廉直女学院校舎の廊下を駆ける。
先頭を行くのは夏油と五条の二人だ。後ろには一応黒井もついて来ている。
五条が足を止めることなく口を開く。
「天内は!?」
「この時間は音楽なので音楽室か礼拝堂ですね」
「レーハイドゥ!?」
「音楽教師の都合で変わるんです。あとここはミッションスクールです」
五条の疑問に答えたのは黒井だ。
術師が神に祈りを捧げたり拝んだりすることは割とあることだ。呪霊が身近であるからこそ神という上位の存在を信じ易い。
俺も新嘗祭で祀られていたしな。
神という存在が実在するかは不明だが、有り得なくはないと思っている。
転生して実感したことだが世界には輪廻転生のシステムが存在する。
だからこそ輪廻転生を司る神と呼ぶべき存在がいても何らおかしくはないと考えられる。
俺はそのシステムから外れて異世界へと転生した。
その時の感覚を掴んでいるので転生する時は裏梅も連れて行ける。
まあそんな機会はないと思うが。
「悟は礼拝堂。黒井さんは音楽室。私と宿儺で
「承知致しました」
「突き当たって右の廊下のいる奴は俺が相手しよう」
「なら私は外に向かう」
そうして4人別れて行動する。
俺は一人悠々と廊下を歩いて行く。
呪力を抑えているので相手も俺がどういった存在かは気付いていないだろう。
突き当たりを右に進めばその先には一人の老人がいた。
丸眼鏡を掛けた老人は鋭く俺を睨み付けた。
「その姿は…!?まさか、かの両面宿儺か!?何故こんなところに!?そもそも受肉していたのか!!」
「疑問が多いな。俺の方はシンプルだぞ。知ってることを話せ」
俺は即座に老人の手足を切り飛ばす。
廊下に血飛沫が舞った。
「グアァ!!!」
「喧しい奴だ。治してやるからさっさと話せ」
老人に下の右腕を当てて反転で治癒する。
傷口が塞がりそれ以上血が流れることはなくなった。これで失血死することはない。
後はじわじわと拷問して吐かせれば良いだけだ。
老人は話さなければ殺されることを悟ったのか痛みに呻きながらも喋り始めた。
「星槳体に3000万の懸賞金がついている……呪詛師の使う闇サイトだ。期限は明後日の午前11時……」
「懸賞金か。どこの誰かは知らんが愉快なことを考える」
金に釣られる愚物を集めて同化までに精神を擦り減らすのが目的だな。期限があるのは油断を誘う為か。
相手は随分と手慣れてるな。そして六眼を最大限警戒している。
羂索なら俺と六眼が最終的にぶつかることを想定しているだろうし態々こんな削りなんてしないだろう。
相手は羂索本人又は手先ではなく、俺の存在もまだ知らないと見える。
中々楽しめそうな相手だ。
千年前は戦術など持たずに突貫してくる奴等ばかりだったからこういうのは新鮮で良いな。
しかしここまで慎重な相手だと俺の存在を知った時点で手を引く可能性は高い。
どうやって引き摺り出すか。
そうだな。人目に付くというのもあるし受肉先の肉体に戻っておくか。
俺本来の肉体だと目立つからな。天内にも散々言われたし。
俺は目の前の用済みになった老人を放置して受肉体を変化させる。
肉体がゴキゴキと異音を立てて作り変わり元の姿へと戻る。
髪の色も黒に変わり、身体的な特徴は四つの目と体の刻印だけとなった。
ふむ。完全受肉の時とは違ってあくまで肉体を作り変えているだけだから損傷は回復できなさそうだ。
完全受肉は肉体の変質だからな。例え腕が欠損していても治せたんだが、仕方がないか。
リスクもなしに肉体の回復を使い倒せる訳もないか。
「さて、夏油と合流して情報共有だな。運が良かったな。貴様は殺すなと言われている」
老人は露骨にほっと安堵の息を吐いたが、何を安心しているのだろうか。
これから先一生自分一人では生きていけない体にされたのに。
まあこれも私欲で人を傷付けた報いだ。身の丈にあった生き方をすればこんな目に遭わずに済んだのだから。
◇
現在夏油達と合流して情報交換をしたのだが、ちょっとしたハプニングに見舞われている。
「すまない。私のミスだ。敵側にとっての黒井さんの価値を見誤っていた」
夏油はそう悔恨する。
どうやら黒井が一人になったところを敵に拉致されたらしい。
「相手の出方次第で幾らでも取り返しはつく。先ずは黒井の生存の確約だ」
「宿儺は黒井さんを助ける気があるのか」
「当然だ。この世から美人が一人失われるのは耐え難い苦痛だ。それが理由で散々見逃して来た」
