盲目少女が縄文から呪術の開祖になる話   作:ぷに凝

47 / 47
43

「なにも難しい話ではない」

 

翁がゆっくりと、私と一定の距離を保ちながら周囲を歩き出す。

 

「儂の“数”の力と貴様の“暴力”。合わされば、そうそう敵になる者などいまい? これはお互いに利がある話だ」

 

数の力ねぇ。

 

まぁ、確かに動かせる人間は多いみたいだけど。一体どれほどの……。

 

「──ざっと四百二十。それが現状、満足に使える兵の数だ」

 

……思ったより多いな!? そんなにこの村の人口って多かったっけ?

 

「あぁ、勿論この村の人間だけではない。周辺の村、集落。そうとすら呼べない個人の集会。儂が一声かければ動く手足はむしろ村の外に多い。戦えぬ者も数えれば千は下らんだろうな」

 

……おいおい、マジかよこのジジイ。

 

何? この縄文時代に統一国家でも作る気か? 時代の最先端を行きすぎだろ。

 

「聞いた話では、貴様は呪力を用いた面妖な武具を作る術を持っておるのだろう? くくく、あのマヒトがこんな形で役に立つとは思わなんだが、この数に強力な武器も合わせれば、無敵の軍勢を作ることも可能だろう」

 

四百を超える、呪具と呪装具で武装した兵隊か。

 

ほとんどの人間が石の武器と皮を身につけてるこの時代に、そんなもんが存在したら……一体誰がそれを止められるんだろうね。

 

「だが、この話を蹴れば。いま儂が話した戦力がそのまま貴様の敵となる」

 

かつ、と足を止めた翁が背後で嘯く。

 

「それでも、もしかすると貴様にとっては大して問題にならんのかもしれんな? 圧倒的な個の力が時に数を凌駕することも、稀だが、あることだ。だが貴様の周囲の人間にとってはどうだ?」

 

……何百、あるいは何千もの人間を敵に回して、追われ続ける日々か。

 

きっと、とても苦しい生活をみんなに強いることになるだろう。

 

「儂と敵対することの意味がわからぬほど馬鹿な女ではないと、儂は貴様を評価している。そこらに転がっているようなモノ同然の女ではなく、本物の強者であるとな。初めてのことだぞ? 儂が女に協力を持ちかけるなど」

 

背後から、翁の気配が近づいてくる。

 

「──貴様は儂と同じ、支配者となる器を持つ人間。共に手を取り、力が支配する世界を築くとしよう」

 

そして、肩にポンと掌が置かれた。

 

老人とは思えない、強くがっしりとした力を持つ手だった。

 

力が支配する世界、か。

 

うん。

 

こいつの言いたいことはわかった。

 

くるりと振り向く。

 

「ん?」

 

一理ありますね!!

 

 

「ぼッ!!!???」

 

 

めりめりめり、と鼻柱が砕ける音がして。

 

──拳骨を喰らった山の翁が吹っ飛んだ。

 

「ゔぉわああああ!!」

 

凄まじい勢いで吹き飛んだ山の翁が、そのまま背後にあった家に頭から突っ込んで、足だけが生えた面白い生き物に変貌する。

 

「なっ……何やってんだお前ェ!!」

 

その様を見て、私の背後で様子を見守っていたランと呼ばれていた少年が絶叫する。

 

え、あ。ゴメン。

 

なんか、殴れそうだったから……?

 

「いや! だとしてもそんな空気じゃなかったですよね!?」

 

なーにを言うとるのかね。あんな殴りやすい位置に顔面置かれちゃったら、君ねぇ。

 

殴らない方がむしろ失礼ってもんでしょうが。

 

常識で考えなよ。

 

「なんで僕がおかしいことにされてるんだ……?」

「きさっ、まっ……!? ごふっ、何を考えて……!!」

 

そんなやり取りをしているうちに、なんとか復帰したらしい山の翁が鼻からだらだらと血を流しながら立ち上がった。

 

「こんなことして、タダで済むと思って……!!」

 

