じゃ、開くよ……。玉美さん……。
「は、はい……」
わっ、見て……玉美さん。
ここ、すっごく溜まってるよ……?
「……は、恥ずかしいです。月巫女様……」
恥ずかしくなんてないよ。皆最初はこうなんだから。
少しずつ、慣らしていこうね。
「は、はい……あっ、待ってくださいっ。そこ、だめ……っ!」
なにがダメなの? 言ってくれないとわかんないよ。
もしかして、ここのこと……?
「は、はい。そこ……です……」
そっか、じゃあ……。
ここ、たくさん解してあげようね。
「つ、月巫女様!? そんな、無理矢理……っ!?」
ほらほら、どうなってるのか言ってごらん?
「あっ、そこ……! ひ、開いて……今まで感じたことないくらい……いっぱい、出ちゃってます……っ!」
何が出てるのか、言ってごらん?
「……じゅ」
じゅ?
「“呪力”……!」
じゃ、成功ですねー。
◆
「わぁ……すごいです。これが呪力、なんですね……」
感動したように自分の手を見る玉美さん。その体からゆらゆらと炎のように揺らめく魔力。
その出力は、私が以前彼女とやっていた修行の時には全く出なかったほどの域に達していた。
なぜ突然、玉美さんの才能が開花したのか?
それは簡単に言えば、私が理屈ではなく“イメージ主体”で彼女に魔力の概念について教えたからだ。
今まで私は、自分が理解してる魔力の特性を理論立てて玉美さんに説明して、それに則って効率的に魔力を習得させようとしていた。実は自分なりに炭と石板を用意して魔力の教習を体系化しようともしていたんだ。現代日本語だから読ませられはしないけど。
だけど、そうやって自分なりに魔力理論を組み立ててそれを教えようとしても、玉美さんの食い付きは悪かった……というより、多分半分も理解していなかったんじゃないかなと思う。
それでも私がしっかりと考えていることだけは伝わったから、余計に理解できない自分を責めて……という負のスパイラルにハマっていたわけだ。
それで私は修行を中断せざるを得なかったわけだけど……。
スザンの魔力ダダ漏れ事件を受けて、私はピンときたのだ。
私にとっては愚策にしか感じない魔力をあえて漏らすという行為も、魔力を感じ取れない普通の人にわかりやすく魔力を見せるという点では正解と言えるんじゃないかって。
そこで私は、まず自分の魔力をあえて外に放出しわかりやすい形で玉美さんに示した。
「これは……」
目論見は成功。体外に放出される大量の魔力は、これ以上なく玉美さんにわかりやすい力の流れとして映ったらしい。
次に、私が見せた通りに魔力を放出するイメージトレーニングだ。
私は今まで、魔力とは脳で発生してそこから全身に巡るのだと説明していた。脳で発生する魔力の感覚を掴ませようとしていたんだ。
だけどそれは上手くいかなかった。脳で発生した段階の魔力はまだ微弱で、私のように特別な魔力感覚を持っている人間以外に知覚することは難しかったのだ。
だから、意識するのは下腹部……臍から指三つ分下辺りで魔力を強化して全身に流す仮想の臓器。仮に“丹田”と呼ぶけど、その丹田から私が見せた魔力の流れが生まれるイメージを持たせた。
実際、魔力が実用的な段階に至るのはここからなのでその前の微弱な魔力反応まで認識する必要はないと言える。
ただなぁ、これをすると“命力”を習得する時にかなり……相当苦戦することになると思うんだよなぁ。魔力を脳内で命力に変換する感覚を掴むイメージがしにくいわけだから。
ただ、それを差し置いても“呪力”を発揮するイメージを持つ上では、この“丹田が魔力の出発点”説は有効に作用することがわかった。要するにわかりやすさが重要なのだ。
魔力と呪力、命力の細かい区別や性質の違いなんて教えたところでノイズになるだけ。知識だけあったところで実践が出来なければ意味がない。
