「スケイルルプスにしておけば、アルビオンにもう少し食らいつけたか?」
そんな言葉をファングが吐き、ルーデンスが何か返そうとしたあたりで主催者側に止められてしまった。
ルーデンスの煽りがファングに火を点けたのがマイクパフォーマンスとはいえ、消えた絶対女王と同じ《ベイルナイト》を着装した弟のポテンシャルは確かだが、体裁は整えたかったのだ。
当初よりエヴァーレインが欲した賞品の武装はファングより贈られたが、彼女は不服な様子だった。
「ヒルダと同じカラーにすんなら完膚なきまでに勝ちなさいよ、ルーデンス」
「市販の近接武装であそこまでやれるのは姉ちゃんだけだよ」
「当然よ。有線スケイルくらい、なんてことないのが私のヒルダなんだもの」
「初めての武器を奪って使うのもだけど、改造して使うなんて応用も大したものよね」
レイはアルビオンでのルーデンスの戦い方に感心した。
エヴァーレインは荷車に載せられた、《ベイルナイト》の武装にニンマリ笑いつつ、ルーデンスの言葉に頷いて返す。
ヒルダのアルビオンブレイド一本で切り抜ける様子に比べれば、まだまだとしても、アドリブを効かせた戦い方は目を見張るとレイは思った。
アルビオン・ブリュンヒルドに似た姿をしていること、搭載されている武装を支配下に置く能力に興味を示したのか、《ベイルナイト》の状態を確認する薄い板状のマジックアイテムで解析している。
アルビオンの待機状態である、ベイルブレスにエヴァーレインがマジックアイテムを起動させると、画面に
画面を睨みながら、エヴァーレインが何かを打ち込んでいる。
「ブリュンヒルドの弟」
主催者側のスタッフが後片付けを行う中、ファングは薄汚れたフライトジャケットのポケットに手を突っ込みながら近づいてきた。
「アルビオンならイヴが持ってる。解析中だから、バトルはできないぞ」
「センティピードが?……そうか。
一つ尋ねておく、まだブリュンヒルドを探しているか?」
アルビオンの所在がエヴァーレインにあることを知り、露骨に残念そうな様子を見せたファング。
ベイルバトルの際にギラギラしていた、ファングの瞳に生気がないのが実に
ベイルバトル以外に興味を持つことはないのだろう、と思っていたルーデンスにファングの言葉には驚愕した。
「アテがあるのか?」
「
お前、《ベイルギガント》は知っているな?」
ファングの言葉にルーデンスが頷くと、続いた《ベイルギガント》にもルーデンスは思いを馳せる。
異形の怪物の姿をした巨大な《ベイルナイト》とも呼べる、《ベイルギガント》。
《ベイルギガント》と人間の存亡を賭けた戦いがあった。
それを
「それがどうかしたか?」
「魔鎧大戦終結からやっている、スマッシュリングの開催が今年だ」
スマッシュリングを口にする時のファングはニヤリと笑っており、《ベイルナイト》着装者との戦いに興奮が隠せないらしい。
レイはスマッシュリングが慰霊祭に近い役割を持っているため、そのファングの表情に嫌悪感を隠しきれなかった。
「勝者には願いを叶える権利が得られる、ってアレでしょう?立ちはだかる、アンタや
確か、ヒルダも……」
「……俺の病気の治療費のために」
スマッシュリング。
大戦が終結してなお、力を磨くために行われる。
それは、魔鎧大戦の記憶を忘れないよう、立ちはだかる最強の《ベイルナイト》着装者のランカー達を全員倒すことで勝者には賞品として願いを叶える権利を得る。
身体が弱かったルーデンスはヒルダが優勝したことで得られた、賞金で必要な薬を得て回復していった。
思えば、《ベイルナイト》を得るまで考えもしなかった。
スマッシュリングに出場すれば、いなくなった姉を探せる。
なぜこんな簡単なことに気づかなかったのだろう、とルーデンスは拳を握って震わせた。
「俺や
指折り数え、思い出すファング。
今の紹介で説明がなかったランカーはファングの中で大したことがない扱いだろう、とルーデンスは思った。
「……参加権は?どう勝ったのかとかってわかるの?」
「勝者にはスターステッカーがランカーからもらえるんだよ。ただ、ランカーは凄まじく強いから、なかなか勝てないんだ。
第六位から順に戦ってくシンプルなルールさ」
レイが尋ねると、ルーデンスが思い出すように答えた。
ファングはその通り、と深く頷く。
