「──して、坊が持ってきた爺の話とは何かえ?」
「ん。あぁ、忘れるところだった」
長老の家の広間。
私とマヒト、スザン、アマネちゃんという異色のチームで円になって“高勾村襲撃&玉美さんリンちゃんセット奪還大作戦”を話し合う私たち。
口火を切ったのはアマネちゃんのそんな疑問だった。
「親父だが、しばらく“奥庭”で療養している。今回の襲撃で大分呪力を使ったようだったからな。オガンに周辺警備を任せて自分は閉じこもってる」
「ふむ。やはりな……“水晶”を使わんと、今回ほど大規模なことは起こせん。そうであろうと思っておったわ」
いや、わからんわからん。
何が何で何??
「奥庭というのは、月巫女様の言葉を借りれば“マリョク”を回復するための専用施設であり……その、爺が選んだ女たちが、ですね」
「早い話が寝枷じゃ、寝枷」
「ちょっ、アマネ殿! そんなハッキリと……!?」
「何を躊躇っておるのか。月巫女も生娘というわけじゃなかろ。こんなことでいちいち驚いたりせんわ」
「そ、そうなのですか?」
突然水を向けられた私は、「お、おう」と曖昧な返事を返す他なかった。いやまぁ、生娘云々はともかくシモの話が理解できないわけじゃないよ。この時代、普通にその辺寛容だしね。
「──」
しかし、私が肯定した瞬間ものすごい目つきで私を見始めているスザンはなんなんだ。そんなにびっくりすること??
「ともかく爺はしばらく閉じこもっており、身辺警護をしているのはオガンという男一人じゃ。正確には他にもおるが……まぁ、月巫女の障害になるような者は、オガン以外におるまいて」
オガン。
そいつは強い呪術師ってことなのかな?
「いや、逆じゃ。あやつには全く呪力が存在せん。呪力が少ないのではなく、全くの皆無なのじゃ」
「……その代わりに、素の身体能力が極めて高い。見た目は細身だが、騙されるな。あれには見た目以上の筋力があり、俺ですら力比べで負ける」
ふーん、スザンですら力負けするのか。
……。
それって強いの??
「ぐっ!!」
「おーおー。言葉とは時に刃よりも鋭いものじゃな」
「……貴様からすれば、当然の評価だ」
え、あ。なんかゴメン。
傷つけるつもりなかったんだよ。本当に、強いのかどうなのかよくわかんなかったってだけで。
「……月巫女、貴様わざとやっているのか……?」
「自業自得と思いますが」
「全くじゃな。妾も含めて、じゃ」
うーん、何を言っても墓穴を掘ってしまうな。前も後ろも穴だらけだ。
「……オガンは強い。それは確かだ。だが、正直に言って月巫女。貴様ほどとは思わん。一対一の正面からの戦いであれば、まず間違いなく貴様が勝つだろう」
「うむ。妥当な勝敗予測じゃな。じゃが、実戦では予想外が起こるものじゃ。見落としはいつも結果を覆す」
「どういう意味だ」
「月巫女よ、其方目が見えておらんのじゃろう」
アマネちゃんにそう指摘された私は、素直にこくりと頷いた。まぁ、今更隠すことでもないっていうか。
「代わりに、周囲の呪力を見て視界の代わりとしている……という話でしたね」
「正直、それも規格外で意味不明な能力じゃが……重要なのはそう。月巫女は“呪力以外見えん”という一点じゃ」
……あっ、そうか。
ってことは呪力がないっていうオガンのことは?
