盲目少女が縄文から呪術の開祖になる話   作:ぷに凝

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そもそも、“呪い”とは大気魔力の吹き溜まりから現れる人間の負の感情の化身とでも云うべき存在だ。

 

魔力を扱えない人間が恐怖や悲しみによって増幅させた魔力は余剰魔力として体外に漏出し、それらは負の感情の源泉……わかりやすく言えば“心霊スポット”のような場所に流れ着いていく。

 

山、川、崖など……不慮の死亡事故に遭う確率が高い危険な地形は、それに伴って人々の危険なイメージも強まる。そのため、こうした場所には魔力が溜まりやすく、また溜まった魔力が外に流れにくい。

 

だから山に出てくるような呪いは、強力な個体になる場合が多い。

 

しかし、月読村の近辺の山中では最近強力な呪いが出現することが減った。それは、山に吹き溜まる負の感情の源泉であった月読村の住人達が私の存在で呪いを恐れることをしなくなったからだ。

 

「はぁ……はぁ……!」

「た、斃した……」

 

もし元々この村に出ていた強さの呪いだったら、彼らはこんなに長く戦えなかったし、自前の呪力で祓うことも出来なかっただろう。

 

そういう意味でも彼らは運がいい。この山で呪いと出くわしたことも、私が通りがかったことも。その運の良さを失わないため日々善行を積んで欲しいものだ。

 

と、そんな思いでその場を後にしようとして。

 

「お……月巫女殿! 貴女は月巫女殿ではありませんか!」

 

立ち去る私に向けて、一人隠れていた男が声を張り上げて呼びかけてきた。

 

へぇ、この距離で私に気づくんだ。結構やるね、この人。魔力出力自体は低いけど、よく見れば整った魔力をしてる。

普段から意識して魔力を操る習慣がないとこういうのは身につかない。

 

面白い、と思った私は彼らの前に姿を見せることにした。

 

「あれは……」

「……月巫女」

 

肩で息をしている元使者の男二人は、私を警戒と畏怖の感情が混ざった目で見ている。流石にこの場で戦う気は無いようだ。

 

「──お初にお目にかかります。月巫女殿。私は隣村の高勾村で細工師をしております。“マヒト”と呼ばれております」

 

マヒトさん。というのが初見の彼の名前のようだ。そんな彼は、一目見て達人技とわかる程度には精巧で、そして魔力が込められた装身具を多く付けていた。

 

「月巫女殿。貴女に折り入っての頼みがあり、私はこの地まで足を運びました。率直に申し上げます」

 

感情に恐怖は僅かにあれど、マヒトにこちらを騙そうとするような感情の流れなどは見られず。あるのは固く決まった覚悟の感情だけだ。

 

「私どもを、月読村で匿っていただけませんか」

 

だから私は、その言葉が罠でも嘘でもないことが即座にわかった。

 

 

村に戻ってきた私は、マヒトを自宅に招いて彼が身につけている装身具や道具、その他色々の持ってきた道具を並べて見せてもらった。そのどれもが強い魔力の込められた逸品で、なかなか圧巻の光景と言える。

 

つい最近まで、マヒトは高勾村で“呪具”を製作できる技術者だとして重宝されていたらしい。

呪具というのは簡単に言えば呪力を纏った道具のことであり、主な用途は祭具や装飾品、交易品など多岐に渡る。

 

そもそも自然信仰的な考え方が根強いこの世界では、勾玉や貝輪、骨器などは使われていくうちに自然と魔力が宿る。だからその手の呪術的なアイテムは全て呪具と言えるし、私自身もその認識だ。

 

だけどマヒトが手がける呪具は少し趣が違う。

 

まず、マヒト自身の手先の器用さも手伝って、この時代に生み出されたものとは思えないくらい精巧な造りをしている。

それこそ21世紀の日本のアクセサリーショップでも売り物として通用するレベルだ。細工師が細かい作業をするための道具類なんてほとんどこの時代にはないだろうにどうやったのかと聞いたらなんと道具も自作らしい。最強か??

