盲目少女が縄文から呪術の開祖になる話   作:ぷに凝

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敵が弱い。(絶望)

 

……いや、これは正しくない。言い直そう。

 

敵が弱すぎる。(絶望)

 

「先日、こちらからの使者を粗末に扱った件は水に流してやろう。所詮は木偶の集まりだ。だが、俺が来たからには同じ手は通じんと思え。貴様が呪術師であることはわかっている」

 

い、いやまぁ、見ただけで……というより見てすらいないのに一体何がわかるのか。と言われたらそれまでだが。でも話を聞く限りスザンは“呪術師”。そう、呪術師であったはずだ。

 

「先に言っておいてやろう。俺こそがこの世界で最高の呪術師だ」

 

じゃあこの魔力は何??

 

乱れに乱れ、整然さのかけらもなく、ただ好き放題に魔力を辺りに漏出しまくって、しかも、それがまるで偉いことのように振る舞っているようですらある。

なんなら周りにいる取り巻きの男たちの方がまだマシというレベル。

 

じゃあせめて肉体強化はすごいのかと思ったら、なんと、そもそもしていない。完全な生身だ。なんだこれマジで。

 

……今まで私が出会った魔力を扱える者は、皆魔力の扱いが普通より整っていて、体外に漏れ出ているものが少なかった。

 

玉美さんもそうだし、さらにすごかったのが餓骸だ。あいつは性格こそ最悪だが、魔力の扱いに関しては、私ですら目を見張るほどのものだった。意識して漏出魔力を抑えていることがわかる域に達している。

 

それがこいつは、ダダ漏れのダルダル。

 

ガソリンタンクに穴を空けながら排気ガスを出しまくって走るような、燃費以前の問題。

あとなんか変な甘い匂いするのもムカつく。臭い。風呂入れ。で、瞑想して魔力整えろ。みっともないし。

 

見ててイライラするレベルの魔力練度だ。

 

そんな感じで私が呆れていると、高いところに陣取っていたスザンが地面に降り……えっ、何そのカッコつけた降り方。いや早く立てよ。

 

……あっ、勢いよく降りたせいで足首捻挫してる。

 

な、なんだコイツ。

 

「──俺の槍を」

 

地面にしゃがみ込んだ姿勢のまま、スザンが重々しく言う。

 

側についていた控えの人間が、その手に持った魔力の籠った長い槍を手渡した。ちなみに皮やら骨やらで装飾されているのかジャラジャラと音を立てているが、魔力がこもってないのでただの飾りだ。動かすたびに音が鳴る面白ギミックってだけっぽい。

 

重くね?

 

「最後の命乞いを聞いてやろう。今、降伏すれば……他の村の人間は見逃してやる」

 

あぁ、なんで武器持ったのかと思ったら槍を立てて片足だけで立ち上がった。捻挫してる方は僅かに地面から浮かせている。

 

……これ、今もし足元払ったら派手にすっ転ぶな。

 

「だが身の程も弁えず足掻くのであれば……この“草薙槍(くさなぎそう)”が貴様の命を薙ぎ払う!」

 

スザンが叫んだ瞬間、周りの男たちがオオオオッ!!と雄叫びをあげて空気がビリビリと震えた。スザンはなんとか足首の痛みが治ったらしく、高く武器を掲げている。

 

……こっちはあまりの茶番具合に困惑してるんだけども。

 

「ウオオオオオオ」

 

ちょお!! 武器クルクルすんな!! おまっ、こっちが恥ずかしくなるわ!! なにこれ! 拷問!?

 

やめとけって……後でふとした時に思い出して死にたくなるだけだからそれ……。

 

「いざ、参る!」

 

槍を構え、スザンが突っ込んでくる。だけど足を怪我していることもあってか、その動きはノロノロとしていて、全くもって精彩に欠いている。

 

え。え。え。

 

これ、やっていいの……? やっちゃうよ!? いいんだよね、これ本当に!?

 

や、やりまーす!!