いや、アンタをどうやって無力化しようか、それだけをずーっと考えてたんだよ。戦闘が長引いたら玉美さんが危ないし。

 

だから、注意を引きつけておきたかったわけ。

 

「何を……なっ!?」

「動かないでください」

 

訝し気に目を細めた山の翁の首元に、鋭く研がれた骨製のナイフがあてがわれる。

 

「き、貴様ぁ!! ぐっ!」

 

すかさず糸を伸ばし、山の翁の手と足を拘束する。

 

ナイス玉美さん。最高のタイミングだよ。

 

「……月巫女様のおかげです。また助けられてしまいました」

 

そう言って、玉美さんが複雑そうに微笑む。

 

……こんな虫も殺しそうにない顔をしながら、しっかりとジジイの首元に当ててるナイフの力は全く緩めないってのが彼女のチャームポイントだ。マジで怖い。良かった、玉美さんが味方で。

 

「……何故だ」

 

ん?

 

「何故、貴様が自由に動けておる!!」

 

……あぁ。

 

簡単な話だよ。

 

玉美さんは最初から、拘束なんてされちゃいなかったからね。

 

「……は?」

 

君たち、マヒトが作った例の拘束呪具を使ったでしょ? 木製なのに鉄製並みの硬度のやつ。

あれ、便利だけどさ。呪具に刻まれてる刻印が機能しなくなったら、ただの木材でしかなくなるっていう弱点があるんだよね。

 

「なんだと!?」

「私は月巫女様に、呪具の“壊し方”を習っておりましたから」

 

そう。呪具は“壊せる”。

 

マヒトのおかげでどういう仕組みで動いてるのか、その内部構造が分かれば当然機能させなくする方法だって解明できる。ああいう単純な構造の呪具なら尚更だ。

 

玉美さんは呪具を壊して、いつでも動き出せる状態にあった。だけど、リンちゃんが近くにいた状態で、敵に囲まれたままだったから迂闊には動けなかっただけ。

 

私たちが注目を集めたおかげで、玉美さんとリンちゃんは監視の目を逃れることができた。それに気づかれてあんたに逃げられたら嫌だからタイミングだけは窺ってたけど。

 

その怪我じゃ、もうまともに動けないでしょ?

 

演説に夢中になってたからかは知らないけど、無防備に近づいてきてくれたから助かっちゃった。ラッキー。

 

「ば、馬鹿な。こんな所で」

 

山の翁が、信じられないような顔で俯く。

 

「月巫女! 貴様、儂の話を聞いておらんかったのか!? 儂を殺せば次に狙われるのは貴様だ! 貴様は人を導く立場にありながら仲間を自ら窮地に……」

 

聞いてたよ。

 

だから私はお前を殺さない。

 

「……は?」

 

いや、なに意味わからんみたいな顔してんの。当たり前じゃん。

 

そもそも私は玉美さんを取り返しにきただけだし。別に力とか数とか支配とか、そんなものにはハナから興味はない。

 

だけど……あんたはこれから、どうなるんだろうね?

 

「な、何……?」

 

死にはしなくても、私に負けたって事実は嫌でも周りに知られるでしょ? 息子の方のスザンもアマネちゃんも、もうあんたには味方しないみたいだし。

 

弱体化して、力が弱まったあんたは……周りの悪い奴らにとってどんな存在に見えるんだろうね。

 

「っ!!」

 

あんたを殺すのは私じゃなくて、あんたと同類の人間たちだった。

 

……そうならないように、精々頑張りな?

