風が吹き抜ける。
煙が晴れたリングの上、二人はまだ立っていた。
アルビオンの右掌は白銀の光を宿したまま、ラッシュスターの鉄拳と真正面からぶつかり合ったまま固まっている。
互いの息が荒く、汗と血が混じり合って滴り落ちる。
「へへ……お前、なかなかやるじゃねえか……アルビオン」
ラッシュスターがニヤリと笑う。口から血が一筋垂れているが、その目は完全に狂喜している。
「お前もな……ここまで俺を追い詰めたヤツは久しぶりだ」
アルビオンも息を切らしながら、しかし闘志の炎を消さない。白銀の気がまだ掌の先でチリチリと輝いている。
リングサイドのロックがマイクを握りしめ、喉が破れるんじゃないかってくらい絶叫した。
「オオオオオオイ!!! これが欲しかったんだよこれが!!!クロスカウンターから奥義同士のぶつかり合い!!お前、マジで暴れやがって最高だぜェェェ!!
まだまだいけるだろ!? 俺はまだまだ満足してねえ!! もっと熱く、もっと狂え!!!」
観客も完全に熱狂の渦。
スタンドから「アルビオン!」「ラッシュスター!」のコールが交互に響き渡る。
アルビオンが一歩踏み込むと同時に、ラッシュスターも前に出る。
再び、掌と拳が交錯する。
白銀の波動がラッシュスターの拳を削り、ラッシュスターの重拳がアルビオンの肩を抉る。
二人は至近距離で殴り合い、蹴り合い、掌で弾き、拳で叩き込む。
もう技の名前を叫ぶ余裕すらない。ただ純粋に、魂をぶつけ合う獣の領域。
アルビオンの白銀掌がラッシュスターの腹にめり込んだ瞬間、ラッシュスターは逆に頭突きを叩き込み、アルビオンの額を割った。血が飛び散る。
「ぐあっ……!」
「痛えだろ!? でもお前、目がまだ死んでねえ! それがいい!!ストリート魂を感じるぜ!
ジャンクんところでお前がやってた、あの鮮烈なデビュー戦!ありゃあ、まるで姉貴みたいだった!」
「俺が姉ちゃんみたいなバトルを!?そいつは光栄だな!でも、あれは俺が配信してたわけじゃねえけどな」
「細けえことはいい!問題なのは、お前の魂さ!お前には魅せる才能がある!」
ラッシュスターのラッシュが再開する。
拳の嵐がアルビオンを襲う。体をくの字に曲げながらも、アルビオンは耐え、掌底で何発も何発もカウンターをぶち込む。
白銀の光がまた掌に集中する。
「ここで……終わらせる……!」
ルーデンスが低く唸り、全身の銀の気を右掌に収束させる。
掌が太陽のように眩く輝き始めた。
ラッシュスターも舌なめずりしながら、両拳に全力を注ぐ。
金色のオーラが爆発的に膨れ上がり、リングの空気を歪める。
「来いよアルビオン!!
俺様の全てをぶちかますぜェェ!!」
二人が同時に地面を蹴った。
風が唸りを上げ、リングが悲鳴を上げる。
白銀の光と赤黒の闘気が正面から激突——
アルビオンの掌底もラッシュスターの
「驚いたぜ、アルビオン!お前、随分と気合いが入ったヤツじゃねェか!!俺様はチャレンジャーの必殺パンチには応じる主義、だがチャレンジャーでそのタイプはそうそういねえ」
クロスカウンターが成立したことをロックは狂喜する。
ラッシュスターの拳は、アルビオンの胸を抉り、心臓のすぐ横を通り抜けていた。
どちらも致命傷。
しかし——
先に動いたのは、アルビオンだった。
「……まだ、だ」
血を吐きながらも、アルビオンは右掌に残った最後の白銀の気を集中させた。
掌が、再び輝く。
それはもはや技の形ではなく、ただの「意志」だった。
「ロック、お前は最高の相手だった」
ルーデンスが静かに呟いた瞬間、白銀の光が爆発的に膨れ上がった。
ラッシュスターの体が吹き飛び、リングのロープを突き破って外に飛ばされた。
叩きつけられたラッシュスターの胸の水晶、ベイルタルが破損する。
『カウント!! カウント!! ラッシュスター、動かねえ!! これは……これは決着だァァァ!!!』
実況が慌ててカウントを始める。
彼は思わず見惚れてしまっていた。
実況の仕事を忘れてしまうくらい、バトルに見惚れてしまったのだ。
『ワン!ツー!スリー!』
ゴングが鳴り響いた。
観客のどよめきが、徐々に大きな歓声へと変わっていく。
アルビオンはリングの中央で膝をつき、荒い息を繰り返していた。
胸から大量の血が流れ、白銀の光はすでに消え失せている。
それでも彼はゆっくりと立ち上がり、右手を高く掲げた。
着装を解除した、満身創痍のロックがマイクを握り、興奮冷めやらぬ声で叫んだ。
並々ならぬタフさにエヴァーレインは呆れ、南ステイツの住人たちは湧き上がる。
「勝者——アルビオン!!! これはただの試合じゃねえ!魂と魂のぶつかり合いだった!!
ブリュンヒルドの弟、いや、
スタンドが割れんばかりの拍手とコールに包まれる。
アルビオン!アルビオン!アルビオン!の声が、会場全体を震わせた。
着装が解除されたルーデンスは中央で静かに目を閉じた。
口元に、わずかな笑みが浮かぶ。
「……ありがとう、ロック。また、いつか……」
血まみれのリングに、風が吹き抜けた。
激闘の幕は、ここに下りた。