『さぁ、やって参りました!南テックステイツが産んだ、
陽気なテックステイツのノリで実況する、ロックのファン。
配信ラクリマによる、《ベイルバトル》配信はいまや珍しいものではない。
しかも、今回はロック自らがファンにバトルの配信を依頼していた。
“不可視のロック”のネームバリューの強さを示すように、はち切れんばかりの拍手が響く。
『新進気鋭!しかし、その煽り文句はキレッキレ!絶対女王の弟、アルビオン
ルーデンスへの紹介には熱が感じられなかったのにレイは呆れた。
一方でバトルの配信を見続けてきた、ルーデンスがあまり動じていない様はレイの指導を行った姉を彷彿とさせる。
「俺様のファンのみんな!スマッシュリングを盛り上げるためにも、力を貸してくれ!まだ開催しちゃあいねえけどな!」
集まったファンを前に応援ありがとう、と手を振りながら、ロックは笑顔で応じる。
「ステイツ行きのチケット買ったぞ!」
「必殺パンチ、見せてくれ!」
「またスリーカウントコール、頼むぞ!」
ホームグラウンド以外でも、ここまで声援を集めているのがロックの人気を窺わせる。
それに応えるように手を振るのがロック・ボックスの人柄を感じさせ、ロックはルーデンスの視線に気づいた。
「ファンサも大事なんだぜ?こういうのが積み重なる」
「別に聞いちゃあいないよ。俺だって知ってる」
ルーデンスがベイルバングルをしている右手首に左手を翳すと、ロックは水晶がはめ込まれた待機状態のベイルグローブを装着する。
『それでは、俺たちのロック!アルビオン二代目!
「「ああ!!」」
実況の言葉に二人の着装者が応える。
『俺たちみんなが今のを承諾とみなしたぜ!さぁ、ベイルバトル、GO!』
「
ベイルバングルが青い光を放つと、白銀の鎧がルーデンスを包み込む。
「
ベイルグローブが淡い光を放つと、その光をロックが殴りつければ、光はロックと一つになる。
『で、出たーッ!我らがロック・ボックス!自慢の《ベイルナイト》、我らがラッシュスター!!』
実況に合わせ、ロックはファンサとばかりにシャドーボクシングをする。
その都度、歓声が周囲から上がる様子は
『我らがロック・ボックスを相手取るのはさまざまな武装を簒奪する、アルビオン!しかし、“不可視のロック”の自慢の武器は武装にあらずッ!その鍛え抜かれた、鋼鉄の拳!』
軽快なフットワークで魔力を纏う、ロックの放つフックは風を
まるで、アルビオンの外殻を削っているかのような拳の
「俺様がブリュンヒルドの弟に見せんのはな、
マトモに受けたら、確実に持って行かれる。
そんな印象をルーデンスはラッシュスターの拳から本能で感じつつも、視界に捉えられないまま、繰り出される一撃一撃を警戒する。
「……俺の手の内をあんたが知ってることか?」
ルーデンスが取り繕いながらいうと、ロックは不可視の拳を放つことで答える。
「いや、
あの配信を見た奴らは、アルビオンの戦い方を見てやがる。
そんな状態で戦うのはつまんねえ」
ロック・ボックスの戦う理由は至極単純だった。
ルーデンスだけが世界中に手を晒しているから、本戦までにロック自身の手を晒す。
それはロック・ボックスなりのエンターテイメントであった。
ロックは当然、ルーデンス以外の着装者とも戦う。
しかし、
そんな相手にロックは納得のいくバトルができるとは思わなかったのだ。
「それで晒そうってのか?」
「まあな。だが、俺様の想像以上にお前は俺のバトルをチェックしてやがった。
それだけ言うと、ロックは再度拳を繰り出す。
魔力を帯びている以外は一切の武装をつけていない、ロック自身の技量だけによるものは一級品の攻撃力を持つ。
そんなものが不可視で放たれるものだから、ルーデンスは《ベイルナイト》の表面で受けて流すことしかできなかった。
ほんの一瞬、一瞬に繰り出されるのを腕を交差させて受け止める。
上手くいけば、流せればラッキーと思うしかないほどに。
「(配信で見た以上だ。しかも、魔力の強化もほとんど使ってない!)」
紅い流星、ブラックオックス、
しかも、武器を使わないものだから、
攻撃性能は全て自前、《ベイルナイト》の武装に回す魔力はスピードの底上げくらいにしか使っていない。
いかにアルビオンを纏うルーデンスであれど、不可視の拳の連撃は躱しきれない。
『ラッシュスターが押していく!!だがアルビオンも負けていない!!