 

「あ、ああ……」

 

くた、と体から力が抜けた山の翁が項垂れる。

 

玉美さんに視線を飛ばすと、彼女は頷いて拘束を解いた。この場で暴れても私には勝てないし、もう何も出来ないだろう。

 

そもそも、そんなことをしている余裕はもうこのジジイにはない。

 

これからは余命幾ばくかの自分の命を守るだけで、精一杯になるんだから。

 

……さぁ行こう、玉美さん。リンちゃんも回収しないと。

 

「はい、月巫女様」

 

そして私は玉美さんを伴って、その場を後にしようとした。

 

「……さい」

 

その時、小さくしゃがれた声が私の耳に届いた。

 

「くだ、さぃ」

 

どうやら、山の翁が何事かを言っているようだった。

 

無視して歩き出す。

 

 

「お願いします! 助けてくださいッッ!!!」

 

 

……。

 

えぇ……。

 

「いや本当、調子乗ってました!! ごめんなさい!! 反省したので、助けてくださぁい!!」

 

その声は、老人にしてはあまりにも迫真で。生の力に溢れていて。

 

「マジでもう、侵略とか全部やめるんで!! 何でもするから助けてください!!!」

 

土下座する老人に、氷点下のような冷たい視線を向ける玉美さんの顔を見ながら、心の底から思った。

 

め、面倒くせぇ……。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【旧版】明治生まれの特級呪術師は、泥人形の夢を見るか?(作者:須川ユイ)(原作:呪術廻戦)

▼ こちらは【旧版】となっております。打ち切り状態ですので、新版(https://syosetu.org/novel/409195/)をお読み頂くことを推奨しております。▼ 西暦1900年、明治33年。▼ 日露戦争を目前に控えた日本に、一人の赤子が産み落とされた。▼ 名は、飾代(かざしろ)夜永(やえ)。▼ 新興財閥の妾の子として生まれた彼女には、前世の記憶と…


総合評価:7498/評価:8.88/未完:28話/更新日時:2026年04月14日(火) 19:51 小説情報

転生した狐はメイドになる(作者:くまんじゅう)(原作:転生したらスライムだった件)

転生して狐になってしまった主人公が、何んやかんやあって魔王に覚醒したり究極能力(アルティメットスキル)ゲットしてもそれを隠したりしてメイドとして生きていく物語です。なお、一部にはバレている模様▼*アンチ・ヘイト、クロスオーバーのタグは保険です*所々他作品の能力入るかもです*パッションやテンションやその他諸々で書きました*メイドになるまで結構な話数かかると思い…


総合評価:2844/評価:8.09/連載:42話/更新日時:2026年05月08日(金) 00:00 小説情報

明治生まれの特級呪術師は、泥人形の夢を見るか?(作者:須川ユイ)(原作:呪術廻戦)

▼ 西暦1893年、明治26年。▼ 日露戦争を目前に控えた日本に、一人の赤子が産み落とされた。▼ 名は、飾代かざしろ夜永やえ。▼ 新興財閥の妾の子として生まれた彼女には、前世の記憶と、異質な術式が備わっていた。▼「ここは『呪術廻戦』の世界だ。それも、歴史の教科書でしか知らない明治・大正期」▼ 原作知識という最大の武器は使えない。▼ あるのは、未熟な肉体と、い…


総合評価:2086/評価:8.63/連載:9話/更新日時:2026年05月05日(火) 10:15 小説情報

進撃の巨人の世界に15m級の無垢(?)の巨人として転生してしまった……(作者:感謝君)(原作:進撃の巨人)

信じられないと思うが聞いてくれ ▼俺は昨日までしがない大学生としてベッドに転がりながらいつも通り動画を見て惰眠を貪っていたんだ▼別にトラックに引かれたとか、手違いで殺しちゃったから転生させるね!おじいさんにあった訳でもない▼気付けば俺はだだっ広い平原の真ん中で全裸で突っ立っていて▼鋼のような肉体に転生していたんだ▼……進撃の巨人の世界に……▼


総合評価:5546/評価:7.39/連載:105話/更新日時:2026年05月07日(木) 18:00 小説情報

魔女教大罪司教『傲慢』担当になってしまったTS僕っ子ロリ(作者:あのさぁBOT)(原作:Re:ゼロから始める異世界生活)

主人公スバルが座っていたかもしれない、大罪司教の空席『傲慢』。▼その席に一足早く座っちゃったTS僕っ子ロリの話。▼アニメ勢のにわかです。原作と違う点があっても許して


総合評価:5556/評価:8.67/連載:9話/更新日時:2026年05月06日(水) 12:09 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>