盲目少女が縄文から呪術の開祖になる話   作:ぷに凝

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術式を私一人で刻むことは無理筋と言っていい。

 

理由は単純で、私は目が見えない上に指先の感覚が鈍いから。体質的に精密作業に向いていないのだ。

私が魔力で視る視界は、物体の輪郭を捉えることはできても色や細かな造形まで拾えるわけじゃない。大まかな形を把握できても実際に触ってみないと材質や細部の装飾まで把握するのは困難だ。

 

逆に言えば、魔力を流すための溝さえ彫られていれば魔力を糊付けするように固着させることはできる。わかりやすい目印があればこちらも魔力を通しやすい。

 

リンは魔力を扱うことはできないが、手先は器用だ。私が示したガイド通りに溝を彫ってくれれば、出来た導線に私が魔力を流すだけで術式は完成する。

 

だけ、と言うほど簡単な作業ではないけどね。前も言ったけど魔力出力のコントロールは難しいし、魔力を固着させるというのも地味ながら結構苦戦する。

 

私には木工ボンドのイメージがあるから、それを応用して魔力を糊付けしているけどマヒトはどうやってるんだろう。この世界に接着剤ってほとんどないと思うんだけど。今度聞いてみよ。

 

「……あの、月巫女様」

 

作業をしながら、そんな取り留めのないことを考えているとリンから声をかけられた。

普段リンは静かなので、私に対して話しかけてくるのは珍しい……いや、私以外の村人とは普通に話してるようだから私が警戒されてるだけか。

 

リンは、カケが私のことを慕ってるのを煩わしく思っているみたいだからね。私も変に二人の関係を拗らせないようにカケと話す時は気をつけてるんだけど……まぁ、それで簡単に納得できたら話は難しくならない。

 

こういう時、爆美女モテ女さんだったら波風立たないように上手く立ち回れたりするのかもしれないけどね〜。こちら、前世ただのコミュ障オタクだったもんですから。上手い恋愛の立ち回りどころか人とまともに話すのも困難なんすわ。

 

人とまともに話せんってのは今もか。

 

「マヒトさんのことについて、なんですけど」

 

なもんで、てっきりカケについて聞かれると思ってたんだけど話の内容はマヒトについてだった。

なんだろ、指導厳しすぎるから優しくしてほしいとかかな。あの人、仕事に関しては結構頑固だから説得難しいぞ。

 

「あの人は……信用できるんでしょうか」

 

……とか思ってたら、結構真面目な話っぽい。

 

私は作業の手を止めてリンに正面から向かい合った。

 

「いえ、私も同じような仕事をしてきたので尊敬はしてるんです。私よりずっと彫刻も上手いですし……ただ、その。なんというか」

 

そこで言い淀んだリンの次の言葉を、私は黙って待ち続けた。

 

「……何を考えているのかわからない。と言いますか」

 

私はそれを聞いて、目を瞑って(視界変化無し)考えた。

 

マヒトは口数が多い方ではない……というか、玉美さんから話を聞く限り私以外の村人とは殆ど話してもいないようだった。

しかし態度が悪いわけではなく、話しかければ答えてくれるし質問にも丁寧に返してくれる。だけどマヒトの方から自分語りをすることは滅多にないし、積極的に話しかけたりもしない。

 

私から見れば単に「寡黙なんだなー」で終わる感想だが、閉じた村社会である月読村ではそうもいかない。

 

マヒトと彼の護衛3人は余所者だったのだ。それも、月読村に襲撃をかけてきた高勾村の人間……護衛たちに至っては、まぁ最初の私とのコンタクトの時お世辞にも丁寧な対応だったとは言えない態度だったし、その噂はすでに村中に広まっている。

 

簡単に言えば、マヒトたち4人は村人から疎まれているのだ。

 

──私がこの村にすんなり受け入れられた、というか歓迎されたのは村の中心人物でもある玉美さんの紹介があったからだし、何より呪い騒動を解決した立役者でもあったからだ。

 

