盲目少女が縄文から呪術の開祖になる話   作:ぷに凝

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「ここが噂に聞く“月読村”か」

 

村の入り口で、私は感慨深そうに呟くアマネちゃんをまた感慨深そうに眺めていた。

 

あ、ちゃん付けは本人に許可取りました。どういう意味かはわかっていないようだったけど、尊敬する人物への愛称みたいなものと大嘘をこいたら許可してくれました。

 

かかったな……せいぜい可愛く呼んでやる……!

 

「祭のことも聞いておる。其方達さえよければ、妾も参加させてもらいたい。そのために、妾の村からいくつか特産品も持ってきたからのう」

 

ええ、ええ。是非ともアマネちゃんも参加してください。祭は人が多ければ多いほどいいですよ。

 

私は彼女と仲良くしたい。何故ならアマネちゃんは私の中で“のじゃロリ”属性持ちキャラとして不動の地位を築きつつあるからだ。是非お近づきになりたいですよね……!

 

なぁ、みんな!!

 

「月巫女様がお認めになって、“月祭”が盛り上がるのであれば。お客様をお呼びすることに異はございません」

「私もいいと思うけど……なんか月巫女様テンションおかしくない?」

 

ふふ、何を言うかねリン君よ。

 

今はお祭り直前だよ? このワクワク感が徐々に高まっていく感じ! 当日に向けて準備が進められていく高揚感! そこに来てこんな面白そうな来賓の方を招待できたんだから、テンションぶち上がって変なノリにもなるでしょうが!!

 

「月巫女様がこんなにお祭りを楽しみにしてくださるなんて……! 俄然、気合が入るというものです!」

「なんか、お祭り以外の理由を楽しんでる気がするんだけど」

 

お祭りもそれ以外も、私は全てを楽しんでいますとも。

 

「……良き村じゃ。活気に溢れ、民が明るく笑っておる。支配と力に怯える者たちの顔は、ああはならん」

 

遠目から、アマネちゃんがそう言って満足げに頷く。

 

──アマネちゃんは、この月読村から三日ほどずっと北へ向かった先にある山の麓にある、小さな村の呪術師だったらしい。

 

なんでも彼女は村の近くを流れる川の上流から、どんぶらこどんぶらと川を降って村にやって来たのだそうな。

村の人たちはそんな彼女を、天がお与えくださった神の子だと信じて神の声を聞く者として育てられたのだと。

 

「実際にどうであったかは知らん。大方、外から来た妾を受け入れるための方便であったのだろう」

 

桃太郎みの深いびっくり誕生エピソードを、アマネちゃん自身はそう言ってばっさり切ってしまったけど。

実際、アマネちゃんには魔力を扱う才能はあると思う。今はまだ未開花状態だけど少しの修練で化ける可能性を秘めている。

 

そんな彼女が、一体何を思って遠いこの村を訪ねて来たのか。

 

「……今はまだ少し、時間をくれぬか」

 

そう言って、アマネちゃんは語らなかったけど。

 

アマネちゃんが背負う荷袋には、食料や水といった必需品のほかにも、淡い魔力が籠ったお守りのような品がたくさん入っている。

そしてそれらを気遣ってか、アマネちゃんは袋を扱う時とても慎重になるのだ。

 

そこに入っているものが、少しでも欠けてしまったりすることがないように。そんな強い感情が伝わってくる。

 

それと同時に伝わってくる深い悲哀と寂寥感。喪失感。諦念と恐怖と絶望……そんな胸に渦巻く途方もない負の感情を、アマネちゃんは一見表に出さないように振る舞っている。

 

彼女がボロボロだった理由も、「私に会いたかった」と言うのにその理由を語ろうとしないことも、遠くの村に住んでいるはずなのに帰りの物資がないらしいことも。

 

全てはアマネちゃんが「語るべき」と判断した時に明らかになることだ。それまで私はアマネちゃんを村に置いておいてあげたいだけ。

彼女は何かを背負ってここに来た。そして、それを託せる相手かどうかを私を見て見極めているのだと思う。アマネちゃんの沈黙の理由はそんなふうに推測できる。

 

それなら私は、普通に振る舞いながらいつも声に寂しさを滲ませる彼女が、少しでも寂しく感じないように明るくしたい。ただそれだけのことだ。

 

