目の前の無惨な遺体を見つめる。
今回は精神空間による対話はないようだ。強者との戦いでは稀に死後、或いは死の直前に相手と精神空間による対話ができる。
それは現世への未練や葛藤があった者とだけ行われるのかもしれないな。
刺客の男は遺言を残したからそれが必要なかったと捉えられる。
そこまで考えて俺は遺体に巻き付く呪霊を目に留めた。
あの芋虫みたいな呪霊から刀を取り出していたのを考えると格納型呪霊なのだろうと推測できる。
便利だし刀と一緒に貰っておくか。
俺は切り飛ばした腕から刀を取り外して格納呪霊の口に突っ込む。
するすると刀が収納されて完全に飲み込まれる。
後はコイツの主従関係がどうなっているかだが…。
呪霊は自ら俺の足元へと這ってくる。
俺が男を殺したからか主と認めてくれたようだ。余計な手間が省けて助かる。
呪霊に自身の体を格納させてサイズを縮小しポケットに突っ込む。
後は高専へ事の次第を報告しなきゃいけないな。
はぁー…お堅い上層部やらと話し合うの好きじゃないんだよな。
手っ取り早く強さで決めるのが面倒が少なくて良い。
裏梅がいたら任せたんだが、今はいないし我慢だな。
「上に戻るぞ。高専の教師陣に同化の如何を報告しなければならない」
「ああ。それと悟だが…宿儺は死んでると思うか?」
「さてな。上手くやれば生きているとは思うが…」
五条は反転も領域も習得していないから負けるのは分かる。
だが死んでいるかと聞かれると首を傾げざるを得ない。五条がその程度で殺せるなら羂索は困ってないと思うんだよな。
答えはエレベータの上から降りて来た。
「生きてるよ」
そう言って姿を現したのは血塗れの五条悟だ。雰囲気が随分と違う。
今の五条を相手にするとなると指一本分では心許ないな。
世界斬を不意打ちで食らわすぐらいか。
それも勘で避けそうなんだよな。
領域に世界斬を付与して賽子にするぐらいか。
五条は死体となった男を見て溜め息を吐いた。
自分でリベンジを果たしたかったらしい。
そして気を取り直して口を開いた。
「それで天内はどうすることにしたんだ?」
「同化はなしだ。宿儺も今まで通り護りに徹してくれるってさ」
「そりゃ良かった。ガキンチョのお守りはもうしたくねえからな」
「お?」
ガキンチョ呼ばわりに天内がキレる。
ポカポカ殴ろうとするが無限に阻まれて届いていない。
それに更に腹を立てた天内を五条が煽るという悪循環を繰り返す。
「この…!狡いぞ白髪頭!」
「そこまでにしておけ」
いよいよ蹴りが出始めた辺りで俺は天内の頭に手を置いて宥める。
天内はブスッとしながらも諦めて離れた。
そうして俺達はエレベーターで参道から上まで戻った。
上で俺達を出迎えたのは高専の教師達と控えていた術師であった。
代表して学長が前に出る。
「アラートが鳴ったので来たのですが、状況は?」
「天内理子を狙った刺客の強襲を受けた。対象は既に殺害済み。同化は星槳体の申し出によりなくなった」
「成程。では縛りの通り宿儺が高専側につくと」
「そうなるな。だが勘違いするな。俺は貴様等の手足になるつもりはないぞ」
「それは重々承知しています。我々もあくまで術師として扱うと総監部と取り決めました」
既に総監部から許可が降りていたのか。
となると正式に俺は術師として認められた形になるな。
等級はどうせ特級だろう。単独での国家転覆など容易い。
「それで天内理子の今後の扱いですが、中学卒業後はウチに通って貰い術師として扱うつもりです」
「その間の資金はどうする?」
「それは…」
学長は言い淀む。
天内はまだ中学生だ。学費とか諸々の金が必要になるがそれは高専では出さない方針なのだろうか。
だとすると保護者の黒井が苦労することになるな。
ふむ。良い案を思い付いた。
「当てがないなら俺が金の工面をしてやろう」
「そんな…宜しいのですか?」
「構わん。術師として雇われるなら俺も金を稼げる。その分で暮らせば良い」
黒井が動揺の浮かぶ顔をした。
俺がここまでする意味が分からないのだろう。昔も良くそんな顔をされたものだ。
「俺は可愛い者を護る為なら何でもするぞ?」
「そんな呪いの王は嫌だ」
五条が渋い顔をした。
歴史に残る強者として何か思うところがあったのかもしれない。解釈違いという奴だな。
生憎俺は可愛いの為なら己の全てを捧げる主義なのでな。この生き方を変える気はない。
今も昔も可愛いを護る為に生きて来た。
それは例えば美女や美少女、子供、愛玩動物と幅広い。
俺は可愛いを愛している。何故なら可愛いはこの世で唯一絶対の正義であるから。だからこそ己の全てを賭して護るのだ。