「月巫女は一切奴を視認できん、ということになるな。戦闘においてこちらだけが相手の姿が見えんというのは、途轍もない不利となろう」
「なるほど……確かに、それは大きな見落としだ。月巫女にそんな弱点があったとは」
「では、どうするんです? だからと言ってオガンを放置することはできませんよ」
うーむ。単純に私が乗り込んで、目に付く邪魔な奴全員パンチして解決ってわけにはいかんわけだな。
……というか、今まで見せた動き的にも絶対玉美さんを人質に取ってくるはずだ。多分、そのために攫ったんだろうし。
アマネちゃんが情報提供をしているという話だったから、骨針で不意をついて……みたいなのも難しいかもね。相手もそれを警戒しているはずだ。実際、手を読まれてたアマネちゃんには対策されかけたし。
「なに、そのために妾とこの筋肉達磨がおる。月巫女が人質を解放している間にオガンを足止めしておけば、それなりの時間は稼げるじゃろうて」
「自然に俺を巻き込むのをやめて貰えますか」
「なんじゃ? やらんのか? それでも男かえ? 懸想しておる女にいい所を見せようという気概すらないとは。見下げ果てたものじゃ」
「……」
スザンが押し黙る。
ん? 懸想してるって……もしかしてアマネちゃん? オイオイ、二人ってそういう関係!?
あらやだ、お赤飯炊いた方がいいかしら!
「……坊。其方も苦労人じゃな」
「まぁ、これは少し同情します」
「……」
……?
え、なんで私が微妙な目で見られてるの。今そんな流れだった?
「ともかく、この朴念仁が人質を解放するまで妾と坊は耐久戦じゃ。そして、ここで妾から提案なのじゃが……月巫女よ。可能であれば、この村の者以外の囚われた人間たちも、解放してはくれぬか」
えっ、この村以外? 高勾村って月読村以外からも人攫ってたってこと?
「左様。近隣の小さな村は先代スザンであった山の爺によって滅ぼされた。捕らえた男は労働のため、女は装飾品として……妾がいた村も同様に、じゃ」
そこで、アマネちゃんの声が深く暗く沈んだ。
「妾は……村の皆の命を生き永らえさせるために、山の翁に近づいた。妾が奴の言うことを素直に聞いていれば、いつか全員を解放するという甘言を信じてな……今思えば、愚かとしか言いようがないのう」
「アマネ殿……」
「その約束すら、あの爺は果たすつもりはなかった。妾の知らぬ間に村の者を殺してしまう腹積りだったのじゃ。それは、坊が必死に止めてくれていたがのう」
「……気づいていたのか」
「当然じゃ。皆が話してくれた。じゃが、それももう限界じゃな。こうして坊すら村を追い出されたのじゃから」
……なるほど。それでアマネちゃんは山の翁とやらの言いなりになって、私と戦ったのか。あんな鉄砲玉みたいな扱いも、アマネちゃんをなんとも思っていないのがよくわかる。
やっぱり殺さなくてよかった。あの時の私、ナイス判断。
あとスザン。お前、ただのアホかと思ったら見直したぞ。アマネちゃんの身内をよくぞ庇った。褒めて遣わす。
「……」
「喜んでおる喜んでおる」
「喜んでいない」
アマネちゃんがぷぷっと笑い、スザンが感情を押し殺した声で応じる。
あ、ちなみにこれめっちゃ喜んでます。“感情”出まくってるんでわかります。
なんか、大型犬みたいに見えてきたぞコイツ。
……で、私がその人たちを解放してくれってことね。了解。そんなの、言われずともやるよ。
玉美さんとリンちゃんも含めて、全員自由にしてあげなきゃね。
「──感謝する。月巫女よ。その言葉が聞けただけで、妾はもう今生に悔いはない」
そう言って、アマネちゃんは柔らかに微笑んだ。
いやいや、まだ喜ぶのは早いよ。実際に人質を解放してからじゃないと。まだ戦いは始まってすらいないんだから。
「……そうじゃったな。して、となれば残りの問題は……」
「どうやって村に潜入するか、だ。月巫女は勿論、俺もアマネ様もすでに村を追い出された身。姿を見せれば警戒され、人質の解放も難しくなると思うが」
二人がそう言って難しい顔をしたのを見て、私はサッと手を上げた。
それこそ、私が考えていた本来の計画。マヒトが必要な理由だ。
「? 私ですか?」
そう。
私は笑ってマヒトに言った。
“君、演技は出来る?”……と。