砂漠のアウトサイダー   作:上代わちき

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チャプター5「形見」

 

 惑星ソリアーノにある、三つのコーラルプラント。

 これらすべてが、ベイラムの手中に収まった。

 

 

 だがアーキバスはまだ諦めていない。

 

 ダリは重傷で戦線離脱……生きてはいるようだが、もうソリアーノの表舞台には出てこないだろう。

 だがホーキンスはまだ動ける状態だ。

 

 

 

「よかったのですか。ガレージを解約してしまって」

「ああ、これでいい。インサイダーも、もういない。……お前こそ、本当にいいんだな?」

「はい。私には貴方しかいません。……それに、私以外に貴方のビリヤニを作れる人はいないでしょう?」

「言ってくれる」

 

 

 

 アーキバスは"都市"とプラントをベイラムに奪われたわけだが、ソリアーノでの拠点がなくなったわけではない。

 そこからまだまだ仕掛け直す方針のようだ。

 

 もうここまで来るとプラントの利益云々じゃなくて、社としてのメンツをかけてきている。

 アーキバスとしてももう止まれない様子だ。

 

 

 

 理由はごく単純。

 それだけ俺がやりすぎた。

 

 せめて赤字で終わるにしても、俺を情勢から排除しないと安心できないんだろうな。

 

 

 

 早速、アーキバスは「ブレイン傭兵事務所」を動かしてきた。

 元アーキバス社員が経営する移動傭兵事務所だ。

 その所長の実力は、ダリに勝るとも劣らない怪物のそれ。

 

 このままガレージ街で活動するなら、今度はこいつを相手する羽目になるだろう。

 

 

 

 

「……ガリラヤ婆さんには恨まれるな。不在の間に、勝手に出てく形になるんだから」

「書類と手続きは代理人に任せたのです。義理としては十分でしょう。……ベイラムとアーキバスの泥試合に付き合うことはありません」

「まぁ、それもそうだな」

 

 

 望むところだ。

 ……と、以前の俺ならそうのたまっただろうな。

 

 戦場で死ぬのが目的だった俺なら。

 

 

 

 けど、なんでか知らんが俺は死ねなくなっちまった。

 ターナーが死にかけるところを見て日和っちまったのか、それともインサイダーに別れを告げて色々吹っ切れたせいか。

 いずれにしろ、もう戦場と運命を共にする気は失せちまった。

 

 仮にこのまま傭兵稼業を続けるなら、確実に生きて帰れないといけない。

 だが、ダリやブレインのような強者を相手に絶対はない。

 

 

 

 はっきりいって、これ以上は割に合わなかった。

 

 ターナーと二人暮らしするようになって帳簿を握られたせいか、当面食っていける金はある。

 これだけあれば、企業から逃げる選択肢はごまんとある。

 俺のツテがあっての話だが、おかげでもうベイラムの企業戦略に付き合う必要はない。

 

 

 

 

「じゃあ行こうか、ターナー」

「はい、ヨーダン」

 

 潮時って奴だ。

 だからターナーを連れて、この惑星から脱出することにしたのさ。

 

 

 

 

 惑星の脱出には船を使った。

 知り合いに船商人がいて、そいつの船に乗せてもらったんだ。

 

 "闇の船商人"とは別口だな。

 リヒターはあくまでアーキバス寄りで、今回のはベイラム寄りの奴だ。

 

 

 

 まぁそういうわけで、その船でまずはサイレンス・イヴの"倉庫"に向かう。

 大豊に喧嘩売ってんのか仲良くなってんのかよくわからんあの狂人に関わりたくないが、その周辺に色々ツテがあってな。

 そこにいければ、完全にベイラムからもアーキバスからも姿をくらませることができる。

 

 

 それで話は終わりだ。

 後は、まぁターナーと一緒にほそぼそと食っていく算段だ。

 

 さっきはああいったが、真面目に傭兵をやるつもりはもうない。

 適当にACを使った運び屋稼業でもしようかね。

 

 

 

「緊急事態だ! 船に、ACが……!」

 

 

 ……と、まぁそれで何とかなるほど世の中甘くないわな。

 

