盲目少女が縄文から呪術の開祖になる話   作:ぷに凝

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倒れた人間は、大人の女性だった。武器の類は持ってないみたいだけど、胸に大事そうに何かを抱えている。その抱えている何かから強い魔力を感じるけど、今は後回しだ。

 

近づいて魔力で身体を探ってみた感じ、頭部から出血してるっぽい。傷口自体は小さいけど、出血量自体は多い。止血もできなかった感じか。

 

……どうしよ。私だって包帯とか消毒液とか、そんな物持ってない。っていうか、この時代って怪我したらどうやって処置してるんだ? 水で洗うくらいはするんだろうけど、近くに川なんてなさそうだし。

 

「う、うぅ……」

 

苦しそうにうめく女性。

 

なんとかしてあげたい気持ちはあるけど、出来ることが少ない。とにかく、こんな野晒しの状態だと体調は悪化するばかりだ。

女の人を両腕で担いで、周りを探る。少し離れた場所に、人間二人分なら入れそうな切り立った岩場の窪みがあったので出来るだけ振動を与えないようにしながら女性を運ぶ。

 

そして、私が来ていた服を脱いで地面に敷くと、その上に寝かせた。

 

どうせ私はマッパだろうがなんだろうが体調を崩さない。絵面が最悪ってこと以外は、全裸になってもなんの問題もない。

 

だけど女性の方はそうはいかない。風をある程度凌げる場所に移動して、地面に麻布を強いて、自分自身も最低限服を着ていてもまだ夜の寒さに対する防寒は完璧じゃない。

 

せめて火を起こせれば、とも思うけどチャッカマンがあれば全部解決するような現代日本とこの大昔では火を起こすことの意味合いは全く変わる。早い話、付け方がわからない。

 

なんか、木の棒と板を用意して死ぬほど擦ったり? 火打石と打ち金で火種を作ったり? 多分そういうことをすればいいんだろうが、なにぶんそんな都合のいい木材も石もない。遠出して必死に探せばあるのかも知れないけど、そんな事してたら余裕で夜を明かす羽目になるだろう。そして朝を迎えるまでにこの人が生きている保証はない。

 

じゃあ、人里を探してそこに連れて行く? これも厳しい。そもそもどこにあるのかわからないし、仮に見つけたとして村人が受け入れてくれるとも限らない。昼に見た通り昔の人達って結構排他的っぽいしね。

 

さらに最悪なことに、空模様が怪しくなってきている。

 

流石に空まで魔力感知は届かないけど、周囲の空気が重くなってきていることが魔力の流れで感じ取れる。もしかしたら雨が降るのかもしれない。

そうなったら外に出るのも厳しいし、ここに留まっていてもどんどん寒さで体力を奪われるだろう。雨で湿気て火を起こすことも難しくなる。

 

今できることだけじゃ不十分なのに、今できること以上に取れる選択肢がない。

 

「はぁ……はぁ……」

 

敷物にしていた服の一部をびりと破り取って、患部に巻きつける。本当ならもっと綺麗な布が良かったんだけどね。何もかも足りないや。

 

そうこうしているうちに、ぽつぽつと外で雨が岩を打つ緩慢な音がして、それはどんどん間隔が狭まっていって、すぐに連続した雨音になった。

 

私は、せめて少しでも風が凌げればと外に背を向けて女性の前に座ったが、まぁほとんど意味はないだろう。

私の体は冷たい。まるで血が通っていないように、冷たい肌の感触がする。だから人肌で温めるってこともしてあげられない。

 

苦しんでいるのを、見ていることしか。

 

……魔力を操れて、多少は強くなった所で所詮こんなもんだ。殴る蹴るじゃ本当の意味で誰かを救うことなんて出来ない。そりゃ疎まれるわけだね。

 

──待てよ、魔力?

 

そう、そうだ。私は何を考えてるんだ? 出来ることがない?

 

私は魔力を操れるじゃないか!

