盲目少女が縄文から呪術の開祖になる話   作:ぷに凝

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事前の予測通り、雑魚呪い狩りは1分半程度の所要時間で終了した。

 

全速力で近づいて、急所をパンチして一撃死させるだけの簡単なお仕事だ。戦いなんて呼べるものは発生せずワンサイドゲーム。

 

ただ、気になることが呪いを倒しても消えなかったこと。呪いというのは魔力の塊だから、魔力が霧散すれば消えるはず。なのにこの呪いは肉体が残った。

 

……まるで死体のように。

 

思えば、この呪いたちはアマネちゃんが意図的に集めたものなんだろうね。舞でも祭りでも追い払えないなんて、彼女の体質というのは相当厄介なものらしい。

そのアマネちゃんは高速で移動する私を何故か追ってきているが、足の速さが違う。追いつかれることもなく私は呪いを殲滅し終わった。

 

休んでおけばいいものを、何が彼女をそこまで突き動かすんだろうか。事情がありそうな雰囲気ではあったけど、そこまで寄り添うつもりはない。命は拾ったのだからそれで納得して欲しい。

 

……嘘! 本当は抱きしめてよしよししてあげたい! だってのじゃロリだよ!? くっ!!

ぶっちゃけ殺されかけたこととか、私的にはそんな気にしてないし! 死んでないからね!

 

けど、襲われてしまった以上は立場とかあるから擁護はしづらい! というか多分村のみんなが納得しない! だから遠ざけるんです!

 

くっそ〜……本当になんで敵になってしまったんだ。アマネちゃん……敵でさえなければあんな逸材中々いないのに……!

 

見込んだ通り魔力の才能もあったしね。動きだけなら今の玉美さんと同じくらい強いか、ちょっと弱いくらいなんじゃないか? もし今の玉美さんが猿の手持って私に襲いかかってきたらワンチャン負けもあると思うから、うん。それくらいだなぁ。

 

凄くないか? 正直、私は結構玉美さんに対して厳しめに稽古してるのに、あの年齢でそれと同じくらいというのは。

 

実戦で磨かれた動きというより対人戦向きの動きだったと思うので、多分誰かに武芸を学んだんだろうね。洗練されたいい動きだったので、師はきっと腕の立つ武人だ。

 

是非とも会ってみたいと思うけど、アマネちゃんの様子を見るに正直生きているかどうかは怪しい。

そういう類の不幸があった、としか思えないくらいの絶望と孤独を彼女は感じていたから。

 

だから出来れば仲良くしてあげたかったんだけど……今となっては後の祭り。

 

私はアマネちゃんが少しでもいい人生を歩めるように願うしかない。

 

さて……結果的に戻るのが遅くなってしまったな。

 

もう夜も更けて、遠くの空が明るくなりつつある。

 

早く戻って玉美さんを安心させてやらない……と……。

 

……。

 

…………。

 

は?

 

──なんで村の中に、知らない魔力の人間がいる?

 

 

「……遅いですね、月巫女様」

 

私は広場で眠る村のみんなを見守りながら、油断なく周囲を見渡していました。

「宵渡り」の最中に、突如として月巫女様が呪いの気配を察知して対処に向かってから、すでにかなりの時間が経ちました。

 

正直に言って、すぐに戻るとばかり思っていたのでこんなに長い間一人になるとは思わず、どんどんと不安が募ってきます。

 

「ん……タマミさん……?」

「あら、起きたのね。リンちゃん」

「あれ……月巫女様……“宵渡り”は……?」

「今、月巫女様は村の外に出て呪いに対処してくださっているわ。まさかこんな日に呪いが出るなんてね」

 

夜も更けてきて、リンちゃんが目を覚ましました。彼女は私の答えに「そっ、か」と返すと。チラとカケさんの方を見てその場にぺたんと座った。

 

「……月巫女様は忙しいね」

「ええ、本当に……」

「少しでも、私たちが肩代わり出来たらいいんだけど」

「……そうね」

 

リンちゃんが吐露したその言葉は、きっとこの村の誰もが思っていることだ。

月巫女様の苦労を、自分たちがほんの少しでも背負えたならどれほど良いか。

 

だけど現実には彼女にしか出来ないことが多すぎて、私たちにできることなんてせいぜい重荷にならないようにすることくらい。

 

「だから、せめて」

 

せめて、この任された責務だけは必ずや……。

 

「──あれ、なんだ。女の子しか起きてないじゃん」

 

不意に、背後から軽い調子の声が聞こえて私は驚き、振り向いた。

 

「……何者ですか」

「あっはぁ。そんな警戒しないでよ。君たちが何もしなければ、僕だって何もするつもりないんだからさ」

 

そこにいたのは、飄々とした様子で立つ一人の男だった。

 

軽口に反して肉体は筋骨隆々で、立ち居振る舞いにも隙がない。月巫女様ほどではないにせよ、相応の実力者であることが察せられた。

 

しかし、何よりも異常なのは……。

 

(この男……呪力を全く感じない……?)

