コールネーム、“アルビオン”   作:ふくつのこころ

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唐突な怪文書に注意


「我らランカー六人がチャレンジャーの挑戦を待つ!」

 スマッシュリングが開催となるにあたり、街はすっかり、お祭りムードだった。

 レイニーマートもスマッシュリングで訪れる旅行客が多く賑わい、エヴァーレイン、レイ、ルーデンスも忙しく働いた。

ちょうど、昼を過ぎ、ひと段落した頃。

 

 エヴァーレインに休息をもらったルーデンスとレイは共にレイニーマートのロゴ入りのエプロン姿で配信をつける。

レイはエヴァーレインからシャツやパンツを借り受け、髪を一本に纏めて結えている。

紅白装束から衣装が変わったことで印象もずいぶん違う。

 

「貴様らのチャンピオン、コウゼンだ。

もう言わずとも雰囲気を体感しているだろうが、待ちに待ったスマッシュリングは一週間後に開催する。

規模は世界中とし、我らランカー六人がチャレンジャーの挑戦を待つ!」

 

 街頭にあるものをはじめ、多くの配信ラクリマに世界最強の《ベイルナイト》着装者にしてランカー第一位のコウゼンが映し出される。

 世界ベイルナイト協会にある、チャンピオンにあてがわれる一室による撮影だ。

 

 配信にチャンネルを合わせている、視聴者からのコメントが止まらない。

弾幕のようにコウゼンに対するアンチコメントも流れている。

コメントは視聴者の思念を反映させることができ、いわゆるスパチャは提示した金額が即座に転移魔法で消える。

技術の無駄遣いと言われる所以だ。

 

 

『おい、キング。ロック・ボックスとアルビオンのバトル邪魔しただろおい、キング。ロック・ボックスとアルビオンのバトル邪魔しただろおい、キング。ロック・ボックスとアルビオンのバトル邪魔しただろおい、キング。ロック・ボックスとアルビオンのバトル邪魔しただろおい、キング。ロック・ボックスとアルビオンのバトル邪魔しただろおい、キング。ロック・ボックスとアルビオンのバトル邪魔し(-ユーザー権限によりブロックされました-)』

『相変わらず、キングのアンチがいるな』

『キング!あれやってくれ!』

『ランカーのバトルはエンターテイメントでなくてはならない!』

 

「未だ王者に相応しくない振る舞いをする先代を支持する声はあるようだ。

しかし、私はかの先代(・・)を王者とは認めない!

ランカーである責任、バトルをエンターテイメントにしようとする努力、それらを怠る三流(・・)などに負けたりはしない!」

 

 コウゼンが声高高に宣言した、その煽りは失踪したヒルダに対してのものだった。

 ルーデンスはもちろん、アステルをはじめ、その強さに憧れた者は多い。

 

「……何?ヒルダのこと言ってんの?ヒルダが使ってたチャンピオンのオフィスでんなこと言ってるの?

“ヒルダに勝てない”なんて自覚してんのは大したものだけど、わざわざ配信で言うなんて正直ね」

 

 レイが言葉にする前に切り出したのは、エヴァーレインだった。

心底馬鹿にする表情と肩をすくめる仕草はレイとルーデンスの鬱憤を晴らした。

 

コウゼンが撮影に使っていた部屋をヒルダも使っていたことがある。

“さいきょうむてきねえちゃん”と幼いルーデンスが描いた、似顔絵を飾っていたのをルーデンスは思い出す。

 

『ルディ。ここが私が掴み取った玉座だ』

 

 記憶の中の姉は配信ラクリマで見る以上の笑顔を浮かべ、白銀の椅子に座って、自分を見上げる弟に優しく笑いかける。

弟からの似顔絵を受け取り、涙を拭いながら、その頭をくしゃくしゃに撫でた。

いかなる賛辞より、チャンピオン防衛の価値があったと姉は言ってくれた。

 

『家族愛を深めるなら、アンタの役にたつあたしにも必要だと思うけど?』

 

 むすっと頬を膨らませたエヴァーレインがヒルダにもたれかかる。

彼女は当時から既にマギニックとして、卓越した才能を見せていた。

 

