『アステル、どう言うつもりだ!?
「……申し訳ございません、父さん。
ブリュンヒルドの弟、アレはただの身内でブリュンヒルドのフォロワーではありませんでした」
《ベイルナイト》の待機状態のベイルバングルを掴みつつ、アステルが通信
アステルの父、ユピテル・クレスは通信
ユピテル・クレスもまた着装者の名家に相応しい、実力者であった。
全盛期は“雷光”と言う二つ名の持ち主であり、今でも鍛錬は欠かさない。
アステルの《ブースト・アックス》捌きはユピテル譲りのセンスと指導によるものだった。
自分の全てを叩き込んだと自負する、アステルが無様な姿を晒したのが許せなかった。
『我らクレス家は着装者の家系だ!お前には昔から俺の戦い方の全てを叩き込んできた!それを先日はリーグ昇格戦で
……次期クレス家当主継承権はテオに渡っても文句は言うなよ』
ユピテルは凄まじい形相でアステルを指差した後、通信を切った。
「……俺が一番よくわかってますよ」
アステルは苦々しげに一人呟いた。
「兄さん、父さんの気持ちも汲んで欲しい。
父さんは兄さんを心配しているんだよ」
「テオ」
アステルに声をかけたのは、ベイルバトル大会のロゴを掲げる建物から姿を見せた、穏やかに笑う弟のテオであった。
テオはアステルとよく似た顔立ちをしていたが、髪色は黒髪で長髪を一本に束ねていた。
「僕も例の配信ジャックで放送された、ブリュンヒルドの弟の戦いは見たよ。
もちろん、兄さんとの戦いも。……兄さんの《ブースト・アックス》に押されていたのに、自分の壊れた《ブースト・アックス》でアルビオンブレイドを作り出すなんてね」
「テオ。説教のつもりか?」
「とんでもないよ、兄さん」
思案しながらも試合を思い出し、分析する弟にアステルはおかしそうに笑ったあと、テオは慌てて取り繕う。
アステルが敗退したあと、ルーデンスは見知らぬ服装をした少女やエプロン姿の女に檄を飛ばされつつ、勝ち進む。
次の試合の対戦カードが立体映像で映し出された時、司会席から飛んでくる一筋の光がある。
「兄さん、アレって」
「ああ。どうやら、あのブリュンヒルドの弟はとんでもないのに目をつけられたらしい」
ルーデンスが向かう対戦コートに先にいた、次の相手を無言の威圧で押し除けた狼の意匠を持つ《ベイルナイト》スケイル・ルプス。
狂人とも称される、厄介な狼王に目をつけられたルーデンスを憐れむのと兄を下した報いを受けろとばかりにテオは見ていたが、隣のアステルは異なる顔を見せていた。
「どんなバトルを見せてくれるんだ、ブリュンヒルドの弟」
「兄さん?」
テオは久しく、兄のその瞳を見たことがなかった。
久しく見なかった、兄の瞳は憧れのヒーローを目にした子供のように輝いていたのだ。
一方でルーデンスが次の試合を行うため、バトルコートに向かった時、開催側と対戦相手が言い合っている。
狼の意匠を持つ《ベイルナイト》の着装を解除されると、フライトジャケットを羽織った薄汚れた風体の目つきの鋭い男が現れた。
主催側で実況席にいた、ランカー第二位の男、“
「ブリュンヒルドの弟、こうして顔を合わせるのは初めてだな」
「ああもう!ルーデンス選手が来るまでに説得をしておけとあれほど!」
「し、しかし!?ファングさんが聞く耳を持たないというか……」
フライトジャケットのポケットに手を突っ込んでルーデンスへとファングは歩を進める。
後ろで主催者側が揉めているにも関わらず、ファングはどこ吹く風でルーデンスを値踏みする眼差しは捕食者のそれだ。
見下ろすような長身と遠目では色褪せて見えない、《ベイルナイト》の飛行部隊『ハウンズ』の目隠しと猿轡をはめられた三つの首を持つ犬のエンブレムが至近距離ではっきりと見える。
「ご挨拶には感謝だけど、俺の次の相手じゃないんだろ?」
「喜べ、ブリュンヒルドの弟。お前の次の相手は俺だ」
見下ろすファングの嬉々とした目にルーデンスが返すと、ファングは口角を吊り上げた。
「は?ふざけんのは《ベイルナイト》の構成だけにしなさい!あの
「ブリュンヒルドの《ベイルナイト》専属修理工のセンティピードか。久しく着装していないようだが、お前の《ベイルナイト》も厄介だ。
どうだ?一戦」
エヴァーレインが食って掛かると、ファングはゆっくりと視線だけを向けた。
ルーデンスはセンティピードがエヴァーレインの《ベイルナイト》だと知っている。
そして、ファングが《ベイルナイト》の名前で
ランカー第二位の
「……専属修理工じゃなく、ヒルダの幼馴染のエヴァーレインよ。相変わらず、不気味なヤツねー?アンタの言う一戦が全然色気ないの流石だわ。アンタ、本当に正規軍人?」
「好きに捉えて構わない。……?おかしなことを言う。ハウンズのエンブレムが見えないか?」
エヴァーレインがファングの態度に皮肉を吐くも、ファングはどこ吹く風で気にしていない。
色褪せているとはいえ、見えるだろうと顎で示す姿は本気で感じているらしい。
やれやれ、と呆れているエヴァーレインの顔から察するにファングとは旧知なんだろうとレイは思った。
「エヴァーレインは煽ったんだよ」
「そうか。始めようか、ブリュンヒルドの弟。
お前が勝てば、《ベイルナイト》の武装を進呈しよう」
ルーデンスの言葉にファングは納得したと頷くが、素っ気なかった。
「
「それはセンティピードとバトルできるわけか?なら歓迎しよう、ベイルバトルで俺を殺せるならな!」
エヴァーレインの怒声にかつてないほど目を輝かせ、狂った笑顔を浮かべながら、高らかにファングは叫ぶ。
ファングの
レイはその様子を見ている中、
その魔力は全て使い捨ての
ファングの言葉に観客席は唖然としていたが、ランカー第二位のファングとアステルとの戦いでアルビオンブレイドを振るったルーデンスの戦いの盛り上がりを感じ、一気に沸き立ち、歓声が上がる。
「
バトルコートに立つ、ルーデンスとファングは互いに腕輪と指輪を輝かせる。
ルーデンスを白銀の鎧が包み込み、アルビオンへと着装が完了する。
その様子を眺めたあと、ファングは口角を上げる。
「間近で見ると、姉の生き写しのようだ!やはり、ベイルバトルは面白い!こんな巡り合わせ、こんな対戦カードがあるのだから!
俺を楽しませて見せろよ、ブリュンヒルドの弟。……
それは、二本の牙を思わせるスケイルを背中から生やした狼の意匠を持つ《ベイルナイト》。
六つの
「獅子は兎を狩るのも本気で行う。
かと言って、この《ベイルナイト》が手加減というわけでは断じてない。
スケイルルプスとは違う、このソードルプスでお前を試してやる」
獲物の品定めか、それとも煽っているのか。
ソードルプスは前身を低くし、飛びかかる構えを取る。
『そ、それでは!ベイルバトル、GO!』
実況の開戦の合図とともにソードルプスの眼光が赤く輝いた。