学長は緩くなった空気を咳払いを一つして引き締める。
そして重々しく宣告した。
「ではこれより宿儺を特級術師として認定し、天元様が暴走した際は祓除に当たってもらいます」
「良いだろう。ちなみに任務に対する報酬は?」
「本来は月給制だが、今回は特別手当が出ます」
「それは良かった。近場の不良達から巻き上げなくて済む」
「あぁー…アレね」
五条が小さく呟く。
俺が沖縄に行く前にカツアゲしていたのを思い出したのだろう。
路地裏で不良から金を巻き上げる呪いの王って…、と言われたのを覚えている。
別に悪人から金取ってんだから良いだろと俺は思った。
昔も立ち向かって来た術師から金を奪ったりしていたな。
少々懐かしい気持ちになりながら彼はとある事を思い出して口を開く。
「盤星教の教団が何処にあるか知っているか?」
「あぁ。それならこちらで抑えてありますが…何をするつもりです?」
「物理的に解体してくる」
「待て待て待て待て!!!」
俺の言葉に全員が慌て出した。
何を焦っているんだろうか。可愛い者を殺そうとする不埒な輩を殺すだけなのに。
「それは色々と困るというか!具体的には非術師の目に付くとか、そもそも非術師の殺害は呪詛師認定だから!」
学長が大慌てで捲し立てるが俺は意に介さない。
先程の男もどうせ盤星教の差し金だろうし害にしかならないだろ。
なら今から殺しておくのが世界の可愛い者達の為になる。
「どうせ今回これだけ大きく動いたんだ。殺しておいた方が世の為にもなるぞ?」
「それはそうだけど!もっと穏便に…!」
「ケヒヒ。呪いの王にそれを言うか。大分穏当だろうよ」
まあそこまで言うなら領域展開はしないでおこう。
丸ごと更地にしてやろうと思っていたが信者を八つ裂きにするだけで済ましてやる。
俺は涙目でお願いだからやめてと縋り付く学長を振り払って盤星教の教団本部の住所を聞き出して向かったのだった。
◇
血の海の中で俺は一人静かに佇む。
周りにはかつては信者だった物言わぬ肉塊が転がっている。
一応財布から中身を頂戴しておいた。これで当座の金は問題あるまい。
黒井と天内にあの伏黒甚爾とかいう男の子供も引き取るとなると相当な金が必要になる。
大変だがこれくらい訳はない。最終手段として任務単位で給料を貰うという手もある。
ちなみに伏黒甚爾の名前は信者から聞き出した。手足を少しずつ切っていけば素直に話してくれた。
「いやーお見事だったよ」
俺がそう考えていると部屋の入り口から黒髪の女が入ってくる。額には縫い目があり、それが羂索であることを示していた。
そしてその背後から現れたのは、後頭部に赤の混じった白髪のおかっぱ頭の人物であった。
俺は思わず声を上げた。
「裏梅!!」
「宿儺様!!」
裏梅は俺の名前を呼んで駆けて来た。
俺はそれを正面から抱き留める。
久し振りの裏梅との再会に興奮して強く抱き締める。その感触で分かったが肉体が女になっている。
「受肉先は女にしたのか。何故残しているんだ?」
「未熟な身ではありますが宿儺様に楽しんで頂けるかと考えました」
「俺は裏梅の体好きだぞ?」
裏梅は素早く完全受肉して男に戻った。
顔が赤くなっている。そんなに嬉しかったのか。
「感動の再会のところ悪いけど話進めさせてもらうよ」
「貴様は相変わらず空気が読めんな。…まあ良い」
「先ずは宣言通り天元の同化を話し合いで解決したことを称賛する。私にはない発想で見事に目的を果たしてくれた」
羂索は実に嬉しそうに語る。
その笑みは邪悪そのもので何を考えているのか今一読めない。
「これで貴様との縛りは果たした。俺は高専の術師として今後は活動する」
「……まあそれは仕方ないか。お互いに干渉し合わないように上手くやろう」
「貴様ならいつか俺すら手駒にしようと考えそうだ」
「そんなことないよ?」
羂索は嘘っぽい裏声でそう口にした。
絶対に俺を使った良からぬ事を考えている。
まあその時は羂索を殺せば良いだけだ。
今は可愛い姿をしているから手は出さないがその内体が変わったら殺してやろう。
俺は裏梅を抱き締めながらそう固く決意したのだった。
・すっくん
受肉先の肉体は羂索が頑張って用意した。
具体的には奇跡的に見つけた良個体を浴で半分呪物化させて受肉できる器にした。
裏梅と再開できて大興奮している。
・裏梅
すっくんと再会できただけで嬉しいのに本来の体が好きだと言われて脳が限界を迎えた末に気絶。
・羂索
すっくんでどう遊ぼうかと思案している。
天元の同化がなくなってウキウキ。
・悟
すっくんに理子の護衛を押し付けられてゲンナリ。
・高専側
後から見に行ったら盤星教本部が血の海になってて泣いた。