『エヴァーレインには感謝している。

アルビオンカラーへの塗り替え、ブレイドの仕入れ、メンテナンス。

私のように不器用な女にはできなかった』

『感謝するヒルダもいいわねえ!』

『見るな、ルディ!』

 

 真剣な眼差しと声色でヒルダはエヴァーレインに声をかける。

 ヒルダは幼馴染の振る舞いが弟の教育に悪いと思いながらも、その存在がなによりもありがたかった。

 ルーデンスがヒルダから聞いた言葉のほとんどはエヴァーレインに感謝するようにと何度も聞かされた。

 

『……ヒルダ、あたし、アンタの嫁になる。ルディ、お姉ちゃんが増えたら嬉しいでしょう?』

 

 小さなルーデンスがそのことをエヴァーレインに伝えると、ヒルダはそっぽをむき、エヴァーレインは目を見開いて恍惚とした表情を浮かべる。

そんなやりとりをルーデンスは思い出した。

 

「我らランカー六人を打ち倒せし者は先の大戦でベイルギガントを討ち、栄光を掴んだ英雄たちのように一つだけ願いが叶えられる!

ただし、我々はランカーである!」

 

 チャンピオン、コウゼンの宣言によってラクリマから五つの映像が映し出される。

視聴者からのコメントは止まらない。

 

『ランカーたちだ!』

『魅せてくれよ、すげえバトルを!』

『おい、キング。ロック・ボックスとアルビオンのバトル邪魔しただろおい、キング。ロック・ボックスとアルビオンのバトル邪魔しただろおい、キング。ロック・ボックスとアルビオンのバトル邪魔しただろおい、キング。ロック・ボックスとアルビオンのバトル邪魔しただろおい、キング。ロック・ボックスとアルビオンのバトル邪魔しただろおい、キング。ロック・ボックスとアルビオンのバトル邪魔し(-ユーザー権限により切断されました-)』

 

 カウボーイハットらしいシルエットに不敵に笑う顔と銃を構えるでなく、拳を構えるのが“不可視”。

 

『ロック・ボックス!ロック・ボックス!』

『テックステイツの星!ステイツドリーム(成り上がり)!』

『魅せてくれ、スリーカウント予告!』

 

 着装(ベイルオン)している《ベイルナイト》ほどの巨大な武器を手にした、第五位“散弾天使(バーサークスローネ)”。

ランカーの中で第五位に向けられた、コメントには特に熱がこもっている。

 

『天使ちゃん来た!!』

『天使ちゃんだ!!』

『天使ちゃん!俺だ!俺を言葉責めしてくれ!』

『天使ちゃんの過激で苛烈なファンサを期待できるバトルはいつですか?』

『もしかして、天使ちゃんにスパチャできるってこと!?』

 

 

 刀らしい武器を構えた人影と第四位の文字。

 第四位は武者鎧と武者鎧から伸びる、紐のようなシルエットが現れる。

コメントはあまり多くなかった。

 

 棒状の武器を構える、角が際立つ第三位の“斉天大聖”。

 

『俺様は斉天大聖!(ラン)最強の着装者の俺様がお前をブッ飛ばす!』

『俺様は斉天大聖!爛最強の着装者の俺様がお前をブッ飛ばす!』

『俺様は斉天大聖!爛最強の着装者の俺様がお前をブッ飛ばす!』

『俺様は斉天大聖!爛最強の着装者の俺様がお前をブッ飛ばす!』

 

 第三位へのコメントは決め台詞が多かった。

 それらの画面を眺めていたコウゼンはどんな形であれ、ランカーへのコメントは好意的に見ており、大胆な宣言をしたのと打って代わり、満足げに笑っていた。

それが自分のアンチコメントにさえ(・・・・・・・・・・)も。

 

 六つのスケイルを背後に浮かせた、狼の頭部をもつ“狼漫王(マッドルプス)

 

『ファングだ!!』

『この前の非公式大会に参加した理由?……思いつき、そんな感じだ』

『ファング様の器用なスケイル捌きみたいに扱われたい♡♡』

『魔力を持たない人間の希望』

『ファング、ハウンズの仕事もしろ』

『この流れは今年もファングの完封勝ちが見られる。そんな感じだ』

『この流れは今年もファングの完封勝ちが見られる。そんな感じだ』

『この流れは今年もファングの完封勝ちが見られる。そんな感じだ』

『この流れは今年もファングの完封勝ちが見られる。そんな感じだ』

 

