コールネーム、“アルビオン”   作:ふくつのこころ

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こちらはカクヨムにてbeginsとして投稿している、お話です。


begins
白銀の騎士


 

『ブリュンヒルド、スケイルルプス!

定位置についてください』

 

 映像を映し出す、放送水晶によって部屋の壁に投影されているのは、過去の配信(・・)のアーカイブ。

 水晶にかけられた、遠見の魔法は拡大と縮小をすることができ、試合が行われるリングの中や選手が現れる両サイドが映し出されることもある。

 この試合は、世界に存在する、どんなスポーツよりも人気であると示す証拠だ。

 審判の信号団が杖から空へと放たれると、胸部に水晶を輝かせる二人の鎧騎士が入場する。

 

 等身大の全身鎧、魔力で編まれた鎧《ベイルナイト》を着装した二人の強者(つわもの)

 かたや、使用者の魔力を使役するだけ消費するスケイル()を従えた狼の魔人、スケイルルプス。

 かたや、白銀の全身鎧に身を包んだ白銀の騎士、ブリュンヒルド。

 

 司会者の言葉に二人のベイルナイトはリングの定位置につき、それぞれの反応を見せる。

 ブリュンヒルドは得物の剣を肩に置き、手癖らしいスナップを効かせた動きを二、三度する。

 スケイルルプスはトントン、と爪先で地面を叩く。

 

『それでは、両者とも試合開始の同意を得られました!ベイルバトル、ファイトー!』

 

 《ベイルナイト》同士の決闘はベイルバトルと呼ばれ、ベイルバトルの配信は今や娯楽となっている。

 最低、二メイルある《ベイルナイト》は多種多様な外見と豊富な武装は観客(オーディエンス)を熱狂させるには十分だった。

 

 戦いの火蓋は切って落とされた。

 白銀の翼を広げ、空中へと飛び上がったブリュンヒルドは剣、魔力の放出によるブースターで続いたスケイルルプスは残りのスケイルでガントレットを構成し、スピードでスケイルルプスをブリュンヒルドが翻弄する近接戦から始まった。

 

 スケイルは維持のための魔力消費が数を増やすごとに必要であり、《ベイルナイト》の維持に必要な魔力とは別に確保しなくてはならない。

さらに一つ一つの制御を同時にこなさなくてはならないため、分割思考が要求される。

 玄人(ベテラン)向けどころか、狂人向けと称されるスケイルを装備するスケイルルプスの着装者はイカレていると言っていい。

 そんなスケイルルプスの着装者がスケイルを取り付けたのは、肌に合った動きができるからと常人離れしたものだった。

 

『さて、始まりました!チャンピオン、白銀の(アルビオン)ブリュンヒルドに挑戦するのは、究極の狼漫王(マッドルプス)、コールネーム・スケイルルプス!』

 

 スケイルルプスがブリュンヒルドに殴打を与えると、スケイルルプスのファンから歓声が上がる。

 今や、絶対王者に君臨したブリュンヒルドに一撃を与えられる者は少ない。

 それゆえに空を自在に飛行する白銀の翼を広げると、決定打を与えられなくなるブリュンヒルド。

 そのブリュンヒルドを捉えられるスケイルルプスは王者(ブリュンヒルド)を噛み殺す捕食者(オオカミ)として期待されている。

 

 多くのチャレンジャーがブリュンヒルドを飛ばすまいとする中、スケイルルプスだけは異なる視点を持っていた。

 

『そう来るか。ああ、以前から随分とスピードが上がっているな。これでは捉えられないだろうな、そんな感じの動きだ』

『私の動きを見て、そんな感想(コト)をいうのは、お前だけだろうな』

『《ベイルナイト》を扱う上で今やお前に勝るものはいない。だからこそ、ブリュンヒルド(女王)との戦いは楽しめる』

 

 スピードを上げ、美しい軌道を描いて翻弄しつつも、スケイルルプスが飛びながら放つスケイルを剣一本のみ(・・)ではたき落としつつ、魔力で増強した飛ぶ斬撃を放って飛び道具の代わりとする離れ業。

 武装など剣一本あれば十分、とするブリュンヒルドには当たれば試合が決まる、ベイルナイトが共通して胸部に持つ半メイルほどの水晶・ベイルタルを近接戦で狙われるリスクが高まることは二の次だった。

 

 自分がベイルタルを狙われるということは、相手も狙われることを頭に入れておく必要がある、とブリュンヒルドは気づいていた。

 噂によれば、家族を養うために手に入れたベイルナイトの武装を剣しか購入できなかったからだとされているが、真偽は不明である(・・・・・)とされている。

 

『ブリュンヒルド、最初の一撃を受けてからも、スケイルルプスに容赦がない斬撃が飛びます!《ベイルナイト》には魔力制御も可能ですが、斬撃を飛ばすのは、やはり絶対王者!彼女はこのベイルバトルも支配してしまうのか!?それとも、スケイルルプスが王者を喰らい尽くしてしまうのか!?』