「…っていうか見た目が変わってんのは何?」
「受肉先の肉体に戻しただけだ。そんなことより、これからの動きはどうする?」
「そんなこと???……まあ宿儺だしなぁ…」
俺が話を戻すと五条が呆れたように溜め息を吐いてから作戦を話し始めた。
人質交換的な動きで出てくるだろうから交渉の場を設ける。
天内は高専に連れて行き、家入硝子という高専生に影武者をやらせる。
と、そこで天内が口を挟んだ。
「ま、待て!!取り引きには妾も行くぞ!!まだお前らは信用できん!!」
「あぁ?このガキ。この期に及んでまだ─」
「助けられたとしても!!同化までに黒井が帰って来なかったら?まだお別れも言ってないのに…!」
その言葉は悲痛な心の叫びであった。
俺は目に涙を溜める天内の頭を撫でて落ち着かせる。
天内は疑問顔で俺を見た。
「影武者ではなく本人を連れて行けば良い。手元に置いておけば護り易い。俺的には高専の方が信用ならん」
羂索のこともあるし、六眼と離れたところを狙ってくるかもしれん。
天内が同化を受け入れる場合の俺の役割はあくまで六眼との戦闘だ。天内を殺すことは含まれていない。
だからこそ天内を護るなら側に置くのが一番だ。
「宿儺の言い分も分かる。私達なら余程のことがあっても天内は護り切れる。しかし黒井さんはどうなるか分からない」
「随分と臆病だな。俺はどちらも助けられる自信があるぞ?」
「…言ってくれる!」
プライドを煽ってやれば五条と夏油は見るからにやる気を出した。その意気だ。
相手がどんな卑劣な手を使おうと俺なら救い出せる自信があるのは事実だ。
だから俺は安心させるように天内の頭を撫でるのだ。
天内もそれに僅かに不安を和らげたようだった。
◇
拉致犯が取引場所を沖縄に指定したので今は飛行機の中だ。
五条が離陸前に六眼で乗客に怪しい奴がいないか確認し、飛行中は夏油の呪霊が機体に張り付いて防御している。
万が一破壊されて墜落しそうになったとしても天内は俺が抱えて空を飛べば問題ない。
五条達は知らん。自分達でどうにかするだろ。
そうして下手な陸路より安全なフライトを終えて沖縄に到着すれば、後は指定されたビルに向かうだけだ。
「無駄にデケェビルだな」
「どうだって良いことだ」
俺はそれだけ言って廃ビルの中へとズンズン進んでいく。
それに三人は慌ててついて来た。
相手は最上階に陣取っているようだ。
俺は階段を上がって目的地へと辿り着く。
伽藍堂な最上階の奥には黒井とそれを囲む非術師の群れがいた。
俺は即座に斬撃を飛ばして非術師の首を刎ね飛ばした。
首から血が噴出して辺りを赤に染める。
血の海を堂々と進み、中心にいる黒井の拘束を解く。
「あ、ありがとうございます…」
「気にするな。この程度手間でもない」
黒井は慄きながらも感謝を口にした。
俺はそれを受け取って、黒井が血に濡れないように抱き上げた。
お姫様抱っこという奴だ。
「あ、あの、ちょっと!?」
「何だ不満か?血に濡れるよりは良かろう」
「いえ、不満とかではなく…」
黒井は顔を紅潮させてモゴモゴと口にした。
ふむ。年齢的にお姫様抱っこは恥ずかしいのか。
裏梅なら喜ぶんだけどなぁ。
「黒井!!」
「お嬢様!!」
俺がドン引きしている三人の元に黒井を連れて行くと黒井は俺の手から離れ、天内と抱き締め合った。
「良かった…!!死んじゃうんじゃないかって…!不安で…!!」
「大丈夫です。この通り宿儺様が助け出してくれましたから」
感動の再会という奴だな。
黒井が殺されていた可能性も考えると心の底から安堵の息が出る。
もし殺されていたら攫った奴等の家族も纏めて殺すところだった。
それにしても攫ったのは非術師だったのか。
確か盤星教とかいう奴等だったか。天元との同化を阻止したい奴等。
俺と同じ目的なのは良いが可愛い子を殺そうなんて許せん。同化の問題が解決したら物理的に解体してやるか。
そんなことを思いながら俺は家族の再会を見守ったのだった。
・すっくん
盤星教は解体しなければならぬ(確固たる決意)
受肉先の姿と本来の姿を自在に変えられるようになった。
・美里
圧倒的な暴力で助けてくれた宿儺に脳を焼かれた。
・理子
宿儺が黒井を助けてくれて好感度アップ
生きたいと思い始めている。
・伏黒甚爾
宿儺が相手にいると知らない。
いると知ったら尻尾巻いて逃げる。