盲目少女が縄文から呪術の開祖になる話   作:ぷに凝

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私、魔力が見えるんです!!

 

こう言うと、ネットによくいる危ない人みたいだな。

 

だけど実際そうとしか思えないものが私の目に見えてる。錯覚……ではないと思うんだよな。私が体を動かしたら魔力も同じように動くし、細かい体の輪郭まではっきりと見えるんだ。

 

にしてもマジ手ちっちゃいなこれ。お箸より重いものは持てませんなんて言葉があるけど、それすら持てるか怪しいぞ。

 

魔力は私の体の中をゆっくりと動いていて、全身を巡っている。魔力なんじゃなくて血液が可視化されてるだけなんじゃないかとも思ったけど、血が通ってない爪先や髪の毛にも魔力が通っていたのでそうではないとわかる。

 

それに、この魔力の出所は心臓じゃなくて頭だ。

 

体を流れる魔力の流れを遡って辿ると、最終的にそれは頭から降りてきていることがわかる。頭から湧き出て全身を巡って、そしてまた頭に戻っていくんだ。多分これは頭というより、脳だ。

 

この魔力は、意識を向けるとわずかに流れの速さを制御できる。早くしようと思ったら早くなって、遅くしようとしたら遅くなる。取り立てて劇的な変化ではないけど、腕も足も使えない私にとって唯一自由になるのがこの“魔力”だった。

 

大気中にも魔力は漂っているけど、体の中の魔力に比べて大気中の魔力を動かすことはできない。ただ、体の中の魔力と性質は似てると思うから頑張ればなんとか出来る……かも? わからないことが多すぎる。

 

とりあえず、今はこの魔力をもっと上手く動かせるようになりたい。なんでかって? それ以外することないからでーす。

 

というわけで暇つぶしがてら私は持てる時間を全てこの魔力操作に充てた。

 

早くする。遅くする。逆流させる。渦を巻く。せき止める。せき止めてから解放する。するとすごい勢いが出て面白いのでもう一回。もっと長い時間せき止めてもう一回。加速、加速、加速。

 

そうこう遊んでいるうちに、最初はわずかに魔力の流れを早くしたり遅くしたり出来る程度だった私の魔力に対する操作の技量は、体内の魔力を自在に操作できる程度のレベルまで上達した。

 

そして、わかったことがいくつかある。

 

まず、魔力は加速させれば加速させるほど強い力を生む。というのは、加速した魔力を体に巡らせるとあれほど弱くてうんともすんとも言わなかった足に力が入るようになったのだ。ほとんど力むこともできなかった腕も、強く握りしめるだけの握力が戻った。

 

そして、魔力を加速し続けるとその内私の意識は朦朧としてきて最後には気絶する。これは多分、いわゆる“魔力切れ”というやつなのだろう。しばらくすれば意識は戻るけど、体は倦怠感と虚脱感に包まれる。

 

魔力を加速させればさせるほど、意識を失う間隔も短くなって気絶時間は長くなっているのだろうけど、それも魔力以外なにも見えない真っ暗闇の中じゃ正確な時間は測れない。

 

そしてこの気絶までの感覚と気絶時間も、何度も魔力切れを起こすほど短くなっていく。正確には、多分魔力切れを起こしてるから短くなってるんじゃなく魔力操作が精密になってるからだ。

 

転ぶとわかっていれば受け身を取れるように、何度も加速魔力を使い続ければ魔力切れまでの感覚が体感でわかるようになる。だからそろそろ魔力切れを起こしそうだとなったら、その直前で魔力操作をやめる。すると自然と体を包む疲労は薄れていく。

 

魔力は自然回復するのだ。

 

回復したらまた再び魔力操作を繰り返す。どうやら魔力というのは激しく動かすと、勝手に体内から体外に放出されてしまうものらしい。その分減った体内の魔力はまた自然に回復するけど、魔力切れを起こすまでの間隔は短くなる。

 

だから魔力を取りこぼさないように、体の隅々まで魔力の動きを把握して繊細に動かしていく。そうすると魔力を加速させるのは難しくなるけど、それを落とさない。スピードを維持したまま精度を上げる。難しい。失敗する。もう一回。また失敗。

 

失敗、失敗、失敗。

 

成功する。

 