 

 スケイルルプスが一瞬、ブリュンヒルドが見せた隙を狙い、間合いを詰めて懐に飛び込む。

 ブリュンヒルドにはスケイルルプスの頭部を包む、狼の面の奥にある顔が笑ったように見えた。

 スケイルを花を咲かせるように展開し、魔力を即座にチャージして青い光線を放つ。

 すでに魔力をチャージしていた、なんて真似ができるのは数があるだけ意識を集中し、制御しなくてはならないスケイルだからこそ。

 その青い光線が放たれた時、居合の構えを取る。

 次の瞬間、ブリュンヒルドは光線を叩き切る。

 観客席に拡散しないよう、一度の居合で魔力の塊を全て(・・)である。

 

『馬鹿な!?スケイルの魔力の装填まで読んでいたというのか!?』

『これでも、弟がいる姉でね。多少のことは読めるようになっておかなくては、姉として面目が立たないんだ』

 

 スケイルルプスの光線を切り裂き、平然とするブリュンヒルドにスケイルルプスが驚愕すると、ブリュンヒルドは自らを映し出している配信中の放送水晶に向けて手を振る余裕を見せた。

 即座にその様子は拡大され、画面いっぱいに白銀の(アルビオン)ブリュンヒルドは映し出される。

 ブリュンヒルドは、俺の姉ちゃんは、面越しに笑っているように見える。

 こうやって、ベイルバトルに出る時は一人にした俺を寂しがらせない(・・・・・・・・・)ようにと試合中でもパフォーマンスをしてくれる。

 

『弟がなんだというんだ!?ブリュンヒルド!!この戦いは、余興だっていうのか!?』

 

 スケイルルプスはブリュンヒルドに技が不発に終わると、ブリュンヒルドから魔力ブースターを使い、距離を取る。

 それをブリュンヒルドが追い、剣撃を繰り出すと、スケイルルプスはガントレットにしたスケイルで防御する。

 その防御を掻い潜るように、ブリュンヒルドは空いた腹に蹴りを入れる。

 完全に意識の外だったからか、スケイルルプスはスケイルでガードできていないようだ。

 勝ち誇ったような勝鬨を上げ、ブリュンヒルドはスケイルルプスに凄まじい攻撃を仕掛ける。

 一つでも、スケイルは仕留め損なうと不意を突かれ、ベイルタルを破壊される。

 特に斬撃を飛び道具にするトリッキーな攻撃はするものの、ブリュンヒルドは近接アタッカーが本分だ。

 白銀の翼を広げ、リングを飛び回ってスケイルルプスを追い回す様子はまるで獲物に狙いを定めた狩人のようだ。

 飛んで回る中でスケイルを破壊し、少しずつスケイルルプスを追い詰めていくと、残りわずかとなったあたりでスケイルルプスはスケイルを分離した。

 

『こうなれば、もうヤケだ!』

『諦めが悪いな。勝負はもう決まっているのに。諦めるなとはよくいうが、往生際が悪いぞ』

 

 残りのスケイルを魔力で繋げ、一つの槍を生み出す。

 振り返って、ブリュンヒルドにぶつかっていくと、ブリュンヒルドはその一太刀にてスケイルルプスを切り捨てた。

 これがブリュンヒルド、これが数年間一度も負けなしの無敗の女王の実力。

 

 その瞬間、再生が切られる。

 

 

「あ」

「はい、もう終わり。

寝ていろと言っただろう?私のかわいいルーデンス?」

 

 水晶のアーカイブを切ったのは、姉ちゃんだった。

 どうやら、試合のアーカイブを見て夢中になっている間に帰ってきていたらしい。

 

「お前は私のベイルバトルが好きだな?」

 

 姉ちゃんの《ベイルナイト》、ブリュンヒルドは待機状態のバングルでも力強さを感じる。

 身体が弱い俺が座っているベッドに腰を下ろし、仕事着姿のまま、再生を止めた水晶に貼られているラベルを見て笑った。

 

「おれも、ねえちゃんとブリュンヒルドみたいな強い着装者になりたい。うんと楽をさせてやるんだ」

「それは頼もしい、さすがは私の弟。期待して待ってるよ、かわいいルディ?」

 

 俺の言葉に姉ちゃんは優しく頭を撫でて、額を合わせる。

 両親はいないけど、俺には姉ちゃんがいる。

 俺は強く、勇ましく、優しい姉ちゃんが大好きだった。

 

「《ベイルナイト》を身につける。

 そのためには、心と身体を強くしなきゃならないぞ?」

 

 なんて、笑って言う姉ちゃん。

 

 その数日後、俺の姉ちゃんはブリュンヒルドとともにいなくなった。

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