盲目少女が縄文から呪術の開祖になる話   作:ぷに凝

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「巫女よ」

 

午前の稽古の時間がなくなって、針修行も終えて手が空いた私が魔力操作の鍛錬や魔弾を改良した新たな技。“針魔弾”の練習をしていた最中。

 

最近はご無沙汰だった長老が私のもとにやってきた。

 

「少し話そう、これからのこと。酒でも飲みながらな」

 

私は少し迷って、わかった。と言って長老の家に入っていった。

 

「そういえば、君とやったことはなかったな」

 

とくとく、と一杯の小さな土器に注がれるとろりとした液体。底には果実の果肉の断片が沈んでおり、上層の水だけが澄んでいる。

この時代特有の、発酵途中に近い「果実酒」であり、濃厚な甘い香りと土器の土っぽい香りが混ざる独特な匂いが立ち上っていた。

 

「ここしばらく、村の者はいつ来るとも知れん襲撃に気を張り詰めていた。だが最近は少し空気も緩んだようだ」

 

私と長老は手に持った土器をわずかに持ち上げて、森から与えられた恵みに感謝を示した。そういう仕草のようだ。

 

「君の肩の力も、程よく抜けたようだしな」

 

……やはり、長老は気づいていたらしい。敵わないな、この人には。

 

土器に口をつけると、土の冷たさとざらつきが唇に触れ、ぬるい酒の温度が湿らせる。

甘い果実と酸味が入り混じる生っぽい匂いと、口に含むと舌に果実の粒が触れ、酒がまだ発酵して動いているように感じる。

 

甘くて酸っぱくて、少し渋くて少し苦い。そんな、現代の清酒と比べれば洗練されてはいなくても、強い自然と野生を感じる“生きているような酒”が私の喉を通った。

 

うん、やっぱり味覚があって良かった。そのおかげで、この味を知れたんだから。

 

「高勾村の呪術師だが、確かに優秀とは聞いたことはあっても、君のように素手で熊を倒したり、呪いを解くといった逸話は聞いた覚えがない。君は彼の存在を警戒しているようだが、私は彼が君と同じような存在だとは思わん」

 

酒を飲み下した私に長老が語る。

 

「警戒は必要だが、恐れる必要はない。君はそのままでいい」

 

……きっと、これを言うタイミングを長老は見計らっていたのだろうな。

 

私が緊張している時に言えば反動で油断する可能性があるし、準備を怠るかもしれない。だから私がいつもの調子に戻るのを待っていた。

 

本当、未熟を思い知らされるばかりだ。こんなに情けない“呪術師”も中々いないだろうね。

 

「私はそうは思わない」

 

笑いながら言う私に、長老は珍しく強い語気で言った。

 

「……君はまだ若い。いや、見た目通りでない本当の年齢を考えれば幼いと言ってもいい。そんな君にこのような重荷を背負わせてしまって、悪いと思っている」

 

そう言って、長老は珍しく顔を歪めた。

 

見た目通りでないってのは、私が元々子供の姿だったから言ってるんだろうけど……それを言うなら、あの姿もこの姿も年齢通りではない。説明するとややこしくなるが。

 

「君はよくやってくれている。本当なら、この村で解決すべきだったことまで、外から来た君に頼ってしまっている現状が、少し歯痒い」

 

長老の顔は見えなかった。

 

どんな表情をしているのかと探る気にもなれなかった。

 

だって長老は、直後に深く深く頭を下げたのだから。

 

「村の全員を代表して礼を言う。巫女よ。この村のために命をかけて戦う君を……我々は、全力を以て支持する」

 

私は軽く頷いて指を立て、一つ貸しだ。と言った。

 

別に気にしてないけど、こう言わないと向こうが気にしそうだったからね。ゆっくり借りを返してくださいな。

 

「ああ……大きな借りをしてしまったな」

 

そう言って、長老は笑うのだった。

 

……

 

………。

 

んふぇええぇ〜。

 

だぁからぁ! 小っちゃい針がいっちゃん強いのぉ!! 私、ぜんっぜん魔力少ないんだからぁ!!

 

「うむ、うむ……そうだな……」

 

聞いてんのか〜! 長老〜!!

 

「ああ、聞いている」

 

んふぇ、聞いてるなら、良し。

 

んふふふふふふ。

 

「……神や霊は酒に弱いと聞いたことがあるが、真であったか」

 

なぁに言ってんだよぉボソボソよぉ〜!! 酒注げ! 酒!!