 この船にまともな戦力はない。

 最低限の武装ぐらいはあるが、流石にACが突撃してくる想定はしていない。

 

 

 

 対応できるのは、ACを載せてもらっている俺だけ。

 ターナーのACも、もうないしな。

 

 他の乗客にも、まともなAC乗りは一人もいない。

 

 

 

「ヨーダン……」

「悪いなターナー。あと一回だけ暴れてくるわ」

「ええ、お気をつけて」

 

 

 そういうわけで、俺がやるしかなかった。

 こいつが、惑星ソリアーノにおける最後の戦いだ。

 

 

 

 

 俺には特別な嗅覚がある。

 とりわけACの感情を嗅ぐためのものだ。

 

 基本的にはインサイダーの感情を知るために使ったが、他のACの感情を聞いたりもした。

 アウトサイダーからは信頼の感情が、ギャグからはダリを縛る感情が、オセロットからは依存の感情が嗅げた。

 ……インサイダーは、俺の背を押すような感情だった。

 

 

 

 だがそれ以外のACも大勢嗅いできた。

 一度嗅げばだいたいのACは覚える。

 

 

 

「来たね。ヨーダン」

 

 今回船を襲ったACも、嗅いだ覚えのある匂いだ。

 ガレージ街で、数回嗅いだ。

 

 

 

「AC『イシュタル』……そいつがまだ動くとは思わなかったぜ、ガリラヤ婆さん」

「アンタがあのガキを連れ出さなきゃ、こんなことにはならなかった。……あたしへの挨拶がないのも気に食わない」

「そいつは悪かった。……が、それでもやることは変わらねぇよ」

「ああ……やることは変わらない」

 

 ガリラヤ婆さん。

 俺が住んでたガレージ街の、有力者の一人。

 

 俺にとっては大家であり、時折仕事を共にする仲でもある。

 ある意味では、俺は婆さんの猟犬として暴れ回った側面もあるな。

 口では絶対に認めないが。

 

 

 

 この婆さんは表向きベイラム筋の人間として振舞っているが、実際のところ来歴は虫食いまみれだ。

 ワケありってことだな。

 

 

 

「じゃあ、やるか」

「……その前に、警告だよ。あのガキを渡しな。そうすりゃアンタと船は見逃す」

 

 冗談半分で秘密裏に詮索して知った、ガリラヤ婆さんの本当の故郷はルビコン3。

 婆さんはもともと古い古いドーザーの一人。

 

 

 

「断る。そういうのが嫌いって知ってるだろ、クソババア」

「そうかい。じゃあ船もろとも死ね、クソガキ」

 

 当時『リトル』の名を名乗っていた、あの伝説的ドーザー"サム・ドルマヤン"の同志の一人だ。

 

 

 

 

 

「さて。殺し合うのはいいが、これはどういう話さね?」

「アンタは聞こえないんだったね。あのガキには"疑い"がある。Cパルス変異波形と繋がる疑いが」

「なんじゃそりゃ」

 

 

 ガリラヤ婆さん……いや、ルビコニアンのリトルが駆るAC「イシュタル」は、BAWS製の古いACだ。

 フレームはBAWS製のフレームで統一していて、右手にも同じBAWSのマシンガンを握っている。

 背中にはファーロン製の水平六連ミサイルと高誘導ミサイルを積んでいるな。

 

 だが、左手の武装は見たことがない。

 タキガワのパルスブレードに似ているようでまるで違う、赤いブレードだ。

 

 それに……ブースタから吹かす火の色も同じだ。

 内熱型とも違う毒々しい赤色の火を噴いている。

 

 

 

 見た目こそMTじみているが、このACは普通じゃない。

 

 

 

 

「Cパルス変異波形。……簡単に言えば、意志を持つコーラルのバケモンさ。一部のドーザーや、コーラルに晒された人間だけ声を見ることがある」

「コーラル……そういえばターナーはもともとファクトリーの実験体、それもコーラル実験の出だったか。だが長い間暮らしていて、そういう話をあいつから聞いた覚えはないぞ」

