づぅがれだぁぁあぁ〜〜!!
冷たい岩肌に大の字で寝転がりながら、私は乱れた息を整えた。
……いつの間にか雨は上がり、太陽が昇っている。夜が明けたのだ。それほどの長い期間私はずーっと魔力を操作し続けた。
そりゃ疲れるよね〜。しかも他人の魔力だし。
なんでこんな長い時間かかったかって言えば、結局どこまで“反転魔力”を体に流し続ければ生命を維持できるのか分からなかったからだ。
あ、反転魔力ってのは流れを逆転させた魔力のことね。反対に逆転させた魔力だから反転魔力。ネーミングはそのまんまだ。私のその手のセンスを期待しないで欲しい。
で、その反転魔力を使って怪我を治したり体力を回復させることができるんじゃないかって試みは、まぁ、ある程度成功した。
ある程度っていうのは、少なくとも放っておいたらどんどん弱っていきそうだった女性がこうして朝になっても安らかな寝息を立てている程度には効果があったと見てもいい。
ただ、怪我を治すとか治癒するという点でどこまで有効なのかは謎だ。元々傷は小さかったし、私が反転魔力を流し始めた時点で塞がりかけてたからね。もっと重大な負傷に対してかけてみないと実際の効果はわからん。
だから色々と検証の余地はあるんだけど……まぁ、今は別にいいや。
この女の人がちゃんと朝になるまで生きられた。それが大事なことだ。
もしかしたら私が何もしなくてもこの人は朝まで生きてたのかもしれないけど、弱ってたことには違いないし。苦労が無駄だったとは思わん。
私も反転魔力っていう新しい魔力の境地に辿り着けたし。これから私が怪我をしたりすることがあっても、これのおかげで助かるようなことになれば私の方がむしろこの人に助けられたとも言える。
私にとってはただの人助けってわけじゃ……お?
「……ん、う」
あ、起きた。
「──、──?」
女性が目を開いて、辺りを見渡しているらしい。困惑げに辺りを見渡して……。
「──」
多分、私を見て視線が止まった。
驚愕、放心……そんな感情が女性の中に渦巻いていることがわかる。感情と魔力は密接に結びついてるからね。反転魔力を扱うようになったことで、よりその辺の機微に敏感になったらしい。
だから、もし警戒されたらその感情も一瞬で私に……えっ。
「──!」
安堵、感謝、尊敬、親愛……。
えっ、これってもしかして私に感謝してる……?
女性は深く深く私に向かって頭を下げているようだった。それこそ、地面に頭を擦り付けるほど深く。
お、おう。苦しゅうないぞ? おん。
……どうすればいいんだよ、この状況。
状況を飲み込めない私がぼーっとしていると、女性は自分の傍らに置かれていたモノを差し出した。
それは昨晩女性が倒れていた時に胸に抱いていて、夜通しずっと離すことがなかったものだ。
私は魔力操作に必死で分からなかったが、どこかのタイミングで手放して枕元に置いていたらしい。
ずっと強い魔力を放っていることだけ気づいていた、その正体は──。
……壺?
いや、違う。これってアレじゃないか?
“土器”ってやつか?
◆
縄文土器。
教科書や歴史資料などでよく出てくる、網目状の装飾が特徴的な“アレ”だ。
ああいうのは土器の中でも火焔型土器っていうんだっけ? よく覚えてないけど。
ゲームの敵キャラのモデルになったとかの話は聞いたことあるけど、正直それ以上の知識も興味も大してない、私の人生に深く関わることはない日本史の遺産の一つ……だったはずのもの。
教科書で見たそれと全く同じではないけど、近い形の土器が私の目の前に置かれていた。
今なら言える。ちゃんと日本史勉強しとくんだったって。それくらい私の目の前にある土器は見事なものだった。
なんて言うんだろう。確かに精密さって意味だけなら21世紀の電子部品とかの方がそりゃ凄いよ? けどあれは工業製品とか半導体技術の発達で到達した領域であって、人間の技ってわけじゃない。
それに対してこの土器の造形は、人間の技の究極を見せられているという感じがすごい。語彙力。
これ粘土なんだよね? 図工の時間に紙粘土こねくり回してた私が100年かかってもこれは作れそうにないんだけど。ほら、この辺の細い突起みたいなところなんか絶対焼き入れるとき割れちゃうって。細すぎ。雑誌モデルの腰かよ。
こんな繊細なもんを壊さずに持ってたこの人は何者? いやまぁ、多分扱い的に大事な物なんだろうからそりゃ壊さないようにするだろうけど。私は絶対こんなもの運びたくない。
しかもこの土器以上に重要なのは中身なのだそうだ。言葉はわからないけど、目線がそう言っている。
蓋代わりと思われる木片を縛る縄を解き、中を覗く。
土器の中には灰が詰まっていた。そしてその灰のなかに強い魔力を放つ何かが眠ってる。それを女性は私に取り出して欲しそうにしていた。
正直、こんな明らか重要そうな物に勝手に触りたくないんだが。壊しても責任取れんよ私。
とは言いつつも気になるのは確かなので、意を決して私は灰の中に手首を突っ込んだ。
わざわざ指先で探らなくても魔力で物を見ればそれの位置はわかる。私は灰の底に沈んでいるそれを手に取った。
骨だ。
指先ほどの長さで、やや湾曲しており小さく円形の穴が空いている。骨というより、これは歯だろうか。この小ささなのに、強い魔力を纏っている。同じ形の歯がもう一本埋まっていて二本分。
他にも細長かったり、ごつごつとしている骨なんかがいくつも入っていて、それらは一つ一つ取り出していくと形が似通っていながらも僅かに違う姿形をしていることがわかった。
前に何かのアニメで見た指骨がこんな形をしていたと思う。
灰の中から取り出した骨はいずれも高い魔力を内包していて、恐らくは魔力的に強い意思や思念が長年込められ続けていることが予想できたが、正直言ってこれらは本命ではない。
この小さな骨たちをかき分けて、さらに灰の奥の方に異様なほど大きな骨があった。それを両手で掴んで、慎重に取り出す。
……。
やはり骨だ。
人間の頭蓋骨だ。
魔力で感知した時から薄々気づいていたが、これを取り出したことで確信した。
この土器の中には、人間の遺骨が入っていたのだった。