エニバグ・ヒヒイロはアルビオンと距離を詰めた瞬間、自らの頭部の四本角から二本を引き抜く。
そうして、二振りの件とすれば、すぐさま刃を振り下ろす。
エニバグ・ヒヒイロの近接武装、ブルマイスターとラコダールである。
アルビオンの簒奪の力は相手に少しも触れさせてはならない。
触れられた瞬間、すぐさま武装の支配権はアルビオンへ移ってしまうのをニールは警戒している。
ルーデンスはこの接近戦こそ、エニバグ・ヒヒイロことニール・ヤードの真骨頂だろうと感じ取れた。
“散弾天使”ネリルとのバトルもそうだ。
意識を向ける目標を撹乱させるため、エネルギー弾を放つ弾幕を張るのがマグナスローネとネリルのスタイル。
巨体故にスピードが遅いと言うわけではなく、ネリルがその気になれば、凄まじいスピードでマグナスローネは動ける。
ただ、ネリルが蹂躙を好むのと
エニバグ・ヒヒイロの連撃は
回避するのが精一杯で、エニバグ・ヒヒイロにダメージを与えられずにいるのが現状である。
アルビオンの“手”を警戒するニールが狙うのは、胴体や脚が多く、そこを狙った後に気が散った隙を見てベイルタルに突きを繰り出す算段なのだろう。
「(驚いたな。まさか、ここまでやれるとは)」
左手に握るオレンジの
右手に握るネイビーの
それら二刀による、突きや横薙ぎを回避する反射神経。
戦いにおけるプロ、特に《ベイルナイト》による格闘戦を行う
わずかな隙を見つけると、アルビオンがすぐさま魔力を消費し、白銀の光を放って手刀を繰り出す。
エニバグはそれを柔軟さを誇るニールの身体を活かし、左脚を上げて受け止める。
表面の装甲を削り、ニール自身がそれを脅威と見做し、防御行動をとったことに驚いた。
ルーデンスには間違いなく、才能がある。
武装を持たないことで有名な
着装者と《ベイルナイト》は一心同体、初心者だって
しかし、無敗の
女でありながらも、多くの人々の脳を焼いた圧倒的な強さは姿を消してなお、語り継がれる。
それも、
アルビオンと着装者の少年はいずれ超えうる、素質があるとニールは見直した。
「(その強さ、私は
ニールの
アルビオンは決して攻撃できていないわけではない。
それをラコダールとブルマイスターで受け止め、腕力だけで
「ッハハッ!これだ!これなんだよ、少年!!
いま、ハウンズの
「いや、
すっかり、ハイテンションなニールの言葉にルパはすかさず突っ込んだ。
ただ、ルパも言葉に対し、
ルーデンスとアルビオン、人機一体となることは最強の
「アイツ、《ベイルナイト》を巡る魔力で底上げされてる
エヴァーレインはニールが見せた荒業に驚愕する。
とてつもない技巧と見るか、脳筋と笑うか。
しかし、彼女の幼馴染はそんなデタラメなことを成し遂げてみせた。
弾丸を叩っ斬ることに始まり、放たれた斬撃を打ち返しての相殺。
そんな勇姿を魅せられた一人である、エヴァーレインは伝説の再現かと感じた。
「
あるんだろう?無手にして、君の簒奪能力と唯一同時に使える
ニールはコガネムシ型の魔力弾、スカラベバレットを飛ばす。
アルビオンの隙を作らせるためと、彼自身がそろそろ見たかったのだ。
スカラベバレットはコガネムシ型に違わず、アルビオンに向かって飛んでくる。
それを回避してなお、追撃をするのは
蹴りや拳で軌道を逸らし、叩き落とす中でルーデンスはそのうちの一つを掴み取る。
その瞬間、アルビオンが持つ武装の“触れた武装を簒奪する能力”が発動した。
スカラベバレットをアルビオンの“簒奪”が書き換え、その姿を新しくしていく。
スカラベバレットがアルビオンの手を包み込む、ナックルダスターへと変わり、アルビオンは深く握り拳を作る。
「あのルーデンスってガキ。
バトルを見てきたが、ありゃあ、まるで、
観衆の一人がルーデンスの戦う様をこれまでのバトルと照らし合わせ、形容した。
ベイルバトルは野良試合が頻発し、観衆が配信することもある。
謎の紅い流星、アステル・クレスのブラックオックス、そして、第二位が持つ二つ目の《ベイルナイト》ソードルプス。
恐るべき発想を見せつける様はまさに天使の如き、ベイルギガントの仇を為す、悪魔のそれに他ならない。