 

私は地面を蹴って踏み込み、拳撃を放った。

 

ボッ、という爆発音に似た衝撃と共に地面が弾け飛び、音を置き去りにした拳が空気を切り裂く。

 

「へ」

 

そして、拳が顔面に触れる瞬間……全く魔力が顔に纏われていないのに気づき、「当たったら死ぬな」と判断した私は、寸前で腕を引いて威力を殺した。

 

「ぶごぉっ!!」

 

パァンっ!!という炸裂音と共に、スザンが勢いよく吹っ飛ぶ。

 

……え。

 

なに、今の声。

 

ドカァン! とスザンの体が何かにぶつかり、続けてガラガラ……という木が崩れるような音が続いた。

 

「「「え」」」

 

周囲にいた男たちが、呆然とスザンに視線を向ける。

 

「……きゅう」

 

スザンは、鼻血を垂らして気絶していた。

 

「「「……」」」

 

その場に、重い重い沈黙が降りた。

 

 

「……なんだったんでしょうか、あれは」

 

スザンとの戦い……戦い? から1時間後。

 

私はすっかり平静を取り戻した月読村の真ん中で、玉美さんと向き合って直前の出来事について話し合っていた。

 

あれから私たちは、実は村の外に張り巡らせていた落とし穴や吊り縄といった罠類を一つ一つ丁寧に回収していった。

 

……当初の予定では、私が襲撃者を誘き出してこの罠にかける予定だったんだけどね。スザンがやられたら、皆すごすごと帰っていっちゃったから。

色々と、私自身も“奥の手”とか用意してたんだけど……ぜーんぶ無駄になっちゃったなぁ。

 

それもこれも、高勾村の戦力が思った以上に弱すぎたせいなんだけど……。

 

うーん、なんであんな弱かったんだろう。いや、正確にはなんであんなに弱いのに何も対策せずに突っ込んできたんだろう。

 

私の実力は、最初に派遣されてきた使者から語られたはずだ。いやまぁ、ボコボコにしただけだから正確な私の力は測れないだろうけど、それでもボコボコにしたんだからそれくらいの強さはあるって認識は伝わったはず。

 

……それでもスザンなら勝てるって見込みがあったのか?

 

あり得るなぁ。あの魔力のダダ漏れ具合……もしかしたらアレって、少なくとも高勾村における“強さ”の指標ではあったのかもしれない。

 

ダダ漏れの魔力は、私みたいな術師から見れば下策中の下策も良いところだけど、魔力が視えない一般人視点では“なんかすごい力を纏っている”ように視えるはずだ。

 

つまり、魔力を漏らせば漏らすほど強者の証として扱われる。

 

いかにも、呪術師のいない環境下では通用しそうな理屈じゃないか? だからスザンは見せびらかすかのように魔力を放出していたわけだ。

 

実際には、魔力は体内に留めて漏出を抑えれば抑えるほど実際の戦闘の際にロスが少なく、またその技術を高めるほど体内の潜在魔力量も増える。

 

だから、私の魔力なんかは外から見ても全くわからない。

 

それは初見で私を見た時、魔力が見えたとしても私の実力が伝わりにくいってことでもあって。あぁ、だからスザンも私に対して自信満々に挑んできたのかも。

 

漏出魔力を強さの基準にしているなら、私はほとんど魔力を纏っていないように見えるだろうから。見た目的にも細いし、女だし、なんか目隠してるし。どうしても強いって印象は受けづらいはず。

 

……そういえば、気にしてなかったけどスザンは筋肉がかなりある方みたいだったし身長もデカかった。180くらいはあったんじゃないか? 私とスザンが並び立った時、きっとスザンの方が圧倒的に体は大きかったはずだ。

 

片や顔を布で隠したよくわからない細い女。片や筋肉ムキムキで長身で謎のすごいオーラを纏って見える大男。そりゃギャラリーにはどっちが勝つかなんて簡単に予想できる話だ。

 

実際の力関係は全く逆だったワケだけど。

 

ま、もういいや。終わったことだし。これで当分、高勾村は私たちに関わってくることはないだろう。

 

仮にまた攻めてきたとしても、強さの上限がスザンレベルなら私一人で全く問題ない。村人たちを退避させる必要すらないだろう。

それでも油断できるわけじゃないけどね。飢骸みたく私とそこそこ戦える奴が突然現れる可能性だってあるわけだし。

 

……。

 

アイツ(飢骸)って、実はちゃんと強かったんだなぁ……。

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