 

女性の体に手を当て、体内の魔力の流れを感じ取る。やはり弱々しく、枯れた川を流れる僅かな流水のような辿々しい魔力の流れがそこにはあった。

……この状態で魔力を加速させても、体に負担をかけるだけだ。自分の魔力ならともかく、他人の魔力を操作するのはすごく難しい。

 

だから、強化するんじゃなく魔力を使って血管を塞ぐようなことはできないか? 出血が止まれば多少は楽になる。

……だめだな。血流が加速してむしろ出血量を増やしてしまう。塞がりかけている傷口を開いてしまう。

 

そもそも魔力ってのは肉体を強化するならともかく、治癒力を高めるようなことに根本的に向いてない。

魔力は特に負の感情から多く生まれる負のエネルギー。だから人を助けようとする時なんかに魔力は捻出しづらい。体を流れる魔力の向きが逆転してしまうからだ。だから魔力は人を傷つけることには向いていても……。

 

……人を助ける時、魔力は“逆転”する?

 

逆転、そう、逆転だ。魔力は逆転する。勢いを失ったり、止まったり、弱くなったりするわけじゃない。ただ逆転するだけだ。そして、この逆転した魔力は体を強化するのに向かない。

 

じゃあ一体、何に向いているのか?

 

電流のような閃きに突き動かされて、私は手を翳して女性の体の中の魔力を弄った。

 

弱々しい魔力が流れている。その流れを……体の端から“逆流”させていく。

打ち返す波のように。魔力の流れの中に渦を作るように。

 

逆流させる、と言葉で言うのは簡単。だけど実際にそれを意図的にやろうとするのは困難を極める。

血液を逆流させるのと同じことだ。本来の自然な魔力の流れと真反対の流れを生み出すというのは高い魔力の操作精度を要求される。

 

それだけじゃない。ただでさえ弱々しい魔力しか残っていない人の魔力を無理に操作すれば、体に負荷がかかって漏出魔力が多くなる。漏れた魔力の分だけ人間は死に近づく。

 

一度でも魔力切れを起こせば、この弱った体はもう一度目を覚ますことはなく永遠に眠ったままになるだろう。

そうならないように、魔力の漏出を限りなく0に近い状態で、魔力の流れを逆流させる必要がある。

 

なんて難しい作業なんだ。

 

人間らしい反応をすることが極端に少ない私の体から汗が滲み出て、酷使している脳が朦朧として意識は霞がかってくる。

もはや懐かしく感じる魔力切れが近い感覚。それを、気合いと根性で乗り切って魔力を反転させる作業に全力を尽くす。

 

老朽化して水漏れが起きているパイプから水を漏らさないように、新品のパイプと交換しながら内部を流れる水を逆流させるという作業を、徹夜明けの状態でやるようなあまりにも不安定な状況。

 

何か一つでもミスを犯せば、たちまち連鎖的に全ての作業が崩壊する。そしてその瞬間この人の命は無くなるのだ。

 

……なんで私、こんな必死になって助けようとしてるんだろう。

 

極限状態で、限界以上に魔力を出力し続けている脳が副作用とも言える溢れ出た“負の感情”で私の胸中を支配する。

 

この世界の人間の本性はすでに見た通りだ。幼子を平気で見殺しにして、武器を向けて、そして自分が危ないとなれば、仲間を見捨てて情けなく背を向けて逃げ出す。

 

この女も同じだ。きっと目を覚まして私を見た途端、バケモノのように扱ってくるぞ。わざわざ助けるまでもない。このまま雨に晒して殺してしまえ。

 

それよりも胸に抱く強い魔力を持ったモノが気になるんじゃないか? それを手に入れて、さらに魔力を強化すれば誰も私には勝てなくなるぞ。馬鹿な人間どもを支配できるぞ。

 

復讐したいんじゃないか? 私をこんな目に遭わせた奴らを、それ以上の地獄に叩き落としてやりたいんじゃないか?

 

……そうかもね。

 

そういう気持ちが私の中にあることは確かだ。そこに嘘をついたってしょうがない。私は聖人でもなんでもない。ただの人なんだから。

 

ただの人だから、人を支配するなんて大層なことしたってどこかで崩壊するのは目に見えてる。私は自分に才能がないってことをよくわかってる。魔力を上手く扱えるのも、きっとこの体のおかげだろう。

 

借り物の力を自分のものだと勘違いしてはしゃげるほど、私は若くないんだよ。黙ってろ。

 

急速に負の感情が遠ざかっていくのを感じる。

 

私は、夜が明けるまでただひたすら集中して魔力を操作し続けた。

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