──セッ◯スをしている!!
あっ、すいませんね突然。今の状況を説明しますね。
──セックスをしている!!
……や。ホントこれ以外、言うことないんだって。実際そうとしか言えない状況が繰り広げられているのだから。
──月読村の村人たちは、そこかしこでえっちをする。
そう書くと発情猿しかいないんかって感じだが、この世界ではこれがむしろ標準なのだ。
それこそ日本も江戸時代辺りまではかなり明け透けにそこかしこでズッコンバッコンしてたらしいからね。えっちが恥ずかしいものだとか、奥ゆかしいものだという価値観は元々日本になかったらしい。ソースはこの時代に生きてる私自身だ。
婚姻関係というのもフランクなもので、この村では一応私の許可や儀式を通すことが通例となっているが、それをしなくても男女が一緒の家で同棲していればそれで結婚してると村人には見なされる。アバウト〜。
そんなわけで性にオープンなこの縄文時代では、村人たちがわりと普通にその辺でおっぱじめる。正直最初に見た時はかなり面食らったが、慣れとは怖いもので今じゃ「あぁ、またやってんな」としか思わなくなってしまった。
ただ、それでも知り合いがぱこぱこやってるとこに遭遇するのは話が違う、と言わせて欲しい。
早い話、リンに用があって家に来たら中でカケとよろしくやっていたという状況ですが。
ウーン、どうしたものか。まぁ、ここは出直すべきだろうな。普通に考えて。それ以外ない。ここで普通に家の中に入ってく度胸は流石の私も持ち合わせていない。ってかそれは普通にただの狂人だ。
ってわけで退散しようとしたんだけど……。
……ん〜?
なーんか、なんだろ、これ?
変な感覚がする。視界がぐにゃりと……歪むような?
立ちくらみ……っぽい? いやぁ、でも。
そもそも私、血とか流れて──。
瞬間。ぐるりと視界が暗転して。
私の意識は闇に落ちた。
◆
白い。
とても、真っ白な空間にいた。
一面、どこまでも“白”が続く世界だ。
どこだろう、ここは。来たことない場所だけど……なんだか不思議と安心する。
『当然だろう。ここは貴様の“中”なのだからな』
……へー。
久しぶりだね、こんなとこにいたんだ。
『ハッ、自分で封じ込めておいてよく言う。雌猿、貴様ほど不愉快な生物には未だかつて出会ったことがないぞ』
そりゃどうも。褒め言葉と受け取っておくよ。
……で、ここは何? 私がお前をここに閉じ込めたって? 全然記憶にないけど。
『ククッ、その疑問に答えてやらんでもない。だが条件がある。ここから貴様が出る時、我も共に解放するのだ。そうすれば、我の知っていることを教えてやらんでもない』
じゃあいいや。お前がまた自由の身になったら碌なこと起こらなさそうだし。ここから出られないなら、そのまま永遠に閉じ込められててくれ。
『わかっていないなぁ? 閉じ込められているのは貴様も同じことだぞ?』
──どういう意味?
『貴様もまた、形の合わない殻に無理矢理嵌め込まれただけの哀れな魂だということだ。その二つは一見共存しているようで、些細なことですれ違い、摩耗する。やがて両者を傷つけあって最後に残るのは擦り切れた人間の亡骸のみよ』
わ、わかるようでわからないことを言うな、お前。
……私の魂がこの体に入ったけど、元々魂が入っていた形と私の魂の形が微妙に違う。だからちょっとした衝撃で擦れてお互い削れてる、ってこと?
『……』
えっ、なんでビックリしてんの。
『……思ったよりは能があるらしいな、雌猿。猿の中ではまともな方だ。低俗な猿であることに変わりはないが』
サルサルサルサル、うっせー奴だな。木ぃ登ったろか。
──魂、か。ねぇ魂ってホントにあるの?