そして、それらの映像を弾き飛ばすように“絶対王者、エンジュ・コウゼン”の文字と赤い《ベイルナイト》、ステンバー・アイズが浮かび上がる。

 

 瞬間、炸裂音が響くと外にカメラは向けられた。

 

 彼ら(・・)の宗教における、悲しみの表情を浮かべた仮面に翼が生えたエンブレム。

 

『げぇ、マキナの連中かよ』

『これは炎上待ったなし』

『今回もまた伝説になりそうだな、スマッシュリングは』

 

 コメントを一瞥したコウゼンが映し出されると、コウゼンが窓を大きく開く。

カメラもそれに合わせるように招かれざる客を映し出す。

 

「エンジュ・コウゼン!

スマッシュリングの開催ができると思ったか!?今ここにベイルバトルではない、聖戦を申し込む!繰り返す、これは聖戦である!」

 

 大胆な宣言を受けるも、コウゼンは沈黙を保ち、指を鳴らした。

 

「……配信事故じゃない?炎上しないの?」

「まあね。

大戦で一部の連中が崇拝してた、ベイルギガントを崇めるマキナの連中ん中でも過激な奴らよ。

どうなるか(・・・・)わかってるから、普通は協会には行かないんだけどね」

 

 レイが顰めっ面で映像を指差すと、エヴァーレインは昼食の目玉焼きサンドイッチの皿をテーブルに置いた。

この後、どうなるか(・・・・・)、知っているような口ぶりだとレイはルーデンスを見る。

 

「何かあるの?」

 

 ルーデンスが丁寧にもエヴァーレインに「いただきます」と声をかけ、咀嚼しながらジェスチャーで「アンタたちも食べな」と示す様子を見つつ、レイもサンドイッチを頬張る。

香ばしいトーストの香りとスパイスをたっぷり使ったソースが食欲をそそる。

 目玉焼きをトーストで挟んだだけのシンプルなサンドイッチとは言え、作り手のセンスが光る。

エヴァーレインがヒルダに嫁入りするために磨いた結果なのだとルーデンスは後から聞いた。

 

「ランカーでも屈指のヤバい(・・・)奴が出てくるよ」

 

 ルーデンスらは映像に目を向ける。

 量産品のザトスどころか、さらにひと段落上のディースを使用した飛行武装付きの《ベイルナイト》。

 胸の水晶体、ベイルタルのすぐ下に例のエンブレムがある。

それを風切る音とともに光の矢が射抜いた(・・・・)

 

『光の矢!?まさか!?』

『来る!?俺たちの天使ちゃんが!?』

『天使ちゃん、俺だ!射抜いてくれ!』

『←さっきのコメントは通報しました』

 

 レイが流れたコメントに呆れ、ルーデンスも好きなタイプかと表情を伺う。

ただ、ルーデンスはコメントを打ち出すような視聴者と違うのは《ベイルナイト》の武装に興味が向けられていた。

 

「……ルーデンスらしいか」

 

「きゃっははは!

クソ雑魚共〜?あたしあたし!あたしが射抜いたんだよ!」

 

 少女の甲高い声が響く。

 

