目の前に正座して座る女性……骨を運んでいたので仮に“骨美さん”とするが、その骨美さんは緊張した目で私のことを見ていた。
「一体この人は何をしてくださるんだろう……」みたいな感じの視線だ。
私は聞きたい。何をすればいいの? これ。
明らかに強い魔力を放っている禍々しい頭蓋骨を手に持ったまま、私はしばし硬直した。
いや、マジでさ。困るんだってこんなん渡されたって。置き場所に困るよ。怖いし、普通に。
嫌がらせ? 実は死にたくてわざわざあそこで倒れたのに私が助けて余計なことしたからって嫌がらせされてる?
あるいは普通にこれを喜びそうと思うぐらいには私のビジュが怖いのか? どうしよ、マジで骸骨みたいな顔面なってたら。まぁ元々そんなもんだったけど。
そもそも骨美さんは、どうして人間の遺骨なんか大事に抱えていたんだろう。怪我のことも気になるし、どこに向かおうとしていたのかも気になる。
恐らくは貴重なものらしいこれを、なぜ私に見せたのかも。
わからないことだらけの現状だ。せめて、わかっておくべきことはわかっておきたい。骨美さんという初めて友好的な関係を築くことができた人がいる今だからこそ。
手に持った頭蓋骨を、一旦慎重に灰の上に置く。
私は、ボディランゲージで骨美さんに私の意思を伝えた。
「言葉を教えて欲しい」と。
声を発するジェスチャーや、耳をすますジェスチャーでなんとか伝えようとする。
骨美さんは私が何かを伝えようとしているのを察したみたいで、私のジェスチャーをじっと凝視する。
そして「わかりました!」とばかりにうんと頷いて立ち上がった。
良かった、骨美さんが優秀で。このまま意思が伝わらないまま、また夜になったりしたらどうしようかと思ってたから。
「──」
立ち上がった骨美さんは私の後ろに回ると……なぜか私の体の上に自分が着ていたらしい獣皮の衣服を着せた。そしてそれを羽織った私を見て非常に満足げだ。
どうやら夜を明かすことになりそうだな……。
◆
その後、あれこれとボディランゲージを試していたら、突然骨美さんがすくっと立ち上がって中に人骨を収めた土器を抱えながら歩き始めた。
振り向いてこちらをじっと見ている視線に「付いてきてください」という意志を感じたので、私はその後に続く。
私が言葉を話せないことと、言葉を教えて欲しいという意図が伝わったのかは不明だ。だけど骨美さんは明確な目的地があって私をそこへ案内しようとしているらしい。
道中、付近の山から降りてきたらしい熊が木に身を隠しながらこちらを狙ってきたが魔力を放ってビビらせたらどっか行った。何故か骨美さんが感動していた。
しばらく進むと、なだらかな地形の傾斜がついた広い草原に出た。骨美さんが最初に走ってきた方角だ。
そこで骨美さんは、何かを探すように辺りをきょろきょろと見回し始めた。ここに探し物があるらしい。
私は周囲の魔力を探知して、長く伸びた草の根元に中身が詰まった皮袋と散乱した石器類を見つけた。多分これが探し物だ。
骨美さんに“こっちこっち”と手招きしながら、彼女が探していたであろう物が落ちていたところに案内する。すると骨美さんはほっとした様子で袋の中身や石器の状態を確かめ始めた。
この時代で外出するにしては随分身軽な状態だったと思っていたが、どうやら荷物をここに落としていたらしい。
落とし物を見つけた私にぺこぺこと頭を下げてから、袋の中から何かを取り出した。それは小さく、植物に近い魔力の波長を放っている。手のひらにコロコロと転がり出たそれは私にとっても馴染み深い形をしていた。
クルミだ。
なるほど。クルミを一種の保存食みたいに持ち運んでいたのか。確かに堅果は腐らないし、少し森に入って探せばどこにもある。それにクルミは脂肪が多くて、昔は貴重なエネルギー源になるって話も聞いたことがあった。
骨美さんは納得している私の前でクルミを近くにあった石場の上に置き、袋と一緒に回収した石斧を持ち出して振り上げた。
「──?」
それを、私は骨美さんの肩に手を置いて制止する。
確かにクルミの殻は硬い。くるみ割り器なんて物があるくらいだしね。道具を使わなきゃ割るのは簡単じゃない。特に男手がない状況なら尚更。
私が子供の頃に食べたときは確かペンチを使ったっけ。懐かしいな。
今は必要ない。
私はクルミを二つ右手に持って、殻を触れ合わせた。そしてクルミが飛び散らないように細心の注意を払って握り込む。
パキャッ、という音が響いて二つのクルミが綺麗な断面を見せて割れた。そうして割れたクルミを骨美さんに渡した。
「──」
骨美さんは目を丸くして、手の中の割れたクルミを凝視していた。信じられないものでも見たかのような表情だ。
私は自分が細い見た目に反して力持ちであることを示すために腕を曲げて力こぶ作った。作れなかった。ただ枝が折れ曲がってるだけだ。
だけど、驚いたことに骨美さんは私の腕に見た目通りではない力が宿っていることに気づいたらしく、顎に手を添えながら私の腕を興味深げに凝視していた。
もしかしたら、骨美さんも魔力が見えるのかもしれない。