栗饅頭を頬張りながらそう言えば、と俺は口を開いた。
それに眼前の高専教師陣は一斉に沈黙して視線を俺に集中させた。
「俺は今働き口を探している。もし同化をしないのなら術師として雇われてやっても良い」
「は?」
俺の言葉に皆が固まってしまった。
当たり前のことを口に出しただけなのだが何故にこうも一々疑問を抱かれなければならんのか。
そもそも生前の俺だって奪って食べるとかはしなかった。ちゃんと呪霊から助けたお礼とか貢ぎ物を食ってた。
裏梅からは態々宿儺様が動かれなくとも良いと言われていたがとんでもない。
身の回りの世話とか諸々を裏梅に任せているのにニート生活なんてしてられん。
だから割と本気で働き口を探して歩いていたし、自分で熊とか猪とか狩っていた。
かつてはそうやってサバイバル生活でも問題なかったが現代ではそうもいかない。
真っ当な働き口を見つけて裏梅に楽をさせてやらねばと思っている。
「同化しなかった場合は天元が敵になる程度、代わりに俺という戦力が手に入るなら安いだろう。だからと言って呪術総監部の塵共に従順になる訳ではないがな」
「それは…確かに。大きなメリットになる。しかしその保証は?」
「縛りで良いだろう。俺は高専側からの不快にならない程度の命令なら聞く、代わりに天元の同化を行わない」
手足みたいに酷使されるのは面倒だし不愉快だからこれくらいが妥協ラインかな。
向こうにもメリットのある良い取引だと思う。
「それは確かに有り難い…」
「しかし進化した天元様がどのような存在になるかは未知数だ」
「だからこそ宿儺という戦力をこちら側にしておくべきだ」
またも教師陣は侃侃諤諤と意見を交わす。
俺は栗饅頭をまた一つ口に放り込んでそれを見守った。
議論が平行線を辿る頃、頭を刈り上げて剃り込みを入れた男─夜蛾正道─という教師が口を開いた。
「…星槳体に答えを委ねるというのは如何でしょうか」
「な…!?」
「中学生の子供に我々の未来を決定づけさせるというのか!?」
ふむ。星槳体に任せるというのは俺としても賛成だ。
星槳体が中学生なら尚更同化なんてしたくないだろうし、俺の求める答えを出してくれる可能性は高い。
俺も子供なんて殺したくないしな。今まで一度もなかった訳じゃないが気分の良いものではなかった。
「我々は今未曾有の危機に立たされている。だからこそ選択はこれからを背負う若者にこそ委ねたいのです」
まあ年寄りが出張るべきじゃないわな。
世界の命運を決めるというのならそれは本人に任せるべきだ。重圧にはなろうが、それらの文句は黒幕の羂索が受け付けている。
あいつなら全スルーだからな。俺の時もそうだった。
軈て答えを出したのか教師陣の中から学長が前に進み出てくる。
「我々の選択は星槳体に委ねます」
「そうか。なら居場所を教えろ。直接聞きに行く」
「貴方が星槳体を殺さないという保証は?」
「俺は同化を阻止してくれとは言われたが星槳体を殺せとは言われていない。六眼と戦ってる内に同化されるのは管轄外だな」
「なるほど。でしたら現在地をお教えします」
そうして俺は星槳体の居場所を教えて貰いそこへと向かうことになった。
◇
ということで星槳体の宿泊しているホテルにやって来た訳だが。
何故か目的地のホテルの部屋は爆破されていた。野次馬も多い。
観衆達は俺の姿を見て恐れ慄き道を開ける。
俺はズカズカとその間を通ってホテルへと入って行く。
これで星槳体が死んでたらラッキー。生きてたら話し合いだ。
まあ六眼持ちがいるし早々死ぬことはないと思われる。
六眼を前にした時の感覚から恐らく奴は俺に及ばない程度の才能を有している。
そんな奴を出し抜ける者がいるとしたら相当の手練れだ。
有り得なくはないが可能性は低いだろう。
俺は目的の部屋がある階に辿り着く。
そこには既に二人の護衛と星槳体と思われる少女、そしてその付き人らしき女がいた。
星槳体と付き人はどちらも美人だな。できれば殺したくない。
星槳体の子は俺を見て驚愕に目を見開き絶叫した。
「四本腕の化け物じゃ!?助けて黒井!!」
「な、何者ですか!?」
黒井と呼ばれた付き人は星槳体を庇うようにして立つ。
俺を前にして臆しながらも立ちはだかるとは胆力のある女だ。益々気に入った。
そこで口を挟んだのは夏油であった。
「両面宿儺、と呼ばれる呪詛師です。今回は話し合いに来たのだとか」
「呪詛師なら不味いじゃろ!!倒せ白髪頭!!」
「…大人しく話聞いとけ。俺達でも相手すんのは相当しんどい」
そう聞けば星槳体の少女は息を呑んだ。
黒井も冷や汗を流している。
俺は適当な部屋の扉を蹴破って中に入り、ソファに座る。
「まあ座れ。話し合いに来たのは本当だ。俺もできれば可愛い女は殺したくない」
