コールネーム、“アルビオン”   作:ふくつのこころ

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「本気の殴り合いと行こうじゃねえか!」

「正直まずかった」

「でも、綺麗なお姉さんに膝枕してもらえたのは役得じゃない?」

 

 しばらくしてから、落ち着いたルーデンスが身を起こすと、エヴーレインはニヤニヤ笑いながら揶揄う。

鉄道(ベイルロード)に乗るのは姉がいなくなってから久方ぶりであるが、ルーデンスは乗り物に弱かった。

昔は姉に介抱されていたものの、今こうしてエヴァーレインに介抱されるとは、と苦い顔をする。

 

「助かったよ、イヴ姉」

「あら素直」

「乗り物酔い?なら、もっとゆっくりしていいんじゃない?」

 

 素直に礼を言ったルーデンスにエヴァーレインはニヤリと笑った。

一方、レイは対照的にルーデンスを心配したものだから、ルーデンスは目を丸くする。

 

「姉ちゃん以外に俺を心配する人が!?」

「ブッ飛ばされたいみたいね、ルディ。さっきの膝枕代を取られたいの?しめて、8000万アルマいただきましょうか!」

「ほんの出来心で」

 

 ルーデンスの言葉にエヴァーレインは笑顔で拳を握り、威圧する。

そんな二人のやりとりをはいはい、とレイはため息をつく。

 

閑話休題(それはさておき)

 

 テックステイツにいるという、ロックを一行は探すことにした。

ランカー達が自分に有利な舞台でベイルバトルをするのがスマッシュリングである。

テックステイツの北と南の中央にある、ベイルロード周辺は観光客で賑わっている。

特にスマッシュリングが開幕したことで通常以上の賑わいを見せていた。

 

「テックステイツは結構、栄えてるのね」

 

 レイは辺りを見渡す。

テックステイツに訪れている、多くの観光客は“ロック・ボックスを応援しよう!叩きつけろ、勝利のスリーカウント”と描かれたボードを持っている。

ロックの愛用する《ベイルナイト》ラッシュスターのカラーと一際目を惹く星が描かれていた。

 

第六位(ナンバーシックス)にロック・ボックスが選ばれてから、ここはかなり栄えてるわね。(ノース)の方は《ベイルナイト》の技術開発をやってるけど、(サウス)の方は前はそこまでだった」

「覚えてくれていたたァ、嬉しいね?絶対女王のマギニックさんよぉ。

そうとも、俺様の生まれた南はいろんな事情を持つ連中が流れ着く街。

無法の街なんて言われちゃあいるが、()にとっては大切な故郷。

コイツを機に成り上がって(・・・・・・)欲しいわけよ」

 

 エヴァーレインの言葉にカウボーイハットが印象的な青年が口を挟む。

青年の名はロック・ボックス、テックステイツが誇る最強にして“最光(・・)”の着装者である。

 

「ヒルダのオンナ(・・・)って言って欲しいわね、第六位(ナンバーシックス)さん?」

「少しは優しく頼むぜ?」

 

 やれやれ、と肩をすくめるエヴァーレインの言葉にロックは苦笑いで返す。

そんな女好きな様子さえも、ロック・ボックスの日常だと認識するファンたちはロックに声をかける。

 

「ロック!」

「“不可視のロック”!!見てたぜ、さっきのチャレンジャー戦!」

「まさか、二十対一でああもあしらっちまえるとはなあ」

「ロック!ロックみたいな着装者になるよ!」

 

 ステイツドリーム(成り上がり)

 身一つで財を築き、名声を得るテックステイツの精神性を示す言葉である。

ロック・ボックスは貧しい南ステイツに生まれ、その身一つで世界最高の六人に選ばれた。

ロックに向けられる、羨望の眼差しは最強の拳を保つトレーニングに並び、強さを支える理由の一つだ。

 

「いつも応援ありがとうよ!

ベイルバトルは一対一(タイマン)が基本だが、たまには華があるモンも見てえだろ?」

 

ファン一人一人の目を見てバンテージを巻いた手で手を取り、硬く握手を交わす。

 

「坊主、どうせなら、俺様とバトルできるくらいに強くなれ!