『知らん。だが、こうしてここに貴様と我の二人分の意識が存在していることは事実だ。今の我々の状態を魂とそう呼ぶなら、存在することになるだろうな』
なに勝手に私の体の中入ってきてんだよ、変態。
『貴様がやったと言ったはずだが……?』
ピキんなって。
覚えてないとも言ったろ。魂に眉間の皺増えるよ。
『……下らん。貴様と話しても時間を浪費するだけだ』
そうみたいだね。お互いに。
『さっさと消えろ。顔を見ているだけでも不愉快だ』
はいはい。んじゃ私は先に出させてもらいますよ。
ちょうど体の方も起きたみたいだし。
『一つだけ、忠告しておいてやろう』
ん?
『貴様の魂が擦り切れ、動かなくなった時……我がこの体を貰うぞ。ククッ、貴様が守りたがっているものを全て破壊し尽くしてやろう』
……あっそう。懲りないね、お前も。
その時は動かすための体ごと破壊しておくから、安心しなよ。
『──雌猿が』
◆
目が覚めると、私の顔を心配そうに覗き込んでいた玉美さんと目が合った。
「つ、月巫女様!? お目覚めになられたのですか!?」
お、おぉ……玉美さん。おはよう。
そんな泣きそうな顔で、どしたの。
「月巫女様が突然倒れたと聞いて……私、急いでここに運んだんです」
ここって……あぁ、ここ私と玉美さんの家か。
えーっと確か、リンに用事があって家に行ったら、お取り込み中だったから後にしようとして、そこで倒れたって感じか。
いやぁ、まさかあんな急に倒れるとは。心配かけてごめんね。
と、立ちあがろうとして。
「いけません!!」
強く玉美さんに押さえつけられた。
……ど、どしたの急に。
「……何の前触れもなく突然倒れるなんて、やはり体のどこかに不調があるのです。月巫女様はここしばらく、ずっと寝ていませんでしたから、無理が祟ったのです。しばらくは大人しく休んでいてください」
え、え〜? でも今はなんともないよ?
ほら、もう魔力の流れだってすっかり元通りで……。
「月巫女様」
ぴしゃり、と有無を言わさぬ迫力で言われて押し黙る。
「……以前、お裁縫をした時。月巫女様のお身体は普段では考えられないくらい弱っておりましたね」
は、はい。
い、いやでもあれは魔力を通していないからで……。
「つまり、普段はあんなに弱い体を、無理して動かしているということになるのではないですか?」
む、無理をしてるってわけじゃ……。
……。
無理を、してたのかなぁ。
「なにも問題ないのなら……いきなり気を失って倒れるなんてことが起きるはず、ないではありませんか」
うーん、まぁそれはそうなんだけど。
かと言って、ずっと体を休めたまま寝たきりってのもねぇ。
「ずっと、そのままでいて下さいと言うわけではありません。ですが、今は……どうか、どうか安静にしていて下さい」
玉美さんが泣きそうな顔で、私の顔を見て言う。
「私は……月巫女様の身に何かあったら……一体どうすれば……」
それは懇願のような声色で、今まで玉美さんが内に隠していた想いが、溢れ出した結果なのだと思う。
……比喩でもなんでもなく、この村は私がいなくなったら立ち行かなくなる。長老を除けば村の取りまとめ役のような立場の玉美さんからすれば、そりゃ私の体調は気になって当然か。
「そういう意味では……」
うん、確かに悪いのは私の方だった。自己管理もできていないんだから心配かけて当然だね。
ごめんね、玉美さん。
「……もうっ」
唇を尖らせて、何故かそっぽを向いて機嫌を損ねてしまったらしい玉美さん。
そんな可愛い玉美さんに、ちょっとお願い事があるんだけど……いいかな?
「か、可愛いなんて……なんですか? お願い事というのは」
いやね、ちょっと確かめたいことがあるだけなんだ。
これからの私と……玉美さんのためにも、大事なことなんだよ。ものすごく。
「そ、そんな大事なことなんですか……? それは一体……」
うん。
脱いで。
「えっ」
脱いで、玉美さん。
「え、え……え?」
で、脱いだ後にさ。
体、触らせてよ。
「え……ええぇぇぇぇええぇぇッ!!?」
家中いっぱいに、玉美さんの絶叫が響き渡った。