盲目少女が縄文から呪術の開祖になる話   作:ぷに凝

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──世はまさに、大呪術時代。

 

なんて言うと、なんだか世界を股にかけた大冒険でも始まりそうな雰囲気だけど、実際に起きていることは小さな村でちょっとしたイノベーションが起きて呪術トレンドが盛り上がっているだけだ。

 

しかし、規模は小さくても今起こっていることは確かに呪術の歴史に刻まれる記念すべき瞬間なのだと私は確信してる。

 

それは月読村中心部に存在する環状列石機構……俗に言うストーンサークルに村中のみんなが集まって、見よう見まねながらも普段、私がやっている祈祷や舞などをこぞって真似している様子からもわかる。

 

マヒトが村にやって来て、「術式」が発明されてから幾ばくかの月日が経った。

 

私は術式を刻んだ呪具をマヒトと共に作りまくった。骨針の成功でスーパーハイテンションになっていたというのもあるが、新しい術式の効果を見つけるたびに子供のようにはしゃいでは試して作る。その繰り返し。

 

私はともかく、マヒトは不眠不休で呪具の作成に取り掛かっていたせいで一度倒れた。

何度も何度も「休め」と言ったのに「この作業が終わったら」の無限ループで結局気を失うまでずっと彫刻ナイフを握り続けていたのだ。

 

一日中寝込んで目が覚めたと思ったら、起き抜けにナイフを探し出して「呪具を作らせてください」だの「一日も時間を無駄にしてしまった」だのと全く反省の様子すら見せない。

 

私がいなければ術式を刻むことは不可能なので体調が万全になるまで休ませたが、本人は非常に不服そうな様子だった。

呪具を作っている最中に「無理」とは一言も言わないくらい職人としての姿勢が極まっているマヒトが、ナイフを握らせない私への愚痴を漏らしていたという程だったので相当だ。

 

マヒトが戦線離脱をしている最中は、リンに細工を担当してもらった。月読村の中では元々彼女が一番手先が器用だったからね。寝込んでいるマヒトに口頭で技術を教わりながら、マヒトには及ばないまでも丁寧で綺麗な仕事ぶりを見せてくれた。

 

……マヒトの指導方法が相当スパルタだったらしく、リンも一時期ノイローゼ気味になっていたが、カケと二人きりにして一日家の中でシケこませたら元気になった。カケが何故かげっそりしていたが理由は知らん。知らんったら知らんのだ。

 

そんなすったもんだはありながらも、術式の開拓自体は着々と進められていく。

 

だけどその作業自体は非常に地味というか、延々と答えの出ない数学の問題を書いては消して書いては消してを繰り返すような出口の見えない遠大な道のりだったりする。

 

術式を構成するには、そもそも魔力的に定められた特定のパターンを踏襲する必要がある。しかし、魔力を安定して一方向に。紙の上に線を引くように流すというのはそもそも人間業とは言えないくらい繊細な作業だ。

 

魔力は僅かな感情の揺らぎや出力の強弱によって、水鉄砲とバケツをひっくり返した時の水量のような極端な出力の差が出来る。

僅かな魔力量用に設計された術式に、少しでも許容量以上の魔力を流し込めば途端に術式は崩壊して成り立たなくなる。

 

必要なのは安定した作業環境と、魔力制御能力に長けた人間。

 

そして術式を刻むための基盤となる骨・木・石などの素材もまた大量に必要となった。

だが、それらの材料の使用用途は何も術式だけじゃない。生活に必要な道具や武器としての用途の方がずっと重要になる。

 

今は他でもない私が必要としているということでみな融通してくれているが、村の生活を圧迫してまで術式に傾倒するわけにはいかない。そもそも私には他の仕事もあるしね。必要なものは自分で調達するべきというのが私なりのポリシー。

 

それに私が一体何をしているのかは、マヒト以外の村人にはてんでわからない。呪力を扱えるようになった玉美さんですら術式の話になると宇宙を見た猫みたいな顔するからね。

 

