コールネーム、“アルビオン”   作:ふくつのこころ

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「俺様には敵わねえんだよ、チャレンジャー」

 テックステイツ。

 

 技術大国を謳う、この国では北と南に分かれていた。

 技術研究を行う(ノース)ステイツ。

 ダウンタウンとなっている(サウス)ステイツ。

南ステイツの出身である、ロック・ボックスは今年のベイルリングで自分がベイルバトルを行う地を故郷にしたのは故郷への恩返しの意味もあった。

 

『スペシャルルールのもと、ロック・ボックス対チャレンジャー全員のバトル!

しかし、さすがは我らがロック・ボックス!

多対一もモノともしないッ!

“ウダウダやってても意味がねぇ。これが俺様のエンターテイメントだって、見せてやるよ!”と我らがロックは言った!』

 

 実況のモノマネを交えた、語り口に観衆(ギャラリー)が湧き立つ。

 

 南ステイツ中央ストリート特設会場。

そこにはロック・ボックスが着装する、ラッシュスターとスマッシュリング参加者たちが戦っている。

 

『我らが星は言った!

“俺様対全員でいい!そんなハンデ、ものともしねえ”と!

いかに“不可視の(インビンシブル)ロック”であれど、二十対一は流石にキツいんじゃないか!?と、普通はなるだろう!』

 

 ラッシュスターは胸部(むね)のベイルタルを狙う弾丸、斬撃、打撃を見切って掻い潜る。

参加者達の《ベイルナイト》は市販品のザトスや高価なものでディースほど。

ザトスやディースは高価な武装を装備しているものも少なくない。

対し、ラッシュスターに武装は一つもない。

数多の《ベイルナイト》を相手にしているにも関わらず、それらの攻撃をモノともしない。

 

 不可視。

 早撃ち。

 

 その二つの異名はロック・ボックスとラッシュスターのバトルスタイルに由来する。

端的に結果を言えば、ラッシュスターに彼らは歯が立たなかった。

武装がない徒手空拳、それも足は回避や攻撃の足捌きにのみ専念し、攻撃するのは拳だけ。

そんなラッシュスターの異様なまでの強さを支えているのは着装者のロックである。

 

「ちょこまかとォ!」

「攻撃を捉えきれん!」

「信じられん速さで打ち据える!」

 

 振りかぶって武装(つるぎ)を振り下ろしても、武装(やり)を突き出しても、無数の武装(だんがん)を放っても。

なにより、大枚を(はた)いて購入した武装は届かない!

誰もラッシュスターを、ステイツの星を捉えることは叶わない。

ラッシュスターは防御する武装も少なく、動きも軽やかである。

右、左、左、右、と繰り出すワンツーパンチの動作は非常にリズミカルだ。

一見すると単調で捉えやすいが、“引く”タイミングを誤らないロックのリズムは崩せない。

 

「オラオラオラオラァ!俺様のリズムを崩すんじゃあなかったのか!?チャレンジャー!」

 

 ロック・ボックスが叫ぶ。

軽やかなフットワークに対し、繰り出される突き(ラッシュ)は凄まじいもの。

六人のランカーの中で第六位と末席にいるようだが、それでも、第六位の名前は伊達ではない。

剣、槍、射撃と様々な自慢の武装でカスタマイズした、自慢の《ベイルナイト》を着装(ベイルオン)したチャレンジャー達は甘くみていた。

 

「これより、スリーカウントでお前らを仕留める!」

 

 ロックは指を三本立てて宣告する。

 ロック・ボックスの決め台詞、スリーカウント予告。

 

『で、出たァァ!ロック・ボックスのスリーカウント予告!完全なる勝利宣言ッッッ!これを受けて、立っていられたのは現在の第一位(チャンピオン)・コウゼンと今を騒がせるアルビオンの姉にして元第一位(チャンピオン)・ヒルダだけ!』

 