 

「もうない。あったとしても、これ以上君には出せん」

 

なぁんでだよぉ〜!! 長老嫌い!!

 

うそ、好き〜。長老好き〜。優しいから大好き〜。んへへぇ。

 

んっ……なんか暑くなってきた。ちょっと脱ぐ。

 

「……やれやれ。これでは迂闊に飲ませられんな。酒気に当てられて面倒な事態になりかねん。巫女が孕ったとなれば大騒ぎだ」

 

なぁ〜に言ってんだ!! 酒の勢いで襲われたらパンチだぞお前! パンチで顔面陥没だよバーカ!!

 

だいたい、私みたいなのに欲情する物好きいるわけないでしょ〜? だって私、この世界に来る前は元々……。

 

もと、もと……。

 

……。

 

「……眠ったか。この隙に襲撃が起きないことを願う他ないな」

 

 

……。

 

……う〜、なんだ……?

 

頭が痛い……ずきずきする……。

 

うぅ……め、“命力”……!

 

……。

 

スッキリ!!

 

やー、すごいな、命力。朦朧としてた頭が一気に霧が晴れたみたいにはっきりしたわ。二日酔いにも効くんだ、これ。

 

……まさか、一杯の酒であれだけ酔うとは。なんか色々やばいこと言った気がするが……寝てる私にかけられてる毛皮を見る限り、長老は怒ってはいないようでよかった。

 

……これもしかして貸し返された? プラマイゼロか? まぁそれでもいいや。

 

さーて、今何時かな、と……。

 

……おいおい。

 

魔力感知に反応多数だ。

 

この数……10……20……30……?

 

まさかこんな夜中に……いや、もう明け方か。思えば前回来た時も早朝だった。こんくらいの時間にくるのが奴らの作戦なのかもしれないね。

 

とうとう、高勾村の団体様のお出ましだ。

 

……あれから三週間か。思ったより早かったな。

 

最初の使者の来訪以降、高勾村からの目立った接触はなかった。それは人という意味でも、手紙という意味でも……って、この時代に文字はまだないんだった。

 

もしかしたらもうこの村には関わってこないかも……なんて甘い妄想もしたけど、そんな都合のいい話はやはりなかったようだ。

 

もう一回くらいは小規模で使者が送られてくるかもと思ったが、そんなこともなくいきなり大戦力だ。武器も前回同様、完全装備。これで戦う気がありません、なんてのは小学生でも信じないだろう。

 

私は急いで長老や玉美さんに事を伝えて、村人たちが避難する準備を進めた。こんな眠い時間に忙しなくてすまないが、少しの辛抱だ。私が勝つにしても負けるにしてもそう長くはかからないはず。

 

事前に決めた手筈通りに行く。それで無理なら後は逃げるだけだ。

 

……しかし、なんだ。意外と言うかなんというか。

 

向こうの呪術師であるスザンという男は出てこないらしい。団体の中にそれらしい魔力は感じられなかったから。

 

てっきり、直接前線に出てきて戦うとばかり思っていたけど……切り札にとって置いてる? いや、でもこんだけの戦力を失った後で切り札だけ残しておいても……本当に私と同じくらい一人でも戦える強さとか?

 

……まさか、ね。

 

不安に駆られながら、前回と同じように村の前に仁王立ちして迎える。

 

不意打ちする、という手も考えはしたがどこまで有効か判断できなかったのでまずは様子見することにした。そもそも向こうも魔力完治できるならすぐに位置がバレて成立しないだろうし。

 

そうしてしばらく経って、私の前に武装集団がやってきた。

 

「──会いたかったぞ、我が妃」

 

誰が最初に口を開くのかと思ったら……まるで神輿のように少し高いところに陣取っていた、一人の男だった。

 

……ん? 待て。今、こいつなんて言った?

 

「闇討ちでもしてくるかと思ったが、素直に俺の前に姿を見せるとは殊勝な心がけではないか。よほど俺の腕に抱かれるのが待ち遠しかったと見えるぞ、ん?」

 

男が何かをくっちゃべっているが、正直どうでもいいくらいの衝撃が私の頭に駆け巡っていた。

 

そんなわけがない。いやでも……え? まさか。

 

そんな馬鹿な。

 

「もうすでに名前を知っているだろうが、俺はスザン。今日からお前の“ご主人様”になる男だ。いや、元々そうだったのだから、戻ると言った方が正しいな?」

 

こいつが……スザン?

 

敵の、呪術師?

 

……いや。

 

 

 

 

 

よっっっっっっっっっっっっっっわ。

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