 

私は月巫女様からの指導の結果、常に自身の周囲の呪力を感じ取れるようになっています。起きている時も、寝ている時も関係なく。月巫女様曰く常在戦場の心構えというそうです。

 

それは呪力鍛錬を常に行うことで呪力の練度を上げるためであり、また不意撃ちや待ち伏せを防止するためでもあるのです。

 

それなのに、この男は全く私の呪力感知に反応しませんでした。

 

人間に関わらず、生物が一切呪力を感じさせないなんてこと、今まで一度も……。

 

「逆に言えば、抵抗するならちょっと痛くするんだけどね」

 

……次の瞬間。

 

目の前から男が消え、同時にすぐ耳元で視界にとらえていたはずの男がそう囁いた。

 

「ッ!!」

 

私は反射的に裏拳を放ち、男の頬を打ち据えようとした。

 

「へぇ、いい反応すんじゃん」

 

しかし、その拳は男の手によって易々と止められた。

 

(う、動かせない……!?)

 

すぐさま拳を引いて体勢を立て直そうとしても、捕まった拳が万力のように締め付けられて全く動かすことができない。

 

「無駄だって。女の子なんだから。こんな荒っぽいこと男に任せてさ……俺と遊ぼうぜ?」

 

ゾワ、と耳元の囁きに悪寒が走る。硬直した体に、這うように男の舌が伸び──。

 

「ハァッ!!」

「おっと」

 

私と男の間に差し込まれた“呪具”が、硬直を切り裂いた。

 

「大丈夫!? 玉美さん!」

「……大丈夫、です。ありがとうございます、リンちゃん」

「いいから!」

 

呪具を構えるリンちゃんを、不意に頼もしいと感じてしまう。

 

……いけないですね、月巫女様がいない以上この場で最も強いのは私のはずなのに。まだその自覚が足りないようです。

 

“みんなを任せた”と、月巫女様に言われているのです。

 

「──死んでも、その信頼には応えなければいけません」

 

私は、呪力のない人間に向かって構えた。

 

「……あっはぁ。いいね、いいねぇ……最高だよ、君たちぃ」

 

男は、長い舌を唇に這わせて、嗤った。

 

「やっぱりさぁ、孕ませる女は生意気でなくちゃ。だからこそ組み伏せた時が最高なんだよぉ。君たちはなんて鳴くのかなぁ? 今から楽しみだよぉ」

「……気持ち悪い」

 

男の言動に、リンちゃんが嫌悪感を感じて一歩距離を取る。

 

私も全く同じ感想だ。こんな下衆男、月巫女様の視界に入れることすら憚られる。

 

この場で首を折って晒してやれば──。

 

「……おい! 女ども!」

 

私が男に飛びかかろうとした、直前。

 

背後から声がかかる。

 

……背後?

 

「動くな。へへっ……この爺さんが殺されちまっていいのか?」

「あぁ、あとこの双子のガキもな」

「一歩でも動けば死ぬぜ?へへへ……」

 

あぁ。

 

なんてことだ。

 

私の背後で……高勾村の護衛をしていた3人が、広場で寝ていた村の方達を人質に取っていた。

 

「屑どもが……」

「……最ッ低……!!」

 

腑が煮え繰り返りそうなほどの怒りが、私の視界を真っ赤に染め上げる。

燃え上がり、湧き上がる怒りのまま……視界に映る全員を、衝動的に殺したくなる。

 

否。

 

いっそ、このままこの暴力的な衝動に身を任せてしまえば……!!

 

「玉美」

 

真っ赤な視界の中で。

 

一人の老人の……敬愛する方の顔が、こちらを透明な瞳で見ていることに気づいた。

 

「……彼女(月巫女様)に、顔向けできなくなるぞ」

 

──みんなのこと頼んだよ、玉美さん。

 

急速に、頭に上った血が冷えていく。

 

呪いを込めた腕が、だらんと力を失って垂れ下がった。

 

「……誰も、傷つけることは許しません」

「玉美さん……」

 

視界が、涙で滲んだ。

 

私はどうしてこんなにも……弱いままなのだろう。

 

「そうこなくちゃ」

 

ひゅう、と口笛を吹く不快な男の声が耳障りに残った。

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