砂漠のアウトサイダー   作:上代わちき

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チャプター3「ヘルモンの猟犬」

 

 今日の飯はビリヤニだ。

 

 一言で言えば炊き込みご飯だな。

 スパイスを効かせて、肉やら野菜やらもまとめて炊き込む奴。

 

 

 

 俺の好物だ。

 それをターナーが作った。

 

 いいもんだったよ。

 

 

 

 

「……」

「どうしたのですか、ヨーダン」

「ん、どうにも最近情勢がきなくさくてな」

「情勢……ヴェスパー部隊、ですか」

 

 

 それはそれとして。

 

 ふと部屋に置いているテレビを見てみると、この辺りの情勢を知らせるニュース番組が流れていた。

 どうやらヴェスパー部隊の番号付きが、さらに数人惑星入りしたらしい。

 この間のプラント奪取の件で、アーキバスが本腰を入れて来たとのことだ。

 

 

 

 ヴェスパー部隊。

 アーキバスが擁する強化人間部隊だ。

 所謂アーキバス側のエリート部隊だな。

 

 もともと下位ナンバーの一部がこの惑星にいたが、何人か戦死している。

 前述のプラントの件も相まってか、今回上位ナンバーが二人ほどやってきたってわけだな。

 

 

 どうやらそれだけコーラルのプラントが欲しいようだ。

 もしくは、ライバル企業であるベイラムに土をつけられたのが気に食わなかったか。

 

 

 

 まぁいずれにせよ、ここから先は戦場がより荒れる。

 まったくもって、都合がいいってもんだった。

 

 

 

 

「まっず……けど不思議なクセだ。コンゴの奴、どっからこのタバコを調達したのやら」

 

 ACの中で吸うタバコは格別だ。

 体にスイッチが入る。

 

 肺を煙で満たせば、全身に栄養が行きわたる。

 生きてるって感じがするのがいい。

 

 

 他にも電子タバコやら婆さんがよく吸ってるコーラルタバコやらがあるらしいが、俺はこいつの方がいい。

 

 

 

 

「聞こえてるかい、ヨーダン」

「聞こえてるよ、ガリラヤ婆さん。野暮用は終わったのかい?」

「ひと段落って具合だね。この作戦が終わったらまた出かけるよ」

「忙しいこって」

 

 ターナーを拾って暫く。

 数件ほど奴と一緒に仕事したりしていたが、対照的にガリラヤ婆さんはどこかへ出かけるようになった。

 途中で家賃の支払いやら何やらあったが、ここ最近は代理人相手への手続きで済ませてる。

 

 "野暮用"と聞いているが、何をやっているのやら。

 

 

 

「……それで、そっちのは?」

「ACインサイダー、良好です」

「そうかい。まぁせいぜい犬死にしなきゃいい」

 

 それに、だ。

 どうにもターナーが絡むと、婆さんの様子が変わる。

 

 無条件で癪に障る……というわけではなさそうだ。

 が、距離を測りかねているといった可愛げのある雰囲気でもない。

 

 

 結果、ターナーとガリラヤ婆さんの間には妙に気まずい空気が流れている。

 もとはといえば、婆さんがターナーを拾ってこいって言いだしたくせにだ。

 

 

 

「ブリーフィングは覚えているね? 今回の目標は新宇宙港にあるアーキバスの船だ。潰せば潰すほど金になるよ」

「いいね。そういうシンプルなのは好きだ」

「アンタは相変わらずだね。そんなんだから金勘定がだめになるんだよ」

「いちいちうるっせえな……」

 

 

 話を変えようか。

 今回の作戦は、アーキバスの拠点である新宇宙港を襲撃するもの。

 

 アーキバスが持つもう一つのプラントを奪取する作戦の、まぁその基盤を整える一手って具合の作戦さね。

 

 

 とにもかくにもアーキバスの戦力を削る。

 話はそれからだ。

 

 

 

 

 作戦の前半は順調だった。

 新宇宙港に停泊している船を次々ハチの巣にして、ターナーも次々爆破していった。

 

 ガリラヤ婆さんも興奮していたよ。

 こりゃあいい金になる。

 

 

 

「……っ?! 待ちな、ヨーダン。本命が来たよ!」

 

 だが、ちとやりすぎたらしい。

 船を潰す片手間で二脚ACを一機潰したのもいけなかったかもしれん。

 

 

 

「独立傭兵ヨーダン。元レッドガンの"野良犬"だな。恨みはないが、仕事なのでな。死んでもらおう」

「ヴェスパー番号付き、ダリ! 噂には聞いていたが、まさか本当に戦うことになるなんてな……!」

 

 現ヴェスパー部隊最強のAC乗り、ダリ。

 奴の乗るAC「ギャグ」は、超重量フレームで固めるホバータンクACだ。

 その堅さは、並みのACじゃ足元にも及ばない。

 

 