それなら最初から魔力……いや、この際頻繁に使う機会が多いだろう呪力だけに絞ってまずはその感覚を掴む修行をする。イメージが最も重要な魔力の操作には、それが結果的に最適だったと気づいたのだ。
服を脱ぎ、裸になった玉美さんの体に心拍数に合わせて全身に呪力を巡らせるイメージを持たせながら、私は彼女が持っている世界観に合わせた魔力トレーニングを施し続けた。
結果、彼女はわずか一日で魔力の感覚を掴むことに成功した。
一度感覚を掴ませると玉美さんはあっという間に魔力の操作を覚え始め、基本的な身体強化と簡易的な魔力探知。あとは放出している魔力を抑える魔力操作の初歩を習得した。今までの進捗のなさが嘘に思えるスムーズ具合だ。
まぁ、これは今までの積み重ねもあってのものだと思うけど。あとは玉美さんの才能とセンスだ。
「私にも……ちゃんと才能はあったんですね……」
呪力を纏い、そう感慨深く呟く玉美さんの目はわずかに潤んでいた。
ほとんどの人はまず魔力を見ることすらできない。感じることも、知覚することもない。そう考えれば玉美さんがかなりの上澄みだということは、私にとっては当然の事実と言ってもいいのだけど彼女はそう考えていないみたいだ。
だけどそれは、私の役に立てていないというイメージと、積み重なる失敗のイメージが本来玉美さんが持っている能力を曇らせていただけのことだ。
玉美さんにもちゃんと才能はある。それをちゃんと実感してもらうことが大事なんだ。
「はい。ありがとうございます、月巫女様」
そう言って、彼女は素敵な笑顔で微笑んだ。
──で、ここからが本題なんだけど。
「……えっ!? ここからですか?」
? そりゃそうでしょ。
玉美さんに才能があるなんて当たり前のことなんだから、今まで魔力を扱えなかったのは私の教え方が間違えてたからだってのは考えるまでもなくわかってたこと。
だからここまでの段階は本来、玉美さんなら出来て当たり前のことだった。それを私の指導力不足で遅らせてしまったお詫びにここからはさらに本格的に魔力強化に入る。
「……つ、月巫女様? な、なんだか目が怖いのですが。見えないのに目が怖いのですが」
いやー、私は嬉しいよ。玉美さん! 私としては玉美さんには色々助けてもらってるし、正直これ以上無理をさせるのはなぁって思ってたんだけどさ。
玉美さんの方から役に立ちたいって言ってくれるんならさ、こちらとしてもそれに応えないわけにはいかないよね!
「あ、あの」
まぁ、まずは基礎練から入ってもらうかな。漏出魔力を0とはいかないまでも、限りなく減らせるくらいまで魔力を調整できるようになってもらおう。最初のうちはすぐ魔力切れで倒れちゃうだろうけど、“命力”で疲労を回復すれば何度でも安心して気絶できるからね〜。
そんで魔力操作の練度がある程度のレベルになったら私と組み手かな。一本取れるまでなら玉美さんのことだし、結構すぐに達成できるんじゃない? 一週間くらい時間あれば充分かな? 別に私だって全力で戦うわけじゃないし。目安はそんくらいかな。
大丈夫! 玉美さんなら楽勝だよ!
「……」
……ん? どうしたの玉美さん?
もしかして他に追加メニューが欲しいとか、要望とかある?
「私、初めて月巫女様を恐ろしいと思ってしまいました……」
? そんな怖い顔してた? 私。
むしろ、今の私は結構機嫌いいし、自分でも良い笑顔になってたと思うんだけどなぁ。
「そうですね……とても、眩しい笑顔でしたわ……」
……なんで玉美さんはこんな死んだ目をしているんだろう。
せっかく魔力を扱えるようになったんだ。これからどんどん強くなれるんだから、そんな暗い顔をする必要はない。
そんな暇もないし。玉美さんを急いで私の代わりになるくらいの強さに鍛えないと。
いつか、私が動けなくなってもいいようにね。