そうしたら、今度は魔力をもっと加速させる。そうすればもっと強い力を出せる。腕に力を込めた。

 

ギシッ、という重い音がして、わずかに腕枷の形が歪んだ。

 

魔力を際限なく、どこまでも加速し続ける。流れが早くなって一瞬でも気を抜けば魔力が体の外に全部出ていってしまいそうな勢いがある。それをほんの少しも溢さない。やっぱり難しくて何度も失敗するけど、少しずつ感覚が掴めてきた。失敗すればするほどなぜ失敗したかを分析して改善していく。

 

魔力の動き方、流れ方、流しやすい性質と流れにくい性質。魔力には性格がある。それを把握して、自分から流暢に流れるようにしてあげれば、わざわざ押さえつけたりしようとしなくても魔力は勝手にロスなく流れる。

 

それを体得した頃には、私は両足で立って跳ねることが出来るようになっていた。

 

魔力はどこまでも速くなる。脳から出発した魔力が一瞬で体を巡って、次の瞬間には脳に戻ってきてまた出発するというくらいに速くなった。最初の頃は魔力は丸一日かけて全身を巡っていたように思う。

 

速くするだけじゃなく、魔力を体の一部に集中させることでさらに集中的に力を高めることができると気づいた。それをすると全体の魔力の流れが乱れそうになるけど、そうはならない。

 

すでに私は、何が起きても魔力を取りこぼすことがなくなっていた。

 

どんなに加速させても、どんなに変則的に魔力を動かしても。私の体の中を流れる魔力の量は一定だ。

いや、むしろ増えている。どんどん増えている。私の体の中を流れる魔力の総量は、目算でも最後の頃の100倍くらいにはなったと思う。もっとかもしれない。

 

それでも魔力はまだ加速できるし、まだ増え続ける。

 

最近、魔力を流しているだけで体が熱く火照るようになってきた。熱を出して体調を崩しているわけじゃない。むしろ体の奥から無限に、膨大な力が湧き出てくる感覚がする。

 

意識は研ぎ澄まされて、目は見えないのに周りの様子が目で見るよりもずっと鮮明に見ることができる。ここはどうやらどこかの洞窟の中だったらしく、岩や石、洞窟内の小生物の呼吸に至るまで感じ取れる。

 

私の体は細いけど、最初の頃のように病的で不健康な細さではなく、しなやかな筋肉がついた健康的な細さを見せるようになってきた。魔力による身体強化は、運動と同じような効果があるんだと思う。

 

まだ魔力は鍛えられるし、もっと魔力操作の精度を高めることもできる。やろうと思えば、一生これだけで時間を潰せるほどに魔力の世界は奥が深い。魔力をうまく操れるようになればなるほど、私は魔力についてまだ全然理解していないことが体感で理解できる。

 

魔力は無限のエネルギーだ。使い方次第でどんなふうにもなれる万能の力だ。もっと上手く魔力が扱えるようになれば、どんなことだって出来る気がする。

 

だけど今は、目の前の問題を解決しないとね。

 

私は腕を軽くぶんと振った。

 

パキッ、という軽い音とともに手枷が弾け飛んで私の腕から外れた。

 

これくらいなら、魔力の流れを読んで軽く力を加えればわざわざ魔力で体を強化するまでもない。

 

そしてすたすたと歩くと、洞窟の壁にぶち当たった。

 

この壁の隙間から風が吹き込んでいる。壁の向こうに大きな空間があるのだ。手を当ててみれば、この岩壁が見た目よりも薄いことがわかった。

 

私は右手を掲げ、そこに僅かに魔力を集中させた。

 

そして、腕を振りかぶり……。

 

撃ち出す。

 

──!!!!!!

 

爆発音がした。

 

そうと錯覚するほどの勢いで岩壁が吹き飛び、爆散する。拳を打ち出したところを中心に、薄かった岩壁の部分はもろとも吹き飛んで、そうでない部分も大きく抉れてぱらぱらと砂を落としながら崩れている。

 

そして目の前に広がった光景は……。

 

広大な世界だった。

 

空には天高く太陽が上り、草の絨毯を青々と照らしている。

 

気持ちいい風が吹き遊び、長く伸びた私の髪を揺らした。

 

太陽と風の祝福を受けながら、私はこの世界があの真っ暗闇だけじゃなくて良かった。と、心からそう思ったのだった。

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