「眩く煌めく白銀よ!」
「夜空に奔る流星ぞ!!」
「見せてくれよう!!」
「さァ、来い!!少年!!!」
ルーデンスはナックルダスター内にあるバーを握り込んだ、アルビオンの右手を白銀の魔力で包み込む。
アルビオンの簒奪能力に並ぶ必殺の
それを放つべく、力を溜めているのだ。
スカラベバレットの攻撃を掻い潜り、空に飛び上がったエニバグはルーデンスに軌道を読ませないように旋回し、手にしていたラコダールを投げつける。
ラコダールはアルビオンを大きく外す。
「外した!?何の意図があって……」
「いや、あれは……」
ニールの暴投としか言えない挙動にレイは驚くも、エヴァーレインはその狙いを読んだ。
「……
ラコダールは軌道を描き、アルビオンの背中目掛けて飛んでくる。
ベイルバトルにある戦術の一つ、デビルスリーパー。
回転するラコダールがアルビオンの背中に命中する。
アルビオンが姿勢を崩しかけた、その瞬間。
獲物を仕留めるとばかりにエニバグのカラーリングをワインレッドに染め上げる。
「ブ、ブレイクアップ!?アニキ、何してんだ!それは、民間人に使うもんじゃねえ!!!」
ワインレッドに染まった、エニバグにルパは叫んだ。
ブレイクアップは《ベイルナイト》の基礎スペックを底上げするシステムであり、魔力消費量も格段に増える。
それを使っても惜しくないと思うほど、ニールはバトルを楽しんでいた。
「相手が
ニールはエニバグで上昇する。
最高スピードの急降下による一撃でルーデンスの放つ
加速して急降下する、
「翔べェェェ!!アルビオォォォン!」
「は!?」
ルーデンスの言葉にエヴァーレインたちや観衆は目を見開く。
アルビオンは翔んだ。
足底から白銀の魔力を噴き出し、ニールへと迫る。
それは、純然たる《ベイルナイト》の基本的な機能。
魔力を噴き出し、一時的に
観衆たちはその姿を強く脳裏に焼き付けた。
当然、この男もである。
「は、はははは……!!
良いだろう、少年!その技はなんという!?」
ニール・ヤードはかつてない、強敵との
「
「ならば、私に全力をぶつけに来いッ!!」
ニールはフルフェイスのエニバグ・ヒヒイロの兜越しに笑う。
しかし、真っ先に左半身を狙って返ってきたのは、空を切る明るい色をした刃。
暖色のそれは他でもない、ラコダールだった。
「どこを投げている、少年!」
「やっぱり、アンタも
ニールはラコダールを左肘で威力を相殺し、握り直した後、十字にアルビオンを斬る。
剣撃と拳の
アルビオンはブレイクアップ中のエニバグのアルビオンの
その
「や、やった!!」
「手応えはあるだろうな?」
感嘆するルーデンスの言葉に対し、ニールは称賛する声色で返した。
「だが、それは!私もだ!」
ニールが続けると、アルビオンのベイルタルにはラコダールが突き立てられていた。
「ただでは終わらんよ!ただではな!」
ブレイクアップが解除され、勝ち誇ったようにニールは笑うと、緊張が解けたようにアルビオンとエニバグの
そのまま、二人は地面に落下する。
「馬鹿ばっかりねえ」
呆れながらも、エヴァーレインははすかさず、手首につけた《ベイルナイト》の待機状態でベイルブレスで着装する。
女性らしいボディラインを持ちながらも、エニバグに似たようなシルエット。
背中の甲殻を開き、魔力を放出して飛び上がる。
「ハウンズのアタマのアンタとアホルディ、
センティピードが射出した、エアベッドが構成されるとルーデンスとニールを抱える。
「盛り上がっちゃって」
「筋はかなり良い。素晴らしいぞ、少年」
ルーデンスは照れくさそうに言うと、ニールは大満足なようだった。
魔力を足底から噴き出し、ゆっくりとセンティピードはエアベッドの上に着地し、ルーデンスとニールを転がす。
ルパやレイが駆け寄った。
「アニキ!」
「ルーデンス!」
ルーデンスが周囲にもみくちゃにされ、ルパに「ファングと変わらねえからな!?」と叱咤されている時もニールはあの瞬間を思い出していた。
「(あの瞬間、私があと一秒遅れていたら。
負けたのは私だった。
引き分けに持ち込むとは、凄まじいな少年)」