盲目少女が縄文から呪術の開祖になる話   作:ぷに凝

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「月祭」は盛況の開宴となった。

 

骨髄を使ってもいいということで、私が提案したコラーゲン、鹿肉、山菜たっぷりの健康スープもウケがよく……多分、味ってよりは私が考案したメニューだからっていう理由で好評で、村の外からもアマネちゃん以外に何人かの来客があった。

 

高勾村の時とは違い、彼らは丁寧で穏やかな物腰の人が多かったので特に大きなトラブルなどもなく祭りは進行。

 

とは言っても、花火も屋台もゲームもないお祭りだ。私からすればちょっと物足りなく感じてしまうかなーと思わなくもないんだけど、そうはならなかった。

 

その理由が、私が村の中央で舞い続けている「宵渡り」だ。

 

ハッキリ言って、ただ踊っているだけ。衣装も普段と比べれば豪華になってはいるけど、派手な装飾や荘厳な社のようなものはなく、何もない殺風景な広場で一人の女が舞っているだけの光景なんて、みんな背景みたいなものと思って興味ないんじゃないかと思ったけど。

 

めちゃくちゃ見られてる。というか、祭りに参加してるほぼ全員が私の周りに集まって一挙手一投足を見逃すまいと凝視されている。

 

比喩でもなく、本当に全員それくらいの真剣さで「宵渡り」を見ているのだ。私個人は別にファンサもなにもせず、型通りに舞っているだけ。

玉美さんが楽器を吹いて場のリズムを作ってくれてはいるが、それでも現代のアーティストによるライブとか知ってる人間からすると少々味気なく感じてしまうものだが。

 

観衆はとても静かに、私の舞を食い入るように見ていた。

 

軽やかな笛の音と、しゃらんしゃらんと静かに響く飾りが揺れて立てる音。

踊りの型は、私が普段修練の際に通しでやっている武術の型を基本にしている。

 

武と云うよりは舞。舞踊というわけだ。

 

そんな無骨な舞にここまで注目が集まる理由は……まぁ、私が目隠しを隠して、素顔で踊っているから。なんだろうね〜、多分。

その証拠に舞に集まる視線はよく動く手足よりも、貌に大分偏っているように思う。

 

まっ、こういう反応は正直もう慣れてしまったので、それはいいんだけども……。

 

視線に乗って届く魔力の性質として、正の感情より負の感情の割合が多いほどより強く視線を感じるというものがある。

ぶっちゃけ言うと、普通の視線よりも邪な視線の方がわかりやすいし伝わりやすいってことだね。

 

だからこそ私は敵意や悪意に敏感で、普段から危険察知能力も相応に高いわけだけど。

 

観衆の中に何人か……そういう類の悪意を持って私を睨みつけている人間がいる。や、睨みつけているっていうのはそう感じるってだけで。実際には側から見れば普通に見えるのかもしれないけど。

 

それは高勾村からの使者との初遭遇の時に感じた、あの粘ついた悪意の視線と同質か……それ以上に深い悪意を持った視線だ。

そして、視線をちらっと向けると、視線の先にいたのは例のマヒト護衛組の3人だった。私と一瞬目が合うとさっと視線を逸らしたけど、その動作が彼らが悪意の視線の主であることに何よりもの証明となる。

 

私としては、彼らがちゃんと真面目にこの村で働くのであれば受け入れても良かったんだけど……これは無理そうだね。

私に何かする勇気も胆力もないだろうが、村の女子供といった弱い人たちに何をするかわかったもんじゃない。

 

強い人間のご機嫌を表面上は取って、溜まった鬱憤を弱い人間に当たり散らして発散する。あれはそういうタイプの人間だ。

 

祭りが終わったら、あの3人にはこの村から出て行ってもらおう。

 

……はぁ〜あ、舞に集中しなきゃいけないのにヤな気分なっちゃったな。せっかく玉美さんやマヒト、村のみんなが用意してくれた衣装と舞台に申し訳ない。

 

この埋め合わせは、全力で舞を踊ることで見逃してもらおう。

 

「おぉっ!」

「舞が激しくなった……!?」

「月巫女様〜! 素敵よ〜!」

「こら、静かに! 集中して見れないだろ!」

 

テンポアップした私の「宵渡り」に、一瞬遅れた玉美さんの演奏がすぐさま歩調を合わせてくる。さすが玉美さん。即興のアドリブにも素晴らしい対応力。

 