 ロック・ボックスはラッシュスターの面の下で不敵な笑みを浮かべる。

思えば、自分が“確実に勝てる”とならない相手はこの二人だけになった。

ベイルバトルが決して楽しくないわけではない。

ただ、自分が強くなりすぎた(・・・・・・・)だけだという自覚はある。

そんな中、現れた白銀の超新星(ニュービー)、元第一位の弟。

ほんの小手調べのバトルでさえ、とてつもない素養の持ち主だとわかる。

 

「(まだまだ余裕かよ)」

 

 右拳を突き上げ、余裕を見せるラッシュスター。

そんなラッシュスターにチャレンジャーは拳を振るわせる。

 自分たちでもいける(・・・・・・・・・)

挑戦者達はロック・ボックスに油断してしまったのだ。

徒手空拳の相手に彼らは遅れをとるとは微塵も思わなかった。

その慢心こそが彼らの敗因だと知らしめるように、視認せざる終幕(ひっさつ)一撃(こぶし)が炸裂する。

 

『それでは!みんなもロックの必殺スリーカウントパンチのカウントをしよう!』

 

 実況の言葉と共に観衆から声が上がる。

 

「よォォォし!見てなァ、お前ら!」

 

 ロックは歓声に応えるように声を張り上げる。

これが第六位、ロック・ボックスが人気を獲得する理由。

南ステイツ出身のロックが“憧れられるランカー”であるのは、その旺盛なファンサービス精神だった。

 

『スリー!』

 

 ラッシュスターの必殺の拳を受けまいと散り散りになるチャレンジャー達。

しかし、一瞬のうちに姿を消したように見えたラッシュスターの不可視の拳が胸部の水晶(ベイルタル)に命中したチャレンジャーたちは着装(ベイルオン)が解かれる。

 

『ツー!』

 

 残ったチャレンジャー達の中でカウンターを仕掛けようとする者が現れ始める。

相手は徒手空拳の《ベイルナイト》に過ぎない、触れるけどならできるはずだと。

無数の攻撃が再度、第六位を襲う。

四方八方、誰かの攻撃は命中するはずだとやけになったようにも見えるだろう。

“勝ちに行きたい”気持ちは下町育ちのロック・ボックスにもよくわかる。

元来、その腕っぷしの強さが自慢なのだから。

 

「(だがなァ、それじゃあ行けねえ。

俺様には敵わねえんだよ、チャレンジャー!!)」

 

 ロック・ボックスが回避できない、死角を作るのがチャレンジャーたちの目的だ。

しかし、こんなピンチをロックは何度も乗り越えている。

この程度(・・・・)造作もない(・・・・・)

ロックは残像を生み出すほどの速度でベイルタルに拳をそれぞれ直撃させていくと、全てのチャレンジャーの着装は解かれた。

 

『ワンッ!!!!

見たか、観衆(ギャラリー)共!これが俺たちのロック・ボックス!!

スリーカウントパンチが炸裂したぞ!』

 

 ロックは漂っている自律稼働音声拡大ラクリマを使い、堂々と勝利を宣言する。

 

「俺様を屠れなきゃ、願いは叶えられない!

だがなァ、俺様は負けねえ!どんなチャレンジャーの挑戦も受ける!

それと、来いよ!アルビオンの弟!!

お前が今回のスマッシュリングで俺様が戦いてえ相手だ!」

 

 そんなロック・ボックスの宣戦布告は盛り上がりを見せ、変則乱戦試合の終幕を下ろした。

一方、その名指しを受けたアルビオンの弟(ルーデンス)は。

 

「あーあ。また伸びてるわねえ」

「ルーデンス、乗り物酔い?」

「昔からなのよ、こいつ」

 

 揶揄いながらニヤニヤ笑うエヴァーレインに膝枕をされつつ、レイの心配する言葉を受けていた。

テックステイツの中央、北と南の境目にある駅で長い電車の旅を終え、ベイルロードを降りた時であった。

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