『天使ちゃん!天使ちゃん!天使ちゃん!天使ちゃん!』

『お納めしました……。愛という名のスパチャをな』

『天使ちゃあああああん♡かわゆいようかわゆいよう♡♡♡♡クンカクンカクンカスゥハァスゥハァ♡クンカクンカスゥハァスゥハァ♡んっっっはぁぁぁん♡あっっっまぁぁぁい十代の女の子の良い匂い♡おいっしそう♡♡♡ボクの男の子がとんでもギンッギン♡ガールなのにメスガキ感かわゆいよおおおお♡♡♡♡天使ちゃんが乗ってる、スローネの散弾はラヴの散弾♡ファンのボクらにラヴをたくさんサービスしてくれてるんだよね♡♡こんなのもうボクらは夫婦♡かわいい天使ちゃんと、クソ雑魚のボクらで愛し合っているとしか言えないよう♡♡♡さらさらかわいいツーサイドアップを揺らしているのを着装中は拝めないけど、顔を覆い隠すメットの下でかわいいお顔を歪ませながら、ボクらに悪態ついてると思うと♡♡♡んっはぁぁぁん!!ギンッギンしちゃうなぁ♡♡♡ボクら、いや、天使ちゃんの信徒であるボクの愛♡♡♡♡ボクらのハートをマグナスローネで射抜いてぇぇぇぇん♡♡♡あっあっ、ボクと天使ちゃんの婚約はボクのはあとを捧げまぁぁぁす♡♡♡♡これがふたりの婚約指輪だよ♡♡♡マグナスローネのエンゼル・ハイロゥみたいだね♡♡♡』

『天使ちゃんが嫌いな怪文書送ったヤツ誰だ!?』

『通報しました』

『(-ユーザーによりブロックされました-)』

『運営しごでき』

『どうやってんだよ!?いまの連投』

 

コメントはあのエヴァーレインは凍りついた笑顔を浮かべているも、ルーデンスは気にしない。

 

映し出された《ベイルナイト》。

それは、巨神のようだった。

通常サイズの《ベイルナイト》が一メイル七〇センタ(一七〇センチ相当)だとすれば、二〇メイルを優に超えるサイズ感は規格外である。

 

頭部の上には翼が生えたエンゼルハイロゥ(光輪)があり、人間と人形ほどのサイズ感。

手にした等身ほどある戦輪にも同様の翼があり、それは動いている。

 

「《ベイルナイト》なの?あれが!?騎士(ナイト)どころか、要塞(フォートレス)じゃない!」

 

 レイのもっともな言葉に幼馴染二人は頷いた。

ベイルバトルは自由だが、それにしたって第五位・“散弾天使”は自由すぎた。

手にしている戦輪のを回転させると、マキナ教団の天使を模したようなディースを光の矢が躊躇いなく射抜く。

弓というにはあまりにも歪な異形である。

 

「や、やめろっ!?異教徒め!我々の話を聞け!」

「なんて〜?聞こえなーい!エンジュにぃの命令だもん♡♡ほら、あたしって人気だからさ?こうして、あたしらしく、マグナスローネでわがままにしてる方がウケいいから!」

 

 めちゃくちゃに振り回すようで、その実正確なマグナスローネの扱い。

ランカー一位のコウゼンを“にぃ”と呼ぶ様子は男の琴線に触れる。

 

『天使ちゃんのにぃ呼びきたー!』

『(-ユーザー権限により削除されました-)』

『んっはぁぁぁん♡天使ちゃんに“にぃ”呼びされたい♡♡むしろ、旦那様でも♡♡』

『(-ユーザー権限により削除されました-)』

『(このアカウントは接続を制限されています)』

『ランカー一位になれば、天使ちゃんのお兄ちゃんになれるってこと!?』

 

それにコメントは盛り上がり、コウゼンにカメラが向くと、「あっ!?コラ!お兄様!?と拗ねる少女の声がする。

 

「とんだアクシデントを見せてしまったが、明日からテックステイツで“不可視”のロックとバトルができる!

諸君らに約束しよう!」

 

 コウゼンは自信たっぷりな笑顔を配信に見せると、右人差し指を天に向けるポーズが映し出される。

 

『ランカーのバトルはエンターテイメントであることを!』

『ランカーのバトルはエンターテイメントであることを!』

『ランカーのバトルはエンターテイメントであることを!』

『ランカーのバトルはエンターテイメントであることを!』

『ランカーのバトルはエンターテイメントであることを!』

『ランカーのバトルはエンターテイメントであることを!』

『ランカーのバトルはエンターテイメントであることを!』

『ランカーのバトルはエンターテイメントであることを!』

 

 弾幕のように流れるコメントに合わせ、世界最強のキングが宣言する。

 

「ランカーのバトルはエンターテイメントであることを!」

 

 かくして、アクシデントが起きつつも、スマッシュリングの開催に世界が歓喜した。

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