幸い、私の魔力由来の無尽蔵な体力は、朝までこの激しさの舞を踊ることを許してくれるだろう。長い時間やる分見る人を楽しませられるように努力はする。

教えてもらった伝統的な舞からは少し逸脱してしまうけど、どうせ奉納してもらうなら神様だってキレのいいダンスの方がいいでしょ。

 

「月巫女」と呼ばれるだけの実力はあるのだと。悪意や敵意だって跳ね除けられる強さがあるんだって思われれば、煩わしいこの不快な視線だってそのうち消えてなくなるだろう。

 

故に私は舞い続けた。夜が深くなって、時間の感覚が遠のいていく中で、ひたすらに舞い続けた。

 

 

……「それ」に気づいたのは、家にも帰らず広場の周りで村人たちが寝息を立て始め、流石に疲労が色濃く見え始めた玉美さんに合わせて舞のペースを緩やかに落としてからしばらくのことだった。

 

村を、呪いが囲んでいる。

 

私は舞を止めた。

 

「? 月巫女様……?」

 

玉美さん、悪いんだけど一回中断させてくれる?

 

村の周りに呪いが集まってるんだ。

 

「! まさか……」

 

そう言って、玉美さんは驚いた。

 

それもそうだろう。呪いというのはそう頻繁に発生するものではない。特に、人が多い場所や明るい場所には寄り付かない修正があるのだ。

 

夜の闇が支配する山奥。洞窟の奥地。深い水底。普段人の目がないそういう“暗い場所”に呪いは生まれ、迷い込んだ人間を襲うのだ。対して、今の月読村は魔を祓う祭りの真っ最中。

 

それに「宵渡り」は、そもそも祭りの最中に呪いを寄せ付けないために舞うものだ。

「宵渡り」の最中に魔の存在は近づけない、という集団意識が実際に呪いを村から遠ざける。

 

それなのに、今は逆のことが起きている。

 

だから私は、何が起きているのか調べないといけないのだ。

 

みんなのこと頼んだよ、玉美さん。

 

「……わかりました! 月巫女様」

 

そう言って、グッと握り拳を作る玉美さん。

 

今の玉美さんなら、そこらの雑魚呪いくらいなら問題なく相手できるくらいの実力がある。多少私が討ち漏らしたとしても村人たちに迫る危険を追い払ってくれるはず。

 

もう私は一人で戦ってるわけじゃないんだ。

 

私は、衣装を着たまま、村を取り囲む呪いたちに向かって行った。

この衣装は舞のためのものであると同時に、私の呪力を高める効果も付与されているんだ。

 

だから……。

 

大事なこの衣装が汚れないように、一瞬でケリをつけるとしよう。

 

地面を大きく踏み抜き、私は飛び出した。

 

「うまぜだあいいいいい」

 

進路先、ゆっくりと這いずる呪いの頭部をすれ違いざまに拳で打ち抜き、顔が弾け飛ぶと同時にズッと体が倒れた。

……ざっと数えたところ、数は20前後か。こんなに呪いが群れて現れたことは初めてだな。

 

ただ、どれだけ群れたところで個の弱さは変わらない。3分もかからず全滅させられるだろう。

 

と、次の標的のために背後を振り向いた。

 

 

「すまぬな」

 

 

──瞬間、目の前に“掌”が迫った。

 

私は持ちうる全ての反射神経と、身体能力を駆使して顔を逸らし、膝を折って地面に倒れ伏した。

 

チッ──と額を僅かに掌が掠め、触れた箇所の魔力流に異常が生じ、ボコ、と肉が沸騰したように隆起した。

 

私は瞬時に“命力”で負傷を治療しようとしたが、効きが悪い。肉体ではなくもっと根源的な何かに、治療を阻害されている……そんな感覚がした。

 

毒でも、病気でもないとなれば……これはなんだ?

 

──君に直接聞けば、わかるのかな?

 

「……曰く、この腕は海の向こうの大陸で全ての人間を憎みながら死んだ、とある少年の腕らしい。触れただけで肉体が変質する奇病に侵される」

 

のそり、と何故か塵となって消えていない呪いの体から這い出てきた一人の少女は、その手に人の腕のような形のモノを持っていた。

 

……見たこともないくらい邪悪で、強大な魔力を感じる腕を。

 

「“猿の手”……そう呼ばれる呪物じゃ」

 

……成程、そうだったか。

 

最初から、それを私に喰らわせるつもりで近づいたの?

 

アマネちゃん。

 

「どうかのう……。今となっては、妾にも自分がどうしたかったのか、わからぬ」

 

そっか。

 

じゃ……。

 

やろうか。

 

「……そうしようかの」

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