数体の《ベイルナイト》を相手にしても、マグナスローネはたじろがなかった。
力を見せつけることに喜びを覚え、無邪気な子供が時として残酷な様を見せるように手足を捻る。
ベイルバトルの競技人口が広がるのと同様に医療が進歩を見せたのも、バトル中に起きる負傷を治療するためだった。
『先に攻撃を仕掛けたのは、ブラックオックスのアステル・クレス!
最強チャンプ、エンジュ・コウゼンに《ブースト・アックス》の暴投を決めたのはギャラリーのみんなも記憶に新しいだろう!!
実況は
力強い中性的な声がマイクに乗せられ、音声拡大魔法で響く。
アステルの暴投はもはや、試合運びに使う美味しいスパイスだった。
「ハァァァッ!」
ブラックオックスは力を溜めた《ブースト・アックス》を構えて駆け出し、マグナスローネの右踵にぶつけた。
マグナスローネの機動力を削ぐため、足を狙い、一気に魔力を込めた一撃を叩きつけたのだ。
うまくいけば、
一般に販売されている、《ベイルナイト》武装の中でも最もオーソドックスにしてロマンがある。
『《ブースト・アックス》はシンプルで奥深い。
エネルギーチャージして放つチャージアックスは格上さえも容易く打ち勝てるが、チャージ時間がかかるのに加え、
大胆さと慎重さ、
ベイルバトルにおける、着装者の戦術を褒めつつも、実況はもっとも、と区切りを置く。
『疾風迅雷、マグナスローネの攻撃で残ったアルビオンとブラックオックス!
アルビオンは我々にアツい試合を見せてくれた!
配信ジャックして流れた、紅い流星とのバトルからずっとずっとアルビオンのバトルは進化を続けている!
対して、ブラックオックスはどうだ!?
マグナスローネ相手に魅せてくれるのか!!』
実況の煽りにアステルは内心舌打ちする。
マグナスローネは相手も立ててくれるようなランカーではない。
自らも拳闘チャンプであり、拳の強さで勝負する
人間と虫ほどのサイズを誇る、マグナスローネとアルビオンたち。
マグナスローネは巨体でありながらも、戦輪を持った手首を回し、右踵に近づける。
風が巻き起こり、ブラックオックスは踏ん張るも、かえって動けなくなる。
そのまま、戦輪の攻撃をダイレクトに叩きつける。
台所でゴキブリを見つけた人間がスリッパで叩きつけるように。
「キャハハハッ!虫みたい!」
『明活!残酷!残忍!それが天使ちゃん、それが
ベイルギガントでチャレンジャーの《ベイルナイト》を翻弄するのはまさに赤子の手を捻るよう!!
ギャラリーの歓声をお楽しみあれ!』
観衆はネリルの美貌に麻痺しているが、それは試合というにはあまりにも残酷だった。
一方的な蹂躙とも言える、その様はコロッセオの剣闘士と猛獣を思わせる。
つまずいたブラックオックスのベイルタルを狙わず、足を摘んで地面に叩きつける。
何度も何度も何度も、ブラックオックスのプライドがへし折れるまで。
ブラックオックスに搭載している機構でアステルの命は守られている。
内出血や肉が断たれていたり、骨折していたりするのも
再生する痛みを伴うものの、痛みを堪えれば、少なくとも死ぬことはないのだから。
全身に打撲と疲労感が襲う中、
「やれ!やっちまえ!」
「天使ちゃん!
コウゼンに暴投しやがった、このクソッタレラフプレー野郎に罰を!」
観客席からブラックオックスに向かい、瓶が投げつけられる。
世界ベイルバトル協会のロゴ入りの瓶や紙クズ、生ゴミなど多種多様だ。
「《ベイルナイト》着装者に相応しからぬ、戦い方しやがるアホウシはくたばれ!」
「ネリルとバトルってことは、ロックを倒したんだろ?インチキしたに違いねえ!」
観衆は熱狂している。
特にアステル・クレスが昇格戦で見せた、《ブースト・アックス》の暴投はまだ尾を引いている。
等しく、チャンスが与えているスマッシュリングでさえ、アステルにはヘイトが向いていた。
「こんなのが許されるの!?」
「強くて
だからこそ、あのガキみたいな一部のイカれた奴らはランカーの席を狙ってる。
リーダーがそれを許し、観衆が盛り上がれば、立派な興行になりうるからね」
レイが憤り、エヴァーレインを見れば、エヴァーレインは失踪した幼馴染を思い出す。
幼馴染は安物の
ベイルバトルが終われば、家に帰って弟と過ごす変わり者。
それが許されたのだって、他者に有無を言わさない圧倒的な実力があるからに他ならない。
ヒルダ独特のベイルバトル
個人主義で一匹狼を好もうが、
「(あの時、あの瞬間に
アステルはブラックオックスの《ブースト・アックス》を握り直しながらも、マグナスローネを見据える。
『我らクレス家は着装者の家系だ!お前には昔から俺の戦い方の全てを叩き込んできた!それを先日はリーグ昇格戦で
……次期クレス家当主継承権はストラウスに渡っても文句は言うなよ』
通話越しに聞いた、父の怒号。
父の言うことは最もだ。
それでも、それでも、まだ
現役時代はどうだったか知らないが、いま実際にバトルフィールドに立って戦っているわけではない。
「(あんなこと言っていたが、父さんはほとんど引退の身だ。
証明しなくては!!俺が戦えることを!俺が父さんよりやれることを!だが身体が動かない……)」
マグナスローネの戦輪が振り下ろされる時、アステルが覚悟を決めた時だった。
「
白銀の魔力を噴出し、マグナスローネの戦輪を受け止める白い《ベイルナイト》。
アステルが気に食わない、快進撃中の
そんなふざけた男が現れ、戦輪を止めたことで会場がその姿を注目していた。
「アッハッハッハッ!!壊せるわけないじゃん!あたしのマグナスローネの専用戦輪『スローネハイロゥ』は
ブッ潰れろ、ブッ潰れろ!!
どうせ、お姉ちゃんはみじめに死んだに決まってるわ!!だから、同じところに送ってあげる!』
アルビオンは両手を発光させ、状態を維持する。
「(そのままでは攻撃に転じれないのか!?ならば、なぜ俺を助けた!?)」
アステルはアルビオンの白銀に発光する両手を注視する。
自ら、不利になる必要なんてない。
そもそも、助けられる謂れもない。
ただ、観客は空気の流れが変わり始めたのを感じていた。
「ふふ、あははは!そう、そう言うことね?ルーデンス!アタシ、あんたに惚れそうだわ!」
「店長さん?」
観客席でエヴァーレインが笑い声を上げると、レイが訝しむ。
その時だった。
アルビオンがマグナスローネの専用戦輪『スローネハイロゥ』にヒビを入れたのは。
「あ、ありえない!!あたしのマグナスローネは無敵のはず!!!
失踪した
だって、あたしは!あたしは!!」
マグナスローネは手を離してしまい、頭を抱えて狼狽する。
自慢の武器にヒビが入り、それをアルビオンが蹴り砕くとアルビオンの能力が発動した。
アルビオン、その唯一の武装は触れた武装を簒奪すること!!!!
その
「黙れ、
元なんかじゃない、姉ちゃんはずっとチャンピオンだ」
奪われた戦輪はアルビオンの
白銀の魔王は
「アステル!天使狩りと行こう!」
「俺だって、クレス家の男だ!やるぞ!」
ルーデンスの呼びかけに応え、アステルも立ち上がる。
巨大な天使を前に立つ、白銀の魔王と無骨な黒牛。
さながら、神話のようだと観衆の心を震わせた。