盲目少女が縄文から呪術の開祖になる話   作:ぷに凝

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あけましておめでとうございます!
お正月休みをいただいていました。今日から少しずつ更新を再開します。


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「止まれ!!」

「誰だ貴様は。今はスザン様のお達しにより村に入ろうとする人間は全員斬り伏せて良いことになっている。今すぐ背を向けて、この場を去らぬのであれば……って」

「お、お前……マヒトか!」

「お久しぶりです。皆さん」

 

「マヒト!? い、生きてたのか!」

「“熊巫女”に喰われたと聞いていたが……」

「ええ。死にかけましたが……なんとか逃げ帰ってきました」

「ははは! だろうな。お前みたいな弱っちい男はそれだけが取り柄だ」

「だが帰ってきて良かったのか? 今更戻ってきたところでスザン様はお前のことなど歯牙にもかけんぞ」

「いや、それがどうやらスザン様はマヒトを見かけたら、生きたまま連れてこいと仰せになっているらしい。この男の“ままごと”に用があるんだと」

「何? マヒトがスザン様に? おいおいどういう風の吹き回しだ。俺ですらあの人に直接呼ばれたことはないぞ」

「うん? お前は前に一度呼ばれてただろう」

「ありゃバカ息子の方だよ! 女にこっぴどくやられた方のな。あんな雑魚が“スザン”の名を継ぐなんて、元々俺は反対だったんだ」

「お前……前は“あの方こそスザン様の名を継ぐに相応しい”って嘯いてたくせに」

「うん? そうだったか? まぁ、女なんかに負けさえしなけりゃそういう事もあったかもな」

「はは、確かに……うん? あ、おいマヒト! 何近づいてきてんだ! お前なんかがスザン様の言うことに逆らっていいはずが……」

 

「着きましたよ。月巫女殿」

 

「? ツキ……? お前何言って」

「!? おい! こ、こいつの背嚢に何か……ごっ」

「あ、がっ……?」

 

……。

 

「ふぅ……。神経を削りますね、芝居というのは」

 

 

意識を失って、体をだらんと弛緩させる見張り番の男二人を近くの茂みに隠しながら、私は肩を回して体をほぐした。

意識のない人間の体って、かなりの重量って聞いたことがある。だけど私にとっては人間だろうが岩だろうが大差ない。

 

「……いつ見ても現実離れした光景です」

 

そ? まぁ、周りから見たらちっこい私が男二人を担いでるのってだいぶギャグな絵面かもしれないね。それを可能にするのが魔力のすごいところだ。

 

ふぃ〜、体凝った。ずっとじっとしとくってのは性に合わんな。

 

ま、何はともあれ。

 

作戦成功!

 

「お見事です。月巫女殿」

 

マヒトもお疲れ〜。ナイス名演技だったよ。

役者目指す気とかない?

 

「いえ、自分は職人ですので」

 

それもそうか。私としてもマヒトが役者に転向されたら困るし。

 

それにしても、想像以上に上手くいったね。マヒトの荷物の中に隠れての奇襲作戦。もっと警戒されるかなとも思ってたけど。

 

マヒトがめっちゃ舐められてたおかげで助かったよ!

 

「ええ。舐められ甲斐があるというものです」

 

……いや、ごめんて。もっと怒っていいからね?

 

怒ってくれないと、私がただのクソ野郎になっちゃうんだって。ほ、ほら。腹パンとかしたくない?

 

「? 綺麗なお腹ですね」

 

お願い! 頼むから怒って!! 腹パンして!! マジで頼む!!

 

「では俺が代わりに……フム。引き締まった良い胎だ。きっと元気な子供を産おぼがばべっ!!」

「何をしとるんじゃ阿呆。いや、痴呆か?」

「スザン殿、アマネ殿。無事に侵入できたようで何よりです」

 

突然私の腹にすりついてきたスザンと、そのスザンの顔面を蹴飛ばしながら現れたアマネちゃん。

二人は私とは別ルートで高勾村に入ってもらった。二方向から同時に潜入することで、仮にどちらかが失敗したとしても騒ぎの最中にもう片方が村の中に潜入できるという算段だ。

 

結果的にはどちらも潜入に成功したので、戦力はフルスペック。万全の体制で挑める。

 

「月巫女よ。すでにここが戦場になると伝え、可能な限り一般人は退避させたぞ。彼奴ら、妾がスザンと対峙すると知ったら諸手を挙げて応援してきよったわ。人望がないのう」

「女性は自由意思がなく、男も腕っぷしが悪ければ強制労働ですから……私もそうですが、スザンに恩を感じている村人はほとんどいないでしょうね」

「……」

 