 

「ヨーダン!」

「来るなターナー! っ……こりゃ、一発貰うだけでやべぇな……っ!」

 

 そして、武装面も怪物揃いだ。

 

 双身式レーザーライフルに、肩部レーザーショットガン、そして見たこともない可変レーザーキャノン。

 いずれもレーザーバズーカというべき火力を誇る化け物武装だ。

 

 

 

 そのドクトリンは、それぞれの武装を順番に振り回すっていうシンプルなものではある。

 だが明らかに専用のジェネレータでレーザーの火力を増強している。

 シンプルなだけのその戦術が、悍ましいほどに怖い。

 

 

 

 奴はそうやって、多くのACを焼き尽くした。

 何もかも、真っ黒に。

 

 

 

 

 

「……ははは。やっと見えたぜ、俺の死が!」

 

 こんな"チャンス"、逃す手はない。

 

 

 

「死ぬ気ですか、ヨーダン!」

「ほっときな。……あいつはずっと望んでたんだ。戦場で死ぬっていうバカみたいな夢をさ。今が、その時かもしれないのさ」

「…………!」

 

 

 周りの声なんざ、もう聞こえない。

 

 気が付いたら、ABでダリのACに肉薄していた。

 リニアもミサイルもガトリングもセットでだ。

 

 

 

「来るか……!」

 

 周りに多数のレーザーがかっとんで、建物やらMTの残骸やらを溶かし尽くすのわかる。

 俺の周囲に飛ぶ"青"すべてが、死そのものだ。

 

 こいつが、アーキバスの本気……!

 

 

 そんなグラウンドゼロの中で飛ばすABは、今まで飛ばしたどのABよりも刺激的だ。

 一瞬の判断ミスで、マジに命が燃え尽きちまいそうだ。

 

 

 

「おらぁ!」

 

 青と青が飛び交う死の隙間の中へ、アウトサイダーともに乗り込む。

 

 その最中に飛ばした実弾でそれなりにスタッガーへ近づいているAC「ギャグ」へ、パイルバンカーをぶち当てる。

 そうしてようやく、奴の体勢が崩れた。

 

 

 

 

「なめるな……!」

「っ! アサルトアーマー、ねぇ。だがそれ持ってんのは俺もだ!」

 

 ダリのAC「ギャグ」は、アサルトアーマーを仕込んでいる。

 そいつは体勢が崩れた時、カウンターとして効果的に機能する。

 

 だが、アサルトアーマーをアサルトアーマーで返した場合、後出しした方が有利になる。

 同じ奴を持ってる俺の方が有利だった。

 

 

 

「ははははは、どうしたダリさんよ! 人のことを犬呼ばわりしておいて、その程度かよ?!」

「っ! なるほど"ヘルモンの猟犬"の名は伊達ではないか……!」

 

 

 今度こそ、致命的に体勢を崩したダリのAC。

 そいつに、冷却を終えたパイルバンカーの一撃を叩きこむ。

 

 炸薬を伴う鉄杭の一撃は、ホバータンクACを堕とすに足る一撃だった。

 

 

 

「ここまでだな。独立傭兵ヨーダン、この勝負は預けておくぞ」

 

 

 いっそつまんないぐらいに、ホバータンクACとの戦いはあっさり終わった。

 

 嗅覚で探る辺り、マジの新品ACだったようだからな。

 明らかに慣れていない様子で、だから生き残っちまった。

 

 

 

 周りにあるものは怪物が這いずり回ったかのように焼け爛れているのに、俺だけが妙に浮いていた。

 

 

 

 

 こいつは、古い話だ。

 

 ヘルモンって名前の女がいた。

 公的な記録には残っていないらしいが、レッドガン総長「ミシガン」と副長「ナイル」にも結構な縁がある姉さんだ。

 

 

 

 そいつは。

 ヘルモンの姉さんは。

 

 俺の師匠だ。

 

 

 

 

 

 俺はもともとスラムの生まれだ。

 いつの間にか母親を亡くして、クソみたいな父親と喧嘩別れして、気が付いたらヘルモンの姉さんに拾われた。

 

 ヘルモンの姉さんは既に、今のレッドガンにも似た部隊を率いていた。

 いつの間にか、俺もその部隊に組み込まれていた。

 

 

 

 その部隊は色々と激しい戦闘を繰り返していてな。

 気が付いたらレッドガンに合流することになった。

 

 

 ああ、そうさ。

 俺はミシガンとナイルの奴が作った"レッドガン"の、最古参の一人だ。

 

 

 

 

 

 しばらくは、鉄砲玉としてそれなりに活躍したもんだよ。

 何度もミシガンと殴り合いして、その日に酒を酌み交わしたもんだ。

 毎回ナイルの奴が困惑して、ヘルモンの姉さんが喝を入れていた。

 

 あの四人の時期が、一番楽しかったかもな。

 