私も村に馴染むために真面目に「呪術師」をやったり、色々とみんなの仕事を手伝ったり、交流したりした。自分で言うのもなんだけど、そりゃこんだけ色々やったら信頼されるのも当然かもなぁ、と客観的に見て思う。

 

あと、多分私の見た目も関係してる。ってかこの比重が結構大きいと思う。特に男性陣は。

 

その積み重ねが、マヒト達にはない。

 

マヒトは自分の仕事で忙しいので仕方ない面もあるが、問題は護衛3人だ。

彼らは別に穀潰しというわけではなく、狩猟や採集にも行っているしちゃんと働く。それはいいんだが……なんというか、他の村人と軋轢を生むことが多いらしい。

 

ぶっちゃけ言うと、月読村を見下しているような雰囲気があるわけだな。

 

別にはっきり口や態度に出すわけではない。この村は高勾村を追い出された彼らを匿っているわけだし、その立場を理解してないわけじゃないから。

 

ただ、村のやり方や風習に対して色々と口を出してきたり自分たちのやり方を押し通そうとしたり、事あるごとに「俺たちのやり方はこうだ」と言って無茶を通そうとしてきたり。

 

村に馴染もうとそれなりに努力した私と違い、彼らは村のやり方を尊重しない……いや、出来ないのだ。

 

そのせいで村人達の反感は溜まり、こういう時いつもガス抜きをしてくれる玉美さんも彼らと険悪な雰囲気になっているせいで排斥ムードは高まるばかり。玉美さんも口には出さないが、滲み出る感情から「なぜ月巫女様は彼らを追い出さないのでしょうか」と考えているのは察せられた。

 

思うに、多分そこには高勾村の価値観が反映されている。つまり、規模の大きい我らの村のやり方こそ正義であり、小さな村は我々に従うべきである……という根底の価値観。

 

それは高勾村の住人達の態度の至る所から感じられたし、村伝いに聞く噂でも実際、高勾村はそんな感じらしい。

 

ちなみに、月読村襲撃以降、私の噂を聞きつけた村外からの商人達が頻繁に訪れるようになった。なんでも、あの高勾村に一泡吹かせた“熊の巫女”がいるとの噂が周辺で流れているらしい。

 

熊の巫女とはなんぞやと思ったら、噂では高勾村の呪術師は熊と見紛うような体躯を持った怪物巫女に襲われ、善戦したが惜しくも敗走した。と、まるで私が悪者かのような見聞が広まっていたようだったのだ。

 

玉美さんはその噂に憤慨していたが、私は“熊のような巫女”という部分に笑ってしまった。どう見たって私は熊ではないし、私と会った商人も「ずいぶん想像のお姿と違った」と驚くことが多い。

 

その上で村を襲ってきた高勾村を返り討ちにしたのは本当だ、と話すと「やはり噂は当てになりませんなぁ」と笑いながら帰っていく。噂を聞いた人間がまた何人かは来るだろう。

 

この時代では村の外の情報を知る手段は口伝が全て。噂に尾鰭と背鰭が付いて羽が生えて空を飛んでも、それが嘘か本当かは誰にもわからない。

 

閑話休題。

 

ともかく村から疎まれている護衛3人のイメージが、マヒトにも影響しているのは明らかだ。それがリンの「何を考えているかわからない」という言葉に繋がっているのだろう。

 

……いや、単に喋らないからかもしれんな。私はマヒトの感情が読めるからあいつがただ職人肌で仕事中毒なだけの男だってわかるけど、そうじゃない人から見たら延々とナイフ持って呪具を作ってるだけの男だ。そりゃ警戒されるのも当然か。

 

正直言って、私は護衛の男たち3人に関してはこのまま反省が見られないなら近いうち村から追い出そうと思っていた。マヒトにも話したら呆れながらも「構わない」と言っていたし、元々そんなに深い仲ではなかったんだろう。

 

だけど奴らの行動がマヒトにまで影響するなら話は別だ。流れでマヒトまで村から追い出さなきゃいけないということになりかねん。

 

……よし、決めた。

 

ここらでいっちょ、村人たちのストレス解消のためにも。

 

“お祭り”を開こうか!!

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