盲目少女が縄文から呪術の開祖になる話   作:ぷに凝

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アマネちゃんの動きは、明らかに魔力の運用に慣れている実力者のそれだった。

スザンのようななんちゃって呪術師ではない、本物の呪術師の戦い方。

 

そして、そんなアマネちゃんが持つ“猿の手”と呼ばれる呪物。これが相当ヤバい。

わずかに触れられただけの私の頭部が、今も何かの毒に侵されているかのようにじくじくと不快な感触を発し続けている。時間が経つごとに収まってはいるが、あの一瞬の接触で背負わされるデメリットとしては十分すぎる威力。

 

もう一度触れたら、今度は命力でも抑えられないかもしれない。

 

「どうした? 月巫女よ。近づいてこぬのか? 熊のような強さというのはただの噂だったのかのう? これでは熊どころか鹿も仕留められぬのではないか?」

 

猿の手を見せびらかすようにブラブラと揺らしながら、アマネちゃんがそう言って挑発してくる。

そう、挑発だ。私に近づかせて、隙を見て猿の手にもう一度接触させる腹積りだろう。確かにそれが一番合理的で効果的。

 

だけどそれって、絡め手抜きの正面戦闘だったら私に勝てないって言ってるようなもんだよね?

呪いのアイテムに頼った強さで勝っても、何の成長も成果も得られないと思うよ、私は。

 

「……其方に何がわかる」

 

わかんないよ。

 

私はアマネちゃんじゃないから、君が何を考えてるのかなんてわからない。

そもそも私とアマネちゃんが出会ったのなんて、ついこの間のことだ。お互いの事情なんてわかるわけない。

 

「その通りじゃな。其方は無警戒にも外の人間である妾を村に入れ、周囲の人間を危険に晒したわけじゃ。妾が危険な存在であると少しでも考えなかったのか?」

 

考えたよ。最近そんなんばっかだったからね。

 

アマネちゃんが何かを隠してることには気付いてたし? 何か狙いがあるんだろうなとは思ってたよ。

まぁ、こんなヤバい呪物を持ち込んでるとまでは気づかなかったから、そこは私の落ち度。一体どこに隠してたんだか。

 

「胎の中じゃ。流石の其方も体内の呪物の存在は考慮してなかったと見た」

 

……成程ね、理解したよ。納得はしないけど。

 

その腕、人間にとっては劇物なんじゃないの? そんなモノを飲み込んで無事でいれるとは思えないけどな。

 

「妾は呪いに耐性があるからのぉ。問題ない……とは言えんな。命を縮める行為じゃ」

 

私を騙すために命削ったっての?

 

そんなの、私が言うのもなんだけどもっと自分の命を大事にした方がいいんじゃない。

 

「ふっ、妾の命に価値などあるものか。ただの……何も成せなかっただけの小娘の軽い命じゃ」

 

……うーん、本当に一体何があったのか。

 

聞いても答えてくれないんだろうね。

 

「それに、妾の心配などしている場合か? すでに周囲からは多くの穢れどもが集っておるぞ。……妾目掛けてな?」

 

アマネちゃん目掛けて?

 

……もしかして。

 

「さよう。妾の体は穢れを引きつける。おちおち外を出歩くことも出来んというわけじゃ」

 

それで初めて会った時、呪いに襲われてたのか。あれも演技だったってことね。ことごとく最初から仕掛けられてたわけだ。

 

「穢れどもがこの場に集った時……一体、何が起きると思う?」

 

まさか、そいつらを全員私に擦りつけて──。

 

「妾が死ぬ」

 

……。

 

何?

 

「妾が死ぬ。死んだ後は其方に群がる。そういうわけじゃ」

 

いや、どういうわけだよ。

 

なんでドヤ顔してんのこの子。

 

「食われるのは妾ばかりではない。この猿の手も同様に、じゃ。すると、どうなる?」

 

……おいおい。

 

「この腕に籠った呪いが、穢れどもに宿るわけじゃなぁ?」

 

こいつ、とんでもないこと考えてやがった!!

