その後、マヒトは月読村に身を寄せるということで長老と玉美さんの理解も得られた。マヒトはともかく、彼にくっついてきた護衛の3人を受け入れることに玉美さんは明らかに嫌な顔してたけど。
彼らが最初に月読村にやって来た時の態度を覚えているのだ。思えばあの時一番高勾村に嫌悪感を示していたのは玉美さんだった。
「それでも、他でもない月巫女様がお許しになられたのなら私が言うことは何もありませんわ」
……とのこと。
あれはね、言葉通りに受け取ってはいけませんよ皆さん。絶対内心では怒ってるからね。私も玉美さんのことがよくわかってきた。
今度、ご馳走を振る舞うなりなんなりして機嫌を戻してもらおう。
そんなこんなで紆余曲折はありつつ、マヒトを月読村に受け入れたからには、早速彼の持つ技術を活用してもらわないのは嘘だ。
武器や刃物として使える呪具は理由をつけて没収されてしまったらしいが、そうでない呪具は手付かずのままマヒトは村を追い出され、そして決闘の際に一目見た時から気になっていた私の元にやってきたわけだ。
正直、私にとっては用途が戦闘以外限られる武器なんかより魔力の籠った芸術品や祭具の類を見られる方がかなり嬉しいし、収穫がある。
マヒトの呪具は目が見えない私でも、随所に走る魔力の線が輪郭を浮かび上がらせ、幻想的な芸術を成立させている。
その中でもマヒトがイチオシしてきたのは、人を象ったと思わしき土人形……いわゆる“土偶”というやつだった。
土偶はこの村にもいくつもある。元々あったものも、私が来てから増えたものもある。
私、土偶っててっきりなんか異様に胴体と足が短くて? バカみたいな頭の形してて? 目ん玉平べったくて? そんな感じのばっかり想像してたんだけど……ってか、実際そういうのも多かったんだけどさ。
“これ明らかに私じゃん”って一目見てわかるような細かい造形のもあってびっくりしたよね。確かあれ作ったのはリンちゃんだったはずだ。カケと玉美さんからかなりの高評価レビューを貰っていたはず。自分をモチーフにした立体物作られた私は変な顔するしかなかったけど。
……で。マヒトの持ってきた土偶はそれのさらにすごいバージョンだ。
「すみません、あなたを一目見た時から創作意欲が収まらず……ご不快でしたら処分いたしますので」
との枕詞で私の前にお出しされたのは、材料が土ってこと以外現代のプライスフィギュアなんかと遜色ない立体造形の、凄まじいクオリティの“私フィギュア”だった。
「わぁ……きれい……!」
「言い値で買います」
その精緻さに、同業者として感じるところがあるのかリンちゃんが目を輝かせながら隅々までキラキラとした視線を這わせて、玉美さんは何をとち狂ったのか家の家財を持ち出して土偶(?)と交換しようとする始末。
君たち最初マヒトのこと警戒してたでしょうが。あっさり手のひらドリルしやがって。
「ちなみに目隠しパーツを外すと素顔も見えます」
おぉい、やめろ!! そんなもん人前に出すな!!
ってか、いつ私の素顔見たんだよ!