俺たちみんな知ってるだろ?ブリュンヒルドの弟の
実況が観衆のボルテージを上げると、その“熱”はアルビオンを纏うルーデンスにも向けられる。
ファンと一体になり、熱を作り出すのはファングにはなかった“強さ”だ。
場を支配する盛り上がりを生むのは実況の技術もあるが、
これが“
「(随分と盛り上げ上手だ、六位のファンは)」
バチバチッ、と爆ぜる音を上げるラッシュスターが発する魔力。
そうだ、ここからが本番だ。
実況の声が一際高く跳ね上がる。
『おおっと! ここでアルビオンが動いたァーッ!』
ルーデンスの右足は白銀のオーラを纏い、回し蹴りを放つ。
——が、
「甘ェよ、弟くん」
ロックの左腕はすでに消えていた。
いや、正確には「見えなくなっていた」。
次の瞬間、ルーデンスの左こめかみ辺りに、
空気を引き裂くような乾いた衝撃音が炸裂する。
バキィッ!
「ぐっ……!」
《ベイルナイト》の側頭部装甲が大きく凹み、
ルーデンスの視界が一瞬白く揺れた。
「見えねえフックを、捕まえようってか?
そいつぁ無理だぜ。俺の拳は、最初からそこに“いねえ”んだからな」
ロックはニヤリと笑いながら、両腕を軽く振る。
まるでウォーミングアップの続きでもしているかのような気楽さだ。
だがその動きの合間にも、観客には見えない・聞こえないだけの小さな衝撃波が何度もルーデンスを襲う。
肩。脇腹。膝の裏。顎の先端。
予測不能の角度から、予測不能のタイミングで、
しかし確実に「効く」打撃が積み重なっていく。
「(……こいつ、魔力消費を極限まで削ってる……!全部、純粋な身体能力とタイミングだけで……!)」
ルーデンスは歯を食いしばりながら考える。
普通の着装者なら、とっくに魔力をガンガン使って防御武装を展開するか、
カウンター用の強力な武装で一発逆転を狙う場面だ。
だがロックは違う。
武装をほぼ使わず、 魔力を「加速」と「不可視」に特化させ、 あえて自分の「素の拳」だけを見せつけている。
それはもう、ただの試合ではない。
宣戦布告だ。
「俺の手の内も、全部見せたろ?」
ロックが一歩踏み込みながら言う。
「これでようやく、フェアになったな?
お前が隠してる切り札も、全部出してこいよ、アルビオン二代目」
その言葉と同時に、
ロックの周囲の空気が一変した。
今までは「ただ速い」「ただ見えない」だけだった拳圧が、
まるで実体を持ったように重く、濃く、ルーデンスを押し潰しにかかる。
『うおおおおお!! 来たぞ来たぞ来たぞォォ!!
ラッシュスターの本気モードィィィ!!
“不可視のロック”が、ついに牙を剥いたァーッ!!』
観客の歓声が天井を突き破りそうな勢いで沸き立つ。
ルーデンスは大きく息を吐き、
一度目を閉じて——そしてゆっくりと開いた。
その瞳には、もう迷いはなかった。
「……わかったよ」
アルビオンの全身が、今までとは明らかに違う輝きを帯び始める。
各部の装甲が細かく震え、まるで生き物のように脈動しながら、再構成の兆しを見せる。
「だったら俺も—— 」
次の瞬間、 アルビオンの手から魔力を放出する。
白銀の魔力のオーラだ。
「いいぜ……それでこそだ!」
ロックが大きく笑う。
不可視の拳と、白銀の蹴りの絶望的な乱舞。
二人の“本気”が、
ついに正面から激突する瞬間だった。
『さぁ、ここからが本当のクライマックスだァーッ!
最高の殴り合いが、今、始まるゥゥゥ!!』
実況の叫びが、割れんばかりの歓声に飲み込まれていく——。
スマッシュリング開催前に白熱する、ロックとルーデンスのベイルバトル!
凄まじい、ロックの拳!不可視の一撃!
しかし、ベイルバトル馬鹿のルーデンスはアツくなる!!
これはもはやクライマックスか!?
そんなところに現れるのは……!
ベイルバトル、GO!