良い目をしてるからな、腕を磨けば、通じるかもしれねえよ?」

「……!う、うん!!」

 

特に自分に憧れる、幼い少年の言葉には不敵に笑って返した。

少年は膝をつき、優しい声色で頭を撫でる憧れのヒーローにこんがりと脳を焼かれてしまう。

 

「ヒルダ、ああいうのやらなかったわね」

 

 エヴァーレインは声援に応える、ロックの様子を眺めながら、チャンピオンであった幼馴染を思い出す。

とにかく、ファンへの対応が不器用だった彼女(ヒルダ)はチャンピオンポーズ以外にまともなファンサを見せない。

珍しい顔だからなあ、と腕を組んでレイを挑発するエヴァーレイン。

 

「先生、私が上手く行った時は結構柔らかい顔してたっけ」

「は?アンタ見たの?ヒルダのあの顔!」

 

 そんな彼女にニヤリと笑って応じるレイにエヴァーレインは青筋を浮かべる。

なんでルームメイトと幼馴染で昔の女めいたマウントの取り合いをしているのだろう、とルーデンスがため息をつく。

 

『私のファンサ?お前が私の勝利を受け取ってくれたらそれでいい。

……しかし、協会の連中にこのことで詰られるのは心外だな。

ルディ、何か良いアイデアはあるか?

好ましい反応を得られたら、お前にご褒美をあげよう』

『ほんと!?』

『本当さ。私のアルビオンに誓っていい』

 

 幼い頃、ルーデンスの部屋でチャンピオンポーズ考案に至ったやりとりを思い出す。

ヒルダはベイルバトルで自分が勝ち続けることで弟が生きる希望を持ち、ついでに生活費や治療費を稼げるとラッキーという認識であった。

 

協会はあまりにもファンに素っ気ないヒルダを口頭注意するも、改善の兆しを見せないことが気に食わなかったのだ。

なにより、初めて第一位(ナンバーワン)になった日から負け知らずであり、量産品の剣でビームを両断する理不尽な強さを持つ無敵のチャンピオンである。

試合をすれば常勝無敗、会場の席を埋め尽くす彼女の人気は凄まじかった。

 

そんな彼女は賞金と弟の健康にしか興味がなかったが、ルーデンスはほかのランカー達が象徴となるポーズや台詞を口にするにも関わらず、姉がやらなかったことに疑問を抱いたのである。

姉はやる気がなかったが、病弱なルーデンスの支えになるならと了承した。

 

『ルディ!協会の連中ときたら、お前が考えてくれたチャンピオンポーズを見て目をむいていたよ!さすがは私の弟、お前のためにファンサをするつもりでやるとも。

お前のおかげだ、私のルディ』

 

 姉が防衛戦で勝利し、ルーデンスが考えたチャンピオンポーズを配信で見せた時の感動と帰宅した姉の笑顔が忘れられない。

今年のスマッシュリングに参加するまで、市販品(ザトス)でもなんでも持って出なかったのは薄情者だと姉は言うだろうか。

 

『私に挑戦するなら手は抜かない。

全力で来い、ルーデンス』

 

 自慢の《ベイルナイト》、アルビオン・ブリュンヒルドを着装(ベイルオン)する瞬間の柔らかい笑みを思い出す。

 

 姉を思うルーデンスをブリュンヒルドの弟、と第六位は呼ぶ。

 

 

「俺がランカー第六位(ナンバーシックス)に選ばれた理由は、燃え上がる一騎打ち」

 

 溢れ出す闘志を抑えられない、ロック・ボックスはホルスターからラッシュスターで着装(リングイン)するべく、ベイルグローブを身につける。

 

「一つ、俺は《ベイルナイト》でするタイマンが好きだ」

 

 ロックは高々と掲げた右拳から人差し指を一本立てる。

 

「二つ、ベイルバトルは俺様の魂を燃え上がらせる!」

 

さらに中指を立てる。

この宣告を、観衆(ギャラリー)達は知っている。

それはロック・ボックスのファンである、ステイツの国民だけではなく、ルーデンスやエヴァーレインも知っているコールだ。

 

ランカー直々の宣戦布告は自身が“なぜランカーに選ばれたのか?”と言う、選定理由を併せて語る盛り上がる瞬間である。

 

「三つ!

せっかく、リオネル()から離れてはるばるこの国(ステイツ)まで来たんだ!本気の殴り合いと行こうじゃねえか!

なぁ、ブリュンヒルドの弟よォ!」

 

 ルーデンスはベイルバングルをつけた腕を掲げ、空を掴むように宣言する。

 ロック・ボックスはワンツー、とシャドーボクシングし、拳闘(たたかい)を始める。

 

着装(ベイルオン)!」

着装(リングイン)!!!」

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