「ふぅん。うまいこと隠しているのか、それともただの杞憂なのか……まぁどっちにしろ最後の生き残るっていうあのガキを消せばリスクゼロだ。見逃す手はないね」

 

 

 いずれにしろ、その"赤"をまともに喰らったら無事じゃすまない。

 

 だってのに、リトルの奴はその左手からぶっといレーザーをぶっ放してきやがった。

 赤いブレードの、チャージといった具合か。

 

 

 

 流石にそいつは気合で避けた。

 が、死角に置かれた高誘導ミサイルを喰らっちまった。

 

 やけに狡猾な置き方だった。

 婆さんの蹴りが鬱陶しい。

 

 

 

 

「……そんなにやばいのかよ、そのCパルスなんちゃらってのは」

「じゃなきゃ後先考えずに船を襲ったりするもんか。……あたしはもう嫌なんだよ。『向こう側』に行くとか行かないとか。そういうのは、火種から消すに限る」

 

 だがその手の武装はリロードもロックも長いと相場が決まっている。

 

 すぐ体勢を持ち直して、いつも通りミサイルとガトリングでハチの巣にする。

 それだけじゃダメだから蹴りも交えてな。

 

 

 

 そうしたら赤いアサルトアーマーをぶっ放してきやがった。

 食らうわけにはいかず、とっさに後ろへQBを吹かす。

 

 リニアライフルのチャージショットはその後だ。

 

 

 

「ここ最近ずっと席を外していたのは、その件か」

「ああ、ちと"調べもの"に難儀してね。……あたしらしくもない。こうなるなら、はじめから消せばよかった」

「今更だな。……あの女にはこれからもビリヤニを作ってもらわなきゃ、困る。話はこれでしまいだ」

 

 まだ婆さんのACの体勢は崩れない。

 それどころか、冷却が終わったのかまた赤いブレードを振るってきた。

 

 今度はチャージ無しで振るったんだろう。

 あの広範囲ビームはない。

 

 

 だがBAWS製ブースタの特性を活かした、超高速の肉薄が伴う。

 知らなきゃ面食らって食らう速度だったよ。

 

 

 

「……届かない、か」

 

 

 けど、間違っても死ぬわけにはいかない。

 その一撃は、気合で避けた。

 猟犬としての嗅覚でな。

 

 後は塩試合さね。

 ガトリングで婆さんのACをスタッガーに追い込んで、そのままパイルハンマーで仕留めた。

 それで終わりだ。

 

 

 

 

 

「……アンタは、いつの間にかまともになっちまった。以前までは、あたしと同じように過去を振り返ってウジウジしていたくせに」

「自分と同じ悩みを持つ人間見て安心してたってのかよ。婆さん、アンタ思ったより陰湿だな」

「あたしだって、好きでサムと喧嘩別れしたわけじゃない。……アンタのインサイダーと同じで、このACだけはずっと手放せなかった。これが、最後の形見だったんだよ」

「…………」

 

 婆さんは、俺と同じだった。

 ずっと過去に囚われていて、だからAC「イシュタル」を後生大事に抱えていた。

 

 どこか鏡合わせじみた話だ。

 

 

 だが俺はインサイダーに別れを告げた。

 最後の最後まで何とか生き残れたのは、そのおかげなのかもしれない。

 ……まぁ、そう錯覚してるだけなのはわかっているがね。

 

 

 

「行きな、クソ野郎。アンタは、もう間違えるな」

「ああ、行かせてもらう。あばよ、婆さん」

 

 そうして、婆さんは終わった。

 今度こそ、全部終わったよ。

 

 

 

「…………サム、すまんよ……あたしは最後まで、臆病だった……」

 

 

 

 

 ベイラムが確保した三つのプラントは、新たな戦争の火種となった。

 アーキバスは独立傭兵を駆使し、対するベイラムもまた新たな傭兵を誘致し、より泥沼の戦を展開した。

 

 

 

「こいつぁひでぇ戦争だ。ただの墓参りのつもりだったが……。せめてもの手向けだ、暴力の旅商人として存分に稼がせてもらおうか」

 

「うーん、ボクが思っているよりアーキバスがガンギマってやがるねぇ。おかげでタバコがうまいや」

 