だから大事なのは成果。私がやっていることはこういうものを作るためにあるんですよーという分かりやすい成果物が必要だ。

骨針は私専用だから置いておいて、生活に根ざして効果がわかりやすい中で、さらに素材が簡単に調達できて術式も複雑でない……というバカの願い事みたいなものを叶えた代物が必要になる。

 

ただ、骨針を作成する途中で必要はないながらも面白い効果を持った術式はいくつか発見したので、それらを活用して4つほど日用呪具を作成した。

 

一つ目は「方向固定の矢羽」で、これは矢の安定飛行と命中率向上を目的として揚力の微調整を行う。彫り込みは獣骨か木製の矢羽の根元に「楕円で一周」という単純なもの。単純ながらも、これ一つで村全体の狩猟効率は跳ね上がる。

骨針にも同様の術式は活用していて、すでに実績もあるしね。

 

二つ目は「衝撃吸いの腕輪」。落下、打撃等の際に生じる瞬間衝撃を呪力で少し逃す。獣皮と木の輪のセットで、内側に衝撃の流れを側面へ逸らす曲線の彫り込みが施されている。狩猟事故の減少に直結するし、石器類に同様の術式を刻めば壊れにくくなる。仮に術式が壊れたとしても効き目がなくなるだけで危険はほぼない。

 

三つ目の「増力の楔」は筋力サポート。握った手に僅かな呪力を流し腕の屈筋・伸筋の動きを補助する。増強効果自体は微量だが、それでも女性が男性と同等の力仕事をこなせるくらいにはなるので今までは男手が必要だった作業も村の全員がこなせるようになる。鹿の骨の短い柱に1本の「力の流れ」を強化する彫り込みともう1本の「負荷方向」の彫り込みで成立する単純な術式だ。

 

四つ目「足場の爪」。草履の裏に取り付けて滑りにくくなる。具体的には滑り始めた時の初期運動を呪力で抑え込み、力の向きを少し止める。獣骨の小片を3つ並べることで成立し、彫り込みは直線1本のみ。呪力は“横方向への流れ”を抑える形式。

活躍するのは冬の季節だ。雪や泥で転倒しづらくなって移動の安定性を向上させる呪具は便利を超えて、もはや必須級の装備となるはず。

 

単純で、実用的で、暴走しにくく、簡単な素材で作れて、生活改善効果が大きい。そんなわがままな要望を出来る限り叶えたつもりだ。

何より魔力消費量が少ないから、簡素な魔力吸収機構を取り付けて大気魔力を取り込めば、半永久的に機能するって所が素晴らしい。

 

これらの呪具を作成して、試しに玉美さん含めた村人たちに配って使ってもらった所、凄まじい量の好評レビューが殺到した。

 

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「生活が一変して今まで考えられないくらい便利になりました! もうこれ無しじゃ生きていけません! これであと月巫女様の土偶が枕元にあれば死んでも良いです!」(女性・T氏)

 

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「一式装備するだけで狩猟が段違いで楽になりました。特に“足場の爪”は、長年の悩みの種だった地面のぬかるみから解放されたのでしばらく信じられない気持ちでした。あと、ちょっと月巫女様の甘い匂いがする気がします」(男性・K氏)

 

──

 

一部おかしなレビュアーもいたが、村人たちの反応は概ね好評……いや、好評の域を越えてもはや熱狂の域に達している。それこそ弾みで呪術ブームが到来してしまうくらいの勢いだ。

 

今までは呪具と言ってもそれを使うのは私か玉美さんくらいのもので、さらに効果も限定的なものが多かった。そもそも魔力を扱えない人間には関係ない代物だったしね。

 

だけど術式の発見とそれに伴う呪具の発展は、魔力を持たない人間も引き込み興味を抱かせるだけの効果を持つ威力だった。それは確かだ。

 

しかし私は、喜ぶ村人たちを見ながらこの時気づいていなかった。

 

私がやったことの意味と、周囲に与える影響と、そして呼び込むものの大きさに。

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