「月巫女様! これは危険な呪具ですよ! 私が所有して誰にも見つからない場所で保管しておきますので!!」
「す、すごい……人の顔をここまで再現できるものなの……?」
二人がさらに沸き立ち、私は慌てて私土偶をマヒトにしまって表に出さないように言った。
危ない危ない、村の中で私の立体物が出回るなんてそんな黒歴史耐えられん。かろうじて阻止できてよかった。
土偶化はライン越えだ。作るなら似ても似つかない感じにしてもらいたい。私が死ぬから。
ともかく、マヒトの技量のすごさは充分にわかった。あれだけ精密な土偶が作れるなら、そりゃ大抵のものは作れるだろう。
だけど私の土偶フィギュアなんかよりずっと重要なのが、魔力を刻むことによる呪具の強化だ。これは今のところ私にも真似できないから完全にマヒトの専売特許。今だから言えるけど、これを最大限活用されてたら高勾村との戦いはもっと泥沼化していたはずだ。
それというのも……。
「こう、ですか?」
そうそう。そんな感じ。緩くカーブをつけながらその先の溝に合流するように彫って欲しいんだ。
マヒトの持つ骨錐が骨の表面を削っていく様子を、私は強い集中力で見つめていた。
「わかりました、やってみましょう」
私の指示通りにマヒトが溝を掘り、魔力の紋様が刻まれていく。
マヒトの技術は人並外れている。加えて視力も優れているようで、指先のほんの僅かな震えも許されないようなミリ単位の繊細な彫刻をいとも簡単にできてしまうくらいだ。
だけど肉眼の視力と、魔力的な視力は別の能力だ。
その点、私は魔力を“視る”という能力にかけてはマヒト以上のものを持っているという自覚がある。大気を流れる微細な魔力粒子の運動も私の眼は捉えることができる。
だから、私が最も最適な形となるようにマヒトの指先を導いて、マヒトが寸分の狂いなく私のガイド通りに魔力を刻むことでこの“魔力彫刻”は持ちうる最大の潜在能力を発揮出来るのだ。
「──できました」
極度の集中状態と長い静寂の末、完成したのは一本の“骨針”だった。
長さ50mm程度の細い針の表面には、まるで自然に存在する幾何学模様のように魔力による光の紋様が刻み込まれている。
この針の材料となったのは、餓骸の呪い事件が解決したあと依然として呪いが残っていた人骨のうちの一片だ。形状からして抜き取られた犬歯だと思われる。
曰く付きの品なので玉美さんはこれを材料に使うことに少し眉を顰めたが、私が使うならという限定条件付きで許してくれた。
それを削り出し、加工して、魔力を刻んで“呪具”と化したこの骨針には糸を通すための穴が開けられている。しかし今は糸を通していないし、そもそも通す必要がないのだ。
何故なら……。
“針魔弾”!
ヒュッ──と手で銃を形づくり、指先を伸ばした方向に呪力を纏った骨針が弾丸のような速度で射出される。
針はまっすぐ、私が狙っていた木製の的の真ん中に的中。表面を穿つとともに、パカッと的が縦に割れた。
「お見事です、月巫女様」
パチパチ──と玉美さんの賞賛と拍手の音を気恥ずかしく聞きながら手首を捻ると、手元に今しがた放った針魔弾が逆再生のように戻っていた。
骨針に空いた穴には糸が通っている。ただし、魔力でできた糸だ。これを掴んで引き戻すことで、何度でも針魔弾を使い回すことができる。
魔力の針と糸を用いた遠距離攻撃、“針魔弾”。
本当なら高勾村との戦いで使うはずだった私の奥の手が、未使用にも関わらずマヒトの技術によって進化した。
“針魔弾”は、魔弾の燃費に悩む私が低燃費で最大の威力を発揮できる方法として開発した技だ。本来は針の方を魔力で構成してそれを撃ち出すもの。魔力消費が少ないこの魔弾であれば一度に放てる数は30発を超える。
それが針を“呪具”で代用し、糸を呪力で構成すれば実質ロス魔力はほぼ0。私の魔力が尽きない限りは何度でも使えるというわけだ。
だけど、本来なら魔力で作った糸なんて脆いものは針を撃ち出した瞬間に切れてしまうか、伸び切らず威力を殺してしまうだけの代物だ。
それを実用レベルまで強化したのがマヒト製“骨針”の凄さ。
本来弱いはずの魔力糸の強度を、この針に繋げている限り飛躍的に引き上げて滅多なことでは切れない丈夫な糸に変える。また、飛翔距離に応じて私から自動的に魔力を引き出して糸を生成し、針自体が勢いを失うまで飛び続ける。
そういう魔力的な効果を付与した針なのだ。
これこそが、マヒトが持ち込んだ技術の真骨頂。
魔力流を特定のパターンに当てはめて、その連続で形成された紋様が様々な効果を引き起こす。単なる強化でなく、より多様で応用の利く能力を編み出す。
それは謂わば……。
“術式”と呼べる代物の発明だった。