 

単に精巧な装飾品というだけでも村人の間では“この繊細な造形は神が宿っているに違いない”みたいな認識でより強い魔力が込められやすいが、それよりもっと重要で興味深いのがマヒトの持つ技術だ。

 

それは謂わば、“刻む魔力”とでも言うべき特殊技法。

 

「実際にお見せします」

 

そう言って、マヒトが黒曜石のナイフを持った途端ガラリと雰囲気が変わる。

目、指先、ナイフの刃先に魔力が集中し、未加工の骨角に恐ろしい集中力で精密な模様が彫られていく。

 

それだけじゃない。彫った後の溝に刃先の魔力がまるでインクのように固着して淡い光を放っているのだ。固着魔力はしばらく時間を置いても消えることなく骨器に張り付き、魔力で描かれた紋様を残している。

 

これがマヒトの作る呪具が他とは一線を画す理由。高勾村の戦闘部隊が持っていた強い魔力を放つ木製武器や道具類は、全てマヒトが作り上げたものだったのだ。

 

……いや、すごいな。これは本当に。彫刻の際の微細な魔力操作の練度といった意味なら私を超えている。

強い集中力と落ち着ける環境、必要な道具などを揃える必要があるから、戦闘の際の魔力操作とはまた違った技術だけどそれでも達人技には違いない。凄まじい技術だ。

 

「……私の技をそこまで高く評価してくださった方は、貴女が初めてです。月巫女様。ここに来てよかった」

 

そう言って笑うマヒトに私は首を傾げた。

 

こんなすごい技術を持っているなら周囲から引っ張りだこだっただろう。魔力が視える人間ならマヒトの能力を高く買わないはずがないと思うが。

 

「残念ながら、呪力を見ることが出来る人間は高勾村でも私含めて数えるほどしかいませんでした。しかも、その多くは技術ではなくわかりやすい暴力を信奉しています。私のような手先が器用なだけの男はあの村では穀潰し同然なのです」

 

それを聞いて私は愕然とした。

 

マヒトが穀潰し? もしそうならこの世界に生きる人間のほとんどは穀潰し以下になってしまう。マヒトの技術は下手したら本人以外誰にも使えないかもしれないユニークスキルかもしれないんだから。

 

マヒトを巡って時の権力者が争っても何もおかしくない。そんな男が穀潰し扱いされてるとは。

 

「わ、私を巡って争いが……? それは流石に……」

 

と、マヒトは困惑しながら言った。しかし何も誇張などしていないし、単なる事実だと思う。

すでに呪力を込めることで、木製素材でも鉄のような強度を得られることはわかっている。それなら、マヒトが武器を何本も量産すれば低コストで武装強化が図れる。

 

それに、呪力が込められているということは呪いに対しても有効ということだ。先の呪いとの戦闘も持っていた武器がマヒト製だったら、苦戦すらすることなくあっさり勝てていたことだろう。

 

そこまで考えて、ふと私は疑問に思った。なぜ彼らはマヒトの作った武器を使っていなかったのか、と。

 

月読村に攻め込んできた時には装備していたはずだ。武装があのままだったらマヒトが危険な目に遭うこともなかったと思うのだが。

 

「それなのですが……」

 

マヒトは言いにくそうに私の目……がある場所に視線を向けて言った。

 

「実はですね、先日月巫女様が決闘で下した我が高勾村の術師であるスザン様なのですが。目が覚めた後に敗北の理由として、私が作った武器が悪いと言い出しまして」

 

……?

 

???????

 

「私は怪しげな術で、呪われた武器を作る敵の間者である。というようなことを村で広めたんです。その結果、私は自分が作った呪具を没収された挙句、高勾村に居場所がなくなり……」

 

な、なんだそら。

 

……そもそもアイツ、武器一回も私に当ててないじゃん。

 

「はい。仰る通りです。あの場には私もいましたので、全てこの目で見ておりました。スザン様は間違いなく、実力で月巫女殿に完敗したというのが私の認識です」

 

私もその認識だったけど……なんというか、アレだな。

 

人間って、怖いね!!

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