「あらら、せっかくここまで来たのに噂の野良犬逃げちゃってる……まぁいい、スカルちゃんの機体のためにも稼がないとな!」

 

 

 

 ワンダラーのマイナー。

 独立傭兵アルノ。

 ブレイン傭兵事務所。

 

 

 名だたる強者達の介入により、両陣営は甚大な被害を被り、全ての陣営は敗北。

 コーラルを巡る戦いの決着は、ルビコン3に持ち越される結果となった。

 

 新たなアイビスの火まで、あるいは封鎖惑星の解放まで、もしくは賽が投げられるその日まで。

 残り…………。

 

 

 

 

 

「ヨーダン、ご飯ができましたよ」

「あいよー……お、今夜はビリヤニか! うまいんだよなぁ、ターナーのビリヤニ」

「当然です! 腕によりをかけましたから」

 

 

 いずれにしろ、もう俺達には関係のない話さね。

 

 

 




 実際のところ、ガリラヤさんはターナーを始末なんてしたくなかったのです。
 "野暮用"とはつまり、ターナーを始末しなくてもいい・変異波形と交信なんてしてないという確証を得るための調べものでした。

 ですがCパルス変異波形の存在を証明するのが難しいように、その逆もまた難しい。
 かつてのトラウマで疑心暗鬼に陥っていた彼女が暴走するのは必然でした。



 それはそれとしてヨーダン。賽投げルートは関係のない話じゃすまないですよ。
 色々野暮なので修正はしないでおきつつ、どうしてもセルフツッコミがしたくなる一文です。



 改めまして、筆者です。
 このたびは「砂漠のアウトサイダー」をご高覧下さりありがとうございます。
 今話をもちまして同作は完結となります。

 最後に、本作ラスボスであるガリラヤさんとそのAC「イシュタル」のデータを以下にまとめました。
 よろしければ、合わせてお楽しみいただけると幸いです。





 ガリラヤ

 惑星ソリアーノの「ガレージ街」の一角を仕切る老婆。

 表向きはベイラムの経済圏にて成り上がった女性だが、その正体はルビコン3のドーザー。
 アイビスの火を生き残った灰被りの一人であり、だからこそ臆病な気質が備わった。

 彼女の恐怖は正しいようで、その実間違いだった。
 アーキバスのコーラル実験にて声を見出した者は、一人もいなかった。



 AC // イシュタル
 ガリラヤこと"ルビコニアンのリトル"が駆る中量二脚AC。
 
 武装はバーストマシンガン・コーラルブレード・六連ミサイル・高誘導ミサイル。
 フレームはBAWS製BASHOで統一。
 内部は「AB-J-137 KIKAKU」「FCS-02/P05」「IA-CO1G:AORTA」の組み合わせ。
 拡張機能は「アサルトアーマー」

 見た目はBAWS製のレトロなACだが、内部にコーラルジェネレータを用いるコーラル機。
 マシンガンと六連ミサイルで相手を攪乱し、コーラルブレードのチャージ斬りで薙ぎ払い、本命の高誘導ミサイルを当てる戦法を好む。
 彼女はサム・ドルマヤンも認める、コーラルの戦士であった。



 メタ解説
 本作のラスボス機。参考元は同じく原作ラスボス機の一機である「HAL826」。
 コーラルライフルは扱いやすいマシンガンへ換装し、コーラルシールドは存在そのものをオミットした。
 が、その代わりコーラルブレードはBASHO腕で超強化し、コーラルミサイルは高誘導ミサイルで再現した。
 
 どこかカーラ感があるガリラヤの真のポジションは、ハンドラーウォルター&サム・ドルマヤン。
 前者はヨーダンの大家や一部ミッションのオペレーターとしての絡みで、後者は彼女の本性方面がカバー。
 一方で表の名前である「ガリラヤ」は、「ヨーダン」の元ネタの河川に縁のある湖が元ネタ。ここだけ見るとベイラム陣営。
 だがその本性は、前述通りコーラルによって人生を狂わされたルビコニアンである。
 在りし日の彼女は、サムやミドルと共にACで大暴れすることもあった。
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