として連れてくるのは現実的じゃない。私の感覚と経験だけが、玉美さんに教えられる全てだ。

 

……で、この感覚というものは私の体質が前提になっていることが非常に多い。

 

私の魔力感知能力は、多分人の中でも飛び抜けて高い。それこそ一目見ただけでそれが誰の魔力か、どんな性質を持っていて、どのように運用すればどんな効果を生み出すかがわかってしまう。

 

それは魔力を知覚した初期の段階で身につけた、あの魔力操作だけに集中した期間があってこそ。あそこで私は完全に魔力の“(こつ)”を掴んだ。逆にあの時間がなければ、私の魔力精度はそこそこ程度に収まっていたはずだ。

 

そして、魔力を流して強化していない私の素の体が極端に弱かったらこそ、私はあの段階であのレベルの魔力操作に熟達した……させられたと言ってもいい。

 

玉美さんにはいい意味でも悪い意味でもそれがない。

 

魔力なしでは成立しない私の体と違って、玉美さんは健康体だ。

 

だからこそ、私の魔力感覚と玉美さんの魔力感覚は大いに異なる。

 

「……」

 

すでに魔力の習得修行を始めて一週間。

 

玉美さんは、まだ満足に魔力を操ることができない。感覚を掴むことですら一日1時間かけて、ようやく薄ぼんやりと視えてくる程度だ。

 

その先の本格的な魔力操作と、それによる身体強化、さらには“呪力”と“命力”の習得に至るまでには、到底足らない。

 

きっと高勾村が痺れを切らすまでに彼女が有効な戦力になることはないだろう。

 

これは意地悪や玉美さんのことが嫌いでそう言ってるんじゃない。ただ、客観的に分析してそうだろうってだけの話だ。

 

わかってる。私の教え方が悪いことも原因の一つだ。もし私じゃなくて、一般的な身体感覚を備えながら同時に魔力の操作も充分に行える人間がいたら、彼女に“普通の感覚”で魔力を教えられたはず。

 

極端な体の弱さも、極端な魔力感知能力も、私の強みではあるけど。

 

今この時点では致命的な弱点だ。

 

玉美さんの魔力の操作補助をしながら、手を変え品を変え彼女がなんとか前に進むための取っ掛かりを掴もうと苦心する中。

 

私が流し込む魔力の中に、ほんのわずかに現状に対する焦燥と、やはり自分以外に呪術師という相手に対して戦力として数えられる存在はこの村にはいないという諦念が、手のひらを通して玉美さんの中に流れ込み。

 

……それが、彼女が魔力操作に集中するには大きすぎるノイズとして影響を与えていることには気づかないまま。

 

ただ、転び続ける子供を何度も立たせて歩かせようとするような、辿々しくて重苦しい時間が過ぎていくのだった。

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