「可愛ければ良いのかよ…」
「当たり前だ。可愛いは正義だ。可愛いの前に全ての問題は解決される」
「宿儺の…呪いの王のイメージが崩れる…」
何やら夏油が頭を抱えてしまった。
そんなに悪虐非道だと思われているのか。俺は無闇矢鱈に人を殺すなんてしなかったのに。
何なら見逃してやった奴の方が多い。羂索の方が余程邪悪だ。
奴は面白いと思ったことを実行する。
人間なんて玩具程度にしか思っていない節がある。悪意がないから尚更厄介だ。何せ面白いことがしたいだけなのだから。
星槳体は俺の対面におずおずとした様子で座る。隣に黒井が座って星槳体を落ち着かせるように手を握った。
「それで妾に何の話じゃ。妾の命ではないのか?」
「殺す気なら最初の段階で首を刎ねた。俺は可愛い奴はできる限り殺さないと決めている。俺はお前に同化を拒否しないかと提案をしに来た」
「同化の拒否…」
考えたこともなかったのだろう。
星槳体は目を見張って呟いた。その瞳には動揺と疑心と希望が見え隠れしている。
「妾が同化を拒否したら天元様が敵になるのじゃろ?それはどうするのじゃ?」
「俺が相手することになるだろうな。そういう縛りを結んできた」
「宿儺が味方になるのか…!?」
「まあな。俺とて日本が終わるのは本望ではない。あくまで縛りの為に動かされているに過ぎん」
俺自身は裏梅と共にいられて美味しい物が食えたらそれで良い。
その為にはまともな世界がなければならない。だからこそ気軽に日本を終わらせようとする羂索と馬が合わないのだ。
星槳体は答えを出せずに黙り込んでしまった。
自分に与えられた宿命と降って湧いた希望に混乱しているのだろう。
「まあすぐに答えを出す必要はない。同化まで後二日もある。充分に悩むと良い」
それだけ言って沈黙する。
俺はどっちかと言えば生きて欲しいな。可愛い子は今までも見逃して来たからな。
万とかしつこいくらいに襲って来たが全部返り討ちにして生かしてやった。
あいつはあいつでどうして俺に執着するんだろうか。愛を知らないだとか喚いていた気がするがそんなことはない。
裏梅を想う気持ちは確実に愛である。これだけは間違いない。
今回もどうにか穏便に事が進むと良いな。
そんな風に思考を他所にやっていると気が付けば星槳体が学校に行くことになっていた。
まあ友達と交流すれば気も変わろう。俺としては賛成だ。
そんな訳で廉直女学院中等部までやって来た。
現在はプールでのんびりと過ごしているところである。
星槳体─天内理子─は授業を受けている。
ちなみに俺も行くと口にした時は猛反発された。
目立つし、化け物だし、呪力が果てしなく尖ってるしでやめろと言われた。
俺は護衛には最適だろうと反論し、加えて呪力の抑え方も片手間に覚えたことと見た目はコスプレで押し通せば良いと言うことで捩じ伏せた。
護衛二人は納得いかない顔をしていた。
そんなこんなで今に至る。
五条は何やら携帯で通話している。ガラケーとか古いな。まだスマホがないのか。
裏梅と二人でゲームしようと考えていたんだがな。まあ追々できるか。
どうせこの身は不老である。時間なんて気にする必要はない。
言い忘れていたが受肉体は歳を取らない。
存在そのものが呪物みたいなものなので老いという概念がないのだ。常に肉体は全盛期を保ち続ける。
それを思えば天元も呪物化して受肉すれば同化の問題も解決しそうなものだが、方法が分からないのだろう。
俺だって魂の呪物化は羂索の手を借りたからな。今はもう感覚を覚えたので自力で可能だ。
これで奴の手を借りずに済む。
「悟。急いで理子ちゃんの所へ」
「あ?」
「2体祓われた」
俺がぼんやりとしているといつの間にか敵襲があったらしい。
態々俺が出るまでもないが暇潰しに遊んでやるか。
「俺が片方の敵を相手してやろう」
「…情報を引き出す為に殺さないでくれよ」
「ふむ。殺さなければ良いのだな」
三人は俺が何を考えているのか分かったらしい。
三人とも苦い顔をしている。
現代人だから平安のやり方には驚くだろうな。
あの時代では反転なんて当たり前の技術だったから、多少の無理を押し通せたんだよな。
まあ適当に達磨にして聞き出せば良いだろう。傷口を反転で塞げば死にはしない。
どうせ可愛い子の命を狙う塵だ。幾ら傷付いたって構わないだろう。
・すっくん
可愛い子の敵には容赦しない。
裏梅が早く受肉しないかなぁーと考えている。
・天内理子
すっくんにビビりながらも意外と話ができる奴なのか、と思い始めている。
突然齎された希望の道に混乱している。
・黒井美里
すっくんが平安術師マインドをしてることに気付いて怯えてる。
・五条と夏油
すっくんが思ったよりマイルドな性格してて驚いている。