 

触れただけで即死の呪いの大群。そんなもの相手にするのは御免だし、野放しにもできない。どれだけの被害が出るのか想像もできない。

 

アマネちゃん目掛けて飛び込む。

 

「そうするしかないじゃろう。時間は妾に味方をする。しかし、いいのか? 焦って攻め手を誤れば……」

 

──突如、猿の手に込められた魔力が肥大化し、それにより巨大化した腕が振るわれる。

 

「それこそ其方が先に死ぬぞ!?」

 

リーチが大幅に変わった猿の手を、私は大きく地面を蹴って躱す……が、かわしきれず左足先に攻撃が掠った。

 

ボコボコ、とつま先が隆起して足の原型がなくなる。

 

命力で抑え込むが、先の接触より効きが悪い。触れれば触れるほど威力が高まるのか、これは。

 

まずは、あの腕をどうにかする所からだな。

 

私は腕を振るい、アマネちゃんの視界外から“骨針”を飛ばした。

 

無音で迫る極細の糸が、アマネちゃんが持つ猿の手を奪う……。

 

「当然、そう来ると分かっておるからのぉ」

 

前に、飛来した針がアマネの回し蹴りで打ち払われた。

 

「其方の糸は警戒しておる。猿の手を奪わせはせん」

 

……最初の接触の時に、骨針を見せてしまったことが痛いな。アマネちゃんはあの時、実際には意識があったんだろうし。

 

「そら、どうする? 次は何をする? それとももう打つ手なしかえ?」

 

嗤うアマネちゃんに向けて、私はもう一度骨針を放った。

 

「芸がないのう!」

 

迂回することもなく、正面から迫り来る針をアマネちゃんは右拳で難なく撃ち落とした。

 

「焦って頭を動かすことすらしなくなったか!? こんな緩い攻め手をいくら続けたところで──」

 

ピィン、と糸が張り切った。

 

「……腕に」

 

針を払った手首に巻き付いた、呪力の糸。

 

右手は拘束され、警戒するべきは左手は猿の手だけ。

私はアマネちゃんの右手側に回り込み、拳を打ち込もうと……。

 

「やはり攻め手を焦ったのう。月巫女よ」

 

グィン、と突如として猿の手が“伸びた”。

 

全く意識外からの攻撃に、私の体が猿の手によって弾き飛ばされる。

 

とは、ならなかった。

 

「なっ……!」

 

私を捉えるはずだった棒状に伸びた猿の手が、直撃寸前で突如として“持ち上がる”。

 

「2本……!?」

 

猿の手に絡みついていたのは、私の右手から伸びるもう一本の骨針と糸だ。

 

右手、左手。どちらも封じた。

 

「──舐めるな!」

 

決死の表情でアマネちゃんは猿の手を手放し、左足による渾身の蹴りを放ってきた。

 

だけど、それは遅すぎる。

 

「……は、速っ」

 

蹴りが私に届く前に、さらに踏み込んで至近距離。

 

文字通り息が掛かるほどの近さで……掌底を打ち出した。

 

「かはっ……!?」

 

腹に打ち込んだ掌底が、アマネちゃんの体内の空気を押し出して口から吐き出させる。

衝撃でアマネちゃんの体が後方に吹き飛び、背中から木に激突した。

 

くるくる、と回転しながら落ちてきた猿の手を触れないように糸で引っ掛けながら回収。

 

危ない危ない。触れないように呪力で包んでおこう。

 

「……ふ、ふ。ここまでしても、敵わぬとはな」

 

木にもたれかかって、口から血を吐きながら力なく倒れ込むアマネちゃんに近づく。

 

実際、危なかったけどね。

 

だけど最後、猿の手を捨てたのは悪手だったね。あれが変わらずアマネちゃんの手にあれば、続けざまの変形を考慮してさらに懐に飛び込むなんて出来なかったし。

 

「経験の差というわけじゃな。慣れないことはするものではないのぉ」

 

やっぱり、あんまり戦ったことなかったんだね。そんな気してたけど。

戦い方も、実戦向きというより稽古のような型通りの動きだったし。予想外の事態に弱いと見た。

 

「……降参じゃ! 煮るなり焼くなりすきにせい」

 

りょーかい。

 

許可を貰ったので、アマネちゃんに近づき覚悟を極めたように目を瞑る彼女に命力での治癒を施した。

 

「……は?」

 

さて、残りの呪いどもを片付けないとな。

 

「お、おい、待つのじゃ! 其方! 何のつもりじゃ!?」

 

地面を蹴って、私は夜の闇の中を駆け出す。

 

時間を食ってしまった分、早めに終わらせないとな。

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