心配せずとも、これから始まるお祭りは落ち込んでる暇もないくらい慌ただしくて忙しいものになるだろう。

 

だってこんなにも、みんなの感情が興奮でいっぱいになっているんだから。

 

 

村の中心、ストーンサークルに囲まれたそこは私のような呪術師にとって重要な場所であり、重要な儀式などはこの場所で執り行われる。

 

ここは祭りの開催前から立ち入りが禁止され、杭・石・縄・焚き火の位置などもあらかじめ干渉しない位置に設置される。死に近い老人や出産直後の女性などは遠ざけられ、呪術的干渉を避ける。

 

私はここで祭りが行われている最中、朝まで夜通し踊り続ける。

 

「宵渡り」と呼ばれており、夜明け前の生者と死者が最も曖昧になる逢魔の時間。村が“向こう側”に引っ張られないために夜の始まりから終わりまでを一続きにするために必要な舞なのだ。

 

「宵渡り」のため、私は祭りの前日から村人たちとの交流をほとんど断って話してはならない。元々あまり話さないが、会うことすら厳しく制限される。

 

ぶっちゃけ暇で暇で仕方ないが、こっそり魔力の基礎練をやって時間を潰していれば特に苦痛でもない時間だ。魔力の修練は場所や時間を選ばずできるのが最大の長所だよね。

 

そして“月祭”当日。私は普段の動きやすさを重視した格好から一転してこの村の“巫女”として相応しい姿へと着替えることになる。

 

舞のための装束は以前までこの村の呪術師をしていた玉美さんの兄が使っていたものを、そのまま私も利用するつもりだった。しかし玉美さんの強い反対があり、全て一から仕立てることになったのだった。

 

そうして私が身につけることになったのは、マヒトが作成した私専用の“呪装具”だ。

 

首から胸に垂れる細い紐状の呪装具には植物繊維と私の髪を編み込んでおり、先端に連結して繋がっている6個の小さな骨片、牙が首にかけると胸の中央に垂れ下がる。

掘り込まれている術式は単純な呪力増強効果。単純ゆえに効果は高く、私の髪を編み込んでいることもあってか目に見えて魔力の流れ方が変わる。

 

手首・足首にも呪装具が取り付けられ、それらは私が舞を踊るごとに石や骨が音を立てて音色を奏でるようになっている。

舞を踊る上で、音色というのは重要な要素。体を揺らすごとに鳴る軽やかな音が魔を遠ざけ、神に呼びかける声となるのだという。

 

こちらは術式を刻んでいない、単なる呪力を込めただけの呪装具だ。

 

普段着ている着物も取り替えられ、しっかりとした材質の布の衣装へと着替えることになる。私の肌や髪の色に合わせた、白い装束だ。なんでも、この時代で布を綺麗な白に染めるのは難しいのだとか。

呪装具だけでなく、マヒトが手がけた精緻な作りの装飾が衣装を飾り、どうにも自覚が足りない私の呪術師としての格を高める手伝いをしてくれている。私には見れないが、さぞ華やかな印象の女がそこにいることだろう。

 

正直、私は魔力が絡むならとにかく儀式とか伝統とかには全く疎いしその感覚が鈍い。だから「宵渡り」のための衣装のデザインはほとんどは玉美さんにお願いしていたんだけど……まさかこんなにすごいものを持ってくるとは思ってなくて、若干引き気味だ。

 

「──大変よくお似合いです。月巫女様。本当に綺麗ですよ」

 

それでも、私がこの世界の誰よりも、心から安心して全てをたくせる玉美さんが私のために仕立ててくれた衣装だ。

動きづらいし、一動作のたびにしゃらんしゃらん鳴って正直鬱陶しいとも思わなくもないが、それでも私は私のやるべきことをやるだけ。

 

私は準備を終え、夕刻となった月読村でみんなの前に姿を現した。

 

突き刺さってくる村人たちの視線には……驚きと、感嘆と、賞賛と、陶酔などの色が多くあって。私は最初にこの村に来た時のことを思い出した。

 

さぁ。

 

「月祭」の開催だ。

 

──おぉおおおぉぉぉ!!

 

村中から喝采が沸き起こり、大きな大きな祭りが始まった。

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