なるほどね。それでやけに村の中が静かだったんだ。人がいないと思ったらすでに避難済みだったとは。仕事が早い。

 

こっちは村に着く前から私が隠れたり、不自然な動きにならないようにとゆっくり進んでたから着くのが遅くなっちゃったんだよね。そうまでしたのに結局村の中には入れてくれなかったし。

 

今思えばよくバレなかったもんだ。

 

「いや、本当に肝を冷やしましたよ……演技がバレて、その場で拘束されてもおかしくなかったです」

 

その時は私が暴れてあげるから、安心して?

 

「それだと作戦は失敗ですよ……」

 

確かに。とけらけら笑いながら、実際綱渡りの作戦だったことは承知だ。

 

だけどリスクがあるからって理由で行動を先送りにはできなかった。多少のリスクは飲み込まないと潜入作戦なんてそもそも実行しないし。

 

……何より時間がない。連れ去られた二人がこんな倫理観最低の場所で何をさせられてるかわからない以上、必要以上に時間をかけたくなかった。

 

「月巫女。予定通り其方は翁の屋敷へ向かえ。中に多くの同胞が囚われておるはずじゃ」

「屋敷の間取りは伝えた通りだ。いけるか?」

 

私はこくんと頷いた。

 

心配せずとも、村の中に入った瞬間から囚われてる村人の位置や数は把握してる。そういう魔力の気配が集中しているあの建物が“山の翁”とやらの棲家なんだろう。

 

大丈夫だ。あれくらいなら誰にも見つからずに人質は全員解放できる。

 

「流石じゃな。其方だけは敵に回したくないものじゃ」

「だが、オガンにだけは気をつけろ。俺たちの方が先に遭遇できればいいが……」

 

それも承知してる。

 

何の気配もないところから攻撃を受けるようなことがあったらすぐに撤退するよ。時間もない中で、透明人間と戦ってる暇なんてないからね。

 

じゃ、行ってくる。

 

「うむ。頼んだぞ」

「よし、俺たちも……ッ!?」

 

お互いに頷き合って、私は走り出した。

 

直後、背後でスザンが息を呑んだ気配がした。

 

「月巫女! 待っ……」

 

スザンが何か言いかけたのを、すでに走り出していた私は置き去りにしながら。

 

ふと、背後を振り向いた。

 

「──綺麗だ」

 

……?

 

今なんか、隣に誰かいた気が……。

 

気のせいか。

 

 

「今の娘は、誰ですか?」

「……オガン」

 

一気に警戒度を引き上げ、坊と共に細身の男。オガンと向き合う。

月巫女を見送ったその場に、入れ替わりのように現れたその男は惚けたように月巫女の去った方角を見つめていた。

 

「まさか、早々に出会うとはのう。運がいいのか悪いのか……だが、変わりないようで何よりじゃ」

「貴方の言葉は聞いてないです。俺は彼女について質問をしたのですが?」

「さてのう。妾も知らん顔じゃ。ただの通りすがりの旅人ではないかえ?」

「熊巫女、ですね。彼女が」

 

オガンからの問いかけには答えず、内心で舌打ちする。

 

今の、たった一度真横をすれ違っただけの邂逅でそこまで思い至るとは。やはりこの男は危険だ。

油断なくオガンを見据えながら、感情の読みにくい相手がどう出るか、神経を尖らせて観察する。

 

やがて、オガンがゆるりとこちらを向いて口を開いた。

 

「──性器だ」

「……は?」

 

耳に届いた言葉の意味を理解できず、気の抜けたような声を発してしまった。

 

こやつは今、何を言った……?

 

「女を知ってから、嗅覚が鋭くなりまして。俺は匂いで女を判別できます。特に一番わかりやすい匂いを発しているのが、性器です」

「おい、コイツなんか言ってるぞ」

「ほとんどの女は、性器から薄汚れた欲望と傲慢の匂いがします。アマネ様、貴女でさえそうなのだから。きっと全ての女はそうなのだろうと半ば諦めていたのですが」

 

──この男は何の話をしているんだ?

 

高まる警戒と、意味不明な恐怖が同時に湧き上がる。それを知ってか知らずか、オガンはまっすぐこちらを見つめながら、まるで少年のような目をして言った。

 

「彼女の性器からは、爽やかな朝露のような香りがしました」

「きっっっっっっも」




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