「それでは、両者、同意でよろしいですね?」
野良の観衆が音頭を取る。
ラッシュスターで
アルビオンを
「ベイルバトル、GO!」
戦いの火蓋は切って落とされた。
アルビオンのその特性上、武装を必要としないため、拳闘を得意とするロックに一騎打ちを挑む構図が出来上がっていた。
『さぁ、始まりました!
対戦カードは挑戦者にして話題のブリュンヒルドの弟、アルビオン!
対するは我らが第六位、ロォォォック・ボォォォックス!!』
歓声が沸き上がった。
街中の時以上なのがロックへの強い人気を感じさせる。
ファンの傾向として、挑戦者のルーデンスに対しても歓声が上がったのはお国柄だろうか。
「ホームグラウンドのロックに素手で挑んでくるなんてなあ」
「だがアルビオンが例の紅い流星とやり合ったのは素手だったって話だ」
「聞いた話によりゃあ、第二位とやり合ったんだろ?」
観衆のガヤが飛び交う。
確かにルーデンスのようなスマッシュリングのチャレンジャーはアウェーだ。
見知らぬ土地で地の利もないまま、戦わなくてはならない。
だがチャレンジャー側に有利に立つ点はある。
ランカーの手の内が公開されており、協会によってベイルバトルのアーカイブが残されているため、対策ができると言う点だ。
ルーデンスのように数多の配信を視聴し、脳内で立ち回りを考えるようなタイプには勝ち目がないわけではない。
最もランカーに選出されている以上、彼らが負ける気で戦うことはないが。
ロックはベイルバトルを行うステージが
それを深く追及する、無粋な
ランカーにとって有利な場所で行うベイルバトルこそがスマッシュリング。
そのため、ランカーが自らのバトルを行う会場に地元が選ばれるのは
だから、ロックとルーデンスの殴り合いの応酬で建物が破壊されても歓声が上がる。
ルーデンスが受け流したロックの拳、その一撃が建物を破壊しても経費で落ちるのだ。
「本当にスマッシュリングに武装無しで来るたァなァ!お前の姉ちゃんみたいに剣一本でもあるかと思ったが!!」
「
本当に剣一本の着装者なんて、姉ちゃんくらいさ!」
「白塗りと、市販のやっすい剣だけ。
それでビームをブッた斬るんだから、大したモンだよなァ!」
ロックはルーデンスの返しにヒュウ、と口笛を吹く。
だが、徒手空拳において第六位、ロック・ボックスは他の追随を許さない。
エンターテイメントや生活が《ベイルナイト》による、ベイルバトル中心になった世界で顔と名前が知られた男である。
弱ければチャンピオンにはなれず、強いだけではランカーにはなれない。
「なぜ距離を詰めないんだ?アルビオンは!」
「チャンプに恥かかせんなよ!」
観衆からのヤジが飛ぶ中、ルーデンスは至って冷静である。
無防備に見える彼の行動が読めないながらも、ロックは拳を繰り出す。
『ロックの拳が炸裂したァッ!アルビオン、地面を力強く踏みつける!一体、何をするつもりなんだ!?』
ルーデンスは回避するのではなく、地面を力強く踏みつけた。
地面を《ベイルナイト》によって強化された脚力で踏みつけられたことにより、瓦礫がふわりと浮かぶ。
その瓦礫をルーデンスは躊躇いなく、蹴り飛ばした。
ロック・ボックスは拳しか使わないのに対し、やり過ぎに見えるかもしれない。
しかし、それこそ、ロック・ボックスの狙いであった。
「狙いに気づいたのか?ブリュンヒルドの弟。
なぜ、俺様が南ステイツのストリートを舞台に選んだのか?
特設ステージの正体を!!」
飛んできた瓦礫を砕き、ロックが拳を振るうと発生する
ロックに直接殴られたわけでなくとも、轟音を上げながら、襲い来る拳。
『で、出たァ!!ロック・ボックスの
「アンタの真骨頂はタイマンだ。
だけど、それもただのタイマンじゃない」
『アルビオン、余波を受けてしまったァァァァ!脳や内臓を揺らす、まさに滲みる一撃!連続の被弾は命取りだ!』
拳は避けられた。
しかし、余波を直撃してしまったルーデンスの脳を揺らした。
視界が揺らぎ、足元がおぼつかない。
立っているのだって、精一杯だ。
通常技が全て必殺技。
そんな感想が思わず浮かんでしまう。
リオネルでストリートファイトした時以上のパワーを感じる。
まるで、あの時より出力が増しているかのような。
ルーデンスがファイティングポーズを取ると、ロックが画面の下でニヤリと笑った気がした。
「ブラックオックスのアステル・クレスが
「プロリーグ昇格戦だろ。《ブースト・アックス》を投げて一生の機会を棒に振った」
アステル・クレスのプロリーグ昇格の試合。
それは絶対王者コウゼンに武装を暴投し、昇格の機会を失った恥晒しと言われるもの。
観衆たちも記憶に新しい。
「俺様は馬鹿だと思っている」
吐き捨てるように言ったロックに観衆は同意した。
ベイルバトルを最前列で観戦しているレイも納得できるが、エヴァーレインだけは動じていない。
ルーデンスはロックの言葉の続きを待つ。
「
そこんとこ、わかってるか?まぁ、構わねえがな」
ロックはルーデンスとエヴァーレインの様子に目をぎらつかせる。
第六位の意図を汲んでいるのは、この二人だけだった。
距離を詰め、ロックの放つ拳を両腕をガードさせてルーデンスは受け止める。
ロックの拳が起こす、余波も威力が高い。
アルビオンが身体能力を強化してくれているからか、ルーデンスも復調は早かった。
「
どっちかがくたばって、立っていた方が勝ち。
ランカーである以上、魅せてやらなきゃならねェが、俺はステイツ魂を捨ててねえ」
ロックの左拳がルーデンスに振るわれる。
その拳速により、余波が遅れて襲ってくる。
ただし、ルーデンスもただ拳を受けたわけではない。
『ロックの一撃がしっかり入ったァ!!