 

 

 

 けど、ヘルモンの姉さんは戦死した。

 ……殺されたんだよ、ナイルの奴に。

 

 

 もともとヘルモンの姉さんは、ベイラム上層部から忌み嫌われていたらしい。

 いったいどういう経緯があって嫌われていたかは記憶にないが、とにかくそういう構図だった。

 だからベイラムの息がかかったナイルの奴が、ヘルモンの姉さんを使い捨てるような作戦を指揮した。

 

 そのまま、あっさり死んじまったよ。

 

 

 

 

「そっからだ。何もかも、泥の河に浸かったみたいになったのは」

「ヨーダン……」

 

 

 ヘルモンの姉さんは、四脚ACを使う女だった。

 ちょうど今ターナーが乗っている「インサイダー」がそうだ。

 

 あの人、俺より歴が長いのにACのセンスは平凡でなぁ。

 そこは俺が組むことで補った。

 

 

 

 俺が前線で暴れて、姉さんが空中からバズーカをぶち込む連携だ。

 そうしている間は、俺達二人とも無敵だった。

 

 

 

 そんな思い出のACを、ナイルの好きにはさせたくなくてな。

 ミシガンには本当に申し訳ないが、レッドガンから持ち出させてもらった。

 

 

 

「ACを持ち出して、けど行く当てはどこにもなくて。……気が付いたら、今度はガリラヤ婆さんのガレージに転がり込んでた。それが今の俺だ」

「……貴方は、逃げたというのですね」

「ああ、そうさね。……俺には、もう"これ"しかない。あの時のように、ただACに乗って鉄砲玉して、それで死ねたら俺はよかった」

 

 

 "ヘルモンの猟犬"。

 当時の俺の異名さね。

 

 だが、飼い主に先立たれたら何の意味もない名前だった。

 

 

 

 間違ってもナイルの作戦で死ぬのはごめんだ。

 ベイラムの名前で死ぬのも、かといってミシガンの名で死ぬのもやっぱり嫌だ。

 

 だったら、残った手段は一つだけ。

 

 

 

「だから、俺は戦場で死ぬ。こここそが、俺の魂の場所だ。……とまぁ、これが"命知らず"の理由さね。納得したか?」

「できません」

「おい。柄でもない昔話をさせておいてそれはねぇだろ」

「できませんよ。……貴方が死んだら、私は何をすればいいというのですか。こんな私を拾ったのは、貴方ですよ?」

「…………まぁいい。おしゃべりはこの辺にしとくぞ」

 

 

 ……けどまぁ、今回機を失ったことには違いないからな。

 ひとまずはそれで、話は終わりだ。

 

 これ以上は無駄な喧嘩になる。

 可愛らしくむすっとしているところ悪いが、ここまでさね。

 

 

 家に帰るまでが、愉快な遠足だからな。

 

 

 

 

 

「ヨーダン」

「んだよガリラヤ婆さん。アンタもなんか文句あるのか」

「……いつまでそのACをあのガキに触らせる気だい? そのためにレッドガンから持ち出したわけじゃないんだろ?」

 

 

 かと思ったら、今度は婆さんから疑問の声だ。

 けど、正直答えるのも面倒くさい。

 

 

 

「だとしても、そこを判断するのは俺だ。アンタに指図されるいわれはない」

「……ふん、そいつは悪かったね」

 

 だから、やっぱりこの話はここまでだ。

 

 

 




 「一般ルビコニアンデス傭兵の話」の番外編「元ヴェスパー番号付きサルバドール」より"ダリ"参戦。「ダリ」とは、サルバドールのヴェスパー時代の名義です。
 オリジナルでヴェスパーを出すなら彼しかないと悟りました。AC「ギャグ」については同番外編あとがきに記載しているので省略です。
 また「勝負は預ける」という台詞通り、もう一回出てきます。


 ちなみにレッドガンの来歴とか最初期の動向を捏造してますが、本作では公的な記録は抹消されているという理屈で原作とすり合わせしている設定です。
 ご了承ください。



 以下おまけ

 ・ガレージ街
 砂漠の惑星「ソリアーノ」に存在する、砂まみれの都市。
 貴重なオアシスを中心に広がる都市であり、とりわけACを収容するガレージの数が特徴。
 古くてボロイ建物が乱立しており、さながらバラック集落のように入り組んでいるエリアが殆ど。
 そのため施設は安値が特徴のスーパーや便利なコンビニだけに留まらず、違法な風俗店やパチンコ店・カジノも少なくない。

 コーラルプラントは存在しないが、同プラントを保有するベイラムの恩恵に与る立場にある。
 転じてベイラム寄り傭兵の縄張りとしての側面もある。

 ガリラヤ婆さんは、そんなガレージ街の大家の一人ぐらいの立ち位置。
 街のトップというほどではないが、四天王の一人ぐらいには幅を利かせている。
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