コールネーム、“アルビオン”   作:ふくつのこころ

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【挿絵表示】

エヴァーレインのイメージです。
生成してみました。


「店長さん、どうやってこんないい席を?」

 スマッシュリング開幕まで数日。

 世界ベイルナイト協会と提携をとる、交通機関は混雑を見せた。

 

 大陸に敷かれた陸路を行く、大陸横断魔導鉄道・ベイルロード。

 海路を行く、魔導高速船ベイルシップ。

 要人が利用する空路を行く、魔導飛行船ベイルレーン。

 

 特に公式(・・)から出ている、飛行武装が少ないことでベイルレーンは安全を保証しているため、席を取ることは困難を極めた。

 ルーデンスたちが暮らしている、リオネル王国の王都アリアーデはアリアーデ駅が目と鼻の先にある。

急な開催をすると有名なスマッシュリングらしく、テックステイツへの長旅は雑魚寝部屋になるかと思われた。

 

「まあ、こんなものよね」

 

 エヴァーレインは“上等乗車券”を三枚手に持って扇ぐようにしている。

ルーデンスたちの乗った八両編成のベイルロード、その中でも特に上等な乗車券。

スマッシュリングの観戦や出場しにベイルロードを利用する客でアリアーデ駅は溢れていた。

そんな時、エヴァーレインは窓口で対応した駅員に囁くと、乗車券を手に入れてきたのだ。

それも、ルーデンスとエヴァーレイン・レイら女性陣の利用するベッドルームを二つつけて。

 

 レイはエヴァーレインが一体どんな理屈で手に入れたのか、気になった。

そんなやり方はすっかり慣れっこだったルーデンス。

アルビオンを手に入れ、配信にも映ることになった中で出来たファンやヤジに適当に対応していた。

 

「なぁ、アンタ、あのブリュンヒルドの弟なんだろう?」

「ああ、姉弟だよ。自慢の姉ちゃんだ」

 

 ある夫婦にルーデンスは話しかけられた。

 エヴァーレインやレイのようにルーデンスを個人で見るより、このように“ブリュンヒルドの弟”と見る声が多い。

それにはルーデンスはもう慣れていた。

 

「あたしたちゃ、アンタも応援してるよ?キョーダイ揃って、着装者で強いなんて大したもんだ!」

 

 遠くで出稼ぎしていたのか、真っ黒な夫を小突きつつ、気前のいい恰幅が良い女性はルーデンスの髪をくしゃくしゃに撫でて行った。

 

「珍しいなぁ」

 

 ただ、その日のルーデンスに絡んできた夫婦に限っては年頃の息子を見るような暖かさが彼らにはあった。

 

『本日、無名の超新星がこのベイルバトルに現れました!名前をヒルダ、《ベイルナイト》のコールネームは白銀の戦乙女(アルビオン・ブリュンヒルド)!!

しかし、驚くべきはそこではありません!

なんと、彼女は市販のザトスを伝説のアルビオンカラーにただ(・・)塗り替え、武装はブレイド一本なのです!』

 

 コンパートメントでルーデンスがヒルダのデビュー戦の配信アーカイブをリプレイしている。

実況はヒルダが着装(ベイルオン)したアルビオン・ブリュンヒルドのバトルを取り上げていた。

ヒルダはのちにトレードマークとなる、アルビオンカラーに塗っただけのアルビオンブレイドを振るい、高速機動を見せる《ベイルナイト》と互角な戦いを繰り広げている。

その《ベイルナイト》の必殺の一撃を掻い潜りつつ、懐に飛び込む。

 

『ご覧ください!これがヒルダ選手の高速突き!武装の数や性能を物ともしない!!とんでもない、|怪物(ジョーカー)が現れたようです!』

 

 懐に飛び込んだブリュンヒルドは回し蹴りを入れた後、空中にアルビオンブレイドで切り上げ、正確にベイルタルを貫く一連の流れは鮮やかで美しい。

勝利後、まだファンサを知らなかった姉がさっさと賞金を受け取って帰るところまでが撮影されている。

何百何十回と見た、自慢の姉のデビューした際の試合である。

 

『我々の前に突如として現れた“伝説”、アルビオン・ブリュンヒルド!

伝説の双龍の片割れの信奉者(フォロワー)かと思われましたが、侮るなかれ!

我がリオネルの《ベイルナイト》飛行部隊新人隊員にしてエース、ニール・ヤードを打ち破った実力は凄まじいこと間違いなし!

我々はいま伝説の誕生に立ち会っているのです!』

 

 実況の興奮は冷めることを知らなかった。

当時、鳴り物入りで国が創設した《ベイルナイト》飛行部隊に入隊したエースを初戦で倒したヒルダには賛辞が送られている。

さっさと退場していったのにこの熱量、そこから推し量ることができるだろうか。

浮かび上がっている映像と一緒に表示されている数字、そこには“一億八千万再生”とあり、世界中がヒルダの初戦に注目していた。

 

「ルーデンス、やっぱりアンタはそれ見てんの?何回見たの?」

「三百は軽く見た。姉ちゃんの剣捌きは流石の一言」

「貴方もよくまあそれだけ見るわね……。

そう言えば、エヴァー……店長さんに聞きたいことが」

 

 ルーデンスが配信ラクリマでアーカイブを視聴するのも、レイはすっかり慣れっこだった。

ふと浮かんだ疑問にレイはエヴァーレインに尋ねる。

 