「着装者として《ベイルナイト》のレベルを上げながら探すのも当然いいが、俺たちと闘うのも《ベイルナイト》を扱う技術が格段に上がる」
「……アンタがやりたいだけでしょうに」
ファングの言葉にエヴァーレインがジト目を向けると、澱んでいるファングの瞳に僅かに光が見えた。
ファングはニヤリと笑って締めくくる。
「一月後に始まる。よく考えておけ」
ルーデンスたちはレイニーマートに戻り、エヴァーレインは無数の武装とアルビオンの解析に夢中になっていた。
ルーデンスが寝た後もなお、解析を続けていた。
一日に起きた出来事から頭が冴えており、夜中にレイは目を覚まし、割り当てられた部屋がある居住スペースから照明ラクリマの灯りが浮かぶ店側に向かった。
「ルディはグースカ寝てるけど、アンタは繊細なのねー?まあ、あの子はお姉ちゃんが持ってたアルビオン・ブリュンヒルドと同じタイプの《ベイルナイト》を手に入れたから、舞い上がってるんでしょうけど」
「……先生と彼はそんなに仲が良く?」
眼鏡をかけ、ルーデンスのアルビオンのベイルブレスによるデータが浮かぶタブレットを眺めながら、エヴァーレインが笑う様子にレイは尋ねた。
「ヒルダの生徒なら聞いてない?アイツ、ずっとかわいい私のルディって話すのよ。
アタシといてもルーデンスの話ばっかり」
参るわねと言いつつ、耳に長い髪をかける所作もエヴァーレインの魅力を引き立てる。
「アンタに聞きたいんだけど、《ベイルナイト》馬鹿がアルビオンを持つまではアンタのだったんでしょ?
ヒルダと同じ姿の《ベイルナイト》にアイツが手にした瞬間なるなんて。
オタク知識はあれど、アタシはカラー変えとか教えてないし」
レイは目の前でアルビオンを
通常、着装した《ベイルナイト》はカスタマイズした着装者が設定した姿になる。
《ベイルナイト》をカスタマイズできる技術工、マギニックでなければ、カラーリングを変えることさえも難しいのだ。
「紅い流星に追われてたアンタが白い《ベイルナイト》を持ってルーデンスに会うなんてねえ。
ルーデンスは魔鎧大戦の双龍の話大好きだけど、そこまで寄せるかって感じ。
アンタもわかるでしょ?紅いドライグと白いアルビオン」
「……まあ、それはもちろん」
魔鎧大戦の双龍伝説。
紅いドライグ、白いアルビオンはともに《ベイルギガント》を打ち倒した存在。
他に有名な《ベイルナイト》は数あれど、双龍伝説は今でも色褪せぬ人気を誇る。
レイとエヴァーレインはもちろん、読み書きできなくとも口伝で人々が聞いて知るほどに人気であった。
『
アルビオンは私たち姉弟が一緒に戦うための繋がりさ』
レイはヒルダの柔らかい笑顔を思い出す。
「既存の《ベイルナイト》とあまりにも違いすぎる。どこで手に入れたの?こんなの。
私のマギニックの知識やタブレットのありったけの武装と照合してみたけど、相手の武装を簒奪する武装、なんて他にはないわ。それこそ、神話でなくてはあり得ない。
アンタはルーデンスに何をさせたいの?」
「……どこからのかって言うのは、それは言えない。
ただ、私はルーデンスだからアルビオンを託せたの」
タブレットに映し出されたもので武装の欄には『該当武装の照合不可』と表示されている。
エヴァーレインの顰めっ面にレイは俯き、言葉を搾り出す。
レイの様子にエヴァーレインはため息をつく。
「……まあ、別にいいわ。
武装も手に入ったし、アルビオンのカスタマイズを行える。
略奪のアレは強いけど、流石に一本はピーキーすぎるし。
言っとくけど、アタシのヒルダの弟の《ベイルナイト》馬鹿のアイツが何かあって死んだりしたら、アタシのヒルダに代わって、アンタを殺すわよ」
「……貴女はなぜ先生に執着するんですか」
エヴァーレインの殺意を向けられてなお、身じろぎひとつしないレイに彼女は心ない声でへーえ?と眉を吊り上げた。
「アタシはね、ヒルダを愛してるの。
ルーデンスはついでだけど、ヒルダに顔似てるしね。ヒルダの顔で泣かれんの、すごい嫌なのよ」
次回予告
ファングに勧誘された、スマッシュリングはランカー全員と戦い、勝利することで願いが叶えられる先の大戦終結後の慰霊祭でもあった。
開催に向け、《ベイルナイト》の調整をする中、ルーデンスの前に現れたガンマンの正体は!?
ベイルバトル、GO!