アルビオン、これは流石に身動き取れないか!?』
「……ッハハッ!そう来なくちゃなぁ、ブリュンヒルドの弟!!」
ロックは思わぬものを目にし、思わず笑い声を上げる。
右拳がルーデンスの頭を狙った時、身体を捻って胴へと
ルーデンスの内蔵に直接響く、その
胴で上手く受けられたことで、しっかりと狙いを見定め、右手に魔力を込めることができた。
『アルビオン、魔力をチャージしている!!
我々は配信で簒奪する武装を発揮する場面しか見たことがなかった!
そんなアルビオンに武装があるのか!?』
実況の言葉にも熱が籠る。
「ッハハッ!なるほど、
思わぬ
魔力を集中させ、右手が輝き始める
「……もしかして、店長さん」
レイは腕を組みながら、ヤジもなく戦況を見つめているエヴァーレインに尋ねる。
「私がアイツのアルビオンに仕込んだのか、ってことなら肯定するわ。
アイツ、ベイルバトルがたまらなく好きなのよ。そんなアイツは
アイツのデタラメ、私も見てみたくて」
「店長さん。貴女……」
「おかしなことは言ってないはずよ。
それに私は幼馴染だしね」
エヴァーレインは驚くほどあっさりと肯定した。
その視界の先にはラッシュスターの連続パンチを浴びながらも、そのガッツと観察眼でラッシュスターに渡り合うルーデンスの姿がある。
白銀に染まる右手は魔力を溜め込んでおり、いまのルーデンスは左手と足技で戦っている。
周囲にあるものを活かし、プロレスのように道具を使って殴りかかっているが、ロック・ボックスのファンからは非難の声はない。
南ステイツは北ステイツに比べ、下町の毛色が強く、ベイルバトルを《ベイルナイト》を使った
そんな南ステイツでは、なによりガッツが重視される。
「アイツ、ヒルダのバトル見て育ったからかな。ずっとやりたかったんだと思う。
レイはエヴァーレインの言葉を受け、周囲を見渡す。
南ステイツの住人はランカーのロックだけでなく、立ち向かうルーデンスにも声援を向けている。
「ロックがこんなに楽しそうなのは久しぶりだ!」
「アルビオン!すげぇじゃねえか!」
「ロック!アルビオン!どっちも気張れよ!!」
南ステイツの住人たちはルーデンスの奮闘に心が動かされていた。
彼らにとって、ロック・ボックスはスーパースター。
届かぬ星どころか、
そんな男が認めた、白銀の超新星を歓迎しないはずがなかった。
「ロック・ボックス!!俺の必殺技を受けろ!!」
ルーデンスは魔力が限界まで溜まったのを直感で感じとる。
魔力とは湧き上がる力、高めるものだ。
「ようし、来い!ブリュンヒルドの弟!
俺様も必殺のパンチ、
大技を使用する。
そんな大胆な宣言にロックは喜びを抑えきれない。
自らも必殺技にて迎え撃つといい、観衆は歓喜の渦に包まれる。
すると、ロックはハッと何かに気づいた。
「お前の必殺技、
実にロックらしい、その問いかけにはルーデンスは迷いなく答える。
「
「……ッハハッ!悪くねえ!
わざわざ、同じ土俵に立ちやがったんだ!
全力で沈めてやるよ、
ルーデンスが構えをとったまま、ロックに駆けていく。
「眩く煌めく白銀よ!
夜空に奔る流星ぞ!!
見せてくれよう!!」
ルーデンスが述べる、その口上に観衆たちは目を奪われる。
それは、
『アルビオンの必殺技、
我らが星だ!』
ルーデンスが放つのは、
両手を開いて放つ、掌底である。
ヤケになった。
所詮は土壇場の思いつき。
平手ではロックの拳を受け止められない。
「(なんて、思ってんでしょうね。
ルーデンスが平手にするのは、ヒルダへのリスペクト。
ヒルダが剣を握ってたから、自分は平手にする。
本当、お姉ちゃんが好きね)」
とはいえ、エヴァーレインも内心は笑みを隠しきれなかった。
「俺様のファンをここまで沸かせるなんてなァァァ!ブリュンヒルドの弟!!」
ロックが構えを取り、ルーデンスの掌底にカウンターを叩き込む。
ノーモーションで拳を叩き込める、ロックがルーデンスに応えたのだ。
ルーデンスが白銀の魔力を纏うのに対し、ロックの纏うものは黄金の魔力であった。
「最高の
ロックの言葉にルーデンスは不敵に返す。
その瞬間、白銀の閃光と黄金の闘気がぶつかる。
その余波で風が吹き抜けた。