「すまねえが、俺様はついていけねえ。
だがこれは覚えていてほしい。
スマッシュリングは世界最高のエンターテイメント、お前の戦いは俺様やみんなが見てるのを忘れんなよ?ルーデンス」
ロック・ボックスはベイルロードをルーデンスたちに手配し、ホーム上まで見送りに来た。
多忙なランカーであるとはいえ、ルーデンスたちを見送りたいらしい。
彼は被っていたカウボーイハットを取り、真っ直ぐルーデンスを見据える。
ランカーとして、着想者として、そして武闘家として。
ロックは強者と認めたルーデンスをブリュンヒルドの弟と呼ばず、名前へと呼び変える。
その変化をレイは感じていた。
「ロック。
ランカー
「
やっぱ、一番は姉ちゃんか」
握手の代わりにロックはルーデンスにカードを渡した。
ベイル交通限定着装者カード付きビスケットのオマケカードである。
当然、ロックが渡したのは自らのサインカードだった。
キラキラ光るメタリック加工でかつ裏面にはロックのメッセージとサインが入っている。
“伝説を追うルーデンスへ
俺様のライバルに認めてやる。
拳闘チャンピオン、ロック・ボックス”
そのサインカードを受け取り、ルーデンスは手帳型のカードファイルに大切に収納した。
カードファイルにはヒルダが世界ベイルナイト協会に認定され、初めて発行されたカードが最初のページに収まっている。
その
「またな、ルーデンス。お前となら俺はまたアツいバトルができる」
「俺もそう思う」
「ルーデンス。アンタが誰と仲良くなろうが、アタシには知ったことじゃないけどさ、置いてくよ?」
エヴァーレインは言葉と裏腹に柔らかな口調でルーデンスに呼びかける。
「驚いたな、エヴァーレイン。
そんな情があったのか?女王ヒルダにしか興味がないものかと思ってたぜ」
「ヒルダとツラが似てるからに決まってるじゃない?嫌われたくないだけよ、私がヒルダに」
エヴァーレインはルーデンスは待たせていた自分たちのもとに駆けていったルーデンスの肩を掴み、見せつけるようにしながら、当然よ?とばかりに鼻で笑った。
その後、北ステイツと南ステイツの境界線にあるステイツの大きな駅からルーデンス一行を乗せたベイルロードが発車する。
☆
天使の羽休めはテックステイツから三時間、どの国にも属さない地域である。
先の魔鎧大戦において天使の羽休めはベイルギガントたちの
そこで発見される、ベイルギガントの残骸は現在の《ベイルナイト》と互換性があるものの、再現性が低いため、宝の山だった。
そんな地域を
ネリルにとって、故郷に家を持つこととベイルバトルのランカーがいかに優遇された境遇であるかわかる。
どの場所から向かっても
それはベイルギガントたちの呪いであるという。
『天使の羽休めは先の魔鎧大戦でベイルギガントが誕生した場所であり、どの国の所属でもないと制定され、ベイルギガントに呪われた魔の地域とされています。
どの場所からも必ず
「不可思議ぃ?馬鹿言わないで。
どこからでも必ず三時間なんて、近場から行っても三時間ってことじゃない。
木偶の坊共に有利になるようになってんのよ」
ロック・ボックスが手配してくれたのは、かなり上等な席だった。
どこからでも三時間がかかるということは、いかに応援に駆けつけようにも必ずそれだけの時間を有するということ。
それがもたらす魔鎧大戦当時の人類が受けた被害は想像以上だろう。
ベイルギガントが何かしらの手段で
エヴァーレインの機嫌が悪くなったのは、次の車内放送が原因だった。
『みんっなー!いつも応援ありがと!
天使の羽休めはあたし、
今回のスマッシュリングではここでバトルをするよ!
あたしのこと、しっかり見ててよね!』
「天使ちゃん!」
「天使ちゃんだ!」
「やっぱりかわいいなぁ、天使ちゃん」
隣のコンパートメントから聞こえてくる声はネリルのファンだろうか。
車内にあるラクリマから投射される、立体モニターにツーサイドアップの美少女が映し出される。
リボンタイにノースリーブのシャツ、水色のショートパンツと活動的な服装で動くたびに髪が揺れた。
両手の人差し指を両頬に当てて、可愛らしいポーズをとり、猫撫で声で話すネリル。
エヴァーレインは紫のベイルタルが光るベイルバングルをつけた左手首を見せつけ、頬杖をつく表情は笑顔のまま動かない。
「……あの、店長さん?」
「あら?アタシの顔に何かついてる?レイ。
コイツ、
なーにが“あたしのことしっかり見ててよね!”なんだか」
レイの言葉に笑顔で返しつつ、エヴァーレインは心底不機嫌そうなことに気づく。
一方でルーデンスは変わらずラクリマでバトルの視聴をしていた。
「叩き潰すにはマグナスローネが大きすぎないか?」
美少女着装者にしてランカーに心を動かされもせず、変わらない様子のルーデンスをエヴァーレインは感極まって抱きしめた。
「ここまで来れば、アタシはアンタのベイルバトル馬鹿ぶりに感心するわね」
「ルーデンス、それは何を見てるの?」
ご機嫌なエヴァーレインがくしゃくしゃにルーデンスの髪を梳くのを受けつつ、ルーデンスは配信ラクリマの映像をレイに見せる。
「これだよ」
レイに見せた映像はアルビオン・ブリュンヒルドとマグナスローネのエキシビションマッチアーカイブだった。
女性として長身とはいえ、あくまで等身大のヒルダことアルビオン・ブリュンヒルドに対し、ネリルが纏うマグナスローネは巨神そのものである。
マグナスローネが降り注がせる、光弾の雨を切り裂く。
巨神の速度はその巨体以上のものを発揮すると言ってもいいが、近接武装の市販ブレードしか持たないアルビオンはそれ以上に軽量だったのだ。
やがて、アルビオンによるマグナスローネのベイルタルを一突きしたことでバトルはアルビオンの勝利となった。
「アタシのセンティピードもだけど、カスタマイズが自由とはいえ、巨大すぎるのも異形すぎるのも考えものよね」
エヴァーレインが左手首にはめた、ベイルバングルの紫のベイルタルに視線を向ける。
「店長さんのセンティピードって」
レイが言いかけた時、何かがベイルロードと並走しているのが見えた。
それは魔導二輪、いわば、
ベイルロードに並走するほどにスピードを出しつつ、クルマの扉が開けば、運転手が軽快な動作でこちらへと飛び移った。
女性であり、赤いツーサイドアップが揺れ、その正体が判明すると、歓声が聞こえる。
「天使ちゃん!?」
「実物のネリルちゃん、本物だ!?」
特製のマジックアイテムらしい、天使の翼を描いたマスクで口元を隠した彼女は乗客達に手を振りながら扉をこじ開け、車内に入ってきた。
車両が走行する中、である。
車両に入ってきた彼女は扉を閉め、ニコニコ笑顔を浮かべながら何かを探す。
「え!?待って、今走ってるよね!?」
「……
レイはルーデンスやエヴァーレインの方を見て戸惑っている中、ルーデンスは変わらず何かを探すネリルを見据えている。
ネリルはルーデンスの姿を見つけるなり、コンパートメントに入ってきた。
「見つけたー!ちっさいちっさい、
彼女は殺意を込めた眼差しで睨むエヴァーレインに臆せず、ルーデンスの唇を重ねながら、優しく頬を撫でる。
「お姉ちゃんのおっぱいなくて寂しいでしょ?あたしが代わりになってあげようか?」
その言葉にルーデンスは迷いなく、ネリルを殴った。