「店長さんでいいわ、気分がいい」

 

 エヴァーレインはレイの訂正にニヤニヤと微笑を浮かべる。

ここしばらく、レイニーマートで働いているレイはルーデンスが性格が悪いと評する理由も肌で感じ始めた。

ほんの些細な言い間違いを拾い上げ、煽りに使う。

細かいところに気づく観察眼は《ベイルナイト》を取り扱う、マギニックとして必要な能力である。

それを悪用して私的な楽しみ(・・・・・・)にしているのが性悪だが。

 

 エヴァーレインは長い髪を垂らし、ルーデンスの肩にもたれながら、レイニーマートのロゴ入りシャツ姿で寛ぐ。

美貌と長身の抜群なスタイルがそうさせるのか、なんでもないシャツさえも彼女が身につけると、洒落てるように見える。

同じシャツの色違いを着せられている、レイはエヴァーレインとの発育を見比べ、ため息をついた。

 

よく見ると、ルーデンスは白のレイニーマートのロゴ入りのパーカーを着ている。

()、と言うのが実にルーデンスらしいなと言うのがレイの感想だ。

 

 

「店長さん、どうやってこんな良い席を?」

 

 根負けしたレイが店長、と呼ぶとエヴァーレインは機嫌よく饒舌になった。

 

「ちょっとね。

ヒルダ、現役ん時はベイルロードでコラボしてアルビオンロードなんてやってたからね。

あたし、マネージャーみたいなもんだから、そこを五月蝿く突っついてやったの」

「それにしては、穏やかな感じには見えなかったわよ!?」

「あらそう?並走したければ、ご自由にどうぞ?」

 

 エヴァーレインが両手人差し指で可愛らしい、突っつくジェスチャーを見せる。

レイがそれに反応すると、笑顔のエヴァーレインは窓を開放し、外を示す。

走行するベイルロードの群青の車体が見える他、景色がまるで後ろに飛ぶように後ろへ後ろへと行く。

正直な話、レイにとっては初めて(・・・)の鉄道乗車。

ワクワクしないと言えば、嘘になる。

 

「……いやあの、文句はないです」

「イヴ姉、値切り交渉と傷口塩塗りに関しちゃあ、右に出る者がいないからな」

「商売が上手いと言いなさい。……ルディ、アンタも外走りたいの?」

 

 レイが縮こまると、カラカラと小気味の良い音が聞こえる。

 

「車内販売。

ベイル交通限定着装者カード付きビスケット、サンドイッチ、ほのかな酸味が癖になるベリージュース、冷凍ラクリマで冷やしたベイル交通限定三種のアイスクリーム。

リオネルからテックステイツまでの八時間の旅のお供、いかがですか?」

 

ルーデンスが立ち上がり、財布を取り出すと、レイはルーデンスとエヴァーレインを交互に見る。

 

「ねえ、ルーデンス。あれは?」

「車内販売だな。俺たちの席のある車両は上等なところだから、他と商品のグレードが違う」

 

 ルーデンスが「こっちにもー!」と手を振る。

ベイル交通の制服を着た客室乗務員のウルフカットの女性は「随分、元気なことですと」と微笑を浮かべてルーデンスたちの方に多種多様な商品でいっぱいの押し車を伴って(・・・)やって来る。

ルーデンスの視線の先がベイル交通限定着装者カード付ビスケットにあると気づくと、エヴァーレインはニヤニヤ笑った。

 

「アンタのお姉ちゃんが良い席乗せてきたもんねー?ベイルシップだけ、ヒルダが怖がるから乗らなかったけど。

お馴染み(・・・・)、また買うの?」

「あ、そっか。

もしかして、先生狙い?」

 

 見透かしたようなエヴァーレインとレイの言葉にルーデンスは少し照れ臭そうにした後、大戦以降に共通貨幣となったアルマを数枚取り出す。

 

“これから先、いかなる危機も力を合わせる”

 

 その理念に則り、アルマを共通貨幣にしている国は世界の九割(・・)である。

 

「ラインナップにあればいいけどな」

「おねーさん、ベリージュースを三つ、お任せサンドイッチを三つ、あとはカード付きビスケットを三つ」

 

 エヴァーレインが客室乗務員に左手の人差し指、中指、薬指を立てて注文すると、客室乗務員は注文された品を準備した。

 

「随分と気前のいいお姉さんですね?テックステイツにお姉さんと恋人さん連れて?」

「姉ちゃんみたいな幼馴染と……あー、姉ちゃ……、俺の友達で」

 

 ウルフカットの客室乗務員にたじたじな様子にレイはルーデンスの年相応な一面を見た。

 

「ふーん?あたしを姉ちゃんみたいな幼馴染だと?」

 

 ニヤニヤ笑いながら、ルーデンスを小突くエヴァーレインは上機嫌に彼が客室乗務員から受け取った商品の代金を支払った。




ベイルロードの長旅を終え、テックステイツに到着したルーデンスたち。
一方、第六位ロック・ボックスは数多のチャレンジャーを叩きのめしていた!
ルーデンスとロック・ボックス!
武装を奪うルーデンスに対し、武装無しで戦うロックはまさに天敵!
果たして、ルーデンスは“肩慣らし”と違い、どのように立ち回るか!?
ベイルバトル、GO!
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